「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」
このブログの第25回で「組織崩壊の予兆とその防ぎ方」をテーマに投稿させていただきました。
組織崩壊の予兆を防ぐためには、小手先だけの対応では実効性が伴わない。そんなに甘くないなと感じたので、今回は、組織崩壊の未然防止とガバナンスの強化やコンプライアンスの徹底を関連付けることで、より理解が深まり、実効性が高まるのではないかと考えて、あらためて取り上げてみることにしました。
まず、第108回では「組織崩壊を未然に防ぐガバナンスの強化」と題して、「ガバナンスの強化」の視点から考えてみたいと思います。次回以降に「コンプライアンスの徹底」という視点からアプローチをしてみようと思っています。
企業経営が破綻する2つの理由
企業経営が破綻する理由は、大きく分けて2つあると思っています。1つは、継続的な赤字等による資金繰りの崩壊、もう1つは、人心掌握が上手くいかないことによる組織の崩壊です。
損益状況や資金繰りは目に見えるので、タイムリーに事実を確認し、事前に対策を打つことができます。
しかし一方、組織の崩壊は人の感情といったことが主要因になるので、人の五感の知覚に頼っても事前に察知することが難しいという特徴があります。
そのため、組織や人に関する課題等は、気付かないうちに水面下で徐々に進行し、表面化した段階では既に手遅れになっていることが多く、対応のしようがないこともしばしばです。
従業員のモチベーションや従業員エンゲージメント、さらに従業員満足度を高めるために、「円滑なコミュニケーション」等、人に関するマネジメントには、なにより神経を使わなければならないのです。
現場目線から見た組織崩壊の予兆
今回は、スタッフ等、現場目線から組織崩壊の予兆について、あらためて確認してみます。
①エース級スタッフや問題人物の出現
飛び抜けて優秀なエース級のスタッフや言動に問題のある問題人物(トラブルメーカー)等「異質なメンバー」の出現です。こうした人物の出現により必ずしも組織が崩壊するわけではありませんが、一定の注意が必要です。特に気を付けなければならないのは、エース級のスタッフが崩壊の予兆になり得るということです。
エース級のスタッフの働きに影響されてチーム全体のパフォーマンスが底上げできるというメリットもある一方で、エース級のスタッフの働きが他の従業員のやる気を削いだり、成長を阻害したり、エース級のスタッフだけが高く評価されることに対して、納得がいかなかったり、嫉妬したりする従業員が出てくる可能性もあるのです。
優秀な従業員は組織にとって良い存在に思えますが、そういった従業員のことについては、他の従業員は誰も、ネガティブな事を言いづらいので、うまくマネジメントできないと気付かないうちに他の従業員の反感を招き、職場の雰囲気を悪くすることがあります。
②マニュアルに依存しすぎる
業務の平準化にマニュアルは重要ですが、何でもマニュアルに頼ったり、どんな場合でもマニュアル以外の行動を許さなかったりするようになると、それは決して良い状態とはいえないのです。従業員の対応に柔軟性がなくなり、硬直的や形式的になって自発的な行動等がしづらくなるからです。
その結果、積極的に企業に貢献してくれていたはずの優秀な従業員を腐らせてしまい、「この組織では何を言っても無駄だ」というネガティブな空気が生まれてしまう恐れがあります。
③情報伝達や指揮系統が乱れる
組織が肥大化した結果、情報や指示が伝わりにくくなったり、「誰が誰に指示を出すのか」という指揮系統が乱れたり、「この仕事は誰の担当か」という職域が曖昧になったりするリスクが高まります。また、リーダーによって言うことが変わったり、担当がはっきりしないまま業務を押し付けられたりすると、従業員のモチベーションは下がってしまいます。このように指揮系統が乱れてしまうと職場の秩序が失われます。
④イエスマンが増える
イエスマンとは、自分の信念を持たず上司等の指示に対して無批判に従う人のことです。イエスマンが多いということは、ヤル気のない無責任な従業員が多いということです。
従業員がイエスマンになってしまうのは、自分の意見を主張すると周りから叩かれたり、主張しても相手にされなかったりする組織風土や企業体質が組織にあるからかもしれません。つまり、「何を言っても無駄だ」という組織風土や企業体質がイエスマンを生んでしまうのです。
⑤離職率が上昇する(特に優秀な従業員)
従業員が次々と退職し、離職率が上がってきたら要注意です。残った現場の従業員も退職者の増える理由が組織にあると考えるようになるからです。つまり、組織が様々な問題に対処しないまま放置した結果、従業員エンゲージメントやロイヤルティを低下させ、退職者の増加・連鎖に結びついてしまうのです。
深刻なのは、ほとんどの場合、優秀な従業員から先に辞めていくことです。優秀な従業員には業務が集中しやすく、不公平感や閉塞感が生まれがちであり、優秀な従業員なら転職先も見つけやすいので、崩壊間近の組織にしがみつく理由がないのです。そうなると、優秀な従業員が去ってヤル気のない従業員だけが残されます。
