第75回 人生100年時代の経営

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第75回は「人生100年時代の経営」と題して、日本が抱える構造的な課題に対応していくための組織としての仕組み作りや人財育成・活用について考えてみます。

 

《健康経営の実践》
人生100年時代を見据えた国の方針は、健康経営の推進により、健康寿命の延伸と全世帯型社会保障の構築をめざしています。また、企業は従業員の健康確保を法令遵守にとどまらず、組織活性化・生産性向上を目的に加え、業績向上、企業価値の向上をめざす必要性が高まっています。一方、従業員には、自身の健康増進、活力向上を通じて、働きがい・生きがいの醸成につなげて、人生100年を出来る限り長く健康で自立した生活を続けることが求められています。
生産年齢人口の減少、従業員の高齢化、人手不足を背景として、従業員の健康維持・増進は企業が主体的に取り組むべき課題となっています。また、社会保障制度を維持する観点からも健康経営が求められています。

 

《人財のミスマッチ》
ある経営者が、スタッフとの面接をしたときのスタッフからの意見「この組織のポテンシャルは凄い!この組織が持つ事業の仕組みは比類を見ないと感じている。しかし、組織内の部署間に信念対立が起きており、折角のポテンシャルを十分に発揮できていない。それは、管理者然とした管理者が不在であり、組織を統率・管理できていないことが一番の原因だと思う。言ったモン勝ちのような組織風土が蔓延している。管理者の採用、育成が急務です」
この企業に管理者候補として採用され、勤務2年目の現場運営者ナンバーツーの意見「この組織には、ぶら下がっているスタッフが多い。自分に負担が掛かるような変革には取り組みたがらない体質が根強く残っている。積極的に神輿を担ごうとするスタッフは少数、長く勤務しているスタッフに染み付いた旧態依然とした体質が支配している。この体質改善のためには、ヒトの入れ替えも積極的に進めていかなければならないのではないか」
また、この組織の本部長がこのナンバーツーに「後進に道を譲り、そろそろ引退を考えている」と相談したところ、ナンバーツーから「本部長、自分は本部長のことを一番頼りにしている。今、本部長に抜けられると非常に困る。自分がある程度やりたいことがやれたり、言いたいことが言えたりするのは、本部長の後方支援があってこそだ。気力の続く限り、一緒に組織改革に取り組んで欲しい。汚れ役が必要なら自分が引き受ける覚悟はある」

この二人の意見を聞いて、総合的に判断すると、中小企業の現場には、必要な人財が揃っていないということだと思います。それは、数の問題だけではなく、求める人財としての質的な面を充たしている人財も不足しているのが現状だということです。
以前にもお伝えしたと思いますが、雄蕊は全国組織の巨大な金融機関に33年勤務、そのうちの15年は、課長、次長、支店長として管理職の立場で仕事をしてきました。金融機関という組織の性質上、ガバナンスやコンプライアンスには一般企業以上に神経質です。当時は当たり前だと思っていた組織図上の職責と役割分担が明確にされていたり、自分のボスは誰か、誰の指揮命令系統下にいるのかに疑う余地がなかったり、人事評価は真摯に受け止めたり・・・そういった組織として統率・管理されていることが実は当たり前ではなく、巷にはカオスな組織が多いということに気付かされました。
ここでいうカオスな組織とは、「統制がとれていない組織、管理されていない組織」といった意味です。
こうしたカオスな組織が多い原因は、管理者然とした管理者が不在ということだと思います。つまり、組織が本当に必要としている人財が現場には存在せず、そういった人財を育成することもできていないということではないでしょうか。

 

《長く働ける仕組み作り》
かつての高度成長時代、日本が戦後の復興を成し遂げることが出来た時代の所謂、日本的経営の「3種の神器」は、もはや陳腐になっています。
以前このブログの「第11回中小企業の健康経営」で、『雄蕊流健康経営の定義は、「人を大切にする経営=人に投資する経営」。具体的には、①従業員満足度(ES)を高める経営の実践、②従業員の健康管理(予防)に投資する仕組みを構築し、すべての人が笑顔で、なが~く働ける職場づくり』だとお伝えしました。
この考え方に間違いはないと思っているのですが、こうした仕組みを組織に根付かせるためには、仕組みを考えて構築できる人財が必要です。それが経営者であり、経営者を支える経営幹部だろうと思います。

