第111回 現場で学んだスタッフを護(まも)ることの本質

マネジメント

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」
第111回は「現場で学んだスタッフを護ることの本質」と題して、これまでのキャリアの中で管理職として持ち続けてきた信念や哲学について、少しでも参考になればという思いで、自戒も込めながら個人的見解「雄蕊ワールド」を展開してみます。

 

これまでの自身のキャリア。金融機関勤務時代には、15年余り管理職として数多くの部下とともに仕事をしてきました。数千人の従業員が在籍し、全国に150余り支店がある巨大な組織のなかで、一緒に仕事をする確率はかなり低いのですが、相性の良し悪しに拘わらず、辞令により上司と部下の関係になって仕事をしなければなりません。当時の部下との関係性について改めて思い返すと、相性のよい優秀な部下2割、相性も仕事も普通の部下6割、相性も悪く仕事の遅い部下2割、やはり「262の法則」が働いていました。

元々、人の上に立って人を動かすという管理の仕事は、自分は不得手だと思っていました。それでも、ポストが人を作るという言葉があるとおり、経験を積むことで、時間はかかりましたが、徐々に管理の仕事にも慣れてきました。管理職になりたての頃は、成功よりも失敗ばかりで、心が折れる日々の繰り返しでしたが、逆にいえば、失敗の数だけ様々なことを学べたと思っています。そのとき、モチベーションになったのは「一緒に仕事をする部下を幸せにする」という強い信念でした。
「部下を幸せにする」ために何をしなければならないかという視点に立てば「仏の心で鬼になる」こともストレスなくできました。「どの部下からも好かれる上司」になるのではなく、「どの部下も幸せにできる上司」になることが大切と覚悟を決めれば、そんな「上司像を演じきる」ことに躊躇なく集中できたと思っています。

かつて仕えた昭和の上司の中には、自分の欲求を満足させるために業務終了後に麻雀や飲みに付き合わせることが当たり前と勘違いしている人も多く、無理強いがまかり通っていた時代でした。あくまで個人的な意見ですが、自分の欲求を満足させるために上司としての権威を振りかざすことだけはやってはならないと思っています。

平成に入り、様々な「ハラスメント」が問題視されるようになり、1つの例としていえば「鍛えるために負荷をかけること」と「ムダな負担をかけること」が混同されてしまい、少し厳しくすると「ハラスメント」だと言われてしまう。そんなやりにくい時代に変わっていきました。こうした意識が拡がることで、人間として持つべき道徳観、倫理観等の躾や教育にさえも忖度が働くようになったのではないか?
人は、リアルな痛みや愛情を、体感したり、実感したりしないと手加減できなくなると思います。その結果、信じられないような虐待が起きたり、メンタルヘルス不調を訴える部下が増加したり・・・それは由々しきことだと懸念しています。
修羅場・土壇場・正念場を自分の力で潜り抜けなければ、心身共に強くなれないのです。

次に、自己分析・自己評価してみます。兎に角褒めることは苦手。余程のことがない限り、部下を心底褒めることはありませんでした。
一方で、瞬間湯沸かし器。①嘘、②誤魔化し、③他責、④隠蔽、この4つだけは許せません。何故なら、こうしたことは対外的な信用失墜、組織の損失・存亡の危機等、組織にとって大きなダメージに繋がると判断するからです。だから「烈火の如く」叱責してしまいます。しかし、今の時代、怒りの理由が何であれ、相手がパワハラと感じたらそうなってしまうのも残念ながら事実です。

また、基本的に優しくはありませんが、冷たくはないと思っています。何故、冷たくないのかといえば、それは部下に寄り添うことだけは、常に心掛けていたからです。「寄り添う」とは「しっかり聴く」という意味です。言葉という言語情報だけでなく、表情や身振り、手振りといった仕草、声のトーンといった非言語情報からいかに真意を掴んであげるかということです。

上司は、部下が上司に対して言葉だけで真意を伝えることは、相当ハードルが高いことだと認識しておく必要があります。簡単にホンネなんか言わないものです。
管理職として徹底してやり続けてきたことは、しっかり部下の話を傾聴し、部下の真意を汲み取って「できる、できない」に関わらず「クイックレスポンスをすること」です。これをやり続けるだけで、部下との信頼関係は格段に強まったと実感しています。

今から20年以上前に一緒に仕事をした元部下の数名から今でも年賀状が届きます。決して飛び抜けて優秀な部下達ではなかったと思うのですが、一人ひとりに忘れられない思い出があります。
新規採用で、社会人としての基本を徹底的にたたき込んだ部下、同期との評価の遅れを挽回するため徹底的に指導した部下、別部署で自信を無くしていた部下、民間銀行から中途採用で転職してきた部下・・・しっかり寄り添ってきちんと話を聴き、一人ひとりに何らかのレスポンスを返していた部下達です。
20年以上経った現在も、それぞれに与えられたポジションで活躍していると分かれば嬉しくなります。

また、訳あって、ある仕事から急に退くことになり、挨拶もしないまま、姿を消すことになりました。離れた後に、現場スタッフ数名から、いなくなったことを惜しむ声、不安を訴える声、謝意を伝えてくれる声が届きました。

「男の矜恃(きょうじ)」として、「スタッフの幸せのために、スタッフを護る」という自身の信念を貫き通してきたつもりでしたが、そういう強い信念は、必ず通じるということを改めて元部下やスタッフから教えて貰った。その考え方は間違っていなかったと嬉しく思いました。

