第118回 組織の乱れは数字に反映する ~管理部門の脆弱性が企業を滅ぼす~

組織・組織運営

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かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です。

 

管理部門の脆弱性が企業を滅ぼす
管理部門の脆弱性が損益に影響を及ぼしたモデルケースを紹介します。
現場の従業員の退職が相次いだことから人員不足になり、収益(売上)も目標どおりに上げることが難しくなった。その一方で、費用の支出は増加傾向にあり、このままでは、赤字になって手許のお金が減ってしまうのではないか心配だという思いが管理部門内に拡がっていました。
その理由は、経営層で決めたことがなかなか現場に降りてこないことや、経営層が管理部門の意見には耳を傾けて貰えないこと等、経営層と管理職層、上層部と現場スタッフとの意思伝達に問題があるからとのことでした。
特に、顧客と直接接触して売上や利益に直結する直接部門の力が強くなり、経営層を始め、上層部はそうした直接部門の言いなりになってしまい、経理や人事といった管理部門の意見はほとんど聞いて貰えないようです。

下のグラフは、そのモデルケースの過去3年間の同期間における収益(売上)、費用、損益の推移を示したものです。高収益を維持していたにも拘わらず、今期は一転して赤字に転落しています。

今期の収益(売上)は前期に比べて増加しておらず、逆に微減です。一方、費用は前期から増加傾向に転じています。この費用の増加に歯止めをかけることができなかったため、今期は費用が収益を上回りついに赤字になってしまったといえます。
費用増加の兆候は前期から見られており、早い段階でここに手を打たなければならなかったのですが、費用を管理する管理部門と売上や利益に関わる直接部門とのパワーバランスが崩れ、手を打つことができなかった結果だと考えられるのです。
直近の急激な費用の増え方をみると、やはり管理部門の脆弱性が早いスピードで数字に現れてしまった典型的なケースだといえます。この状態が続くと企業存続さえも難しくなると言っても過言ではありません。

赤字になる理由の多くは売上の減少です。ただ足元では、物価の高騰が続いており、費用が増加して赤字になるケースも増えてくると考えられますので、より管理部門を強化する必要性が増していくと思います。

直接部門・間接部門の業務内容
改めて、直接部門と間接部門の業務内容についてまとめてみます。
①直接部門
直接部門の業務内容は、「新製品の開発・製造」「自社の商品・サービスの販売」など、企業の売上に直結する業務が中心です。
商品を販売する営業部門や、販売する商品を作っている製造部門等を総称して直接部門と言います。

②間接部門
直接部門をサポートする役割を担っているのが間接部門であり、企業の売上に結び付かない業務を担っている部門のことです。
直接部門に対比して「間接部門」と言われます。このブログでは、直接部門との対比として「間接部門」と言ったり、文脈によっては「管理部門」と言ったりしますが、同義語として読んでください。
例えば、経理部や人事部、情報システム部など、売上は発生しませんが企業運営で必要な業務を担当している部署が間接部門に該当します。企業運営を陰から支える重要な仕事を行っているポジションだといえます。

直接部門と間接部門の対立
直接部門と間接部門のどちらも企業にとって必要不可欠ですが、それぞれの部門の役割・業務内容は異なります。
直接部門では「製造数」「販売数」「新規顧客獲得数」「売上高」といった数値で業務実績を把握することができるのに対し、間接部門の主な業務内容は「直接部門の業務支援」や「職場環境の整備」等、企業の売上には直結しない業務のため、間接部門では数値ではなく「定性的」にしか実績把握ができないという違いがあります。そのため、直接部門は「花形部門」、間接部門は「屋台骨の部門」と称されることもあります。
間接部門は、コスト削減や人材管理等、様々な面で直接部門をサポートしていますが、サポートや改善案の内容によっては直接部門の不満を買ってしまうことが多いのも事実です。
直接部門の担当者と間接部門の担当者との間でこうした軋轢が起きる原因は、企業を見る視点が異なるからです。
直接部門は、それぞれの部署に課された業務を遂行し実績をあげるという「部分最適(個別最適)」の視点に立っているのに対して、間接部門は、企業経営全体に関わる業務を「全体最適」の視点から進めています。言い換えると、直接部門は、顧客のために商品やサービスを提供するという視点、間接部門は、顧客のために商品やサービスを提供し続けるという視点です。
時には、間接部門が直接部門の状況を理解しないまま、ある程度の強制力を効かせて現場を動かす必要性も生じます。しかし個別最適で効率的に仕事を進める直接部門にとっては、実態に即さない方針や施策に対しては納得することができません。その結果、直接部門と管理部門の間では、以下のような対立が起きてしまうのです。
① 生産部門にとっては不便な仕組みだが、間接部門はそれに対応してくれない
② 間接部門は効率化のために仕組みを変えたいが、直接部門がそれを嫌がる
③ 間接部門からの書類の提出等の依頼事項が、直接部門にとっては雑務に感じる
そして最後には「現場のことも知らず、なぜそんな案にするのか」「間接部門が勝手に決めるな」と直接部門が反発し、対立が起きてしまいます。
特に中小企業においては、限られた経営資源のなかで企業を運営しなければならないので、どうしても人材等の経営資源の配分は直接部門の比重が高くなってしまいます。経営者を始め、経営層も直接部門の業務に注目しがちになります。加えて、間接部門の業務は定性的なことが多く、数値化できる定量的な業務が少ないので、直接部門のスタッフからすれば、間接部門は何をしているのか分からないという不平・不満にも繋がってしまう面があることも否定できません。
企業全体の利益を上げるためには、まずは経営者や経営層が直接部門、間接部門の区別無く、従業員が各部署でどのような仕事を行っているのか、どのような形で売上や利益に貢献しているのかを理解しておくことが必要なのです。

