第106回 企業に経営OSと事業アプリをインストール

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第106回は「企業経営に経営OSと事業アプリをインストール」と題し、パソコンのOSとアプリになぞらえて、経営と事業をどのように関連付けていくべきかについて考えてみようと思います。

 

経営はOS、事業はアプリ
今さら改めて言うことではありませんが、ソフトウェアがなければパソコンは動きません。アプリケーションソフトも、それ単体では動作することはできないので、パソコンという箱の中にアプリケーションソフトが動作することのできる「環境」を設定する必要があるのです。その環境を提供しているのが、OS(オーエス)というソフトウェアです。
OSは、Operating System(オペレーティング システム)の略で、基本ソフトウェアと呼ばれています。OSがなければ、アプリケーションソフトも動作することができません。
OS自体は何も生み出しませんが、それがあって、アプリを正常にそして効率的に動かすことができるのです。普段使っているときだけでなく、異状が発生した場合に処理を行うのもOSの役割です。

企業経営も同様ではないでしょうか。
企業、例えば株式会社という組織を設立しても、その組織の中に事業活動ができる環境がなければ機能しません。
事業活動ができる「環境」を提供する役割が「経営OS(Operating System)」です。経営OSが提供する環境があってこそ、事業アプリが正常に動作するのです。
企業は、事業活動を継続することで、その目的の達成を目指します。企業によって事業の数や内容は異なりますが、事業がしっかり機能して目的達成に向けた活動を行うためには、経営OSの役割が重要だと考えます。企業の行う事業活動は、経営OSという基盤のうえで、動作する事業アプリに例えることができるのではないかと考えました。
事業アプリを正常に動作させるための経営OSの役割や構成要素について考えてみます。

経営OSと事業アプリのイメージ図

経営OSの構成要素
このブログでもその時々によって「経営」を定義してきましたが、「経営」に明確な定義はありません。そのため「組織が目標とする成果を出すための行動」「事業目的を果たすための継続的な活動」等、人によって表現や解釈が異なります。経営の定義には、組織の内部的な活動だけでなく、顧客等、外部との関係構築も経営に含まれるという考え方もあります。企業活動は自社だけで完結するものではなく、他社や自社の商品・サービスを利用する一般消費者などの存在があって成り立つものだからです。経営の目的達成に向けた様々な活動を包括して経営と捉えるのであれば、顧客との関わりを作っていくための活動もこれに包含されるといえます。
このように「経営」には明確な定義がないなかで、経営OSの構成要素は何かを考えなければなりません。
「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」「時間」「知的財産」「戦略」「組織」「システム」、「価値観」「人材」「スキル」「スタイル」「イノベーション」「マーケティング」・・・、構成要素として思い浮かぶ単語を掲げてみました。これらはどれも必要だと思いますが、整理しなければ収拾がつかなくなります。
そこで、「経営の目的を達成するための手段として事業活動がある」と捉え、その目的達成に向けた手段という切り口でカテゴライズするならば、経営OSの構成要素は「戦略」と「組織」だと考えることがしっくりくるのではないかと思いました。
経営目的を達成するために、何を誰に対してどのようにして提供するべきかという「戦略」とその戦略を実行するための「組織」をどのように構築するべきかという2つの柱に沿って、経営OSの構成要素を考えてみようと思います。

 

戦略
戦略は、経営の目的(理念)を実現するための羅針盤です。
企業を発展、存続させるために有限である「ヒト・モノ・カネ」といった資源をいかに配分・運用するかを決めるのが経営戦略です。
経営戦略とは、環境の変化の中で競争相手に打ち勝って、企業の発展と存続を実現するための「ヒト・モノ・カネ」の最適化を図る羅針盤なのです。

経営戦略の3つの種類
経営戦略は、全体戦略、事業戦略、機能戦略という階層レベルによって3つに分類されます。この3つの戦略レベルはどのように違い、お互いにどのような関係にあるのでしょうか。
全体戦略
全体戦略とは、事業の撤退や新規参入も含めたトップ判断のための羅針盤です。
事業ドメイン(事業領域)の決定、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の配分、資金の調達を方向づけるのが全体戦略です。
全体戦略は、会社の将来を展望する戦略なので「成長戦略」ともいわれます。

事業戦略
事業戦略とは、企業の特定の事業部門において当面の競争相手に勝つための戦略です。
事業戦略は主として競合他社との関係を念頭に作られる戦略なので「競争戦略」ともいわれます。
事業戦略はつねに全体戦略との関係で立案・実行されます。

機能戦略
機能戦略とは、事業戦略を実行するための現場レベルのヒト・モノの活用戦略です。
1つの事業の各部門(機能)が、事業戦略の具体的な遂行のために立てるのが機能戦略です。

