第7回 中小企業におけるバックヤード(財務部門)の脆弱性

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第7回は、「中小企業におけるバックヤード(財務部門)の脆弱性」について考察します。

第6回の「赤字企業でも融資が受けられる条件」のなかで、経営者が金融機関から信用されるための条件の1つに「バックヤードが整備されている(財務担当者を配置している)」をあげました。今回は、この項目について、少し掘り下げて考えてみたいと思います。((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

 

《中小企業におけるバックヤード(財務部門)の脆弱性》

ある中小企業の「財務状況報告書」の作成支援を依頼され、お手伝いさせていただきました。

この企業は、5年ほど前に地元金融機関からの要請で、経営改善計画を策定し、金融支援(新規融資)を受けた建設業者です。

公共工事の受注が激減し、これまで見えなかった不良資産が浮き彫りになってしまったのですが、その不良資産の累積額が不明瞭であるため、その金額を明確にすることが金融機関から受けたミッションでした。

まず、不良資産発生の要因等について簡単に説明します。

公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者は、「経営事項審査」という審査を必ず受けなければなりません。

公共工事の各発注機関は、競争入札に参加しようとする建設業者についての資格審査を行うこととされており、当該発注機関は客観的事項と主観的事項の審査結果を点数化し、順位付け、格付けを行います。
このうち客観的事項の審査が経営事項審査であり、この審査は「経営状況」と「経営規模」、「技術力」、「その他の審査項目(社会性等)」について数値化し評価するものです。
「経営状況の分析」については、国土交通大臣が登録した経営状況分析機関が行っています。(一般財団法人建設業情報管理センターのホームページから抜粋)

この審査で、高得点を取るためには、赤字はある意味『禁物』なのです。そのため、実際は赤字であっても決算書上黒字に見せるため、数字を操作する必要が出てきます。いわゆる「粉飾決算」する訳です。

今回の建設業者も、直近の決算では、数字を操作した事実は確認できず、適正な処理が進められていました。しかし、数十年前の過去に遡ると、長期に亘り公共工事受注のため、粉飾を重ねていたのです。赤字を黒字にするために行われる数字の操作は、資産を増やすか、負債を減らすかのどちらかです。建設業で用いられる数字の操作は、資産勘定の「未成工事支出金」という科目の数字を膨らませる方法が一般的です。建設業の場合、売上を完成工事基準で計上する企業が多く、完成していない工事にかかった費用は損金処理をしないで、「未成工事支出金」として資産勘定に計上されます。そして、工事が完成した後、その工事代金を売上に計上する時点で、その工事に掛かった費用を未成工事支出金から工事原価に振り替える処理をするのです。このときに利益が低いと、本来工事原価として損金処理しなければならない工事原価の一部を「未成工事支出金」として残し、経費の圧縮を図ることにより利益を増やすという操作が出来るのです。

長期間に亘り、複数の工事から積み重ねた数字の操作ですから、今さら粉飾した金額を洗い出せと言われてもなかなか困難な作業になります。当時の資料も残っておらず、最終的には推定金額しか出すことができませんでした。

この企業の経理責任者を務めておられる方に、不良資産等に関する経理・会計処理についてインタビューしましたが、ほとんどの質問に明確に応えていただくことができず、加えて、必要資料の提出を求めてもタイムリーに準備することが困難でした。

雄蕊が金融機関勤務時代に、数多くの小規模事業者・中小企業の融資判断を行うなかで、多くの企業が抱える「バックヤードの脆弱性」という課題に対して危機感を感じていたのですが、正にそれを目の当たりにした瞬間でした。「粉飾決算」の良し悪しについて、ここでコメントすることはしませんが、経営者等の数字とお金に対する関心の低さが垣間見えたのです。

この企業は、建設業のほかに住宅用の分譲地の販売も行っています。仕入れた商品不動産の販売が進まず、粉飾による不良資産に加えて不良在庫も抱えている状況なのです。これはもう数字とお金の専門家なら誰が見ても資金繰りが逼迫することは明らかです。雄蕊は中小企業金融の現場で、この企業に限らず公共工事の受注を獲得するために粉飾している建設業者を数多く見てきました。この企業が特別ということではありません。

 

《認定支援機関の果たす役割》

バックヤードの脆弱性をカバーすること等を含め、小規模事業者や中小企業の経営力を強化する目的で、設立された制度が「経営革新等支援機関」制度です。その機関のことを通称で「認定支援機関」と呼んでいます。

税理士、弁護士等のいわゆる士業関連の個人や法人、金融機関等が認定されており、小規模事業者や中小企業からの経営に関する悩み事の相談、現状の課題や改善すべきこと等のアドバイス、事業計画書作成支援、資金調達支援をすること等が主な業務内容です。

日本経済の活性化のため、国内企業の9割を占める中小企業に特化した支援が必要ということで、平成24年の中小企業経営力強化支援法の施行から認定制度が創設されました。具体的な業務としては、以下のとおりです。

