第8回 アフターコロナ時代の金融機関に求められる機能

金融

「こんにちは、雄蕊覚蔵です!」第8回は、アフターコロナの時代に金融機関に求められる機能について、雄蕊なりの個人的見解を述べさせていただきます((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

 

《金融機関に求められる機能》

―ゾンビ企業増殖阻止に向けた経営コンサルティング機能の発揮―

『第3回 危惧される「倫理の欠如(モラルハザード)」』のなかで金融機関の担当者に『緊急経済対策で資金繰り支援のための融資制度が創出されているが、金融機関の本来の機能、「目利き力」だけは見失わないで欲しい』ということをお伝えしました。

繰り返しになりますが、赤字体質から脱却できず、本来なら市場から退出すべき企業だと判断された企業に対して、無理な金融支援(将来にツケを残すような金融支援)を続けると金融機関自体の財政状況に大きなしわ寄せが来ることになり、数年後に、破綻する金融機関が続出する等の金融危機が再燃する可能性がかなり高い確率になってしまうと考えられるからです。

赤字に対して何も改善策を打っていない企業が、今回の資金繰り対策に便乗して、金融支援を受けることで延命されると、いずれ近い将来、ゾンビ企業になって世に蔓延り、日本経済の回復の妨げになることは火を見るより明らかだと思います。

しかしながら、メインバンクとしては、日本経済が危機的状況にあるなかで、簡単に金融支援を打ち切ることは出来ないと主張されると思います。継続支援の方向で進むならば、経営者に寄り添って、きめ細かい経営指導を行うことも必要ではないでしょうか。

雄蕊にとっては、非常にインパクトが強く、未だに否定的にしか考えられない「モラトリアム法」が施行されたとき、金融機関としては、金融庁への報告もあり積極的にリスケ対応はしたものの、リスケ後に手許流動性を高めるための経営改善支援までは出来ず、結果としてゾンビ企業を蔓延らせることになってしまったのは、紛れもない事実だと思います。これは、金融機関にいた雄蕊自身の自責の念も込めての意見です。

ビジネスマッチング等、売上拡大に繋ぐ支援は、数多くの金融機関で取り組んでおられますが、バックヤードに目を向けた支援ついては、まだまだ不十分ではないでしょうか?

金融機関の持つ与信判断のノウハウを活用することで、中小企業に対する財務コンサルティングは可能だと思うのです。雄蕊の意見ですが、低金利時代、いくら貸付を伸ばしても利息収入は期待できません。金融機関の持つ「知識・スキル」といったノウハウを活かし、元気のある中小企業を育成することで、新たな資金需要を喚起することもできます。

ここでいう財務コンサルティングは、単なる評論家的な役割を言っているのではありません。いくら課題解決等の提案を行っても、中小企業現場には、実践できる人材はいません。財務人財不足の中小企業の経営者と一緒に現場で動きながら、コンサルティングを行うことを意味しています。クライアント企業の収益向上が図れれば、相応のコンサルティングフィーを捻出することは可能になると思います。

 

《金融機関を取り巻くこれまでの環境変化》

まず、大きく変化したことは、テクノロジーの進展だと思います。AI・IoT等、機械の台頭により、人が不要となる業務分野が拡大するということです。これは更なる人員削減の可能性が高まることを意味しています。

次に、金利政策等の影響もあり、低金利時代が長く続いていること等による収益悪化とそれに伴う組織の再編です。組織の効率化が進められています。仕事は減っていないのに人は削減される。本部から新しい施策が打ち出され、その対応にも時間を要する。それにも拘らず、「働き方改革」により、更に時間管理の徹底が厳しくなった。

融資の現場では、事業性評価融資、コンサルティング機能の充実(機能不全)、経営者保証等個人保証なしの融資、保全重視の融資から事業性を評価した融資へ…。

また、権利意識の変化による各種ハラスメントに関する問題、クレームの難件化等々、悩ましいことが増えています。

 

