第85回 借金経営の神髄~借金経営で事業の成長・拡大を図ろう~

金融

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第85回は「借金経営の神髄~借金経営で事業の成長・拡大を図ろう~」と題して、金融機関からの借入が資金調達のメインになる中小企業の借入に依存した経営について考えてみようと思います。

 

「借金経営」と聞くと、暗いイメージが沸くかもしれませんが、金融機関から借入が出来るのも信用があるからこそです。以前にもこのブログで書いたと思いますが、「無借金経営」が必ずしもいいとは限らないのです。それは経営者の判断によるところが大きいと思います。

ここ半年くらいで、いくつかのクライアント企業様の金融機関からの資金調達をお手伝いさせていただき、また地域金融機関様から取引先の資金繰り改善に協力して欲しいと新しいクライアント企業様を紹介していただきました。
関わったクライアント企業様の金融機関からの借入については、すべて希望どおりの融資を受けることが出来ました。久しぶりに本業である数字とお金に関連した仕事をさせていただいたと思っています。

具体的には、大型プロジェクトのための設備投資資金、創業資金、経営安定化に向けた長期運転資金、赤字補填のための短期資金の借入のお手伝いをさせていただきました。

その中でも最も難関だと思って取り組んだ大型プロジェクトに掛かる大口融資について、事業計画を策定し金融機関と交渉を行って満額の有額回答を貰うことに成功しました。
相手の金融機関は公的機関で決済機能をもたない一定の業種に特化した融資専門機関です。そのため、普段からの口座取引等の付き合いは一切無く、融資相談が初めての接点でした。
金融機関側からみれば、全く得体の知れない企業に対する融資の可否を検討するのですから、こちらとしては、如何に事業計画で融資を受ける側の企業をアピール出来るかがポイントになります。

政府系機関の決裁者として事業資金の融資決裁を仕事として行っていましたので、自身が決裁するうえで必要な情報を事業計画にしっかり網羅しました。融資判断の勘所を熟知していればこそ上手くいったと思っています。
終わってみれば、金融機関からの質問も少なく、突っ込んだ内容の質問もありませんでした。通り一遍のごく普通の金融審査で、融資決定を受けて内心ホッとしています。

しかし、最初からこんな風に上手くいった訳ではありません。現在の仕事を始めた当初は、政府系金融機関と民間金融機関では考え方も違っており、金融機関勤務時代に培ってきた経験と知識だけでは民間金融機関との交渉は上手くいかず、試行錯誤の繰り返しでした。

財務コンサルタントとしての初めての仕事は、あるクライアント企業のリスケ交渉でした。
最初にリスケ交渉のためにメインバンクに行ったとき、当時の副支店長から「こんな弱気な事業計画では応じられない。社長を連れてきて釈明させろ!」と事業計画書を突っ返されました。これがこのクライアント企業のメインバンクである地方銀行との付き合いの始まりです。副支店長の物言いには問題があるなとは思いましたが、仰ることは至極ご尤もなことで「誰が見てもそう思うし、そう言うよな」と怒りよりも素直に腹落ちできたと記憶しています。メインバンクの指示に従い、事業計画を作り直して、あらためて取引先金融機関に頭を下げてお願いして回り、なんとかリスケには応じて貰えましたが、それから1年間、毎月債権者である金融機関を集めたBKミーティングを行い、月次の業績報告をしなければならなくなりました。
提出資料も会計ソフトで作成した資料を部門別に分解し、エクセルで作成し直した部門別月次損益計算書や月次資金繰り予測・実績対比表等、手間の掛かる資料を毎月作成し、銀行を納得させるための進捗の報告を毎回考えて繰り返し説明し続けました。

金融機関との信頼関係もなく、クライアント企業もメインバンクが描いたとおりの収益があがっていなかったので、クライアント企業の債権は不良化する懸念が大きかったのです。だから、金融機関側には問題債権としての認識しかなく、金融機関との交渉も毎月赤字が続くことを指摘され続け、想像以上に難航しました。
「そんな簡単に黒字化する訳がない!」企業側も金融機関側もそんなことは分っているのですが、信頼がないと徹底的に追求される羽目になるのです。

2年目からは毎月ではなく、半期毎のBKミーティングになりましたが、リファイナンス(借換え)して、リスケ債権から正常債権に戻すまでの5年間続きました。このBKミーティングがその後の金融機関との信頼関係の構築に繋がったと思っています。
このクライアント企業は、リスケ債権から正常債権に債務者区分をランクアップ出来るほど目に見えた業績回復を成し遂げたのです。
メインバンクの担当者も一度リスケ債権にランクダウンした債権が正常債権に戻った例はそんなに見たことがないと言っていましたが、確かに自身33年間の金融機関勤務の中でこうした例は数えるほどしかありません。