全体戦略、事業戦略、機能戦略の相互関係
全体戦略、事業戦略、機能戦略は、全体としてみるとピラミッドのような上下の階層構造を形成しています。
頂点にあるのが全体戦略で、それを事業ごとに具体化するのが事業戦略、さらに事業戦略を企画・製造・販売などの各機能の現場で形にするのが機能戦略です。
経営戦略は、策定プロセスにおいても、優先順位においても、基本的にはトップダウンの行動プログラムです。全体戦略なしに事業戦略は立てられず、事業戦略なしに機能戦略は立てられません。そのため、全体戦略に逆らう事業戦略はあり得ず、事業戦略と矛盾する機能戦略もあり得ません。
経営戦略の策定は、どのようなフレームワークを使うにしても、まず現状分析から始まります。つまり、現場の各事業、各機能からの情報が血液のように経営者層(経営OS)に流入していなくては、全体戦略は立案できないのです。言い換えると、経営OSと事業アプリ間で密接な情報共有が不可欠ということです。

組織の指揮系統と同様に、経営戦略も原則としてトップダウンですが、現場で実践するなかで劇的な発見が全体戦略を方向づけることもあります。生きた経営戦略にはトップダウンとボトムアップの両方が必要だということになります。

各戦略の決定権と遂行責任
経営OSとして策定する戦略は「全体戦略」であり、その責任は経営者(社長)に帰属します。
事業アプリが策定する戦略は「事業戦略」と「機能戦略」です。
その遂行責任は、
事業戦略⇒各事業のトップ(いわゆる部長クラス)
機能戦略⇒各事業の部門のトップ(いわゆる課長クラス)
に帰属することになります。
一方、全ての戦略の意思決定(決定権)は、経営者(社長)の専決事項です。戦略の意思決定は、経営OSとして行うのです。事業統括者に権限委譲があったとしても事業戦略、機能戦略の決定権は1つ上の責任者に帰属させます。

戦略の本質は「競合他社に対する違い(差別化ポイント)をつくって、それらを繋げて、組み合わせて、相互に作用させる」ことです。企業が持つ武器の個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは機能しないので、交互作用による効果を得るために戦略として一貫性のあるものにまとめなければなりません。また「経営者」の役割は、リアルな事業の現場で「自社に属する事業全体を掌握し、組織や人を動かして成果を出し、その責任を負う」ことです。戦略の策定には、各事業や各機能を俯瞰的に見て調整することが必要であり、その役割を担うのが経営者なので、戦略の意思決定(決定権)は経営者に集約する必要があるのです。

経営戦略の中核となる競争戦略の種類
競争優位性という面で捉えた事業戦略(競争戦略)としては「価格戦略」「差別化戦略」「集中戦略」等があります。
価格戦略
価格戦略は、ライバル企業に価格面で優位に立つ戦略で、コストリーダーシップ戦略とも呼ばれます。
① 徹底したコスト削減
② 規模の拡大
③ ローコストオペレーションの仕組みづくり
価格戦略で成功するには、資金力・規模のメリットが必要なので中小企業の戦略には不向きだといえます。

差別化戦略
競争戦略でもっとも重視され、中小企業でも成功する可能性があるのが差別化戦略で、付加価値戦略とも呼ばれます。
差別化戦略は、目新しいだけではなく、その差別化にストーリー性がある、希少価値がある、模倣が難しいなどの特徴によって長続きする優位性を築くことができます。

集中戦略
集中戦略とは、ターゲットを狭い顧客層や販売地域に限定して、そこに集中して経営資源を投入する戦略です。
集中戦略には、選定したセグメント(部分)で価格の優位性を目指すコスト集中型と、商品の独自性で優位を目指す差別化集中型があります。

経営戦略の種類には、企業を階層的にとらえた全体戦略、事業戦略、機能戦略があります。
上位の戦略を具体化するのが下位戦略の役割ですが、それぞれの戦略を有効なものにするには、上からの情報、下からの情報が滞りなく還流していることが求められます。
企業が本来競争的な存在であることに着目した経営戦略の種類が、価格戦略、差別化戦略、集中戦略です。
企業の規模や特性によってどの競争戦略に重点を置くかが決まりますが、差別化戦略(付加価値戦略)のない価格戦略は戦略の名前に値しない安売り競争になってしまいます。

 

組織
どんな立派な戦略を練り上げても、その実行部隊が整備されていなければ「絵に描いた餅」で終わります。現場の実行部隊として効率的かつ効果的な「組織」の構築が必要なのです。

