第13回 資本と資金

中小企業経営

「こんにちは、雄蕊覚蔵です!」今回は、「資本と資金」について解説しようと思います((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

 

《言葉の定義》

まず、「資金」や「資本」という言葉の定義を考えてみます。

「資金」とは、何かの費用として使うことのできるもののことです。一般的に現金や普通預金は資金と見做されます。預金はいつでも現金化することができますし、何かの費用の支払いに用いる事ができます。そのほか、当座預金やいつでも換金できるような証券等も資金として扱われることになります。

「資本」とは、会計上の概念です。不動産や未回収の売上金等を含めた、現金として手元にある、もしくはすぐに現金化できるものではないが、財産として確実なものを資産といいます。その資産から、負債を差し引いたものが資本です。

手元に現金はありますが、不動産等は所有しておらず、逆に負債がある場合は、資金はあるが資本がない状態と言えます。逆に、手元に現金がなく、不動産や未回収の売上金等がある場合、負債等がなければ、資金はないが資本はある状態と言えます。

「資産」とは、保有している土地や建物、回収していない売掛金等、将来的に受け取ること(資金化できること)がほぼ確定しているもののことです。また、「負債」とは、借入金、未払いの買掛金、そのほか将来的に支払わなければならないもののことです。

会計上で処理を行って計算されるものが「資本」であると考えると分かり易いかもしれません。なので、資本が十分にあったとしても資金が底をつくという状況もあり得ることです。資金は資産の一部として扱われるものだと思います。一方で、資金が十分にあったとしても、それよりも負債のほうが多い場合には、資本はあまりないと言えます。数式で示すと「資本=資産-負債」になります。

もう少し、補足すると、「資産」は、「お金を何に使ったのか=資金の使途」を表しており、「資本+負債」は、「その使ったお金はどうやって手当てしたのか=資金の調達源泉」を表しているのです。「資本」は自分のお金、「負債」は借金(他人のお金)によって、それぞれ手当てしたということです。

 

《コロナ禍の経営では資金が重要》

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、政府は、飲食店を始めとする国内企業に「営業自粛」を求めました。以前にも述べましたが、「売上ゼロ」経営を強いられることになったのです。こうした緊急事態が起きた時に、強い企業、生き残ることが出来る企業は、どういう企業かというと、資金力のある企業です。資金力があるとは、手許に使える資金が十分にあるということです。いくら膨大な資産を保有していても、目先の資金繰りがつかなければ資金不足になり、事業継続困難な状況に陥ってしまいます。膨大な資産があれば、資産力を背景に金融機関等から資金調達をすることはできますが、それには時間と手間が掛かります。日々の安定的な資金繰りを維持するには、やはり手元流動性を高めることが重要だと思います。

雄蕊の関与している先に、「手許資金はあるが、資本が脆弱」な企業と「手許資金は少ないが、膨大な資本を有している」企業があります。資金と資本の関係でいえば、両極端に位置する典型的な企業モデルです。

どちらが良いとか、悪いとかではないのですが、こうした典型的なモデル(財務体質)になった原因は、ともに「収益力の弱さ」です。前者の企業は、赤字補填を金融機関からの借入に頼って維持していました。後者の企業は、赤字補填を手許資金の取り崩しで賄っていました。

借入に頼っていると、借入金が雪だるま式に膨らんでいきます。金融機関もそんな企業にいつまでも融資し続けることは出来ないので、いずれ限界に達します。一方、手許資金の取り崩しで賄っていても、手許資金は減少していく一方なので、こちらもいずれ手許資金が枯渇してしまいます。最終的には、どちらの企業も「収益力」を強化し、「手許流動性」を高める経営に方向転換する必要があるのです。

今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響をみると、前者の企業は、その影響で売上が減少しましたが、後者の企業は、大きな影響は受けませんでした。結果として、現時点では、どちらの企業も資金繰りに慌てる必要はありませんでしたが、もし、後者企業が影響を受けていたら、手許の資金が少ないため資金繰りに奔走する事態が生じていたかもしれません。つまり、現在のような緊急事態のときには、すぐに対応すべきことは資本力増強ではなく、資金力増強が重要なのです。

 

