「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第98回は「3つの「信」で組織を動かす」と題して、WBC日本代表チームの組織運営を参考にさせていただきながら、強い組織に必要な3つの「信」について考えてみたいと思います。
今回のワールド・ベースボール・クラシックは、これまでにない盛り上がりをみせ、準決勝、決勝も手に汗握る好ゲーム、まさに「事実は小説より奇なり」を地で行くようなドラマチックな展開の末、14年振りに世界一を奪還するという最高の結末で締め括りました。
大会前や大会後の栗山監督の分かりやすい話を聞いていると、世界一奪還は、決して運やマジックではなく、ロジックのしっかりした「優勝までの物語」のシナリオがあり、シナリオに沿ったキャスティング等、栗山監督の優勝するための「信念」が最後まで貫き通された必然的な結果だったと確信しました。
この物語がシナリオどおり完結できたのは、監督だけでなく、コーチ、選手、サポートスタッフの方々のチームワーク、言い換えれば、チーム全体に浸透した「お互いを尊重し、信じ合う力」が何よりもその原動力になっていたからだと思います。
栗山監督の足元にも及びませんが、数多くのメディアで栗山監督が情報発信されており、その場での発言を聞いていると、強い組織になるためのヒントが至る所にちりばめられていると感じました。それを参考にして以下の4つのカテゴリーから分析してみます。
1 明確な目標設定と役割分担
最も大切なことは「世界一になる」という明確な目標設定がされていることです。目標を明確に示して共有することで、スタッフ全員のベクトルが同じ向きになり、チームが一丸となり、目標達成に向けて動くことができるのです。
もう一つは、超一流の選手軍団だということ。プロ野球選手になるだけでも突出した技術や能力を持っていなければなれないのに、さらに代表チームに選出されるということは、プロ中のプロ。こうした超一流の選手達は、一人ひとりが自立し自律しており、主体的に考動できる優れた逸材であり、メンバー各自が監督の立てた作戦に基づく指示の行間までしっかり読み解き、監督の真意を理解して与えられた役割を果たせる人財ばかりなのです。
一方で、こうした超一流の選手は一人ひとり我も我もと前に出たがるのではないかと推測されるのですが、一人ひとりの役割を明確に分担し、監督自らが伝えることで、一人ひとりが共通の目標達成に向けて自分の役割を理解し徹することができ、その結果、チームが一丸となって目標が達成できたのだと思います。
2 きめ細かなコミュニケーション
選手へのオファーは、従来のルールを変更して栗山監督自身が選手一人ひとりに連絡をとって参加を依頼、また、合宿の最初のミーティングでは、選手一人ひとりに毛筆で手紙をしたため、それぞれの役割を伝えたそうです。
監督が直々にオファーの連絡をしたり、一人ひとりに自筆の手紙をしたためたり、それを受け取る選手としては、「監督のために」と意気に感じて全力を尽くすしかありません。
栗山監督は、このように自ら選手とのコミュニケーションを積極的に取り、いつも選手を気に掛けて、対話を通じて選手の情報を収集し、適材適所を探り、役割や期待を伝えたりして、関係の質を高めるための行動を常に実践されているように思いました。
そのコミュニケーションの取り方も議論ではなく、対話を大切にしています。議論は、相手に自分の意見を主張すること、対話は相手の意見に耳を傾けることを大切にすることです。
これが、選手達のチーム内における心理的安全性を高め、プレイに集中できる環境ができた要因だと思います。
リーダーとしてどれだけメンバーと「コミュニケーション」を取ることを大切にしているか、メンバーとの議論ではなく対話を通じて関係の質を上げる努力をしているかが大切ということです。
「組織内の関係の質を高める」ことが、メンバーの思考の質、行動の質の向上に繋がり、目標達成(世界一)という結果の質に繋がったのだといえます。
3 メンバーを信じて、ポテンシャルを引き出すリーダーシップ
栗山監督のリーダーシップを一言で表現すると「メンバーのポテンシャルを引き出して生産性を最大化するリーダーシップ」です。
上司からの「指示、命令」によるパフォーマンスと、自分の意志で「やりたいことをやる」パフォーマンスでは、後者のほうが生産性の高い仕事をすることに間違いありません。
実際のビジネスの現場では「やりたいことだけやっていっていれば良い」という訳にはいきませんが、リーダーとして「メンバーが何をやりたいのか」、「メンバーにはどのようなスキルや知識があるのか」スキルや知識が不足しているなら、それを「可能にするための教育や指導をリーダーはしているのか」という点については、リーダーは常に把握したり考えたりしておかなければなりません。