「事業のアクセル目利き力」と「バックヤードのブレーキ目利き力」のバランス
経営者や経営層、管理職は、管理部門の重要性をしっかり認識する必要があります。冒頭に紹介したモデルケースでは、管理部門の弱体化がすぐに赤字という数字に反映されていました。数字やお金は嘘をつかないので、組織の乱れがそのまま現れるのです。

事業の成長・発展のためには、直接部門の「事業のアクセル目利き力」が重要になりますが、企業の持続可能性に目を向ける必要もあり、経営をし続けるためには、管理部門が担う「バックヤードのブレーキ目利き力」も重要だということです。この両輪がバランス良く機能することで持続性のある経営を行うことができるのです。
このバランスを保つためには、直接部門と間接部門それぞれの部門が協力し合いながら、企業全体が前へ進むように、業務をこなしていかなければなりません。
しかし、管理部門に権限を与えすぎると、中央集権的になってしまい、他部署の従業員に対して高圧的になってしまいがちです。例えば、申請書等の提出書類に何か不備があると、現場の状況も理解しないまま、すぐに再提出を要求するようなケースや直接部門が必要としている物品等の購入が、経費削減の観点からスムーズに進まないケースも発生します。
逆に直接部門に力が集中しすぎると、自分たちが稼いでいるから企業が存続できていると思い込んで高飛車な態度になることもあります。「自分たちがいなければ、他部門の人たちは存在できない」「自分たちの部署が一番忙しい」等と言ってしまうこともあります。こうなると、お互いの反発を招き、部門間の対立に繋がってしまいます。
それぞれの部門は、企業の中でそれぞれに求められた必要な機能を果たしているので、それぞれが反目することではないのですが・・・

誤解されがちな「バックヤードのブレーキ目利き力」
「バックヤードのブレーキ目利き力」とは、支出の締め付け等、いたずらに何でもブレーキをかけることではなく、戦略的に必要な投資は積極的に進めていく一方で、ムダな支出は締めることです。
経営計画や事業計画に沿った経営・事業運営の進捗確認、売掛金回収や在庫の適正管理等、要するに、お金の出入りを几帳面に管理し、資金繰りの安定化を図り、企業を破綻させないようにすることが最大の目的なのです。経営に深く関わる情報の収集と経営者等への情報提供が本来の役割なのです。
与えられた情報を基にアクセルとブレーキの匙加減を決めるのは、経営者の仕事です。そして、それをフォローするのが経営層や管理職の役割なのです。

管理部門の重要性
管理部門が担う業務なくして企業活動は成り立ちません。なぜなら管理部門の業務は、企業活動の根幹である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」という経営資源を管理する役割を担っており、経営と密接に関係しているからです。
事業規模が拡大し、組織が肥大化してくると、経営者1人では十分な目配りができなくなりますから、管理部門の強化が必要になるのです。
管理部門が強化されることで、企業が持つ経営資源を最大限に活用することができ、業務改善や生産性向上の実現、さらにはより精度の高い経営判断にもつなげることができるのです。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大、エネルギー価格や物価の高騰によるインフレ傾向へのシフトチェンジ、高齢化による構造的な人手不足、IT技術の進歩、さらに「働き方改革」への対応では、医師、建設業、運輸業に対する時間外労働規制の適応猶予が2024年3月末で終了します。これまでにないほど企業を取り巻く経営環境は複雑化、高負荷化してきています。
そんな現状を鑑みると、管理部門の強化が一丁目一番地の経営課題といっても過言ではありません。管理部門の体制や機能が脆弱な組織ほど人材の流動性も高いと感じています。
紹介したモデルケースは、管理部門の弱体化も一因となり、離職者が増えたことで損益の悪化に繋がったと考えられます。多くの企業において「人手不足」は大きな課題であり、「優秀人材の採用」と「人材の定着」を如何にしていけばよいかは、非常に身近なテーマではないでしょうか。
従業員の離職率を低下させるためには、労働時間の短縮や給与の改善、職場の人間関係の改善、仕事のやりがいの向上等、様々な施策を講じる必要があります。中でも、心理的安全性の高い職場環境を整備することは重要です。心理的安全性の高い職場では、従業員は安心して働くことができ、生産性や創造性が向上します。
心理的安全性を高めるうえでも、企業の屋台骨となる管理部門の強化は必要だと考えます。