成熟化した社会では、一部を除いてマーケットが大きく成長・拡大する要素は少なくなっています。言い換えると企業の売上収益が高度成長期のように右肩上がりにはならないということです。中小企業のコストの大半を占めるのは人件費です。年功賃金制度を取り入れていては、従業員に長く働いて貰えば貰うほど人件費が膨らんでしまいます。だから、年功ではなく、仕事に値段をつける必要が出てきているのです。従業員の貢献度=職務遂行度に応じて賃金を決めなくてはならない時代だと思います。
経営者と一緒に神輿を担いでくれるスタッフには、活躍に応じた報酬を、神輿にぶら下がり続けているスタッフにはそれなりの報酬を支払う仕組みを考えなくてはなりません。
優秀な幹部スタッフの代わりはなかなかいませんから、こうした幹部には長く働いて貰えるような処遇もルール化して、公平で納得性の得られる制度にしなければなりません。それが人事制度だったり、終業規則等の様々な規程だったり・・・ではないでしょうか。

自立し自律したスタッフを選りすぐり,少数精鋭で経営していくのが理想かもしれませんが、そんな従業員ばかりではありません。ならば、スタッフのなかから幹部候補生を探し出し育てていくことが重要になります。

 

《意識を変え、行動変容し、自立し自律したスタッフを育成するために》
10数年前のこと、雄蕊が金融機関の支店長時代のことです。
当時70歳前後の戦後の復興期、高度成長時代を体験した社長との会話
雄蕊「私が金融機関に入職した当時は、支店長は雲の上の存在だった。支店運営の責任者であり、支店長が目指す運営の方向を理解して、どうすればそれに応えることが出来るのかを常に考えながら仕事をしてきた。しかし今は、支店長が職員に気を遣う時代、支店長が目指す方向に向けようとして、少しでも厳しく指導するとパワーハラスメントだと言われてしまう。部下に気を遣いながら仕事をしなければならない時代になってしまった。また、時間管理やコンプライアンス、本業よりも気を遣わなければならないことが、凄く増えたと感じている」
社長「それでは、ヒトが育たないだろう。社長は、会社に対して全責任を負っている。お客様や従業員だけではない。お客様や従業員の家族、ひいては社会全体に対して貢献しなければならないミッションがある。それを実現するためには、従業員に対して時には厳しく叱責することも必要。そうしないとヒトは育たないし、会社や従業員を守ることも出来ない。最悪、お客様からの信頼も失うことになるかもしれない」
この社長のコメントが雄蕊にはしっかり刺さり、共感出来ました。従業員の権利意識の変化もこれからの経営では抑えておかなければならないポイントの1つだと思います。

稲森和夫氏のOFFICIAL SITEに「稲森和夫講演シリーズ」というページがあります。中小企業の現場では、組織が動かない、変らない。人の意識や行動が変らないといった課題と常に対峙しているのですが、こうした課題解決のヒントを貰うために稲森和夫氏のOFFICIAL SITEには時々アクセスさせていただいています。
第20回盛和塾世界大会(2012年7月19日)「人と企業を成長発展に導くもの ―日本航空再建の真の要因と日本経済の再生について―」の要旨と「人は何のために生きるのか」愛媛市民フォーラム(2014年8月6日)要旨のなかに日本航空再建に関する記載がありましたので、抜粋引用させていただきます。この記事を抜粋引用させていただく目的は、大企業、中小企業に拘わらず、組織を活性化させるための根底となる対応策がこの記事に盛り込まれていると確信したからです。

「人と企業を成長発展に導くもの ―日本航空再建の真の要因と日本経済の再生について―」第20回盛和塾世界大会(2012年7月19日)要旨抜粋
・日本航空はすばらしい回復を遂げています。長年様々な経営課題がからみあい、誰もが解くことができなかった伏魔殿のような企業、誰もが二次破綻必至と考えていた倒産企業の再建が、これほど順調に進んだのはなぜなのでしょうか。