そんな状態で採用を進めても、新人を正しく教育してくれる人もいないので、組織を立て直すのは容易ではありません。
⑥1人あたりのタスク量が増えて残業が増える
適切な範囲で1人あたりのタスク量が増えるのは、組織が順調に成長している証であり、必ずしも悪いことではありません。
しかし、人員不足等により適正な業務分担ができないために、誰か特定の人に負担がかかって、余りにも残業が続くと、業務効率や従業員のモチベーションが低下してしまいます。従業員のモチベーション低下は職場全体の雰囲気に大きな影響を与えます。
⑦社内で対立や不信感が蔓延する
さまざまな問題が水面下で進行した結果、末期症状として表面化した状態が、社内での対立や不信感の蔓延です。
誰の目にも分かるほど対立や不信感が見える組織に、優秀な従業員がいつまでも残りたいとは思いません。
離職率はさらに上昇し、1人あたりの業務負荷が増大、業務が回らなくなります。新人を採用しても満足に育成できず、負のスパイラルに陥って、組織力は目に見えて落ちていきます。
「ガバナンス」とは
「ガバナンス」とは、管理体制を構築し、組織をまとめることを指します。
企業のガバナンスのことを「コーポレートガバナンス)」と呼びます。上場企業向けに東京証券取引所が作成したコーポレートガバナンス・コードでは、コーポレートガバナンスは「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義されています。
組織崩壊の予兆を防ぐためには、この「ガバナンスを効かせる」ことが重要だと考えます。
「ガバナンスが効いている状態」とは、企業の管理体制が徹底していて、内部統制がしっかり取れているということです。具体的には「経営の方向性が定まっている」「社内の業務フローが統一されている」「管理体制が整っている」ことを指します。
一方、「ガバナンスが効いていない」というのは、管理体制が取れていない、経営の方向性が常にブレている等、内部統制の運用が適切に行われていない状態です。
ガバナンスの強化
「ガバナンス」を効かせるためには、ガバナンスを強化する必要があります。
ガバナンスの強化とは、「企業価値の向上」「エンゲージメントを高める」「経済のグローバル化に応える」等を目的として、企業運営における組織としての統制、管理・運営体制を法的にまたは自らの組織が決めた社内規程・ルール等に従って管理できる仕組みにすることです。具体的には、組織のあり方を見直す、不正防止を徹底する等の内容が含まれます。
ガバナンスを強化することで、企業の信用価値が高まるとともに、企業への愛着が広がり従業員との関係性が強化されるので、不祥事の発生を未然に防ぎやすくなり、企業の経営戦略の視点からも重要です。
ガバナンスを強化する、またガバナンスを効かせるためには、大きく分けると「人」「組織」「ルール」の3つの観点から取り組みを進めることが求められています。
1 人の意識改革と行動変容
①経営者及び経営陣の意識改革と行動変容
②実行可能な人材の確保・育成
③仕組み・ルールを全従業員に周知徹底し、全社的に実践されるための教育体制の構築
2 組織としての仕掛けと仕組みの構築
①組織図の整備、権限と責任の明確化・意思決定のルール、業績管理のしくみ、人事制度の確立による組織の基盤固め
②事業ドメインの定義による経営資源を集中すべき分野の明確化とより強い自社ブランドの構築
③利益の最大化を目指した業務プロセスの見直し:「効率化によるさらなる利益の最大化」「業務の標準化による業務プロセスの最適化」「各業務で懸念されるリスクの回避」
④貸借対照表のスリム化と収益力向上による財務基盤の強化
3 判断基準や行動規範等のルールとモニタリング体制の整備
①企業の行動規範や倫理憲章の作成とコンプライアンスの徹底
②コンプライアンスの徹底、リスクマネジメント、内部監査実施等を含む内部統制の構築
ガバナンス強化の取り組みを阻害する「人の壁」
ガバナンスを強化するための新しい取り組みを始めていくうえで、最も大きな障害は「人の壁」です。
最初の「人の壁」は、経営者や経営陣です。経営者や経営陣がガバナンスの必要性・重要性・その効果等をきちんと理解しているかどうかです。
一般的に、オーナー経営者の場合、次のような課題があるので、ガバナンスの強化が進まない要因になっています。
①オーナー経営者の判断・意思決定が全てであり、経営幹部や従業員の意見等はほとんど意思決定に反映されない。
②統治・管理体制は整っているものの、形式的であり、実質的に機能していない。
③ガバナンス体制を構築できる人材がいない。
④社外人材を導入する意思・許容度がない。
⑤体制の見直し、人材の確保等のためのコストを負担する余裕がない。
経営者が先頭に立って、必要性・重要性を認識し、進めていかない限り、ガバナンスの強化は実現できません。
次の「人の壁」は、従業員の反発です。元々、人間という生き物は変化を嫌います。これまでのルーティンを変えることに対して、もの凄く抵抗するのです。そのため、新しい事を始めるときには、計画を立てて、時間をかけてゆっくり進めていく必要があります。
