第34回 中小企業経営の本質

中小企業経営

「かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵(おしべかくぞう)です!」第34回は、雄蕊がこれまで中小企業財務の現場で経験したことを基に「中小企業経営の本質」についてあらためて解説したいと思います((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

《中小企業の現場で学んだ中小企業経営の本質》
このブログでも既にお伝えしていますが、中小企業経営の本質は、「数字とお金と人のコントロール」だと雄蕊は確信するようになりました。
数字とは、損益計算書で確認できる売上や費用そして利益、それに加えて貸借対照表で確認できる資産や負債のことです。
お金とは、今さらいうまでもありません。決算書では、貸借対照表の現金・預金勘定、短期・長期の借入金勘定でその動きを確認することができます。
人とは、従業員、取引先等、企業にとっての利害関係人(ステークホルダー)のことです。
この数字、お金、人をコントロールすることが、中小企業における経営の本質だと思うのです。

金融機関出身の雄蕊は、取引先の数字とお金には目を向けていましたが、人(従業員等)には目を向けたことがありませんでした。しかし、ある意味CFOとして中小企業の財務の現場で、経営に関わってみると、人のコントロールの重要性とその難しさを嫌というほど体感しました。ここ数カ月、中小企業財務の現場に関わるなかで、あらためてこの3つのコントロールの重要性を痛感しました。そこで、再確認の意味を込めてもう1度考えてみたいと思います。

《お金の動きを掴む》
このブログを継続してお読みいただいている方は、もう理解されていると思うのですが、それは、「利益」≠「お金」ということです。そのため、お金の動きについては、数字の管理とは区別して管理する必要があります。
先日、ある企業の経営改善計画書の策定をお手伝いさせていただいたのですが、この企業は、本業である営業収支が大幅マイナス、その不足を金融機関からの借入で補填できていたため、資金不足に陥らないで維持できていたという状態でした。経営者には、そういう認識がありませんでしたので、キャッシュフロー計算書を提示して、過去のお金の動きについて詳細に説明させていただきました。
「何故、手許にこれだけのお金が残っているのか」を考える経営者の方は少ないと思います。言い換えれば、資金の「調達源泉」が何かを考えていないということです。手許に残っているお金は、本業で稼いで残ったお金なのか、先代が築いた資産の一部なのか、経営者等が出資・増資したお金なのか、金融機関から借入したお金なのか、こうした調達方法のいずれかによって、手許にお金が残っているのですが、お金に色がついている訳ではないので、経営者がそこまで深く考えることができないのは当たり前のことだと思います。
しかし、金融機関からの借入による調達だと将来、元金返済の義務が生じます。手許にあるお金を投資して、事業活動を行い、本業で稼いだお金から返済財源を確保できないと返済不能に陥り、いずれは資金不足で倒産に追い込まれます。

もう1つお金の管理で重要なことは、現金預金の残高を現物で確認するということです。資金繰りに忙しい経営者は、常に通帳の残高を気にしているかもしれません。少なくとも、毎月末の現金預金の残高の推移を見ることは習慣化したほうがよいと思います。

《経営者がみるべき数字》
経営者が見るべき数字として、「売上」「利益」「キャッシュフロー」と言われています。このなかで「キャッシュフロー」は、お金の動きのことなので、前項「お金の動きを掴む」で解説しました。ここでは、お金の管理以外の数字の管理について雄蕊の考えを解説します。
損益計算書には、3つの収益と5つの利益が示されています。具体的には、3つの収益とは、「売上高」「営業外収益」「特別利益」です。また。5つの利益とは「売上高総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期利益」「当期利益」です。
このなかで、経営者がみるべき数字は、「売上高」「営業利益」「経常利益」の3つです。しかし、単に決算書の損益計算書に記されている数字を眺めても何も掴めません。計画と比較したり、年次や月次の推移を比較したりすることで課題や問題点が浮き彫りになるのです。
売上が伸び悩んでいれば、売上増加策を検討・実施する必要がありますし、利益が減少していたらコストダウンに取り組むことも必要になるかもしれません。

