第21回 緊急提言「雄蕊流 地域金融機関の生き残り戦略」

金融

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第21回は緊急提言「雄蕊流 地域金融機関の生き残り戦略」と題し、雄蕊が40年近く身を置いている中小企業金融の現場レベルから見える景色を基にして、雄蕊なりの「地域金融機関の生き残り戦略」について提言します((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

《地域金融機関を取り巻く環境変化》
前金融庁長官遠藤俊英氏が、長官時代に行った「地域金融機関の経営に関する講演」についての記事がネット上にあったのでその要旨を紹介します。

・融資を中心にしたビジネスモデルを大きく変える時代になった。人口減少や超低金利等の厳しい環境下で、新型コロナウイルス感染拡大の影響が地方を直撃している。地域経済を支えるため、金融機関は再編や公的資金の活用も含め自ら改革を決断しなければならない。
・金融機関に求められる改革は、コロナ前と変わっていないが、時間軸は短くなっている。コロナ禍で融資先企業の業況が急速に悪化している現状のなか、中小企業の廃業を回避するための事業承継や経営を担える人材の紹介、企業の合併・買収(M&A)等、融資先の課題解決に対する真摯(しんし)な対応ができるか否かにより地域金融機関の真価が問われる。
・地方銀行の生き残り策は、自分たちの組織の存立にとどまらず、中小企業や地域をどのようにしていくのか大きな視野を持って経営判断することが重要

また、後任の氷見野良三金融庁長官のインタビュー記事がネット上にありました。その中でコロナ後の経済回復に向けた施策について次の3つを挙げています。
①資金繰り支援
事業者の資金をつながないことにはその先に進まない。これまでの制度融資を含め資金はかなり行き渡ったが追加でできることがないかを検討する。
②経営改善・事業再生
コロナで先が見通せないのに絵を描こうといっても難しい面があるが、そこをどうサポートするかがバンカーとしての一番の仕事
③時間軸は先になるがコロナ後の経済社会への転換をどう支えるか
これから世界経済はコロナ後に対応して新しい成長の道を見いだす経済と、コロナの後始末に手間取って停滞を続ける経済の2つに分かれる。日本は最初のグループに入らないといけない。企業の新たな挑戦を支えるため、前向きの金融機能が必要。銀行だけでなく資本市場の役割もある。いまの日本の金融システムは企業の挑戦を支え、そのリスクを分散するという機能に優れているとは言えない

一方、地方銀行の経営改革の推進について次のようにコメントされています。
地域には産業構造の変化や事業承継、高齢化などさまざまな課題がある。他方で大きな可能性がある。地銀は地域の人材の宝庫だし、長年積み重ねた地域からの信頼やネットワークもある。課題と資源を組み合わせればポテンシャルはある。
活動の制約があるならば金融庁も事業範囲規制の見直しなど積極的な規制緩和に努めるべき
5月に地銀の統合・合併を促す特例法が成立した。経費面でも、地域をサポートする選択肢を広げるという意味でも、再編はひとつの有力な選択肢。再編の加速が地域金融行政の成功だという数値目標を持っているわけではない。再編なしに地域課題を解決して経営を強化する道もある。

《地銀等の地域金融機関は「瀕死状態?」》
地銀等の地域金融機関が瀕死状態に陥っている(?)最大の原因は、地域の人口と企業の減少により、融資先がなくなっていることです。加えて、2013年から続く日銀による異次元の金融緩和で金利が消滅し、本業である預貸取引で収益を上げられなくなったことも拍車をかけていると思います。
地銀等の地域金融機関は、店舗統廃合によるコスト削減や取引先の数字に表れない経営力評価に重きを置いた融資の推進(リレーションシップバンキング、事業性評価融資、成長性評価融資等)による改革を進めています。しかし、それだけでは不十分であり、全国各地で、生き残りをかけた合従連衡・再編が進められています。

また、個人向けの住宅ローン等の不動産関連事業に活路を求める地銀等の地域金融機関が増えています。しかし、不動産関連事業に積極的に踏み込み、業績を伸ばしたものの、最終的につまずいたのは、そうした地域金融機関であることも事実です。不動産関連事業は高リスクといえるかもしれません。
足元で心配なのが既存の住宅ローンの滞納の増加懸念です(地方銀行の住宅ローンシェアは高くはないが…)。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今後、さらにリストラによる失業者の増加が見込まれます。失業しないまでも、ボーナスはかなり減額されると思われます。ボーナス支給月に住宅ローンの滞納が続出することが懸念されます。
もう一つの懸念材料が金利の上昇です。今回、緊急経済対策のために国は数十兆円に上る国債を新規発行します。もし市場で国債の消化が不調だと金利は数%上昇してしまいます。多くの住宅取得者が変動金利で借入しており、金利が1%でも上がると、返済額が増えて、たちまち滞納が続出する可能性があります。つまり、リストラ、ボーナス減少や金利上昇による住宅ローンの不良債権化による地域金融機関の破綻が近い将来起こる可能性もあるということです。