日々の現場業務のなかでは、どうしてもその場その場の部下の一挙手一投足が気になって、細かいところまで指示・命令するマネジメントになりがちですが、「信頼されて任される」のと「細かいところを指摘ばかりされる」のでは、メンバーのヤル気も大きく変わります。
リーダーは「うまくいけばメンバーのおかげ、失敗すればリーダーの責任」という意識を持って、それを部下にコミットメントする。それを実践することで、メンバーとの強い絆、信頼関係に結びつき、メンバーの力を最大限引き出すことができるようになるのです。
もう1つ、今回のWBC日本代表チームで目を引いたリーダーシップが、ダルビッシュ選手と大谷選手のリーダーとしての役割発揮です。
代表チームにはキャプテンを置いていませんでしたが、キャプテンという肩書きがなくても、この二人の選手は自発的にリーダーシップを発揮していました。その裏には二人の突出した実力と実績があったと思います。他のメンバーもこの二人は「凄い選手」と認識していたからフォロワーになれたのではないでしょうか。肩書きよりも実力や実績がリーダーとしての大切な要素になると実証されました。
ダルビッシュ選手の積極的なオフサイトミーティング(食事会)の開催や大谷選手のメンバーを鼓舞するパフォーマンス、こうしたリーダーシップの発揮があったからこそ、全てのメンバーがそれぞれの立ち位置で主人公となり、誰もがその役割毎のMVPに匹敵する活躍ができたのだと思います。
4 自利利他の精神
栗山監督もダルビッシュ選手も大谷選手も選出されたスタッフはみんな自分のために戦って勝つのではなく「誰かのために戦って勝つ」と繰り返しコメントしています。
競合他社との競争や、他を蹴落としてでも自社だけは生き残りたいといった「利己主義」ではなく、社会全体や業界全体を盛り上げるという「利他主義」の視点に立って経営することが重要なのです。
お互いに切磋琢磨し、リスペクトしあって、お客様により良い商品やサービスを提供する、目標達成のために周りに献身的に振る舞う、周りに貢献するために自分を高めて成長する努力をしていることを意識して行動しなければなりません。
強い信念を持ち、トップダウン的なリーダーシップではなく、メンバーとのコミュニケーション、関係性を大切にし、メンバーの個性を活かしながら主体性を引き出し、組織の和を大切にして成果を導くリーダーシップ。まさにそれがメンバーのヤル気と成長で生産性を最大化するリーダーシップであり、メンバーからも対外的なステークホルダーからも信頼されながら成果を上げるこれからの時代に求められるリーダーシップなのだと教えて貰いました。
こうしたリーダーシップを発揮し、円滑に組織を動かすためには「3つの信」がキーワードになるといえます。
「3つの信」とは「信念」「信用」「信頼」のことです。
これは、経営者や管理職だけが意識することではなく、組織の構成メンバーがお互いに意識しなければならないことです。
お互いに意識できる組織にするためには、「目的の明確化」と「自立し自律した人財の育成」が不可欠です。
まず、明確な目的を決めて組織の構成メンバー全員で共有し、構成メンバー一人ひとりの果たすべき役割を明確にすること。代表チームでは「世界一を目指す」という明確な目的が共有されており、選出されたメンバー一人ひとりの役割が明確になっていました。だから、一丸となって目的達成に向けて動くことができ、実績を残すことができたのです。
「信念」は、目的達成のためのブレない軸のこと。自分が正しいと思う気持ちです。
経営者や管理職は、目的達成のためには、時には「冷徹な意思決定をして断行する」ことも、「モチベーターとしてスタッフのヤル気を引き出す」ことも必要なのです。鬼にも仏にもなる必要がありますが、それは何が何でも決めた目的を達成するという「信念」がなければ、個人的な感情による我が儘やエゴとしてしか他人には受け入れて貰えないと思います。
スタッフも、目的達成に向けて与えられた役割をやりきるためのブレない軸を持つことが必要です。目的達成に向けた各自の役割をやりきるためには、周囲との連携や協力も必要になり、そこには組織内での活発なコミュニケーションが必然的に生まれます。それぞれが目的達成のためにWIN-WINの関係になれることが大切なのです。
「信用」は、過去の実績、態度等の事実に基づき生まれるものです。全く面識のない人を信用することはできません。
信用を得るためには、当たり前のことかもしれませんが、「仕事上で実績を積み上げる」「約束を守る」「時間厳守」「口が堅い」「人の悪口を言わない」「言い訳をしない」といった行動を積み重ねることが必要だと思います。