《中小企業の特徴》

ここで、中小企業の特徴について、少し考えておきたいと思います。

(1)中小企業経営者は孤独である

多くの中小企業経営者は、意思決定を「ボード・メンバー(取締役会等)」といった複数で行うのではなく、一人で行わなければならない立場にあります。なので、常に問題や課題を一緒になって考えてくれる「真のパートナー」を求めています。親身になって、解決策や情報を提供してくれる共同経営者のような役割を金融機関の担当者に期待しているといっても過言ではないと思います。こうした中小企業経営者の想いに寄り添い、同じ視点に立って、経営者が関心を持っている問題・課題をきちんと聞き、深く知ることができる能力を、金融機関の中小企業金融担当者は身につけなくてはなりません。

(2)中小企業経営者は数字に疎い

また、中小企業金融の現場で感じていたことがあります。

金融機関では与信判断(融資可能か不可かの判断)をするために稟議書を作成し、稟議にかけなくてはなりません。複数の目でみて判断し、最終決裁権者の決裁を受けないと融資実行に進めない仕組みなのです。

稟議書の作成過程で、決算書に記載されている数字の意味・内容等が担当者の分析でどうしてもわからないことが必ず出てきます。そういった疑問点については、社長や経理担当者に確認しなければ稟議書が先に進みません。そこで社長等に質問をすると、質問された社長等の7割、8割の方から返ってくる応えは必ず決まっているのです。「それは私では分からない。税理士に直接確認して欲しい」です。

また、信用調査のために経営者と面談を行い、定性的な情報収集に加え、赤字企業の経営者に赤字の原因や解決策等を確認するのですが、赤字の原因は、「景気がわるいから、国の政策がわるいから」と外部環境や政策等の責任を口にする経営者も数多くいました。確かに外部要因もありますが、同じ業種業態でも利益を上げている中小企業も存在するわけですから、まずは自社、内部要因をしっかり把握することが求められます。

中小企業金融の現場にいると、決算内容、そこに記載されている数字の意味を的確に把握している社長の少なさに驚いてしまいます。社長自身やその取り巻きの経営幹部が、財務に関する興味や理解がもっとできるようになれば、今よりもっと良い積極的な経営(増収増益に繋げる、業容を拡大する等)ができるのではないかと思うことがしばしばありました。

(3)中小企業経営の課題

中小企業が苦しい状況に置かれている原因のなかで最大の問題は、経営者の数字に対する関心の低さだと思います。事業活動を行ううえで、最も大事なことは「資金が回るか否か=手元に資金があるかないか」ということです。何をするにもお金が必要です。

こんなことを言うと非難されるかもしれませんが、国が設置した小規模事業者・中小企業向けの経営相談等の支援機関でもあまり「財務=数字」に関する相談やセミナーの開催数は多くないように思います。中小企業経営者は数字をみることにアレルギーがあって、そうした相談やセミナーはあまり人気がないからかもしれません。どちらかというと売上拡大策に傾倒したマーケティング関連のセミナーが多いように感じています。

また、国の政策としては、地域金融機関にコンサルティング機能を発揮させようとしているようですが、それを地域金融機関に期待しても、正直なところ、コンサルティング・スキルを持っている金融機関の担当者は数えるほどしかいないのが現実だと思います。こうして考えてみると、中小企業の7割近くが赤字である原因の本質を捉えられていないような気もします。雄蕊の意見ですが、財務面をしっかり強化すれば、赤字企業割合はもっと減少するのではないかと思います。

現在、財務面をみている中小企業もコンテンツや人員を大きく変えたわけではなく、バックヤード=経営管理部門を整備しただけで大幅な収益改善につながりました。

中小企業には、大なり小なりバックヤード=経営管理部門が脆弱である企業が数多く存在しています。その中には、バックヤード=経営管理部門を強化するだけで黒字化できる企業も含まれているのではないでしょうか。

(4)中小企業は千差万別・十社十色

一方、基本的に中小企業は、ヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源が盤石でなく、「大企業の縮小版」ではないため、大企業向けの経営手法や経営ノウハウに関する書籍に書かれていることを参考にして、それを導入しようとしてもうまく機能しないといえます。また、同業他社の成功事例を真似てみてもそれは殆ど役に立ちません。中小企業はそれぞれが個性的で、十社十色なので、自社にあった独自の経営ノウハウを見つけ、実践することしか効果的な方法はありません。「積小為大」という四字熟語がありますが、小さなことからコツコツと会社の弱点を克服するという企業努力の繰り返しが必要だと思います。中小企業には、ビッグデータを活用したAIでは対応できない面が大きいと思います。「フェイス トゥ フェイス」で経営者と向き合うことが不可欠だと思うのです。

 

《中小企業金融担当者にしか出来ない「強み」》

外部環境は、今後益々厳しさを増すと思われます。かつての部下で、今も年賀状をいただいている殊勝な方が、「環境は益々厳しくなっています。…」という添え書きをしていました。業態は違っても中小企業金融の現場の厳しさは何処も同じなのでしょう。

しかし、今こうして中小企業の財務の現場に入って確信したことがあります。経営改善も含めた財務管理の業務は、中小企業金融の現場経験者でなければ難しいということです。数字やお金に常に関わり、与信判断のノウハウを身につけている金融機関の経験者こそ適任なのです。

ある弁護士の先生と話をしたとき、「金融機関出身者である財務責任者がいると、金融機関との交渉の際に「銀行語」で話ができる」、これは「最大の強み」と言っておられました。

 

《信用調査のスキームを活かした財務コンサルティング》

中小企業金融担当者は、企業から事業資金の融資の申し込みを受けると、信用調査を行い、与信判断をします。

信用調査は、①企業全体の情報、②経営者個人の情報等に関する「定性分析」と呼ばれる調査と、①企業の業績、②資金繰り状況、③資産状況等に関する「定量分析」と呼ばれる調査の2つの側面から総合的に進められています。信用調査により現状(足元の状況)を把握したうえで、その企業の将来予測を行い、企業の持続可能性、返済能力、債権保全等を勘案し、最終的に与信判断が行われます。

このスキームは、財務を基軸にした経営コンサルティングのスキームとして活用することができます。前述したとおり、中小企業経営者の良き相談相手となり、資金繰りに窮しない経営を支援する適任者は、金融機関の中小企業金融担当者だということです。

 

《中小企業のための財務コンサルタント人財の育成》

「人の上に立つ人」は、少なからず「曲者」揃いです。中小企業の経営者も同様です。財務の責任者として、経営者と円滑にコミュニケーションをとり、経営改革に協力してもらえる関係作りが不可欠です。経営者との信頼関係が構築できないとコンサルティング機能の発揮が難しくなります。

雄蕊が、財務責任者として中小企業経営に参画し、経営改善を進めていくなかで気付いたことがあります。それは、財務コンサルタントとして、経営改革を進めていくことの本質は、「数字とお金と人のコントロール」だということです。なかでも最も難しいのが「人のコントロール」です。売上拡大やコストカットが計画通りに進まないという面での難しさはありますが、数字やお金は意思を持たないので、大きく捉えると財務コンサルタントの意のままに動かすことが容易です。

一方、「人」は、一人ひとりに「意思」があるので、経営者を始め、従業員を納得させ、経営改革に参画してもらうためには、財務コンサルタントとしては相当の辛抱と努力が必要になります。

本気で経営改革に取り組み、一定の成果を出すためには、不屈の精神力と体力が財務コンサルタントに備わってなければならないと肌で感じています。

これは、あくまで雄蕊の個人的な意見ですが、金融機関が、アフターコロナの時代に存在感を示していくためには、財務コンサルタントの育成と中小企業現場での「財務管理の主人公」としての役割発揮が重要なファクターになると思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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