第83回 小さな会社の治し方(経営改善に挑む!挑戦者の覚悟)

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第83回は「小さな会社の治し方(経営改善に挑む!挑戦者の覚悟)」と題して、経営改善に取り組む際の姿勢と覚悟について考えてみたいと思います。

 

先日、雄蕊が7年余り関わっているクライアント企業の従業員の方から次のような言葉を貰いました。
「雄蕊さんは、いつまでこの会社に関与するのですか。雄蕊さんがここに来た当時からいる従業員はみんな、雄蕊さんがこの会社に来た目的もその目的を達成したことも理解している。当時、経営状態が悪く、明日会社が潰れるかもしれないと不安の中で勤務していましたが、会社の経営状態を立て直し、さらに会社社屋まで建て直しの道筋をつけてくれた。これは奇跡です・・・。目的を達成したのだから、もうムリしないでくださいね」
感動モノのコメントだとありがたく受け取りました。

 

「ミッション・リンク」=「WILL(ヤル気)」「CAN(能力・スキル)」「MUST(義務)」
この会社の経営改善を引き受けたとき、その傷み方はかなりひどく瀕死の状態でした。当時の従業員にも我慢を強いることも多く、よく理解して協力してくれたものだとこの従業員の言葉を聞いて改めて思い返しました。
何か業務を引き受け、引き受けた業務を進めるために行動を起こす要素は、「WILL(ヤル気)」「CAN(能力・スキル)」「MUST(義務)」だと思っています。
雄蕊はこの3つがお互いに密接に関連していると思っていて「ミッション・リンク」と呼んでいます。


この会社の経営改善を引き受けることには、それ相応の覚悟がないと前向きに取り組めなかったと思っています。
もう1つ最近、特に意識するようになったのが「正しい考え方」です。稲盛和夫氏の影響なのですが、この業務を請け負って進めていくうえで、考え方の軸に置いたのは「お客様と従業員の雇用と生活を守る」ということでした。金融機関にもこの「考え方」を伝え、共感してくれたので、リスケジュールや新規融資にも積極的に対応してくれたのだと思います。
「正しい考え方」とこの3つの要素がうまく機能したことにより、第1歩を踏み出すことができたのです。

さて、雄蕊がこの経営改善業務を引き受けて経営改善に取り組んだプロセスについて説明してみます。
まず、過去5年分の確定申告書、決算書を確認しました。どの期の決算書も赤字ばかり、こんなに赤字を続けていてよく潰れなかったなあ。しかし、もう余裕はない。残り数ヶ月で資金が枯渇してご臨終だ。

 

「問題意識」「危機意識」「当事者意識」

「問題意識」:大幅な赤字が続いている。何が原因だろう。

「危機意識」:このまま赤字が続けば、お金が底をついて事業継続できなくなる。すぐに何か手を打つことが必要だ。

「当事者意識」:この会社の中には問題解決ができる人材はいない。自分がやるしかない。

「目的意識」:会社のお客様と従業員の雇用を守るために収益力のある会社に再生する。
まずは、手許のキャッシュフローを安定化させなければならない。
手許のお金を増やす対策を講じてお金を増やそう。

このような過酷な経営改善を成功させるためには、明確な「目的意識」を持って取り組まなければなりません。現場のスタッフを巻き込み、一緒になって改善に取り組んでくれるような方向性のはっきりした目的設定が必要なのです。そうした明確な目的を設定するためには、次の3つの意識を持つことが大切です。
それは、「問題意識」「危機意識」「当事者意識」の3つです。
問題意識:自分たちを取り巻く環境に対し、何か問題は起きていないか、変化はないかと常に周囲に注意を向けている状態

危機意識:自分たちに今起きている問題や脅威を察知している状態

当事者意識:今起きている問題や脅威を解決するために、自分が責任をもって行動しなければならないと覚悟している状態

この3つの意識は、一連の思考的流れとして密接に関連しています。つまり、問題意識がなければ、危機意識を持つことは出来ません。危機意識がなければ当事者意識を持つことはできないのです。
だから、明確な目的や問題意識、危機意識を伝えないまま、いきなり当事者意識を持つよう指示をしてもそれでは浸透しないものなのです。

