第39回 決算書に秘められたドラマ

財務分析

「かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵(おしべかくぞう)です!」今回は、投稿までに少し時間を要してしまいました。久し振りの投稿となる第39回は「決算書に秘められたドラマ」と題して、財務分析、資金繰り分析、財務担当者の必要性について考えてみたいと思います。

《財務担当者育成》
縁あって、地域金融機関の行員の方と財務の実践研修を行っています。第37回の投稿でお話した雄蕊が講師を務めた財務研修の受講生のうちのお二人です。
財務研修でお話した財務の基本である「貸借対照表の読解力」と「資金繰り表の作成」について、モデル企業の過去5年分の決算書等を用いて実践的な視点から決算書の読み解き方や財務担当者としての役割を学ぶ場を持つことにしました。

過去の決算書と月次推移損益計算書から翌期の資金繰り予測表を作成する。作成した資金繰り予測表とその期の資金繰り実績表を比較し、その違いを確認する。これを繰り返して資金繰りの安定化に向けて取り組んだことを検証してもらっています。
このブログでも何度かお話させていただきましたが、中小企業には財務担当者が不在で、経営者や経理担当者が資金繰りに齷齪している企業が数多くあります。

金融機関の経験者は、数字とお金に馴染みが深いのでアレルギーなく財務の仕事が出来ると思っています。

《決算書に秘められたドラマ》
決算書の貸借対照表や損益計算書を複数期並べて、その変化をみてみると、企業の方向性や経営者の意図が見えてきます。決算書には、その企業の履歴、まさにドラマが秘められています。
売上高を事業別、取扱商品・サービス別に分解して並べると、何故、多角化を図ったのか、どのようにして不採算事業から撤退することができたのか等を数字の変化で読み取ることができます。
また、原価率(売上原価÷売上高)や固定費の期別の増減で事業内容の変化を読み取ることもできます。

基本的に企業経営は、経営者のやりたいことを実現するための手段です。だからといってやりたいことを片っ端からなんでもやってよいかと言えば、それは間違っています。事業として成立する必要があるのです。事業活動の基本は、「お金を集める⇒投資する⇒利益を出す」このサイクルが上手く回らないと持続できません。

雄蕊は、金融機関時代に数多くの中小企業の決算書を見てきました。
決算書を見る作業を積み重ねていくうちに、貸借対照表をみればその企業の歴史を推測することが出来るようになりました。加えて経営者の事業に対する考え方や想いが読み取れるようになりました。
1期分の貸借対照表では、決算期時点におけるその企業の資産と負債の状況しか読み取ることは出来ませんが、創業時からの貸借対照表を並べてみると、その企業の歴史が手に取るように浮かび上がってきます。経営者の企業経営への取組の意図が見えてくるのです。
一方、損益計算書を並べてみると事業内容の変遷を把握することが出来ます。多角化を図ったり、不採算事業から撤退したり、貸借対照表と同様に創業時からの損益計算書を並べることでその企業の事業内容の変遷が鮮明になります。
貸借対照表や損益計算書を並べてみていると、各勘定科目に計上されている数字1つ1つにその企業のドラマが隠されていることが解ります。
決算書は、単にその企業の各期の業績や資産・負債の状況を表しているだけではなく、その企業のドラマが刻まれているのです。

一緒に財務を勉強している研修生の二人と過去5年分の決算書を見ながら、その企業の変遷を振り返っているときに研修生の一人が発した言葉、「決算書の数字にはドラマがありますね!」正にそのとおり、的確な意見だと思いました。
先日、地元の地方銀行を早期退職し、転職されたアラフォーの男性にお目にかかりました。1時間程度お話をさせて頂きましたが、かなりの切れ者という印象を受けました。その彼が言うに「僕は決算書を並べてみるのが好きです。できる限り長期間に亘って…」財務のプロの発言だと感心しました。