・「フィロソフィ」がすばらしい力を発揮しました。私は、日本航空のような会社が再建を果たすには、まずは全社員が考え方を変えてもらうしかない、意識を変革してもらわなければならないと考え、「京セラフィロソフィ」という、私が半世紀以上にわたる経営の実践の中で導き出した哲学をもって、日本航空の幹部に熱く語りかけ、あるべき姿を訴えていきました。リーダーは部下から尊敬されるようなすばらしい人間性をもたなければならず、そのためには日々、心を高め続けなければならないことなど、人間としての生き方に至るまで、集中的に学んでもらいました。
・一般社員への教育も行いました。現場の最前線でお客様と接する社員の意識が変わらなければ、航空会社は絶対よくならないと考え、私自身が現場に出かけ、直接社員に語りかけるようにしました。
・日本航空会長に就任以来、経営幹部を先駆けとして、全社員の意識改革をはかることで、会社の組織風土の刷新に努めていきました。そして、そのような意識改革に伴って、業績も飛躍的に回復していったのです。
・アメーバ経営による組織改革も功を奏しました。航空会社の経営を安定的なものにするためには、路線別また路便別に採算がわかるような仕組み、いわゆる「管理会計システム」が不可欠と考え、その構築に努めました。独自に編み出した「アメーバ経営」を、航空会社にも適用するようアレンジし、その結果、今では日本航空の全ての路線、路便ごとに、翌日には採算がわかるという、世界の航空会社にも類を見ない、精緻な管理会計システムを構築しています。
・意識改革を果たした日本航空の幹部、社員が、そのような管理会計システムが示す、リアルな経営実態に基づき、自分たちで創意工夫しながら、経営を行うような体制に組織を改革したのです。
・各部門の数字は、毎月の経営会議で、3日間にわたって発表されることになります。私はその発表を聞きながら、「あなたの部門はこうすべきだ。リーダーであるあなた自身はもっとこういうふうにしなさい」というように、経営指導に努めています。
・この採算管理システムを導入したことが、社員の採算意識の向上を促し、組織風土を根本から変革させ、日本航空の経営改善にあたり、大きな効果を発揮したのです。

「人は何のために生きるのか」愛媛市民フォーラム(2014年8月6日)要旨抜粋
・日本航空の再建においては、「他に善かれかし」と願う純粋で一途な思いが強大なパワーを発揮して、破綻した企業を救ったばかりか、高収益企業へと変貌させました。

・会長に就任してすぐに、「新生日本航空の経営の目的は、全社員の物心両面の幸福を追求することにある」と全社員に宣言し、これを繰り返し訴えていきました。「日本航空という企業は、今後は株主のためではなく、ましてや経営者自身の私利私欲のためではなく、そこに集う全社員が幸福になるために存在するのだ」という私の確固たる信念を社員に伝え、この私の信念、経営哲学を新生日本航空の経営理念に謳ったのです。
・日本航空に定着していた官僚主義を打破するために、責任体制を明確にするような組織改革に努めました。そして、採算意識の向上をはかるために、管理会計の仕組みも構築しました。
・日本航空が劇的な再建を果たした真の要因は「善きこと」をなそうという純粋な私の心にあったから。日本経済の再興のため、残った日本航空の社員たちの雇用を守るために、さらには日本国民のために、老骨にむち打って、無報酬で日本航空の再建に取り組み、社員たちも、同じ思いになってくれ、再建に向けて懸命に取り組んでくれました。そのような「利他の心」だけで懸命な努力を続けている私を見て、神様、あるいは天が哀れに思い、手を差し伸べてくれたのではないだろうか。

 

《重要なのは経営哲学》
強い組織作りに向けて、「意識や行動を変えてくれ」「策定した事業計画を理解して計画に基づいた経営をしてくれ」「アクション・プランに沿って実行・行動してくれ」こういう話を経営会議や経営企画室会議でしても全くといっていいほど、経営者や経営幹部には響きません。「こうあるべき」という、いわば「机上の空論」的な理想論に基づき話をしてしまうので、現場業務にも携わっている経営幹部には「そんなことより日々の現場を維持することの方が重要」という思いが強く、リアル感のない「あるべき論」は腑落ちできないのかもしれません。どうしても話が諄くなって押し付けがましくなると、かえって反発心を招く結果に繋がっています。

専門職や技術職といったスペシャリストは、特定の分野において専門的な知識・スキルを有しており、特定の分野においては素晴らしい力を発揮することができますが、幅広い視野で物事を捉えることは苦手かもしれません。一方、ジェネラリストは幅広い知識や技能、経験などを備えた人を指す言葉で、ひとつの分野を深く追究するのではなく、幅広い知見と多面的な視野により、さまざまな分野の担当者たちをまとめ上げる役割を担うことを得意とする人財が多いようです。スペシャリストとしての基本的な考え方とジェネラリストとしての基本的な考え方には、やはり隔たりが生じてしまいます。