自社の経営を「見える化」

企業に密着した、きめ細やかな経営相談から、財務状況、財務内容、経営状況に関する調査・分析までを行います。

事業計画策定支援

経営状況の分析から、事業計画等の策定・実行支援を行います。また、進捗状況の管理、フォローアップを行い、中小企業の経営支援の充実を図ります。

取引先の増加、販売拡大

認定支援機関のネットワークを活用して、新たな取引先の増加や販売の拡大に向けてお手伝いします。

専門的課題の解決

海外展開を考えている、知的財産の管理が不安・・・。専門的な知識が必要な場合には、最適な専門家を派遣し、認定支援機関と一体になって支援します。

金融機関と良好な関係作り

計算書類の信頼性を向上させ、資金調達力の強化につなげます。

元々、商工会や商工会議所の事業のなかに「経営改善普及事業」が盛り込まれており、各自治体や国の助成金を原資とした事業として創業者や中小企業、個人事業主を対象に、経営相談や融資等を行っています。雄蕊の意見ですが、認定支援機関制度が開始された当時は、民主党政権時代でした。もし、自民党政権下だったら認定支援機関の役割をすべて商工会・商工会議所に担わせていたかもしれません。

こうした制度が生まれた根幹にあるものは、「中小企業のバックヤードの脆弱性」だと思います。

たびたび取り上げますが、リーマンショック後に施行されたモラトリアム法により、多くの資金繰りに窮する中小企業等が、リスケという金融支援により、一時的に資金繰りを緩和することができました。しかし、金融支援を受けている期間に企業の立て直しを図ることはできなかった。つまり、企業の自助努力は勿論、顧問税理士、金融支援に応じた金融機関等、誰も本格的な経営改善に取り組むことが出来なかったと思うのです。モラトリアム法の最終期限に併せた出口戦略として認定支援機関制度を導入しても、専門家とはいえ、各々がクライアントを数多く抱えていますので、その1社1社に微に入り細を穿った指導を継続的に行うことは難しいと考えます。

 

《バックヤードの強化が不可欠》

「中小企業におけるバックヤードの脆弱性」とは、小規模事業者・中小企業には、経理・会計・財務といった数字やお金に詳しい人材がいないということです。限られた経営資源を有効に活用するためには、どうしてもフロント部門に人材を投下するしかないのが、現在の中小企業等の実情だと思います。

アフターコロナ、WITHコロナの時代には、「自社で稼ぐ」経営が求められます。金融機関頼みの資金調達では、いずれ限界が来てしまいます。「経営者の腹心として働いてくれる財務担当者を配置すること」が必要不可欠な時代に環境変化していくと言っても過言ではないのでしょうか。

雄蕊が、財務面で関与している中小企業もコロナウイルス感染の影響を受け、一部業務を縮小せざるを得ない状況に陥りましたが、手許にお金を蓄積していたので慌てることなく、将来に向けた資金繰りの見直しを行うことが出来ました。今後、第2波、第3波が来れば厳しい状況に立たされる可能性は高いのですが、最悪のシナリオも描いており、この企業が行き詰まる時は、日本経済そのものが沈没すると思っています。

 

《「かんれき財務経営研究所」雄蕊覚蔵が目指すバックヤード支援と財務担当者の育成》

このブログの主人公「雄蕊覚蔵」が設立した「かんれき財務経営研究所」は、大きく捉えると次に掲げる2つの事業を柱に据えて中小企業を支援したいと考えています。

その1つは、「財務人財の育成」です。具体的には、中小企業等に在籍している人材(ナンバーツーや経理担当者等)を育成し、財務部門を担当できるようにすることです。

もう1つは、財務人財を雇用することが人材不足や経費等財政上の問題により難しい中小企業に対して、財務部門を「かんれき財務経営研究所」が請け負うことにより、そうした課題の解決を図ることです。

そのため、「かんれき財務経営研究所」としては、中小企業等の財務部門を請負(アウトソーシング)ことができ、加えて、経営者の腹心として働くことが出来る人財の育成が急務です。

現在、前述したとおり、中小企業を支援するための機関として「認定支援機関」の制度がありますが、今回、認定支援機関が金融機関から受けた「財務調査報告書」の作成業務をお手伝いさせていただくことで、「中小企業のバックヤードの脆弱性」がより鮮明になるとともに、認定支援機関では難しい「よりきめ細かい財務を基軸にした中小企業支援」を実践することで、中小企業の弱点克服のためにお手伝いできることがあると確信しました。

未だ、「かんれき財務経営研究所」としては、本来の目的に向けた本格的な稼働には至っていませんが、アフターコロナ、WITHコロナの時代に向け、スピード感を持って準備を進めていきたいと考えております。少し、手前味噌でコマーシャルっぽくなりましたが、出来る限り中小企業に寄り添った支援の実現に取り組みたいと考えております。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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