ここまでは、損益計算書に関係する数字について解説しましたが、それよりも重要な数字があります。それは貸借対照表(バランスシート)に記された数字です。このブログの「第5回バランスシートの読み解き方」で少し専門的な貸借対照表(バランスシート)の読み方を解説しましたが、貸借対照表(バランスシート)を読むうえで大切なことは、どのような方法で資金を調達し、調達した資金を何に使っているかということです。
貸借対照表の右側は資金調達の方法を表しています。大きく分けて負債と純資産(資本)です。負債は、他人から調達したお金、純資産(資本)は経営者等が設立当初に出資した資本金とその後の事業活動で得ることが出来た利益の積み上げから成り立っています。
一方、左側は資金の運用を示しており、調達したお金を何に使ったかを表しています。
貸借対照表(バランスシート)上で重要な数字は、「純資産(自己資本)」、そして「現金預金」勘定と「短期借入金」「長期借入金」勘定とのバランスです。
金融機関が、財務分析をする場合、重要視するのは、損益計算書の数字よりも貸借対照表(バランスシート)の数字です。このブログの「第19回有事における決算書の読み方」で解説しましたが、損益計算書の数字は、決算月までの過去1年間の損益を示しているに過ぎないのですが、貸借対照表(バランスシート)の数字は、その企業の誕生から現在までの積み重ね(企業の歴史)が表現されており、その企業の財政状態を具に表しているからです。

《悩みが尽きない人の管理》
実は、企業にとって最も重要なことは「人のコントロール」です。企業を動かすのは人です。数字やお金のコントロールをするのも人です。今後、いくらDX(デジタルトランスインフォメーション)化が進んだとしても、それらを操るのは、やっぱり人なのです。
一方で、人は感情の動物であり、自らの意思で行動します。人の価値観も人それぞれです。クローンでもない限り、価値観等の考え方が自分と全く同じという人はどこにも存在しないと断言できます。そうした人のコントロールほど難しいことはありません。
雄蕊が、中小企業経営の現場で今も悩んでいるのが人のコントロールです。前回のブログ記事の最後に「組織と人に関する悩みは尽きない」ことについてコメントしましたが、本当に悩みは尽きません。
今、最重要視されている人について、かつては重要な経営資源と見做されていませんでした。単なる「労働力」として認識されていたのです。この労働力という言葉には、「誰がやっても同じ結果が得られる」というニュアンスがあり、肉体的な作業を含意する用語であると言えます。時代の変化とともに「最も重要な経営資源は人である」ことが認識され、悩みが増えたのかもしれません。

《古典的経営学者バーナードにみる人の管理》
少し、学術的?な話になるかもしれませんが、古典的経営学者であるチェスター・バーナードは、「組織は、①相互に意思を伝達できる人々がおり、②それらの人々は行為を貢献しようとする意欲をもって、③共通の目的の達成をめざすときに、成立する」『経営者の役割』(ダイヤモンド社)と唱えています。つまり、バーナードは、組織成立の要素を、「伝達(コミュニケーション)」「意欲」「目的」の3つに整理したのです。
「人の管理」で重要なことは、従業員等が「企業に対する貢献意欲を持って気持ちよく働いてくれる」場を提供することだと思います。バーナードの唱えた組織理論を基に「人の管理」について考えてみます。

まず、人の「意欲」という視点です。
一般的に、組織には「2:6:2の法則」が働いていると言われています。その意味するところは「意欲の高い従業員は全体の2割で、6割が普通で、残りの2割の意欲はそれほど高くない」ということです。
同書のなかで、バーナードは「誘因の経済」という理論を展開しています。誘因の経済とは、「組織と個人とは誘因と貢献の交換関係にあり、個人は“誘因>貢献”の場合のみ動機づけられ、組織に貢献する」という理論です。この「協働意欲」を引き出すためには、「貢献」に見合った「誘因」をどれだけ提供できるかが問題だと言っています。ここでの「誘因」とは、「意欲」を引き出す要因となる「何か」であり、例えば、「給与」「賞与」「昇格」等々、社員にとって「利益」になるものです。自身の働きに対して、この利益がプラスだと感じられなければ「意欲」も高まりますし、マイナスになれば「意欲」は下がります。

次に組織の「目的」について考えてみます。
バーナードは、組織の目的には2つの側面があると言います。それは、①「協働的側面」協働して達成すべき仕事の目的(組織人格)、②「主観的側面」ひとりの人間としての働く目的(個人人格)です。
「協働的側面」は、仕事における達成すべき「目的」です。つまり「組織人格としての目的」です。一方、従業員は、各自個人的に様々な「目的」をもって働いています。お金のため、家族のため、社会のため等々、この個人各々がもつ「働く目的」が「主観的側面」です。この「個人人格」が抱く「働く目的」は、「意欲」と深く関係しています。バーナードは、「協働意欲は協働の目標なしには発展しえない」と言っています。個人が持つ目的の達成と企業が持つ目的の達成がリンクしていないと「協働意欲」に結び付かないのです。