現場のスタッフは、思った以上に上司のことをよく視て、正しく評価しています。以前、ある銀行の頭取が「上3年にして下を知り、下3日にして上を知る」と言っておられましたが、正にそのとおりだと驚きます。
同じ人に対する評価でも、管理職同士の相互評価と部下の立場から行う上司の評価にはギャップがあります。部下の下した評価を鵜呑みにすることは危険ですが、部下の下した評価も大切に扱うことは必要だと思っています。「なるほど!確かにその評価も間違っていない」と目から鱗もよくあることです。
部下からの評価が低い上司には特徴があります。一言でいえば「品格のない上司」。具体的に示すと、責任感やモラル、意欲を持ってリーダーシップを発揮する等の姿勢が見られないことです。当たり前ですが、そういう上司に部下は納得してついていかないものです。
上司は、自己中心的な「自利」のみを追求して一人称で考えてはいけない。部下の立場に立って、部下の幸せという「利他」を意識した二人称、三人称で考えることが大切。そうすることにより、上司としての権威(尊厳、尊敬、信頼、気迫、責任、リーダーシップ等)が保たれ、部下からの信頼=高い評価を得ることができるのだと思います。

組織が崩壊する予兆の1つである離職の連鎖。このままでは多くのスタッフが辞めるかもしれない。それだけは何が何でも防いで欲しいと現場のスタッフは訴えていましたが、叶わなかった事例があります。理由はどうあれ、離職者が続くということは、企業ブランドや残ったスタッフのモチベーションの低下に繋がります。また、人が動く(入退職する)ことで、お金だけでなく、時間も含めて余計なコストがかかります。
何もいいことがないにもかかわらず、予見できた離職リスクに、何故、誰も手を打たなかったのか?それとも、手を打ったけれどもスタッフを翻意できなかったのか?
その一方で、人手不足も進行しており・・・
離職者をゼロにすることはできないと思います。ただ、管理不足により「心理的安全性」が担保されていなかったり、配置転換等により解決できていたはずの人間関係のもつれが原因であったり・・・もしかしたら防げたかもしれない理由による離職はできる限り減らしたいと願っています。

経営者や管理職といった人の上に立つ者の意思決定の判断基準は「従業員の幸せ」だと今でも思っています。従業員一人ひとりに寄り添い、従業員満足度が充足されてこそ、顧客満足度に繋がり、その結果、組織の目指す目的が達成されるのだと確信しています。
「一緒に仕事をする部下を幸せにする」という信念は、おこがましいのですが、以前お伝えした書籍からの引用文「上司には、部下を幸せにする義務だけあって、不幸にする権利はない」と相通じる考え方だと改めて思った次第です。

こういうことをお伝えすると、完璧主義者だとか、理想論者だとか思われることも多いのですが、部下の願いを代弁してお伝えしているだけという認識しかありません。言い換えると、完璧を求めているわけでも、ムリを強いている訳でもありません。部下のホンネや、完璧とか理想とかの問題ではなく原理原則を伝えているだけなので、それをどう活用するかは、経営陣をはじめとした管理者層の一人ひとりが判断することなのです。
自分自身が、とても完璧人間だとは思えませんが、現場のスタッフのホンネに近い言葉に真摯に耳を傾けていると、部下への関わり方に対する自分なりの信念や哲学が、内面に形成されていくものです。

ここまで、さも立派な管理職みたく偉そうにお伝えしています。しかし、実際は「パレートの法則」よろしく、管理職としての成功体験は2割、残りの8割は失敗体験です。つまり、失敗体験のほうが成功体験よりも遙かに多く、後悔と反省の日々の繰り返しでした。ごくわずかな成功事例だけを取り上げてお伝えしていること、特別ではないことは理解しておいてください。それでも「2割の成功事例が組織改革の8割に寄与する」という考え方もできると思ってお伝えしています。

今から50年ほど前、「経営の神様」松下幸之助氏が「PHPゼミナール」の開講にあたり、次のように述べています。
「事業経営で一番大切だと思うのは、経営者がこの会社をどういう目的で、どのようなやり方で進めていくかというビジョン、理念、基本の考え方をしっかり持つということです。あわせてそこで働く人たちの衆知を活かすために、一人ひとりの長所を伸ばし、生きがいを持って自主的に働いてくれるような人づくり、職場づくりを、時代感覚に照らしつつ積極的に進めていくことが大切です」(一部抜粋)

経営の神様のこの言葉からも読み取れるとおり、企業にとって人が最も大切だということに間違いはないと思うのです。事業は従業員一人ひとりの働きによって成り立つものであり、従業員満足度と業績には正の相関関係が成り立っています。一般的に、従業員を大切にして従業員満足度の高い企業の業績は好調であり、従業員を軽視して従業員満足度の低い企業の業績は不調であることが多いのも事実です。

さて、今回は人が最も大切という思いを持って「雄蕊ワールド」を展開させていただきました。
もの凄く秀でた管理能力を持っているわけでもなく、何の資格も実績も持たない、当然ながら名声もないただの還暦過ぎた爺ですが、常に問題意識を持って課題解決に取り組んできました。
ブレない軸として「部下を護(まも)ることの本質は、部下の話をしっかり聴いてクイックレスポンスすることが基本」という現場経験から生まれた普遍的な信念・哲学を時代は変わっても、後生に引き継いでいきたいという思いから、自分なりの意見を述べさせていただきました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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