管理部門の種類と業務内容
管理部門強化の重要性を理解して貰うために、管理部門の種類や業務内容を確認します。改めて確認してみると、業務は非常に多岐にわたっており、企業の心臓部の業務を担っていることが再認識できると思います。
総務
総務は、社内環境の整備や従業員のサポート全般を担います。
建物管理や備品・機器類の購入、福利厚生の整備等が主な仕事です。

人事
人事は、人材採用や人員配置、従業員研修等、人事業務全般を担当する部署です。
企業の説明会や従業員募集の広告作成、応募書類の管理等、幅広い業務を行います。また、経営層と連携して、どのような人材を採用するのか等の人事戦略の構築を支援することも人事の仕事の一つです。

労務
労務は、従業員の労働に関するさまざまな事務業務を担当する部署です。
例えば、従業員の勤怠管理や社会保険の手続き、労働環境の整備等を行います。

経理
経理は、企業のお金に関する業務全般を担う部署です。
請求書や領収書の発行や経費精算、給与計算、帳簿作成等、企業のお金に関わる様々な業務を行います。

財務
財務は、経理と同様にお金に関する業務を担う部署ですが、経営計画や事業計画の財務部門の企画や資金繰りを管理して資金調達を進める等、将来的な資金管理業務が主体になります。

法務
法務は、企業の法的業務全般を担う部署です。
例えば、契約書作成やリーガルチェック等、他社との取引や契約に関わる業務、社内ルールの策定等を行います。また、日々の業務が法律を逸脱していないかを把握することも法務の重要な仕事の一つです。最新の法改正について正確に把握することが求められます。

情報システム
情報システムは、企業内のITインフラの構築・運用・保守や、業務システムの運用等を担当する部署です。
企業のさまざまな課題に対して、ITを活用した課題解決の企画等を行うこともあります。他にも、従業員・顧客に対する技術サポートや、企業のセキュリティ対策にも携わる等、仕事内容は多岐にわたります。

中小企業においては、ここに掲げた多岐にわたる業務を企業規模に見合った必要範囲に絞り込んで、限定的なスタッフや複数業務の兼務によってカバーしながら進めています。

管理部門の強化策
管理部門の業務の目的は、経営者が掲げる「経営の目的を達成するために支援すること」であり、目的達成に向けて策定された経営計画や経営戦略を実現するための重要な役割を担うことです。
具体的には、①企業の拡大・成長に向けた人材採用、②業務管理システムの構築、③管理会計制度の導入、④取引先の与信管理、⑤売掛金の管理、⑥従業員の労務管理、⑦コンプライアンス遵守対応等です。
管理部門を強化するための重要な取り組みは、2つあります。
1つは、管理部門は徹底的に効率化・合理化を図るということです。
管理部門は、売上に直接関わる部署ではないので、日常業務を定型化したり、IT化・システム化したり、業務を選別して不要な業務を廃止したりして効率化・合理化することが大切なのです。
もう1つ重要なことは、管理部門のスタッフが、経営者や経営層と連携を取りながら、経営目線を持って業務に取り組むということです。
管理部門のスタッフが経営視点を持って業務に取り組むようになると管理部門の戦力化に繋がります。

管理部門を戦力化するために最も重要なことは、経営者・経営層と管理部門の対話による意思疎通です。
企業の中で、経営に関わる重要な情報や忖度のない現場の課題が集約されているのは管理部門です。その部門に従事しているスタッフが一番情報を持っているのです。それにも関わらず、経営者や経営層と管理部門のスタッフとの意思疎通は十分だとはいえないと感じています。
管理部門のスタッフが業務処理だけを黙々と行っており、直接部門から文句を言われることも多く、経営者や経営層からもほとんど目をかけてもらえない。そういう環境では、管理部門のスタッフのモチベーションも低下してしまいます。
管理部門の仕事の生命線は経営方針等の共有とその理解にあります。管理部門のスタッフが経営方針や経営計画等について理解されないまま、単に定型業務だけこなしているのは非常に勿体ないことであり、不健全な状態だと思います。
例えば、戦略的に事業の拡大に向けた人員増加や設備増強のために先行投資を行う場合、管理部門にその意図がしっかり伝わっていないとお金を管理する管理部門のスタッフとしては、支出だけが増えていく状況に不安になってしまい、支出を抑制しようと考えるのは当然だと言えます。

経営者や経営層は管理部門のスタッフと対話の機会を数多く持ち、企業としての方針や自身の考え、今後の計画等についてじっくり伝える場を持つとともに、管理部門のスタッフの持つ現場の困り事や、数字やお金に関すること等に関する正しい情報の共有に努めなければなりません。管理部門の仕事は、企業の経営方針、経営計画との強い連動が求められるため、経営者や経営層との対話を通じて、きめ細かく情報共有する必要があるのです。

直接部門と間接部門のバランスの取れた組織運営が不可欠です。このバランスが崩れると収益の悪化等、必ず数字やお金にもその影響が出てくることは、経営者や経営層がしっかり認識しておかなければならないと思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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