 

4つの目+人の目
このブログデビュー時の投稿記事の雄蕊のキャリア紹介で「これまで40年、次のような立場で「中小企業金融」の現場に関わって参りました」と書きました。
それぞれの立ち位置での視点に立って、この企業の経営改善に取り組んだのです。

①金融機関の担当者として小規模事業者・中小企業に対する金融支援を行う視点
②金融機関の管理職として人材育成、現場のオペレーション、組織運営を行う視点
③中小企業の財務担当者として金融機関から金融支援を受ける視点
④中小企業の経営管理部門のなかで経営改善、組織や人のコントロールを支援する視点
⑤中小企業の経営改善計画策定を支援する視点

同じ場所、同じ状況で起きている現象を同時にみているにもかかわらず、現場(ローマネジメント)とミドルマネジメント、トップマネジメント、あるいは積み重ねてきたキャリア(業種や経験等)の異なる者とでは見え方、感じ方が違うはずです。それは、鳥の目・虫の目・魚の目・コウモリの目という四つの目の活用の仕方が違っているからです。
鳥の目とは
全体を高い場所から見下ろす視点です。つまり「俯瞰」する視点のことです。鳥は上空から地上全体を見渡すことができ、どこに何がありどう進めばいいのかを一瞬で把握することができます。
経営者は、部分最適ではなく全体最適の視点で、全体像を捉えることが必要です。組織や自分の部署を鳥の目で俯瞰して見ることで、そこにある課題等の事実を大きく捉えることが経営者には大切なのです。

虫の目とは
物事を細かく分けより詳しくより深く掘り下げる視点です。鳥の目が全体を俯瞰して捉える視点であれば、虫の目は一部を深く知るという視点です。
鳥の目で大まかに全体像を捉え、そのなかで気になることがあれば虫の目でしっかり細かい中身を確認し、課題の本質を捉えることが経営者には必要なのです。

魚の目とは
物事の流れを見る視点です。過去 → 現在 → 未来へと流れる時間の経過を捉えることが、魚の目です。
いま目の前で起こっていることは、数年後、数十年後にはどう変化しているか。過去の歴史から現在があり、いまの傾向からこれらから先、どう変わるのかを時間軸で捉えることが必要です。
身近な例だと、今ある課題を解決しないまま放置しておくとこれから先にどんなリスクが考えられるのか。将来予測をする視点で経営者が解決策を考えるのです。

コウモリの目とは
コウモリは逆さまにぶら下がり通常とは逆の視点で物事を見ています。つまり、相手側の視点で物事を見たり、視点を変えたりすることをさします。
「常に自分は正しい。これが常識だ。誰もそんなこと言わない」等の凝り固まった視点や考え方を柔軟にすることが目的です。
コウモリの視点を持ち合わせることで、イノベーションを起こしたり、的確な課題解決を実現したりすることができるのです。

人の目とは
こうして4つの目で得た情報を総合的に判断するのが人の目です。
人は考えることができる生き物です。多角的な視点から知り得た情報を基に状況判断して、課題解決に向けた対策を意思決定することが人の目です。

 

経営改善セオリー
経営不振状態を放置しておけば、やがて会社の「死」としての倒産に至ります。人間の病気と同じく早めに発見して「治療」をすることが大切です。
赤字が長期間続く等の経営不振状態に陥ったときの対策方法には、一定のセオリーがあります。セオリーに沿った改善策を1つ1つ積み重ねていく作業が大切なのです。

経営改善セオリー1:費用を削減して出血を止める
経営不振対策として、まず手をつけるべきことは、費用を見直し、無駄な費用をカットして会社を低コスト体質にすることです。これは、人がけがをしたときに、まず出血を止めるようなものです。
ポイントは、原価→販管費の順に、大きなものから見直すこと
費用見直しのコツは、大きなものから優先的に見直すことです。業種にもよりますが、たとえば、売上原価(製造原価)に影響を与える仕入価格は1パーセント違えば、トータルのコストは大きく変わってきます。一方、電気をマメに消すとか、文具を安いモノに変えるといったことでは、大した効果は生みません。損益計算書でいえば、販管費に含まれるものよりも、売上原価(製造原価)を優先的に見直して、まずは粗利益率を向上させることがセオリーです。そして、次に販管費を見直し、営業利益をより多く改善させます。
実際には、売上原価だろうが、販管費だろうが、とにかく手の付けられるものからスピード感を持って改善することが重要なのです。

