「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第107回は「人を動かす真の優しさとは~仏の心と鬼の心~企業は人なり(その4)」と題して、人を幸せにする経営に必要な「人を動かす真の優しさ」や「上司道」について考えてみます。
偉業を成し遂げたカリスマ経営者たちの経営哲学や上司道
人手不足が続く中、経営を続ける上での最重要キーワードは「少数精鋭」です。いくら経営者や経営陣が闘志を燃やしても現場を動かすことができなければ空回りに終わってしまいます。如何に限られた人財を有用に活用し、生産性を上げていくかがポイントになります。
これまでの歴史のなかで偉業を成し遂げ「カリスマ経営者」と形容される方々の共通項は、「人のマネジメントに長けていたこと」だといえるのではないでしょうか。こうしたカリスマ達の上司道や経営哲学を紐解いてみることで、組織や人を動かす「統率力・指導力」に関する気付きを得ることができると思います。
偉業を成し遂げた経営者の心には「人を動かす真の優しさ」がありました。「真の優しさ」の中には「仏の心」と「鬼の心」が共存しています。そんな気付きを与えてくれた一人の経営者を紹介させていただきます。
30年間赤字を続けていた会社の借金1000億円を1年で完済し、優良企業に再生させた「ごっつい経営者」の教え「仏の心で鬼になれ。」
2012年11月に発刊された、東レインターナショナル元社長、蝶理元社長の田中健一氏の著書に「仏の心で鬼になれ。」という本があります。
この本には、30年間赤字を続けていた会社の借金1000億円を1年で完済し、優良企業に再生させた「ごっつい経営者」の教え「上司道」が書かれています。
当時、金融機関の支店の次長職に就いており、支店全体の業績を管理する立場にいたので、支店長を補佐し、課長を統率して支店業務を回していくうえで非常に参考になりました。
あれから10年以上経ちますが、この本のカバーのそでに記された次の言葉は、その時から鋭く胸に突き刺さったまま、今も心のベースになっています。
「部下の歓心を買うな 部下の仕事は手伝うな 部下には高い目標を与えて、できるまで尻を叩け 頭にきたら叱りつけろ ただし、この一言を心にたたき込め 上司には、部下を幸せにする義務だけあって、不幸にする権利はない」
この本の「はじめに」のなかにインパクトのある文章がありますので、抜粋して紹介します。
「単に横暴な上司など論外であり、部下に対する「優しさ」は上司の必須条件である。しかし、小手先の技術でモノにできるほどヤワなものではない。そもそも表面的な「優しさ」は、反発を受けたくないという保身の隠れ蓑にすぎないものだ。そんな「優しさ」で本気で味方になってくれる部下などいない。 本来、仕事とは厳しいものだ。競合がひしめくなか、並大抵の努力では業績をあげることなどできはしない。だから、上司は「鬼」にならねばならない。「鬼」になって部下を率いなければ、生き残ることもできない。そして、結果を出せなければ、部下を不幸にしてしまうことになる。ときに部下に嫌われても「鬼」になることこそ、真の「優しさ」なのだ。 上司は、仏の心で鬼になれ。それこそが上司の王道なんだ。」 |
優しさと甘さを履き違えてはいけない
冗談っぽくいうと「才能アリ」の経営者は「仏の心で鬼になる」ことができますが、「凡人」や「才能ナシ」の経営者は「「優しさ」と「厳しさ」つまり「仏の心」と「鬼の心」の配分のバランスがうまく取れず、どう取ればよいのか一度は悩んだことがあると思います。
「仏の心」と「鬼の心」をうまくコントロールできない1つの理由として「優しさ」と「甘さ」の違いが理解できていないことがあるのではないでしょうか。
「優しさ」とは、相手の気持ちを理解し、その気持ちに寄り添う事です。それは単純に穏やかという意味だけではなく、「思いやり」が必要です。あえて厳しく接することや自主性を育てるために放置することも、そこに相手への思いやりがあるならそれは優しさだということです。
相手の状況や感情を読み取り、それに応じて柔軟に対応することが思いやりであり、思いやりのない厳しさというのは不信感を生む原因になります。常に相手の立場に立って、正確な状況判断と思いやりをもった行動を続けていると、それが優しさとして相手に伝わるものなのです。
