「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第91回は「経営戦略と事業計画~事業計画が「絵に描いた餅」にならないために~」と題して、経営戦略の重要性と事業計画の実現の可能性について検証してみようと思います。
事業計画が実行されない理由
事業計画を作ってもうまく実行できないと悩む中小企業経営者の方は多くいらっしゃるようです。事業計画だけに関わらず、経営幹部やスタッフの意識や行動に変化を求めても変わることが難しく、組織としてのあるべき姿と現実のギャップに悩まれている経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
まず、その理由を考えてみます。
「経営戦略無き事業計画は絵に描いた餅である」というのが結論です。
事業計画が実行されるには「経営理念」「経営戦略」「経営計画」等による企業としての方針や方向性が明確になっており、経営者をはじめ、経営幹部そして現場スタッフにまで浸透していることが大前提になります。
そのうえで行動計画まで落とし込むことが不可欠です。
それが出来ていないとどんなに立派な事業計画を策定したとしても、それは「絵に描いた餅」に過ぎず、現場で実行されることはありません。
「経営理念」「経営戦略」「経営計画」「事業計画」等の定義づけ
経営に関する用語として、「経営理念」「経営戦略」「経営計画」「事業計画」等がありますが、聞き慣れた言葉ではあるけれどもしっかりとした定義づけがされないまま、言葉遊びの要素が強くなっているのではないかと懸念しています。
そこで、かんれき財務経営研究所としてこうした用語の定義づけを考えてみます。
「経営理念」とは?
「経営理念」とは企業活動を行うにあたって、企業としてどのような目的があるのか、何のために経営を行うのか、どのような企業を目指しているのか等、企業活動の方向性を示す基本的な考え方のことです。
経営理念を明確に示すことで社内外に自社の目的を分かりやすく明確に伝えることが出来ます。
「経営戦略」とは?
「経営戦略」とは企業が競争環境の中で持続的に生き残り、成長していくための方針や計画のことです。
経営理念を実現するためにはしっかりとした「経営戦略」を立て、具合的な目標を決めることが大切です。中長期的な目標やゴールを決め、それを達成するために経営資源(ヒト、モノ、カネ)を最適かつ計画的に配分していくことが基本になります。
「戦略」と「戦術」
「戦略」は中長期的な企業全体の目標、方向性を計画することを指し、そのために経営資源の運用方法を考えたり、準備したりすること、「戦術」はもっと短期的で、戦略を達成するための具体的な方法やノウハウを意味します。
企業活動の大きな目標として「経営戦略」が存在し、それを達成するための細かいプロセスが「経営戦術」といった感じです。
「経営計画」とは?
経営理念を実現するために経営戦略で中長期的な企業の目標を設定したあとは、実際に実現するために行動を起こさなければなりません。スムーズに目標を達成するために必要なのが「経営計画」です。
経営計画は、「会社のあるべき姿」を明確にし、それを実現するための経営戦略や数値目標、行動指針等に基づいて策定したものです。経営計画には、5〜10年の長期経営計画、3〜5年の中期経営計画、1年単位の短期経営計画の3種類があり、最も多く作られるのは中期経営計画です。
このように、経営計画策定には1つの事業に関することではなく、企業全体の将来のあるべき姿を捉える視点が求められます。
「事業計画」とは?
事業計画は、経営計画と同義と捉えられることがありますが、厳密には異なります。
経営計画が「会社のあるべき姿」を示すものであるのに対し、事業計画は経営計画に示された「会社のあるべき姿」を達成するための具体的な実行計画を示すものです。
事業計画には、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書、借入金返済計画書、アクションプランを含みます。数値計画を含むため、金融機関にとっては関心の高い計画になります。
このように、事業計画では部門的、短期的、戦術的な視点が必要です。会社の現状を把握し、今後どうなりたいか、どう行動するべきか、事業計画は「会社のあるべき姿」を目指す実行計画であると言えます。
「経営計画」とは、全社的、長期的、戦略的視点をもつ「会社のあるべき姿」を見据える計画であり、「事業計画」とは、その経営計画の目標を達成するための、 部門的、短期的、戦術的視点をもつものであり、「会社のあるべき姿」に到達するまでの具体的な実行計画なのです。したがって、上位概念から並べると「経営計画」→「事業計画」→「部門別行動計画」になります。
策定された経営計画に基づいて、実行可能な事業計画を策定します。そして、個別スタッフの行動計画へと落とし込んでいくのです。 こうした取り組みにより、全社的に経営計画に対する構造的な理解が得られるのです 。
「行動計画(アクションプラン)」とは?