また、最も重要な行動としては「相手を不快にさせるかもしれない言いにくいことでも指摘してくれる」ことだと思います。言いにくいことを指摘するときは、言うほうも言われるほうも気まずいものですが、信用される人は、ストレートに言うのではなく、伝え方を工夫しています。指摘したことで一時的に悪い印象を持たれたとしても、思いやりのある指摘である限り、相手も理解し、納得して貰えると思います。言いづらいことでも何でもオープンに言ってくれることがなにより信頼に繋がっていくのではないでしょうか。
このように組織の構成員はお互いに実績や立ち居振る舞いを積み重ねていくことで、信じ合える関係性を築くことができるのです。
「信頼」は、「信用の積み重ね」により、勝ち取るものだと思います。一度手にした「信頼」は揺るぎないものとなり、簡単に失うことはありません。
経営者や管理職が従業員や部下に対して「信じて任せて感謝」したり、従業員や部下が経営者や上司に対して「信じて頼って感謝」したりするためには、お互いの信頼関係が何より一番大切なことなのです。
「3つの信」が組織で機能するためには、「3つの信」を「企業文化」「組織風土」として根付かせていく必要があります。
実際の現場では、お互いの信頼関係に温度差があると感じてしまう場面もあります。
相手に対して全幅の信頼を持っており、遂行する「能力」があると信じて依頼しても、相手が実際に優先順位をつけてこちらの依頼事項を実行し、質の高い仕事をやり遂げてくれるかどうかに「確信」が持てないこともあります。それは、相手としてはその仕事をそれほど「重要と」思っておらず、「誠実」にやり遂げてくれないかもしれないと感じさせるような立ち居振る舞いが見えるからです。また、そのような態度を見ていると、様々な課題や問題が起きても「率直」に話してくれないのではないかと思ってしまいます。組織内に「壁の存在」を強く感じることがあります。
組織内に以下のような意識が蔓延して「壁」ができてしまうと「3つの信」は機能しません。
・与えられた仕事を遂行する能力・知識・スキルがない
・お互いに裏で責め合っている
・安心して本音を言い合えない
・情報をタイムリーに共有できない
・自己中心的でなんでも自分の手柄にしてしまう
・他人に責任転嫁するという他責の念が強い
こんな「企業文化」や「組織風土」が根付いている組織では、協調よりも競争を重視し、メンバーは互いに対立し、他人を犠牲にして自分の評価を上げようとするようなバラバラな集団に陥ってしまいます。また、質の高い仕事をするために必要なツールや時間が与えられていない組織では、人が育たず、その結果、期待している成果を出せず、とても持続可能な強い組織にはなれないのです。
組織のなかで、立場が上に行けば行くほど、現場からまともな情報が入ってこなくなります。歪んだ情報ではなく、正確な情報を自分のもとに還流させることをリーダーは常に心掛けなければなりません。現場の真実から遠ざからないようにするためには、自ら頻繁に現場を見に行かなければなりません。「まず現場を見て、現場の真実を把握しろ」なのです。そうしないと「メンバーを信じて、ポテンシャルを引き出すリーダーシップ」は発揮できません。
また、リーダーシップを発揮する立場になると、なかなかできないことかもしれませんが、自分を叱ってくれる部下をたくさん抱えることが大切です。耳障りのよくない嫌な情報をストレートに伝えてくれる部下が本当に「信頼の置ける人財」なのです。こうした部下に自由に意見を言わせ、諌言に率直に耳を傾けて、なるほどと思えばすぐに改めることが組織内の「信用」「信頼」の醸成に繋がるのです。
WBC日本代表チームが、最高の成果を得ることができたのは、栗山監督の人徳により、超一流選手軍団というキャスティングができたこと、明確な目標設定ときめ細かな役割分担がされたこと、選手のなかで自発的なリーダーシップが発揮されたこと、そして何より目的達成に向けて、監督自身が邁進したことだと思います。
経営者は、優れた人材を集めるために、従業員の教育や育成にも力を入れなくてはなりません。一流の人財に育てて、その人財を活かした経営に邁進することで、企業や組織の前途は明るいものになるのです。企業にとって人財こそが「資本」であり、かつ「最大の武器」なのです。「きめ細かなコミュニケーション」と「メンバーを信じて、ポテンシャルを引き出すリーダーシップ」を遺憾なく発揮し、従業員一人ひとりの能力に応じた適材適所を実践すれば、組織は必ずその力と輝きを放つのだと思います。
投稿者プロフィール

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LINK財務経営研究所 代表
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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