「甘さ」とは、妥協して見逃してしまう事、必要な時に厳しくなれない事です。
甘さは、相手を甘やかしているようでその本質は自分にあります。厳しく接することによって嫌われたくないと思う気持ちや甘やかすことによって好かれたいという気持ちが強く、否定的な事を言って拒否されることを恐れ、許す事で寛大な自分をアピールする思いが強いのです。これらは一見相手を思いやっての行動にも見えますが、本質的には「自分がこう見られたい」という自分本位な考えが先行している行動なのです。つまり甘い人の優しさは、まやかしだと思います。
意外に部下は、こういう「甘さの隠れ蓑としての上辺だけの優しさ」を簡単に見抜いているものです。そのため、こうした上司は、部下からの信頼が得づらく、部下から頼りがいのある上司とは認められていません。
相手を本当に思いやったなら自分が嫌われる可能性があっても厳しいひと言が言えるはずです。それが言えないのであれば心のどこかに「甘さ」があるのではないでしょうか?
人というのは感情を持った生き物で、想いを100%相手に伝えることは非常に難しいものです。なぜなら人と人の間には様々な関係性があり、同じことを言っても誰が言うかによってその信憑性や説得力というのは変わってきてしまうからです。
相手を思いやって発した言葉自体を受け入れ理解して貰えなければ意味がありません。
想いを伝えるには、まず相手をよく知ることです。想いを伝えるためにはその人が理解できる言葉や言い回しを考えて話さなければなりません。うまく想いを伝えるためには相手の理解度に応じたわかりやすい言葉を使うということが必要であり、それを行うためにはまず相手をよく見ることから始めることが大切なのです。
鬼の心で人を動かす
経営理念や経営戦略の達成に向けて従業員を正しく動かすためには、「鬼の心」になって組織全体や担当部門を統制することが必要です。企業としての存在意義を果たすための目的達成には、甘さや妥協は許されないのです。そんなことでは事業は成功しません。では、どのような場面で「鬼の心」にならなければならないのかを考えてみます。
1 従業員を正しく動かす
経営理念や経営計画の達成、経営戦略の実行に向けて組織や人を動かすときに、経営陣や管理者層が、従業員に遠慮したり、忖度したりする必要はないと思います。従業員の個人的な都合や気持ちばかり考慮して、履き違えた優しさを発揮していても、理念や計画は達成できませんし、対外的な関係においてもトラブルの原因になります。企業業績にも当然、悪い影響が出てきます。
企業が求める必要な行動を従業員にきちんとさせないで、部下等の個人的事情を考慮ばかりしていては、従業員は全力を出さなくなります。自分の都合を上司に告げれば、それで無罪放免になってしまうからです。
過剰な優しさや無用な相手への配慮は、従業員の甘えにつながります。その結果、業績悪化やお客様からのクレーム等にしわ寄せが来てしまうと、大幅な業績低下に繋がり、改善できなければ職場の人員整理(リストラ)等、企業にとって継続が危ぶまれる事態にもなりかねないと思います。
経営陣や管理者層の意向に沿わないような行動があった場面では、見過すことなくその場でその従業員を叱ることで、その影響力を全体に波及させ、すべての従業員の気持ちを引き締め、仕事に必要な緊張感を浸透させる効果もあります。
2 大所高所から長期的視野を持って、想定されるリスクを未然に防ぐ
リスクというものは、早い段階から予知することができれば、未然に対策を立てて防止することができます。ただ手をこまねいて眼前に近づくのを待っていたのでは、対策が間に合わなくなります。
経営陣や管理者層は、従業員と違い、大所高所から長期的視野に立って、その一歩先、二歩先のことまで視野に入れなければなりません。先を見越したうえで「あとあと問題になるような甘えや妥協を許さない」ために持つべき「鬼の心」です。
従業員の小さな手抜き、妥協、間違いを見逃せば、後になって大きな損失やトラブルに繋がる可能性が必ずあるからです。