2020年3月、政府は、金融機関に対して新型コロナによる中小企業の資金繰りの逼迫に対応するよう要望しました。それを受けて、全国の金融機関が緊急融資制度を活用し、その実績を伸ばしています。
地域金融機関は、地域経済を金融面で支えるという本来の役割・機能を発揮し、その存在感を示していますが、緊急融資を活用する企業は、すでに資金繰りに困窮し、返済能力が疑わしい企業が大半だと思います。緊急融資で延命できたとしても、将来、返済不能になり、金融機関は大量の不良債権を抱え込む可能性が高いのではないでしょうか。懸念しているのは、リーマンショック後に起きた金融危機の再燃です。
地域金融機関としては、「国の方針に従い、地域経済を支えるという役割を果たすため、緊急融資には、使命感を持って取り組んでいる」という優等生の回答を表向きにはするでしょうが、本音はどうでしょうか。
「国が音頭を取る政策的な案件であり、仮に不良債権になっても、国が補てんする等、最終的には面倒を見てくれるだろう」
「中小企業は、これまでの危機を乗り切るため、もうお腹一杯の融資を受けている。これ以上の返済能力は期待できないのが事実、キャッシュフローではなく、資本増強の視点で政策を打って欲しい」
「緊急融資の信用リスクは重々承知、しかし、国の方針であり、地域経済を支える役割を考えれば、覚悟を決めて突き進むしかない」
こんなところでしょうか。
緊急融資は、原則として3年間無利子、元金返済猶予最大5年です。不良債権が表面化するのは、有利子になる3年後、あるいは元金返済が始まる5年後だと思います。現状が続けば、それまで待たずとも倒産・廃業する企業が増加し、もっと速い時間軸で不良債権化が進むかもしれません。

《金融機関の功罪》
金融システムの安定化や銀行業務の健全な運営の維持を目的とし、金融機関の自己資本に関して海外営業拠点を有する銀行に対しては国際統一基準の採用が、海外営業拠点を持たない銀行に対しては国内基準の採用が求められています。バーゼル合意とは、バーゼル銀行監督委員会が公表している国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際統一基準のことです。日本を含む多くの国における銀行規制として採用されています。

2001年頃、民間金融機関の激しい「貸し渋りと貸し剥がし」が起きました。この時期、金融機関は「不良債権処理問題」を抱えており、不良債権処理を進めるにあたり、不良債権の増加の抑制と自己資本比率を高める必要があったのです。
「自己資本比率=自己資本÷総資本(総資産)」です。自己資本比率を高めるためには、増資や増益によって自己資本を高めるか、総資本(総資産)を圧縮するかのいずれかです。金融機関にとって企業に対する融資金は資産です。不良債権化するリスクの高い業績のよくない企業に対する融資の引き上げと新規融資の抑制により不良債権の新規発生の抑制と総資本(総資産)の圧縮を図ることにしたのです。この結果、中小企業への円滑な資金供給に支障を来すことになりました。

2009年12月に中小企業救済のため、金融機関に対して「返済困窮者からの返済の猶予や返済期間の延長、金利の減免などの条件緩和要望には誠実に対応すること」を求めた中小企業金融円滑化法(通称モラトリアム法)が施行されました。緊急事態に対応して円滑な金融措置を取ることは必要ですが、それが常態化してしまうことは、企業のモラル低下や金融システムの悪化といった負の側面にもつながる可能性があります。事実、この法律の施行により、リスケ対応を推し進めた結果、今も数多くのゾンビ企業が生き残っています。