経営改善セオリー2:財務対策により、財務基盤を安定化させる
費用の見直しは、決算書でいえば損益計算書をベースに考えることです。一方、貸借対照表ベースで考えるのが、財務基盤の安定化、強化です。これには、不要資産の売却、債務のリスケジューリングの検討等が考えられます。
① 遊休資産の売却、不要在庫の処分
不動産など資産の部に計上されている遊休資産があれば、売却して現金化します。あわせて、不要な在庫も処分します。
同時に、在庫管理を見直すことによって、キャッシュフローを改善する必要もあります。

② 債務のリスケジューリングの実施
多額の融資借入残高があると、その返済と利払いだけでも毎月多額のキャッシュが流出していきます。場合によっては、業績が回復するまでの間、元利払いをストップしてもらう、あるいは利息の返済だけにするなどのリスケジューリングを金融機関に要請することも考えなければなりません。ただし、リスケジューリングを実施すると、その後の追加融資は原則的に受けられなくなりますが、実抜計画・合実計画と言われる経営改善計画を策定し、計画通りに改善が進んでいれば、リスケ期間中でも新規融資を受けることができる場合もあります。

経営改善セオリー3:売上拡大により再成長を図る
費用の削減、財務の見直しは、キャッシュフローが改善し守りを固める施策です。それがある程度奏功したら、次は攻めに回ります。
新しい事業分野への進出、新商品の開発、あるいは、新しいマーケティング施策の実施などにより、継続的な売上の拡大と利益成長を図っていきます。

 

現場の従業員をヤル気にさせる
経営改善を成功させるうえで、最も重要なことは、経営者を始めとした現場スタッフを如何にして巻き込むかということです。
どんなに精緻に現状分析をして、改善に向けた詳細な対応策を立てたとしても経営者、現場のスタッフの協力がなければ実行できません。
経営者や現場のスタッフと信頼関係を構築することが何よりも最優先事項なのです。

雄蕊は、勤務時代に管理職として15年間部下と一緒に仕事をしてきました。その間に管理職研修に参加したり、数多くの部下と現場で丁々発止のやりとりを繰り返したりしながら数多くの失敗や成功体験を積んでおり、管理職経験のない方に比べれば、目的達成に向けた「人を動かす」ための一通りのスキルやノウハウは身につけていました。
とはいえ、初めてこの会社を訪れたとき、社屋の中を一巡したのですが、出会うスタッフ皆が凍り付くような視線で雄蕊のことを見るのです。誰にも笑顔はありませんでした。この冷たい雰囲気は何なんだろう。これまで経験したことのない異次元空間に迷い込んだ気がしました。「このスタッフと一緒にやっていけるのだろうか」嫌な予感は的中しました。業務を初めておよそ半年後、10名程度のスタッフに呼び出されて糾弾されました。内容は良く覚えていません。覚えているのは理解できない言動に戸惑いましたが、「お客様と従業員の雇用と生活を守る」という信念を貫くため、無視させていただくことにしようと思ったことです。

少し逸れますが、「第51回 経営者が持つべきブレない軸と自分軸」のなかで「尊敬する経営者との再会」との項で紹介したコンシェルジュ・フロアサービス、オフィス受付、電話交換、日常清掃等の業務請負業を営まれている会長から聞いた話です。