行動計画とは、「経営計画」や「事業計画」で決めたことを実行するために、具体的にどのようなアクション(行動)を実施するかを策定し、管理する計画のことです。
事業計画を達成するために何をすべきかを、スタッフ個人単位まで落とし込んで行動計画を立てる必要があります。
「誰が責任者か」「誰が実務担当者か」「何をいつまでにやるのか」「どういう方法でやるのか」「誰と誰が進捗を知っていなければならないか」等を具体的に落とし込むことが大切です。
行動計画を立てることで、経営幹部や管理者、スタッフ一人ひとりの行動、進捗状況、結果が可視化されて管理しやすくなります。それぞれの経営幹部や管理者、スタッフに行動をまかせてしまうと、経営計画や事業計画で定めた目標から外れた行動が実行される危険性が高く、時間やコストも無駄になりかねません。
経営計画や事業計画の実行性を担保するためには、行動計画まで落とし込むことが最も重要なのです。
経営戦略の浸透が事業計画実行の1丁目1番地
企業経営の目的を達成するためには、経営理念に基づいた具体的な戦略や事業計画が不可欠です。顧客の獲得や人材育成、そして新規事業の開発等は一朝一夕には出来ませんし、設備投資の回収にも相当な時間を要します。従って、ある程度長い期間を見据えた戦略の策定が必要なのです。
上場企業では投資家に対する説明のため、こうした事業計画を公表するのが当然とされています。事業計画によって、株主や従業員に企業が具体的にどのような方向に向かっているのかを明確に示しているのです。
中小企業にとっても経営戦略や事業計画は重要です。まずは、5年から10年先を見越した長期戦略、それが難しければ3年程度先までの中期計画を策定し、その戦略を達成するために実行すべきことを、1年ごとに刻んで検討し、その結果を盛り込んで策定した年次計画を、さらに必要に応じて、月ごと、週ごとの計画に具体的に分割していくことも必要なのです。
経営戦略を、損益計画、財務計画、営業計画、人員計画のそれぞれに落とし込んで、管理職以外の現場スタッフにまで浸透させることが大切です。
経営戦略の具体的な中身について経営計画へ十分に記載されているほど、経営戦略が社内に広く浸透していることがある調査結果にも反映されています。策定された経営戦略を現場スタッフに浸透させていく上では、具体的な数値や施策を計画に落とし込み、内容を充実させることが重要だといえるのです。
経営戦略が全社的に浸透することで、現場スタッフが何をするべきかが明確化され、企業業績にもプラスの効果が生まれている可能性が考えられます。
事業計画の実行には役割分担が重要
現場スタッフが各自の役割をしっかりと認識できており、それが経営者や経営幹部の認識と一致しているなら、お互いの認識にギャップは発生せず、日常業務や課題解決が目的の達成に向けてスムーズに進むはずです。しかし、実際には互いの認識に違いがあることがほとんどです。
この原因の一つに、『役割分担が曖昧』があります。「我が社にはこういった課題や問題点がある!」と経営者や経営幹部の誰もが認識しているのに、いつまで経っても解決策が出てこない、あるいは、誰も具体的に手をつけようとしないのは、責任(遂行)者たるべき人が「これは自分の仕事」と認識していないからです。
経営者と経営幹部や現場の管理者、経営幹部同士や管理者の間でも認識の違いがあるのではないでしょうか。こうした役割に対する認識の違いを調整し、改めて互いに納得できる職務分担表を作成することで、各自の役割を明確にし、業務効率を高めていかなければなりません。
経営陣の間で互いの役割認識に違いがないか確認し、また違いがあるような重要業務については
・誰が責任者か
・誰が実務担当者か
・誰と誰は進捗を知っていなければならないか
ということを認識し、分担していく必要があります。
経営陣は業務遂行に際して、各人の役割分担を明確にする習慣を定着させるためにも、職務分担表の作成は不可欠です。
「耳たこ」のPDCAサイクル
計画は立てただけでは意味がありません。計画の立案から評価にかけての過程をわかりやすく模式化したのがPDCAサイクルです。計画は、「①プラン(Plan, 計画)」→「②ドゥ(Do, 実施・実行)」→「③チェック(Check,点検・評価)」→「④アクション(Action, 処置・改善)」の順に進み、再び①プランに戻ります。経営環境は常に変化しますから、計画は常に検証し、場合によっては修正していく必要があるのです。
事業計画は時系列に沿った取り組みが重要
飛行機に何度か乗りましたが、いつも離陸のときは緊張します。
飛行機が離陸する時には、離陸滑走で加速を始めてから順に決められた適正な「離陸速度」を通過し、最終的に離陸に必要な速度を確保して上昇姿勢に移っていきます。
離陸速度を決める上で大前提となる大切な条件があります。それは、「離陸操作中にエンジン1基が故障した場合も想定すること」です。仮にエンジン故障が機首上げ直前や機体の浮揚後に発生した場合でも、残ったエンジンだけで安全に離陸を継続できるように想定していなければならないのです。
通常、旅客機の巡航高度は、大体10,000~12,500m(34,000~41,000ft)のようです。
離陸後、適正な巡航高度に到達するまで上昇しなければなりません。この上昇勾配も基準が決められています。ギアが格納しきった状態で2発機は2.4%、3発機は2.7%、4発機は3.0%以上の上昇勾配が必要になります。
適正な上昇勾配を保ちながら巡航高度に到達することが重要なのです。機首を上げ過ぎて翼が空気を受ける角度が大きくなりすぎてしまった結果、翼の表面を流れる空気がきれいに流れなくなって揚力が失われてしまうと失速して、墜落します。