《資金繰り改善実践(訓練)》
モデル企業の決算書にはツッコミどころ満載な情報が溢れています。この決算書を活用して研修生に資金繰り改善の実践訓練を行うことにしました。
まず、5期前の決算書(貸借対照表、損益計算書)とその期の月次損益推移を確認してもらい翌期の月次予測資金繰り表の作成作業からスタート
与えた情報から作成した資金繰り表は、なんとか今後1年間、資金繰りは回るというもの、あえて研修生に重要な情報を与えないで資金繰り表を作成してもらったので、研修生二人がそれぞれ作成した翌期の予測資金繰り表は期待した出来栄えに仕上がっていました。
研修生二人に、モデル企業は金融機関から多額の借入金があり、毎月高額の元金返済があるという追加情報を与え、完成させた資金繰り表に元金返済を反映させてもらいました。
毎月の元金返済を追加することで、この企業の資金繰りは約4か月後に資金ショートすることが解りました。
この予測資金繰り表の結果から財務担当者がとるべき行動は、経営者に資金ショートする可能性があるという事実を伝えることと、各金融機関に元金返済猶予の要請(条件変更)を行うことです。すみやかに金融機関に相談し、元金返済猶予の支援を応諾してもらうことが最重要課題なのです。

次に4期前の決算書等を活用して翌期の予測資金繰り表を作成してもらいました。前期に金融機関に元金返済猶予の条件変更を応諾してもらっているので、元金返済はありませんが、今度は将来の元金返済に備えた手許現預金を高めるための対策を検討し実施する必要があります。
研修生二人にこれから手許資金を増やすために何をすればよいかを考えながら資金繰り表の作成に取り組んでもらいました。
この工程を繰り返すこと3回、元金返済猶予の条件変更の応諾を得てから5年目。この5年間、手許資金を増やすための施策を検討・実施した結果、毎月の元金返済が可能な状況まで業況は回復していました。

このモデル企業の最後の仕上げは、各金融機関でリスケ債権として債務者区分も「その他要注意先」以下に下方遷移している企業の信用力を回復させるために正常債権に戻す作業です。具体的には、リファイナンス(借入金を借換することで正常債権化させる)に応じてもらう必要があるのです。
研修生二人に金融機関がリファイナンスに応じるための説明資料(提案書)の作成を課題として与えました。現在、作成中です。どんな提案書が出来上がるか楽しみです。

《中小企業経営者が財務担当者の必要性を理解できるか》
新型コロナウイルス感染拡大の感染防止と経済活動への影響等を考えてみると、直接的な要因は感染症ですが、結果としてはインバウンド需要の消失、資金繰り不安、外出制限による購買行動・ライフスタイルの変容、雇用の流動化、国家の分断やサプライチェーンの変質、そして近い将来に予測される金融不安と、連鎖的に様々な経営課題を突き付けました。
また、現代社会は、VUCA(Volatility-不安定さ、Uncertainty-不確定さ、Complexity-複雑さ、Ambiguity-不明確さ)の時代と叫ばれています。そう呼ばれる背景には、コロナのような感染症だけでなく、気候変動やテクノロジーの進化、急加速する人口減少や格差社会といった現象のように、あらゆるリスク要因が頻繁に到来する経営環境を想定していることが挙げられます。
こうしたコロナ禍における経営は、これまでと同様の前提条件に基づいた経営計画やビジョンの立案では、経営リスクが高くなることを経営者は改めて認識する必要があると考えます。

繰り返します。ここ数年、毎年台風や豪雨、或いは大地震による甚大な被害等、自然災害が増加している。加えて、新型コロナウイルス感染症等の生物災害の拡大も懸念事項であり、今後の経営には危機対応能力の強化が不可欠なのです。
中小企業は、限られた経営資源(リソース)を効果的かつ効率的に活用しなければなりませんが、リスクヘッジする経営の実践において特に重要と思われる「財務」の業務を担っているのは、ほとんどの中小企業では経営者です。
残念なことに、経営者は基本的に数字とお金が苦手です。また、先頭に立って売上を伸ばさなければならない役割を担っている経営者がほとんどで、どうしてもバックヤード業務は後回しになりがちなのです。「財務」の専門家を配置する、または外部にアウトソーシングすることで、バックヤードの強化を図ることができます。今、雄蕊の許で「財務」を学んでいる研修生が、中小企業の経営安定化に向けて、「財務」を活用した経営支援ができるようになることを期待しています。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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