大切なことは、仕事の先延ばしや嫌な問題対処を避けたがる気持ち等、甘えを許さないことです。仕事は、階層が上に行くほど遠くを見通す必要があり、下に行くほど目の前のことだけに追われます。
優れた経営陣や管理者層というリーダーは部下より常に先を見据えています。従業員から見れば妥協してもよいこと、いま決めなくてもよいこと、今日この場で仕上げなくてもよいと思われるようなことも、大所高所から長期的な視点で見れば「絶対に許すことができない」ものに見えるのです。
頼られるリーダーの条件「仏の心」と「鬼の心」の配分は1対9
上司に求められる「仏の心」と「鬼の心」の配分は1対9くらいが程よい塩梅のようです。
「鬼の心」9割といっても、個人の人間性を攻撃をしたり、部下に適正な分量と能力に見合った仕事を与えなかったりして、本来やるべき間違った行為を叱ることができず、部下のやる気を失わせる上司、また部下の扱いが不公平で、評価基準も曖昧で納得性が得られず、部下の健全な勤労意欲を奪うような上司は「仏の心」と「鬼の心」を論じる以前の問題人物です。
優れた経営陣や管理者層は、仕事への厳しさで恐れられても、部下の熱意や自尊心、健全な勤労意欲を奪わず、それらを正しく育てています。
9割の「鬼の心」を仕事のために貫く厳しい上司が、1割の思いやりのある「仏の心」を時々見せることで、部下には、意外性のインパクトとして印象に残り、その上司に対する信頼度も増すようです。
最終的には「仕事は結果が全て」です。たとえ、そのプロセス段階において厳しく叱責されて心が折れそうになっても、目的が達成されれば皆が幸せになれるのです。収益目標が達成できて利益が増えれば、頑張った人に配分する等、賃上げ財源にすればいいのです。
時代遅れの考えと言われるかもしれませんが、多少厳しい叱咤激励を受けても、それを乗り越えて、達成が困難と思えるような目的を成し遂げたときの喜びはひとしおだと思います。そういう成功体験を積み重ね、辛くても結果を残すことで報われるという仕組みや意識が、組織内に定着して好循環が生まれれば、企業の維持・発展という明るい将来展望が開けてくるのではないでしょうか。
きちんと叱る、先を見据えて必要なことには妥協しない、甘えを許さないというマネジメントができる上司のいる部署は、問題も事前に解決できるのでトラブルに発展することも少なく、みんなが緊張感を持って働くことができる良い職場になっています。それによって部下が上司に信頼を寄せ、成果を挙げることができる職場と上司に感謝する良好な人間関係の基礎になるのです。
参考までに、尊敬する上司から教示された管理の極意を載せておきます。
「会社を愛し、そこで働くスタッフや利用していただくお客様を愛する」
「愛すればこそ、スタッフに、しっかり寄り添う」 |
素直な心で現場の声に耳を澄ませば、従業員達は「自分たちを見守ってくれる頼りになる唯一無二の存在」である「仏の心で鬼にもなれる」そんな上司の登場を待ち望んでいます。
そこには「上司には、部下を幸せにする義務だけあって、不幸にする権利はない」と相通じる心があると思えるのですが・・・。
最後に「仏の心」や「愛すればこそ」といった思い込めて「鬼になって」伝えることの難しさを実感し、自戒を込めながら苦心しています。
「仏の心」で「信じて任せる」ことができるような人財が揃えば、何も心配することはないかもしれませんが、一般企業ではそうはいきません。人間力に磨きをかけなければ真意を届けることはできないと・・・。
「上司には、部下を幸せにする義務だけあって、不幸にする権利はない」という強い信念のもと組織や人を守るため、鬼になって厳しい態度をとっても、その真意が伝わらなければ、残念ながら、ただの恐い鬼、ハラスメントとしてしか認識して貰えません。
投稿者プロフィール

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LINK財務経営研究所 代表
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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