《使えるお金はいくら?》

ある不動産建売業者の経営者から「販売物件の価格が高くて長期間売れていない。一方で、会社の収益も悪く、あまり価格を下げることはしたくないのだが、どうすればよいか?」という相談を受けました。この経営判断のキモは、手許に使えるお金がいくらあるかということです。手元資金が不足しており、1円でも多くお金を集める必要があるのならば、直ぐに価格を下げて販売を急ぐしかありませんが、半年後に資金化できれば良いという資金繰り状態であれば、1カ月、3か月といった期限を設けて、その間に販売できなければ価格を下げるという意思決定をすることになると思います。

また、「業務に必要な設備機器を購入したいが、今購入してよいか?」という相談も頻繁に受けます。考えるべきことは投資効果と資金繰りだと思います。黒字経営が続いており、手許流動性も順調に高まっている経営状態ならば、設備投資直後は、資金の持ち出しが先行しても、その設備機器の投資効果が現れる(収益を生み出す)までの期間、資金繰りが回るのであれば、積極的に進めるべきですし、企業全体の資金繰りに支障を来すようであれば、一旦保留にすべきだと思います。

経営者は、積極的にお金を遣うことが好きです。事業を運営するとは、「儲けるためにお金を遣うこと」だとすれば、積極的にお金を遣うことは必要不可欠なことなのですが、前提となる「儲けるために」を忘れてしまっては、単なる浪費になってしまいます。

特に、自社で稼いで貯まったお金を積極的に遣うことは、手許流動性が低くなるだけなのですが、借入金による資金調達で手許に残っているお金を遣うことは、ある程度慎重にしなければなりません。何故ならば、借入金は金利という調達コストが必要となることに加え、元金返済というオフバランスでの資金流出を伴うものだからです。元金返済を考慮しない無計画な支出(お金の遣い方)は、やめておいたほうが無難です。

 

《投資か費用か》

「投資」とは、将来の利益を見込んでお金を遣うことです。経営視点で考えると、新規事業に投資するとか、生産力増強のために設備投資するとか、投資という言葉はこういった使われ方をします。

一方、「費用」とは、企業の営業活動において、利益を得るために消費される金額のことです。費用は、収益から利益を引くことで算出することができます。別の言い方をすれば、企業の利益を出すための生産活動に消費される金銭のことであり、生産活動や営業活動などに支払われるコストのことです。大きく捉えると、費用は、発生要因等によって、原価、期間費用、損失に区分することができます。原価とは売上原価や製造原価など売上高に関係するものが含まれ、期間費用には人件費や地代家賃等、損失には固定資産の売却損失や火災損失などが含まれます。

企業経営に必要な費用には、会社を新設するのに要する準備資金や新商品開発に要する研究費等、将来の利益を増やすことを目的に費やす金額も含めることができますが、ここでは、こうした将来の利益のために費やすお金は、「投資」と呼ぶことにします。

昭和の終わりから平成初期のバブル景気華やかなりし頃、都市銀行(雄蕊の当時の印象ですが…)が不動産等の資産投資のための融資を積極的に展開しました。今思えば、それは「利益(profit)」追及ではなく、「利益(gain)」追及のためだったと思います。不動産、株式、ゴルフ会員権等、投資対象となるものは、数限りなく存在し、中小企業の経営者のなかにも金融機関が貸してくれるならと積極的に投資した方も数多くいらっしゃいました。

当時、投資資産は、日々刻々と値上がりが続いていました。経営者が金融機関から借入してまでも資産に投資した目的は、保有した不動産、株式や債券等の資産の売却による売買差益(いわゆるキャピタルゲイン)を得ることだったのですが、バブル崩壊により、期待した利益を得ることが出来ず、中小企業の経営者のなかには、多額の不良資産と借金を抱えることになってしまった方も数多くおられました。

ここでお伝えしたいことは、「投資」と思って資金を投入しても期待したとおりの投資効果が得られなければ、それは単なる「費用」になってしまうということです。借入金による投資は、大きなリスクを抱えているのです。

今回のテーマは、「資本」と「資金」です。先行き不透明なコロナ禍の経済環境の中で、生き残るためには、短期的な視点として「資金力(手許流動性)」を高める経営が必要であり、長期的な視点では「資本力」の増強が不可欠であるということが主眼です。そのためには、「投資」に対する見極め力も必要だということです。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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