満席になった飲食店で、スタッフの手数が不足して接客サービスが低下するとか、売上増加に向けて営業が契約件数を増やしてもサービスを提供する現場が増加件数に対応できなくて、顧客満足を高めることができず、営業と現場で対立が起きるといった事例や人員は確保したけれど、させる仕事がなくて余剰になってしまうケース等は往々にしてあることです。
また、組織の機能分化が適切でないため、活動主体となるべき人財が書類作成等の付帯業務に追われて、生産性の伴わない後ろ向きの業務に時間を費やしてしまい、機会損失を起こしていることに現場が気付いていないケースもあります。
人員の不足も余剰も最終的には、企業の業績に影響を及ぼします。そういうリスクを負わないために、事業規模や戦略に見合った実行部隊としての組織の確立が大切なのです。経営OSのもう1つの柱として「組織」をあげた理由がここにあります。

これまで、組織や人のマネジメントは、経営戦略と関連付けて考えるのではなく、人事部門の専管事項と見なされることが多かったのですが、企業の競争優位の源泉となる「人財」と人財が有する「知識」や「知恵」は経営資本としてその重要性が高まっており、人事以外の機能を担う部門の責任者も人事部門と同程度に理解する必要性が増しています。

経営OSで考えなければならない「組織」に関する構成要素は以下のとおりです。
① 人事ポリシー:企業の経営理念をもとに戦略を遂行し、ビジョンを実現していくために、組織と人がどうあるべきかを示す組織と人に関する羅針盤
② 組織構造:人事戦略に基づいて、個々の構成員をどのように組み合わせて戦略を遂行させるかを決めたもの
③ 管理システム:個々の構成員をどのように活用・管理していくかを決めたもので、さらに「人員配置」「報奨」「評価」「能力開発」等に細分化
④ 組織風土・企業文化:組織構成員が共有する信念、価値観、行動規範の集合体
組織風土や企業文化は厳密には「仕組み」とは言えませんが、経営側が望む組織や人の意識や行動を根付かせるためには、組織や人の行動に影響を与える重要な要素の1つとして考慮する必要があると思います。

組織や人を動かすには、まずその場の現状を把握して事実を認識し、他者や組織に与える影響について十分に考盧したうえで、経営者や経営陣がとるべき行動を決めて行動を起こす必要があります。「認識」してから「行動」するというステップを踏むことが重要です。

 

本当に企業経営に経営OSと事業アプリをインストールする必要があるのか
ここまで、経営OSや事業アプリの話を進めてきて、最後になって「本当に企業経営に経営OSと事業アプリをインストールする必要があるのか?」という疑問を呈するのも如何なものかと思ってしまいますが、その必要性を述べてみます。
企業の規模が従業員20人以下の小規模な企業では、経営OSや事業アプリについて考える必要はないと思います。
しかし、企業の成長・拡大に伴い、組織の規模が肥大化するにつれて考えなければならない課題です。

組織運営には「○人の壁」という課題が必ず起きてきます。一般的には20人(30人の場合も)、50人、100人という人数を越える際に問題が起こると言われています。
○ 20人(30人)の壁:経営者とメンバーの交流が希薄化する
○ 50人の壁:部門マネジメントの力が求められる
○ 100人の壁:経営者の声が行き届かなくなり、統制が必要になる
人の壁が起こる原因の1つは、従業員が増え、組織が体系化されていくにつれて、管理スパンやマネジメント能力の問題に直面するからです。現場の担当者(プレイヤー)がいきなり管理職(マネージャー)になっても、組織や人をマネジメントする能力や管理者としての品格(人間力、人格)が十分に備わっていない等、肥大化する組織に現場の管理職、従業員が追いついていけないことによる歪みが生まれてしまいます。
従業員もその在籍歴によって同じ言葉でも認識が異なります。曖昧な表現、社内造語の意味が新しく入社した従業員には伝わりません。そうすると分からないことをいちいち確認しないで、抽象的な議論に対しては消極的になります。最悪の場合、新旧従業員間の隔絶が生まれ、隔絶は派閥を作ったり、経営者・経営陣とスタッフ間のビジョンのズレ等に繋がったり、組織崩壊を引き起こす可能性が高まるのです。
こう考えると、「企業経営に経営OSと事業アプリをインストールする必要がある」という結論に至るのです。

経営の構成要素分解をし、全体像を把握し、打ち手を考えるということは非常に重要ですが、それぞれの構成要素も奥深く、なかなか全体を理解していくことは難しいと思います。また、こうしたことを理解して実行したからといって、必ずしも、それだけで経営がうまくいくと限らないのも事実です。経営規模が拡大していくに連れて、企業全体を統括管理できる仕組みが必要になるということは理解しておいていただきたいなとは思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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