「当社は、西は九州から東は関東までおよそ20弱の拠点を有して事業展開しており、数多くの病院もクライアントとして、業務を受託している。そうしたクライアントである病院を訪れると、経営者のしっかりしている病院は入り口を入った瞬間に「温かみ」を感じる。室内温度が暖かいという意味ではなく、患者様を受け入れる姿勢というか、雰囲気というか・・・。数多くの地域の数多くのクライアントである病院を訪問したが、こうした違いを肌で感じることが多い」
この言葉を思い出したとき、なるほど経営者の資質や会社の業績によって「温かみのある雰囲気」も「凍てつくような冷たい雰囲気」も明確に醸し出されるのだと変に納得。ならば、業績や経営者の姿勢が変われば会社の雰囲気もよい方向に変えることができると確信しました。

業務改善業務をはじめて程なくした頃、技術部門の専門職である部長が設備が老朽化しており、いつ壊れてもおかしくないのでと設備更新の依頼にやって来ました。
今の業績で設備更新なんかできる余裕はないと思いましたが、取引業者を呼んで一緒に交渉しようと声を掛けました。
案の定、業者からの返答は「今の業績ではどこのリース会社もリース契約を承諾して貰えませんでした。申し訳ありませんが、今回はご要望に応じかねます」でした。
雄蕊は、その部長に「更新してあげたいけれど、どこのリースも付かなければ更新してあげられない。更新できるような業績の良い会社に再生したいので協力して貰いたい」と声を掛けて、今すぐの更新は諦めてもらいました。
この会社の業績では、どこのリース会社に相談しても断られることは承知していましたが、会社の実情をこの部長にも認識して貰うために敢えて業者との交渉に同席して貰いました。
雄蕊は、どの従業員にもある程度会社の業績を「見える化」することにしました。会社の実情を明確に示すことで、雄蕊に対する信頼感の醸成と経営改善への参画意識に繋げようと試みたのです。
稲盛和夫の「経営の原点」に「従業員をやる気にさせる7つのカギ」という項目があります。
①従業員をパートナーとして迎え入れる、②従業員に心底惚れてもらう、③仕事の意義を説く、④ビジョンを高く掲げる、⑤ミッションを確立する、⑥フィロソフィを語り続ける、⑦自らの心を高める
稲盛氏のようなカリスマ性はありませんが、それでもこの7つのカギを意識して経営者、従業員との人間関係構築に努めました。

経営者や現場スタッフとのリレーションシップの構築を基盤に据えながら、件の稲盛和夫氏の「人生・仕事の結果=正しい考え方×熱意×能力」という成功の方程式に従って改善に取り組んだ結果、およそ5年もの歳月がかかったものの、期待以上の成果を残すことができました。

決算書でみれば、損益計算書をベースにした損益面では数千万円近い赤字を続ける大赤字体質から数千万円の黒字が確保できる黒字体質への転換、一方、貸借対照表ベースでは、期末の手許キャッシュを1億円以上増やし、借金を1億円減らすことで財務基盤の安定化・強化に成功しました。

経営改善に取り組んで3年目の冬期賞与を支給したとき、現場の管理職から「お疲れ様です。スタッフから「たくさんのボーナスをありがとうございます」との声が聞かれます。スタッフのためにありがとうございました」というメールや先日、スタッフからの相談に応じたあとに「丁寧かつ誠実なアドバイス、ありがとうございます。言葉の重みが違いますね」とメールが届きました。
冒頭に紹介した従業員の言葉、現場の管理職からのメール等、今も現場のスタッフから相談をいただくこともあります。現場のスタッフからのこうした心温まる声を聞くとコンサルタント冥利に尽きる・・・感謝と恩返しです。

経営改善が成功したのは、「問題意識」「危機意識」「当事者意識」を持って、目的(方向性・ゴール)を明確に示し、それに向かって「4つの目+人の目」を駆使して、緻密な現状分析と詳細な改善計画を立案し、経営改善セオリーどおりの対策を粛々と積み重ねて、現場のスタッフもそれを理解し、協力してくれたことで、会社の持つポテンシャルを最大限引き出すことに成功した結果であって、決して「奇跡」ではないと思っています。
奇跡というなら、時間は掛かりましたが、経営者はじめ当時の専門職のスタッフも私の思いを理解して、協力してくれたことです。
それは、当時のスタッフに会社の経営状態に対する共通の「危機意識」があり、それが「当事者意識」に繋がった結果なのかもしれません。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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