何事も一朝一夕にはいかないのです。時間を掛けた根気強い積み重ねが大事ということなのです。
かんれき財務経営研究所と金融機関に強固な信頼関係が構築できたからこそ、金融機関も当研究所がお願いしたことに対して前向きに検討し希望に沿った回答をして貰えるようになったのです。

信頼関係構築には真摯な態度で責任を持った仕事を続けることが大切です。貸し手と借り手の両方の立場から交渉の筋書きを詳細に描き「落としどころ」を明確に決めて交渉に臨んでいます。それがクライアント企業と金融機関との信頼構築にも繋がるからです。

 

金融機関との信頼関係の構築
(1)資金調達先は金融機関
中小企業の資金調達の主役は金融機関からの借入です。多くの中小企業は「借金経営」をしているのです。多額の借金を抱えて経営を行う上での重要課題は、金融機関との信頼構築です。
借金経営では返済負担が増えるので、事業計画通りに順調に経営できれば、借金を返すだけで良いのですが、実際にはなかなか難しく、また、元々金融機関からの融資に頼った資金繰りをしているので、金融機関からの折り返し融資の継続は必要なのです。
金融機関から安定した資金供給を受けるためには、日頃から金融機関との信頼関係を築いておくことが不可欠であり、特に経営者自身がしっかり信頼を築いていくことが大切なのです。金融機関との信頼構築の基本は自社の健全経営であり、赤字を垂れ流しているような経営では評価されません。

(2)借金するには融資審査がある。
金融機関から融資を受けるには融資審査があり、それを通過しなければ借入はできないので、そのための日頃からの十分な準備が必要となります。
初めて金融機関から運転資金の融資を受ける場合は特にそうなのですが、相談段階と審査段階では銀行の態度が一変することもあります。業績が悪いと、補足資料の提出を繰り返し求められて、なかなか一筋縄ではいかないこともあります。多くの補足資料を作成して提出したにも拘わらず、否決されるケースも少なくありません。
日頃からの信頼関係があれば、金融機関としては厳しい財務内容であっても追加資料で融資実行に向けた評価ポイントを見つけようとしてくれます。しかし、金融機関との信頼関係がなければ、わざわざ無駄なコストをかけてまで踏み込まず、あっさり否決するのです。

金融機関も客商売であり、金融商品の営業や融資等の利害が絡まない表面上の付き合いは営業スマイルで穏やかな対応ですが、いざ融資を申し込むと基本的には業績や経営者の資質を冷静に判断することになります。企業実態が明らかになるため、業績が悪ければ銀行の要求する資料等により銀行を納得させることができなければ否決されます。

(3)金融機関のホンネ
前職時代からある第二地方銀行の歴代の本店営業部長とは親交があり、ホンネで話ができます。
現本店営業部長「この企業には今の財務責任者がいるから維持できており、いなくなれば経営悪化のリスクが高い。当行は運転資金等、リスクの低い融資を主体に支援させて欲しい」

前本店営業部長「中小企業金融の基本は経営者、つまり人を見て融資の可否を判断する。経営者がしっかりしていれば自然と数字もよくなるもの」

前々本店営業部長「赤字続きの当時の財務状態をみると、短期融資で繋ぐのではなく、リスケして抜本的な改善が必要だと意見したが、メインバンクはそういう判断ではなかった。結局、借金が増えた1年後に抜き差しならなくなってリスケ対応をせざるを得なくなった。1年早ければもっと早く改善できたかもしれない」

借金経営では、こういった歴代本店営業部長の発言の真意もしっかり腹落ちさせて「銀行との上手な付き合い方」を知っておく必要があります。これらの意見は、銀行共通の考え方なのです。

 

最重要課題は事業計画に沿った売上の確保
(1)借金経営の最重要課題は、事業計画通りの売上をあげ、利益を増やして内部留保を高めることと返済財源となるキャッシュフローを確保することです。
借入金の種類によって、返済財源は異なります。大きく分けると売上で返済する資金繰り償還債務と利益で返済する利益償還債務があります。
新型コロナ感染拡大により、政府の資金繰り対策もあって、中小企業の金融機関からの借入金残高はさらに増加しています。
借金を返済するためには、返済に応じた事業規模を維持することが大切です。それは、まず売上を上げていくこと

このブログで何度もお伝えしているとおり、利益やお金を増やすためにはバックヤードによるコスト管理も不可欠です。攻撃側と守備側がバランスして初めて健全経営が実現することを忘れてはいけません。

(2)売上増加に向けて具体的な目標設定を行い、その進捗をモニタリングし、未達の場合はその原因を追及し対策を講じることが不可欠です。
使い古されたフレーズかもしれませんが、「PDCAサイクルをしっかり回す」ということです。経営陣は出来ていると思っていても実際はなかなか出来ていないと現場でつくづく実感しています。