例えば、バックオフィス業務のIT化を進めようとしたり、様々なルールや規則を変更しようとしたりしても、それが従業員にとって利便性が増したり、利益になったりすることでも、ほとんどの場合、多くの従業員からネガティブな意見が出され、スムーズに導入することは難しいのが現実です。
ガバナンスの強化は、トップダウンで進めるものですが、全社に周知・徹底する際には、上から目線にならず、取り組み内容、取り組みの必要性、具体的な行動、従業員のベネフィット等について、丁寧に時間をかけて説明し、全員の納得を得、意欲的に取り組もうという意識にさせることが大切です。
どんな規模の企業であっても、経営者・経営陣の意識を改革し、具体的な対応策を実践できれば、規模に応じたガバナンスの効いた企業になることは可能なのです。
ガバナンスの効果
① 労働環境の改善
従業員の業務範囲や責任範囲を明確にすれば、タスクの漏れを予防し、該当する責任者が業務を監督するようになります。命令系統を整理すれば、従業員が複数の上司から指示を受けて混乱する事態もなくなります。
労働環境を改善することにより、より働きやすくなり、離職率の軽減につながります。その結果人材が安定、充実し、企業活動が円滑になるという好循環が生まれます。
② 従業員エンゲージメントの向上
労働環境の改善が進み、従業員とのエンゲージを高めることができれば、組織全体も活性化します。エンゲージの高い組織は、従業員同士で活発な意見交換が行われ、企業だけではなく、従業員自身の成長につながっていくのです。社内全体のエンゲージメントが高まれば、強固な組織体制が構築され、チーム単位、個人レベルでの生産性の向上も期待できます。
③ 企業価値の向上
従業員エンゲージメントが高まることで、対外的な信用力・評価が高まり、企業の社会的価値(企業価値)を向上させることができます。結果として、ステークホルダーの利益を守るとともに、企業の中長期的な発展につながっていくのです。
④ 企業の持続的な成長力や競争力の向上
企業価値の向上により、企業経営が円滑に進むようになれば、中長期的に成長力を向上させることができるようになります。そうなれば自ずと、新規事業投資や優秀な人材獲得もしやすくなるため、より競争力を高めることができます。
結果的に雇用も安定し、従業員は能力を発揮しやすくなるため、生産性の向上にもつなげることができます。ガバナンスの強化により、このような好循環を生み出していくことが可能になります。
⑤ 財務・経営体質の強化
企業として規模を拡大していくためには、金融機関からの融資等により投資資金を獲得してゆく必要があります。企業の持続的な成長力や競争力の向上により、健全な経営を推進することができます。その結果、業績の向上や改善が進み、企業としてのガバナンスが効いているとみなされることで金融機関等からの信用度は高くなり、企業価値を高めることができると判断されれば、融資等を受けやすくなります。
⑥ 企業の不正防止
①~⑤の実現により、組織全体に良い意味での余裕ができるので、経営陣による経営の暴走、不祥事発生等の抑止や情報化の急速な進展に伴う管理体制不備による重要情報の外部流出・漏洩等、企業の信頼性喪失の抑止に繋がります。
本来求められている企業としての管理体制が徹底されていれば、企業の私物化、組織内部の腐敗、不正会計などさまざまな問題を未然に防ぐことができるのです。
ガバナンスの強化と組織崩壊の予兆の抑制
「人」「組織」「ルール」という切り口からガバナンスの強化に取り組むことで、ガバナンスの効果に示した6つの効果が、それぞれお互いに密接に関連しながら、企業としての好循環を生み出すことができます。
こうした取り組みを進めることにより社会的に認められることで従業員の意欲が高まり、生産性も向上し、その結果、企業としての評価(価値)が上がることが期待できます。
企業としての基盤が固まれば、従業員の「心理的安全性」も担保され、組織崩壊の予兆に列挙した課題の解決に繋がるのではないでしょうか。
ガバナンスの強化は守備範囲が広く、そうなれば理想だけどね・・・と、取り組みに億劫になる経営者等もいらっしゃると思います。その必要性・重要性をしっかり認識し、取り組むという強い意思を持つことで、多少ハードルが高くても実現可能だと思います。
経営者自身のホンキのヤル気の持ち様が、「分水嶺」なのです。
企業としての統制がとれて、ガバナンスが効いていることで、適切な業績を継続的に達成できていれば、社会的にも優良な企業として認められるのです。
投稿者プロフィール

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LINK財務経営研究所 代表
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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