今は、同じ釜の飯を食っている仲間でも、一人ひとり歩んできた人生は全く違うものです。個々がこれまでのキャリアのなかで身につけた様々な知識や技能、その中で形成されてきた物事に対する考え方を十把一絡げに同じ方向に向けるのは難しいことだと感じています。
しかし一方で、企業という組織・集団において、持続可能な経営を実践し、企業が掲げる高い目標の達成を目指したり、従業員の幸福を実現したりするためには、スペシャリストやジェネラリストといった違いやそれぞれ個別のキャリア形成によって影響されない道標、基準を示す必要があるのです。それが「経営哲学」だと稲森和夫氏の投稿記事を読んで認識しました。その基準となる考え方に、全社員がベクトルを合わせていかなければならないのです。

改めて稲森和夫氏が半世紀以上に亘る経営実践のなかで導き出した経営哲学「京セラフィロソフィ」について確認してみます。フィロソフィには、三つの要素があります。
①「会社の規範となるべき規則、約束事」
この会社はこういう規範で経営をしていきますという、企業内で必要とされるルール・モラルが要素の一つとして含まれています。

②「企業が目指すべき目的、目標を達成するために必要な考え方」
企業が目指すべき、高い目標を達成するためにどういう考え方をし、またどういう行動をとらなければならないのかということが具体的に述べられています。

③「企業にすばらしい社格を与える」
人間に人格があるように企業にも人格があるはずです。会社の人格、つまり「社格」が大変立派であり、世界中から「さすが立派な社格を備えた会社だ」と信頼と尊敬を得るための考え方が示されています。

この3つの要素は、企業がさらに発展するためにたいへん重要なものですが、フィロソフィにはそれらのベースとなる大切な4つめの要素があります。それは、「人間としての正しい生き方、あるべき姿」を示すという要素です。私たち一人一人が、より良い人生をおくるために必要な人生の真理を表しています。

『このような4つの要素から成り立つフィロソフィは、知識として理解するのではなく、日々の仕事や生活において実践していくことが何よりも大切です。その実践に向けた弛まぬ努力が、その人の心を高め、人格を磨くことになります。そのようなフィロソフィを共有した人たちが集う集団には、夢と希望にあふれる明るい未来が必ずやひらけることを、私は確信しています』

 

《人生100年時代の経営》
中小企業経営というカテゴリーのなかで様々なトピックを見つけて記事を書いているのですが、切り口は違っても辿り着く結論、つまり本質は同じだといつも気付かされます。
「第53回 ホンキのヤル気」の締めとして『経営の出発点は、祈り念ずるほどの強烈な思い、強い熱意です。経営者の念じ祈るほどの思いや魂を込めるほどの思いが、組織のスタッフや外部のステークホルダーの心を揺さぶり、経営者の描いた夢の実現に繋がるのです。経営者に「ホンキのヤル気」がなければ経営は成功しないということです』
従業者数100人未満の組織においても部署間で信念対立が起きています。経営者と数人の経営幹部の間でさえ、ベクトルの向きがバラバラです。経営者が「ホンキのヤル気」を見せるための第一歩は、万人共通の理解が得られる「経営哲学」を可視化して全スタッフに語り続けることです。
万人の共通理解が得られる「経営哲学」の基本は「自利利他」の精神です。その意味は「自らの悟りのために修行し努力することと、他の人の救済のために尽くすこと。」です。もう少しわかりやすく言うと、他人の幸せ・他人の利益のために修行・努力することが、自らの利益にかなう、ということです。

経営の原点は、どうすれば従業員やお客様といった他人を幸せにすることができるかという考えです。「相手の利益」をかなうことがなければ成立しないのです。この考えに基づいて経営しなければ長続きは絶対しないのです。
仏教では、自分の利益のことばかり考える人ことを「我利我利亡者」と言いますが、そういう人は経営者として成功しません。
「経営哲学」を全社員・スタッフにしっかり植え付けて、組織の仕組みを整えたり、幹部候補生を育成したり、人生100年時代の経営も本質は同じだと思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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