《リーダーシップの重要性》
経営者や経営陣が、組織を構成する従業員に対して、組織の「目的」(目標・ビジョン)をどう考え、どんな風に伝える(コミュンケーション)かにより、従業員の「意欲」は向上したり低下したりします。それによって仕事の成果に差が生まれるのです。こう考えると、経営者・経営陣のリーダーシップがどれだけ発揮できるかが重要なファクターになると考えられます。
バーナードは、リーダーシップに2つの側面があると言っています。それは、①「技術の側面」(体力、技能、技術、知覚、知識、記憶、想像力等)、②「責任の側面」(決断力、不屈の精神、耐久力、勇気、道徳観等)です。

リーダーシップの「技術的側面」とは、そのリーダーがスキルを発揮する時のベースになるものです。一方、リーダーは「スキル」だけでなく、「責任感」があってはじめてリーダーシップを発揮することができます。その「責任感」を形成する要素が、「不屈の精神」「勇気」であり、「道徳観」は、②「責任の側面」に分類されます。バーナードは、「責任の側面」の要素が、「行動の質を決定するもの」で、「行動の質」は「リーダーシップの質」に通じます。

企業がゴーイング・コンサーン(継続体)として存続していくためには、資本コストを上回る利潤を獲得し続けなればなりません。繰り返しになりますが、経営者には存在意義(ミッション)を明らかにし、ありたい姿(ビジョン)を描き、経営目標を掲げ、そして目標を達成するための戦略を立案・遂行して行く。組織に属する個人から最大限の貢献を獲得するために個人を動機付け、行動を促し、そして管理することを求められているのです。
人は機械や建物等の経営資源とは異なり、それぞれ感情や意思を持つため、大なり小なりどうしても経営者・経営陣と部門または部門間の信頼関係が崩れ、結果として硬直的な組織になり、拝金主義的な組織行動を促してしまうリスクが高くなります。また、組織の目的と個人の目標が一致していない場合には、個人の貢献を最大限に引き出すことは難しくなります。雄蕊が現場で痛感していることですが、特に技術職や専門職はその傾向が強くなると感じています。
戦後の復興期から高度成長期にかけて、日本経済が目覚ましい発展を遂げた要因として日本的経営を挙げることができます。それは家族的経営が特徴と言われ、終身雇用と年功序列型人事・賃金制度で忠誠心を醸成し、経営者と部門(個人の集合体)は信頼関係を維持し続けることができたからです。現在では、業績評価制度や成果主義型人事・賃金制度のもと、欧米企業のように経営者と部門はドライな関係になり、信頼関係も失われつつあります。このような状況下では、従業員も疲弊し、企業への忠誠心は薄れ、場合によっては「業績のためには不正も厭わない」という考え方が生まれるかもしれません。

雄蕊のようなドライになり切れない者は、経営者・経営陣はもっと従業員に「愛情を持つ」「関心を持つ」等、寄り添って欲しいとの想いが強いのですが、管理制度による弊害をカバーするためには「見える仕掛け」を構築することも重要ではないかと考えます。「信頼関係」を構築し、自らが進んで行動するための仕掛けとして全従業員が参画できる「イベント」の開催を検討してみるのも良いかもしれません。直接的、間接的に行為が業績に反映される「イベント」の仕組みを考えることができると、こうした「イベント」に消極的な従業員が増えている昨今でも積極的な参加が期待できるのではないでしょうか?!

「管理」と「自立」は相反する関係にあり、それを両立させることは難しいことですが、業績目標や予算の達成を目指して疲弊する部門を制度以外で動機づけることができれば、管理と自立は両立できるかもしれません。

今回は、「人の管理」について古典的経営学者バーナードの理論にも着目してみました。論語に「子曰、温故知新、可以為師矣」(孔子先生はおっしゃいました。「古くからの伝えを大切にして、新しい知識を得て行くことができれば、人を教える師となることができるでしょう。」と)という教えがあります。古典的な経営管理論等に目を向けることで「現代の経営」のヒントが見つかるかもしれません。今後このブログで、こうした視点からの記事も投稿しようと思っています。よろしくお願いします。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました