第9回 現場で学んだ黒字企業の作り方

中小企業経営

「こんにちは、雄蕊覚蔵です!」第9回は、現場で学んだ黒字企業の作り方について、雄蕊が中小企業の現場での体験したことをもとにして、今回は「人のコントロール」にフォーカスして解説させていただきます。

 

ある中小企業の「財務管理業務」を引き受けたときのことです。

依頼主である顧問税理士から「数字を見ることができる担当者がいないので、税理士事務所としても実情が把握できず、困っている。『来月、資金繰りが厳しい。何とかしてくれ』と経理の担当者から泣きつかれてもすぐに対処できない。資金繰りの安定化を図るためにも財務の管理者が必要なので、ぜひ協力して欲しい。」と依頼され、引き受けることにしました。

引き受けてから約1年後、この企業の経営管理部門に参加してくれることになった方に決算書を見せると「よくこんな経営状態にある企業の財務管理を引き受けたな。俺なら断るよ!」と言われましたが、引き受けた時の決算内容は、本当に厳しい財務内容でした。

雄蕊は、金融機関時代に数多くの赤字企業を見てきましたので、赤字の決算書を見ても、特に驚きはしませんでした。しかし、マーケティングのプロでも、経済学者(エコノミスト)でもない。ましてや中小企業診断士といった国家資格を持っている訳でも、会計の専門家でもない。中小企業金融の現場で、「貸し手」として、また「借り手」として体験してきたことを現場に活かすことしか出来ません。そんな雄蕊に、引き受けた中小企業の資金繰りの安定化が図れるか否か等は未知数でしたし、正直、自信もありませんでした。

それでも引き受けた以上、顧客や従業員にとって必要とされている企業を潰すわけにはいかない。全身全霊をかけて業務に取り組もうという「覚悟」だけは決めました。

およそ2年かけて黒字化に成功しました。その原動力は、現場スタッフの協力だったのです。この現場での経験から「財務管理の一丁目一番地は、経営者をはじめとした現場にいる人達をどうやって動かすかというコト」だと学びました。なかなか財務や収益改善のノウハウ本には出てこないことだろうと思いますが、実はこれが肝心要の勧進帳なのです。経営者、経営幹部、現場スタッフ、すべての人が財務管理者を信頼し、財務管理者の要請に応じて動いてくれる。それができなければ健全な財務管理は不可能です。正直ここが一番、もがき苦しみ、苦労し、考えあぐねたところでした。

現場で財務を基軸にした経営管理支援の仕事をこなしていくうちに、中小企業財務の本質は、「数字とお金と人のコントロール力」であると確信するようになりました。

黒字企業を作るための方策の90%以上は、「人」の問題です。数字とお金を操るのは人なのです。経営者、経営幹部、管理職、一般の従業員、取引先(販売先・サービス等の受益者、仕入業者、外注先)等々、当たり前のことなのですが、企業は人で動いているのです。そこで、黒字企業の作り方の第一歩として、人に軸足を置いた視点でお話させていただこうと思います。

 

《人に動いてもらうために取り組んだコト》

金融機関在籍時、そのおよそ半分の期間は管理職として勤務していました。雄蕊自身が管理職としての適性が十分であったかと言われれば、自信を持って「YES」とは言えないかもしれませんが、「部下に動いてもらうためには、どうすればよいか」「良好な人間関係を築くにはどうしたらよいか」といったことをずっと考えながら、勤務していました。

まずは、管理職時代の経験等を元にして、人に動いてもらうために実践したことをお話します。

①聞き手に徹して部下やスタッフの話を傾聴する
上司、経営者や経営幹部の想いと部下や現場スタッフの想いには、どうしても大きな溝が生じてしまいます。部下や現場スタッフから相談があった場合は、どんなに仕事があっても、仕事の手を止め、部下や現場スタッフの話を聴くことを優先しました。

②話しやすい環境をつくる
部下や現場スタッフが、この人になら何を言っても大丈夫だと思い、普段感じていることを(ポジティブなこともネガティブなことも)すべて喋ってもらえる環境作りに心掛けていました。部下や現場スタッフの話すことに対して、時には異論を挿みたくなることもありましたが、グッと我慢して、話したいことをすべて言ってもらえるようにしました。

③興味や関心事を把握する
人の心を捉える手段は、相手が興味や関心を持っていることを明確にし、話題にすることだと思います。部下や現場スタッフ自身のことや、家族のこと、得意にしていること、不平不満に思っていること等を話させるように仕向けて、部下や現場スタッフそれぞれの関心事や本音の把握に努めました。

④相手の立場に立つ
話し手である部下や現場スタッフ等、相手の立場を理解し、相手と同じ目線で物事を見たり、考えたりすることに努めました。

 

《「数字」をコミュニケーション・ツールに》

「笛吹けども踊らず〔マタイ福音書11章〕」とは、「すっかり準備を整えて誘っても、人がそれに応じて動き出さないことのたとえ」ですが、上司や経営者が新しい取り組みや新規事業に乗り出したくて、部下や現場スタッフに協力を要請する場面は、多々あると思います。しかしながら、部下や現場スタッフにとっては、「また上司や経営者の我が儘が始まった」とか「今の仕事だけで手一杯なのに、さらに業務が増えてしまう。いい加減にしてくれ」等々、不平不満やモチベーションの低下に繋がることは、往々にして起こることです。そうならないためには、部下や現場スタッフの「納得性」を引き出すことが不可欠です。そのためのコミュニケーション・ツールとして効果的なのが「数字」だと思います。

具体的に数字に落とし込んで話せば、部下や現場スタッフもその目的が明確に理解できますし、上司や経営者が誤った意思決定をしたと気付いたら、丁々発止議論を戦わせることもできます。数字を「共通言語化」し、「見える化」することで円滑なコミュニケーションが図れることになります。

上司や経営者の何かをしようとする心持ちを「意気に感じて」、部下や経営幹部・現場スタッフも一緒に何かをしようという気持ちになってもらうことが大切なのです。上司や経営者が一人でコトを動かそうとしても限界があります。独断で動いて失敗すれば、部下や経営幹部・現場スタッフは「それ見たことか!」と上司や経営者に不信感を抱き、挙句の果てには組織から去っていくことも考えられます。上司や経営者の想いを明確に伝えるためには、「数字」は欠かせないツールです。

実際に中小企業の現場で、経営状況をオープンにすることに対して当初躊躇いもありましたが、運営会議の場で月次の損益状況を公表し、経営の透明性を図ることで、現場スタッフの協力が得られやすい環境に変化したと感じています。

 

《中小企業における組織図と就業規則(ルール)の明確化》

従業員の数が増え、組織が肥大化してくると指示命令系統の明確化や様々な社内ルール等を決めておく必要が出てきます。現場で色々なアクシデントが発生したり、従業員から思いもよらない人事・労務上の質問や要望が出たりすると、その都度、慌てて対応することもしばしばです。かつて所属していた金融機関では、当然ながら指示命令系統は明確化されており、自分の上司は誰かを誰もがきちんと認識し、統制の効いた組織運営がなされていました。また、人事・労務面等での不測事態にも対応できるようにきめ細かい規程(ルール)でしっかりガードされていました。しかしながら、中小企業では、そこまできめ細かくルール化するのは、難しいと感じています。

まず、指示命令系統についてですが、組織図による役割の明確化が必要です。指示命令系統を明確にすることにより、組織の統率力が高まります。更に人事評価制度を導入し、処遇を明確にすることで従業員のロイヤルティを高めることが出来ると思っています。

しかし、人的資源に限界のある中小企業においては、1人のスタッフが複数の業務を担当することがあります。そうした場合、「ツーボス・システム」となります。「ツーボス・システム」とは、1人の部下に2人のボスがいる状態のことです。それ以上の複数のボスを持つことになる場合も考えられます。複数の指示命令系統が存在するような状態は、通常業務と委員会活動・プロジェクト活動等、様々な場面が考えられます。

「ツーボス・システム」のメリットとしては、①人材や時間の有効活用による効率化、②複数業務を通じた人材の職域拡大等が挙げられますが、 一方で、デメリットもあります。具体的には、①誰が自分のことを見てくれているのか解らない(誰が人事評価等をしてくれるのか?誰に相談すればよいのか?)②複数の上司から指示されることで自分の仕事の優先順位がつかなくなる、②部下の能力を超えたオーバーフロー状態になってしまうといったこと等を挙げることが出来ます。

「ツーボス・システム」をスムーズに運用するためには、業務内容・業務量や上司・部下といった各自の力量がポイントになります。

業務の内容・業務量では、部下が時間内にこなせる業務内容・業務量であるか?(業務過多になっていないか、同時並行でこなせる内容か?)といったこと、また、上司・部下といった各自の力量では、①部下が2人の上司からの指示をうまくこなせる能力があるか(混乱しないか、同時並行で業務ができるか?)、②部下への指示が適正にできているか(複数の上司がいることを踏まえた適切な指示を出しているか?)、③複数の上司間のコミュニケーションが円滑にとれているか(部下の業務過多等、状況を把握して仕事の配分や優先順位をお互いに考えたり、調整したり出来ているか?)、④複数の上司が部下を見守る姿勢はあるか(丸投げ状態で、任せっきりにしていないか?)といったことを検討することがポイントになります。

雄蕊の現場経験からいうと、組織に影響力のある強いリーダーの存在や明確な指示命令系統がないと組織としての統制が効かなくなる可能性が高まることに繋がります。「言ったもの勝ち」のような組織になってしまうと、組織として成り立たなくなってしまいます。基本的に雄蕊としては、「ツーボス・システム」の仕組みを取り入れることに対して疑念を持っており、今でも現場では、指示命令系統の明確化・上司の役割分担に対しては、強い「こだわり」を持って対応しています。

 

次に、ルールについて解説します。雄蕊が財務を管理している中小企業にも就業規則は以前からありましたが、既製の就業規則に少し手を加えたようなものでした。1年程度かけて顧問弁護士事務所の方の支援を受け乍ら、実態に応じた内容に見直しましたが、まだまだ抜け穴があり、更なる見直しが必要だと感じています。本当は、社会保険労務士という専門家の方に入っていただき、きめ細かい見直し作業をするのが良いのかもしれませんが、コストパフォーマンスや現場の実態をきめ細かく把握しているのは誰か等を考えると、出来る限りのことは自前でやろうと思っています。

就業規則に定めておく内容等は、専門分野ではないので、これ以上のコメントは差し控えておきますが、ルールを定めるということは、組織運営上不可欠です。

ルールを決める際にも中小企業ならではの制約があります。大企業だとほぼ労働組合があるので、人事・労務上の決め事は労働組合の代表者と協議することで解決できますが、中小企業の場合、労働組合がないのが一般的なので、給与制度を改定するにしても従業員全員の合意を得る必要がでてきます。そのため、制度改革は一朝一夕には進みません。この3年間、給与制度の改定にも取り組んでいますが、なかなか前進しないのが現状です。

 

《ベネフィットを考える》

「ベネフィット」という言葉を聞いたことがありますか?「ベネフィット」の意味は、「利益・恩恵・慈善事業」です。「恩恵」は社会が受ける利益と捉えることができると思います。語源はラテン語の「良いことをする」という意味です。

企業にとっての「ベネフィット」、経営者にとっての「ベネフィット」、従業員にとっての「ベネフィット」、企業を取り巻く社会にとっての「ベネフィット」、お客様や取引先にとっての「ベネフィット」、そんな切り口で考えていくと、「黒字企業」になるためには、ベネフィット・サイクルを回し続けることが重要だと思います。

ベネフィット・サイクル(下図参照)とは、私の造語ですが、自社を中心に関わる企業や人とベネフィットを共有するためのツールと考えていただきたいと思います。

人は「感情の動物」です。一人ひとりの人生、歩んできた道も違えば、価値観も異なります。そのため、すべての面で同じベクトルの向きになるとは限りません。しかし一方で、一人ひとりのエネルギーやそのパワーには、限界があります。なので、何かコトを成し遂げるためには、多くの人の「協働」が欠かせません。経営も同じです。経営者とスタッフ(従業員)が互いに「協働」してこそ成功するのです。

組織の中で人に動いてもらうためには、良好な人間関係を築き、共通の目的を明確にして、その達成に向けて貢献しようとする意欲をもってもらう必要があります。お互いに相手を尊重し、認め合い、円滑なコミュニケーションを図ることにより、WIN-WINの関係を築くことが重要だと思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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