《地銀等の地域金融機関に求められる役割・機能》
コロナ禍で、地銀等の地域金融機関に求められる役割・機能は、資金繰り支援だけでなく、取引先企業の経営全般にわたる支援まで踏み込まなければならなくなってくると思われます。企業支援、事業再生そして地域再生が地域金融の最大のテーマとなるのです。
菅首相が目指す地方銀行再編の真の目的は、地方銀行の体力増強を図り、コロナ禍で産業構造の転換という未曽有の事態に挑まなければならない企業を支援し、地域経済の活性化に貢献させることではないでしょうか?
企業はどれだけ赤字が続いても、資金繰りがついている限り、潰れることはありません。金融機関の本来の役割は、すでに役目を終えている企業を市場から退場させ、再生・再建を促し、健全な市場を維持することがあります。金融機関は、貸出先企業に対して本当に再生・再建できるのかをしっかり見極めて対応するべきです。再生可能な企業に対しては、様々な手を尽くして自律回復が可能な損益の改善を達成することが真の経営改善支援です。売り上げも利益も下げ止まらず、構造不況業種に陥り、再生の見込みのない企業に対しては、下手に金融支援をしないで、債務圧縮やM&A(企業の合併と買収)、事業承継、最終的には段階を踏んで、市場から退場させる支援こそ必要なのです。
それでは、こうした役割を担うことを求められている金融機関に勤務する人財(以下、金融人財という)が、皆万能かと言えばそうではありません。強みもあれば弱みもあります。金融人財は、残念ながら「事業のアクセル目利き力」は乏しいといえます。同業者や専門の取引業者に比べれば、銀行員は融資先の事業をよく知らないからです。サプライチェーンの線上で、その業種に特化した知識を有している専門業者の担当者と同等の目利きが難しいことは当たり前だといえます。また、リスクのコントロールも容易ではありません。
「事業のアクセル目利き力」が乏しいことのもう1つの要因は、預金取扱金融機関には預金を安全に運用する使命があり、金融機関の本性はブレーキ役であり、アクセルを踏む側に立つのは難しいからです。金融人財には、融資先が破たんしないか、仮に破たんしても貸し倒れが発生しないかを厳しく見極める習性が染みついているのです。
一方で、「バックヤードのブレーキ目利き力」は得意分野です。金融機関は、事業の将来性や経営者の才能を見抜くのは不得手かもしれませんが、決算書や事業計画書に隠されたウソや矛盾を見抜くのは大得意です。帳簿の整理がどうかとか、売掛金管理や在庫管理が適正に行われているかとか、事業場の整理・整頓・清潔・掃除・躾が行き届いているかとかもよく見ています。要するに、キャッシュの出入りを几帳面に管理し、資金繰りの安定化を図ることが最大の関心事なのです。決済インフラの担い手であるがゆえに運用先の返済能力を厳しく見極める習性は、他業態に比類ない強みなのです。
「事業のアクセル目利き力」と「バックヤードのブレーキ目利き力」については、雄蕊自身も納得できることです。金融機関で飯を食っていた雄蕊にとって、確かに「バックヤードのブレーキ目利き力」は優れていると自負していますが、「事業のアクセルブレーキ目利き力」は欠如していると実感しています。そのため、中小企業の財務の現場で経営者と「アクセルを踏もうとしているのに、ブレーキをかけるな!」「コストカットではない。事業拡大に向けた投資は必要なんだ!」丁々発止の遣り取りは、日常茶飯事となっています。この2つの目利き力がうまくバランスすることができれば最強!です。

《地域金融機関の課題はホンモノ金融人財の育成》
コロナ禍における金融機関の果たすべき役割・機能については、これまでこのブログでも第2回 新型コロナウイルス関連「緊急経済対策」、第3回 危惧される「倫理の欠如(モラルハザード)」、第8回 アフターコロナ時代の金融機関に求められる機能、の概要で意見を述べさせていただきました。
地域金融機関が生き残るためには、自機関の組織としての存立にとどまらず、中小企業や地域社会をどのようにして活性化いくか大きな視野を持って経営判断することが重要だと言えるのではないでしょうか。
その経営判断の1つとして今後取り組むべきことが、「バックヤード人財」の育成です。前述したように基本的に金融人財は、「バックヤードのブレーキ目利き力」には長けています。一方で、中小企業に一番不足している人材は、この「バックヤード人財」なのです。だから、金融機関の子会社等のコンサルティング会社の担当者が、いくら現場に行って、課題や問題点を見つけ、改善策を提案したところで、現場にはそれを改善できる人財がいないのです。中小企業にとって、評論家は不要です。つまり、現場は、企業評価や改善提案をするだけに留まる「コンテンツ・コンサルティング」ではなく、一緒に汗を流す「プロセス・コンサルティング」を求めているのです。

中小企業の現場で、「経営者と一緒に戦略・戦術を考え、現場従業員とともに汗を流すことができる奴」を育成し、現場に送り込むことで、企業や地域社会の活性化に寄与することができると信じています。

雄蕊は、「金融機関は、本気になって、バックヤード人財の育成に取り組むべき」だと提言します。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

コメント

  1. 和田孝三 より:

    「こくゆう」で貴兄のご活躍をしり、恥ずかしながら筆をとりました。
    貴兄のご高説なるほどと思いました。不勉強の為現在の中小企業の置かれている
    さまは厳しいのでしょう。それに向かっての貴兄の役割は大きいでしょうね。
     益々のご活躍を

    • 矢野 覚 矢野 覚 より:

      ご無沙汰しております。
      投稿ありがとうございます。感激いたしました。
      東京支店時代のことが数多く思い出されます。
      微力ながら、恩返しのつもりで支援事業に取り組もうと思っております。
      コロナ禍、どうぞご自愛ください。

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