このように飛行機の離陸する際には、様々な条件によってその基準が決められているのです。
事業計画の実行も、この飛行機が離陸する際に基準に従って進めなければならないことと同じだと思います。
事業計画に示された方法によって、順番に進めていかないと失速して墜落してしまう可能性が高まるのではないでしょうか。
飛行機の離陸のイメージ
事業計画策定に向けた予測モデル
飛行機の離陸のイメージのポンチ絵と事業計画策定に向けた予測モデル(損益予測)を上下に並べてみました。
予測モデルには計画策定前の3事業年度の実績も計上されています。こうした事業計画(数値計画)を作成する際には、3期分の実績を計上したうえで、その先10年分の予測値や計画値を計上するのが一般的です。この実績部分が飛行機の離陸に例えると飛行機が滑走路に移動し、離陸許可を得て、離陸に向けて滑走するまでに該当します。同様に計画0年目が機首を上げて離陸するタイミングに該当し、計画1年目から6年目までが、巡航高度に到達するまでの上昇過程に該当するというイメージです。
この予測モデルは、実際の企業の事業計画を元に作成したものではなく、経営戦略として大型投資を行うことを想定して作成したものです。ここでは予測モデルの細かいな数字については課題として取り上げていませんので、大きく捉えていただければそれで十分です。
大型投資の計画が始動すると、一時的な費用の発生や事業拡大・規模拡大に伴う固定費(販管費)の増加、高額設備に対する減価償却費の増加、借入金の増加による支払利息の増加等、さらに加えてオフバランスでの元金返済の負担増等、売上の増加に先行して経費の増加や資金の支出の増加が次々に確定していきます。だから事業計画のスタートラインは、つまり飛行機の離陸過程でいう滑走に該当するのが、この計画の3事業年度前になるのです。
大型投資の初期の段階は、収入より大口の支出が先行するので、この時期の資金繰り対策が重要になります。そのために、計画実行の3期前から準備して上手く乗り切ることが大切なのです。
経営者が資金管理を財務責任者に任せてしまうと、経営者には見えないところで計画が着々と進行し、それに伴い大口の支出が次々と確定していきます。
事業計画に盛り込まれた収益増加策がもし計画通りに進んでいなければ、こうした事実が見えている財務責任者の心境は穏やかではないと推察します。収入の増加がはっきり見えていないのに高額の支出だけがどんどん決まっていく。資金管理を一任された財務責任者にとっては恐怖でしかありません。これは財務責任者一人が抱える問題ではなく、飛行機が離陸するときと同様の緊張感を少なくとも経営者・経営陣は共有しなければならないのです。
足元の業績が順調に推移していると油断が生じて、将来のことまで目が行き届かなくなります。大型投資により損益構造や資金収支構造は大きく変化するのです。これに気付かないでいると、知らぬ間に地雷が埋められ、ある日突然地雷が爆発するという事態を引き起こしかねません。3年先、5年先、10年先を見越した対策を打っておくことが必要なのです。
この初期段階の資金繰りに瑕疵があると後々響いてきます。安全な上昇勾配を保たなければならない時期に突然、資金不足に陥ったり、大型投資後の3年目、4年目に資金繰りが厳しくなったりすることも想定されます。
計画遅れが後になって発覚し、慌てて軌道修正をしようとしてもなかなか難しい。適正な上昇勾配を維持できず、いきなり機首をあげようとすると浮力を失い、失速して墜落してしまう危険性があります。
大型投資の実行に向けて、機首をあげる段階まで来ると、もうブレーキを掛けることは出来ません。飛行機に例えると滑走途中でエンジントラブルが起きても止めることが出来ない事態になるということです。飛行機の場合は、リスクヘッジする手段が事前に想定されて対処法が決められていますので、それに従って対処することが出来るようですが・・・企業において、こうしたリスクをヘッジするためには「経営理念」⇒「経営戦略」⇒「経営計画」⇒「事業計画」⇒「行動計画」の順番に落とし込み、全社一丸となり各自がスケジュール感を持って大型投資に取り組むことが大切だということなのです。
事業計画(数値計画)どおりに寸分たりとも違わないように進めろと言っている訳ではありません。あくまでメルクマールです。ただ、事業計画が金融機関から融資を引き出すためのツールとしての役割しか果たせないのであれば、それは大きな間違いです。
大切なことなので、もう一度繰り返します。
事業計画が実行されるには「経営理念」「経営戦略」「経営計画」等による企業としての方針や方向性が明確になっており、経営者をはじめ、経営幹部そして現場スタッフにまで浸透していることが大前提になるのです。
そのうえで行動計画にまで落とし込み、経営幹部、管理者、現場スタッフそれぞれが自分の役割を理解して具体的にどのようなアクション(行動)をしなければならないかを認識して行動し、その進捗を管理できる仕掛けが必要なのです。
事業計画が「絵に描いた餅」だけで終わればまだよいのですが、事業自体の存続の危機にまで影響する事態だけは何が何でも回避しなければなりません。
経営者が自ら操縦桿を握り、企業という飛行機を操って、事業計画に沿って安全に離陸させることが大切なのです。
投稿者プロフィール

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LINK財務経営研究所 代表
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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