収益を上げるのは現場です。現場のスタッフに明確な目的を理解させて、目的達成に向けた部門毎の個別具体的な作戦を練って、それを現場に伝え、一緒に動いて貰わなければ売上は上がりません。

(3)借金経営を実践するためには、経営者・経営陣は共通の目的と危機感を持ち、一枚岩とならなければなりません。
同じ目的に向けた議論ならば成立しますが、ベクトルの向きが違うと単なる意見の対立に終わり、どこまでいっても収拾がつかなくなります。経営陣全員に共通した目的と目的達成に対する危機感や覚悟を持って貰うことが重要課題なのです。

(4)意思決定ルールと実行プロセスを明確に決める必要がある。
①経営者が経営の明確な方向性や方針を決める
②経営者が決めた方向性や方針を経営幹部と共有しそれを実現するための作戦を練る
⇒作戦は、「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」といった具体的なところまで落とし込んで、目的、やること、陣容(人員)等を決めなければ実行性は担保できない。
③経営者から現場スタッフに作戦について、スタッフのヤル気を盛り上げるようスタッフ全員が納得できる意思表示(コミットメント)をする
④作戦実行は、経営者が旗振り役になり、先頭に立って経営幹部や現場管理者、現場スタッフと一緒に汗を流し現場を牽引していく

 

借金経営を成功させるための判断基準
(1)数字とお金を判断基準に
借金経営の成功のカギは「数字やお金という明確な事実を判断基準として意思決定する」ことです。何故なら、数字やお金は嘘をつかない。事実をそのまま反映させるからです。
組織や人に関する課題は可視化できないので、現場からの情報に頼るしかありませんが、どうしてもバイアスがかかるので完全な事実の把握は難しいと思います。
月次の貸借対照表や損益計算書の微妙な数字の動きを的確に捉えて曖昧な現場からの情報と照らして判断するしかないのです。
数字の行間に隠れている課題等をしっかり把握し、現場からの報告内容と照らし合わせて判断し、実効性の高い対応策等を実行できなければ借金経営は失敗する可能性が高まると思っています。

(2)すべての課題解決は数字とお金をベースに
数字やお金をコントロールするのは人です。そう考えると現場で起こっている組織や人に関する様々な課題や問題が数字になんらかの影響を与えることになります。
ア 収益に影響を及ぼす人に関する課題
イ コストに影響を及ぼす課題
ウ その他

(3)人員構成の変化は数字やお金に必ず連動
組織図や人員構成も事業計画の策定には重要な基礎資料です。
例えば、作成時と組織図や現時点の人員構成が大幅に変わった事業計画では、実現の可能性が無くなります。
今後の収益の増加に向けた人増分として、つまり「先行投資」として費用計上していた人件費増加分が「投資」から単なる「費用」になってしまうこともあります。決算書や試算表上の数字は計画と実績に大きな乖離はないように見えるのですが、その数字が示す意味は真逆になり、今後の収益増加に結びつく可能性が低くなるのです。

月次のB/SやP/Lの微妙な数字の動きや行間に隠れている上述のような課題をしっかり炙り出し、それを的確に捉えて現場からの情報と照らして判断できなければなりません。

残念ながら、数字やお金に現れるのは遅発的事象であり、気付いた段階では「時、既に遅し」、本来ならば早い段階でこうした現場の事実に関する情報がキャッチされ、しっかり共有されていれば事前に対策が打てて未然に防ぐことが出来ると思います。

(4)財務のお仕事とは
財務の最も重要な仕事は、数字やお金という明確な事実をベースに、可視化できない組織や人に関する課題を現場からの情報として集約し、月次の貸借対照表や損益計算書の微妙な数字の動きを的確に捉えて曖昧な現場からの情報と照らして判断して損益やキャッシュフローの将来予測をすることです。
予測した数字どおりに実績を残すために、お金の行間に隠れている課題等をしっかり把握し、現場からの報告内容と照らし合わせて判断し、実効性の高い対応策等の検討と実行を現場に指示することです。これを日々きちんと実践することで、安定した利益とキャッシュフローを確保することが出来るのです。これが資金管理の基本であり、経営の基本です。
もし、借金が返済不能に陥ったら、また毎月銀行の債権者としての厳しい管理が始まります。

金融機関勤務時代にギリギリになって「今月の手形が落とせない、給与や取引先への支払いが出来ない。金を貸してくれ」と駆け込んでくる経営者も少なくありませんでした。こんな経営は言語道断です。

正しい考え方に基づいた正しい借金経営は企業の成長、発展に繋がります。

新年が皆様にとって良い年になりますように祈念いたします。良いお年をお迎えください。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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