「こんにちは、雄蕊覚蔵です!」今回は、「財務のお仕事」ついて、一緒に考えてみたいと思います。このブログの「第7回 中小企業におけるバックヤード(財務部門)の脆弱性」で中小企業は、経営資源が限られているため、バックヤードが脆弱であるとお伝えしました。コロナ時代の経営には、財務部門の強化が不可欠だと感じています。何故、そう感じているかを含めて解説します((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。
《危機態対応能力》
この記事を書いている2020年9月6日、これまでに経験のない「大型で非常に強い台風10号」が九州地方に接近中です。甚大な被害が予想されており、最大級の警戒が求められています。ここ数年、毎年台風や豪雨、そして大地震による甚大な被害等、自然災害が増加しています。加えて、新型コロナウイルス感染症等の生物災害の拡大も懸念事項です。このブログの「第4回 財務目線でみたコロナ時代の経営」でも述べましたが、今後の経営には危機対応能力の強化が不可欠だと考えます。
このブログは、基本的に財務の目線という立ち位置ですので、今回もその切り口で進めていきたいと思います。
《バックヤードの強化》
このブログの第12回から第16回まで資金繰りに関するテーマを取り上げてきました。では、誰が主役として、資金繰り表の作成等、資金繰り管理を行うのが良いのでしょうか?今回は、資金繰り管理の主人公について解説します。
中小企業は、何度も繰り返しますが、限られた経営資源(リソース)を効果的かつ効率的に活用しなければなりません。これから解説する「財務」の業務を担っているのは、ほとんどの中小企業では経営者です。しかし、経営者は、基本的に数字とお金が苦手です。一方で、先頭に立って売上を伸ばさなければなりません。どうしてもバックヤード業務は、後回しになりがちです。「財務」の専門家を配置する、または外部にアウトソーシングすることで、バックヤードの強化を図ることができます。「財務」という言葉の明確な定義が不明確なので、こういったお話をしても「ピンと来ない」のが、本音だと思います。ます、言葉の定義を明確にしてみます。
《「会計」「経理」「財務」の違い~言葉の定義~》
「会計」「経理」「財務」の違いをしっかりと理解できていますか?
金融機関の担当者として中小企業の経営者と数多く接してきたなかで強く感じたことは、「売上や利益の管理はすべて顧問税理士に任せているよ」という経営者が意外に多いということです。「経営とは、お金を使うことである」と考えると、「企業のトップである経営者にもっと数字やお金に関わることに興味を持って欲しい」とずっと思っていました。
経営者に数字やお金に興味をもってもらうためには、「会計」、「経理」、「財務」というお金に関わるそれぞれの業務の意味や役割、そしてその必要性を理解してもらうことが、出発点だと思います。まず、この3つの言葉の定義を解説します。
上から目線的に解説しますなどと偉そうに書きましたが、「会計」や「経理」については「ど素人」です。仕訳を切ったり、試算表を作成したり、決算をしたりという業務は全くできませんし、わかりません。実は、財務を担当する者は「会計・経理」とは何かということを知る必要のないことなのです。「決算書は作れない」だけど「決算書は読める」、それも「緻密にではなくて大雑把に読める程度」の知識があれば、十分かもしれません。お金の動きを的確に掴むスキルがあればよいのです。
会計
「会計」とは、「金銭や物品の出入りを記録し、報告書を作成すること」です。企業がつけている帳簿、個人の生活でつけている家計簿、国や自治体でのお金の管理、これらについて「会計」という言葉を用いています。
企業にとっての会計業務は大きく分けて「制度会計」と「管理会計」の2つに分類されます。
○制度会計
「制度会計」は、「財務会計」と「税務会計」に分類されます。
「財務会計」とは、事業活動の成果をもとに損益計算書(PL)や賃借対照表(BS)といった財務諸表をまとめ、利害関係者(ステークホルダー)に企業の経営状況を開示するための会計のことです。外部に対して開示することが目的ですので、企業間で比較等ができるように、財務諸表は、一定のルールに従って作成する必要があります。
「税務会計」とは、支払う税金を計算する会計のことで、税金を正しく計算するためにルールに従って作成することが求められています。
中小企業の場合は、主に支払う税金を計算するため、あるいは金融機関から借入を行うために、「財務諸表」と呼ばれる「賃借対照表」、「損益計算書」を作成します。最近では、「キャッシュフロー計算書」を作成する企業もあります。
これらの「財務諸表」は、税金を計算したり、外部に開示したりする目的で作成されるものですから、「一定のルール」に従って作成されることが求められています。こうした書類を作成する担当者には、簿記等の専門的な知識が必要になります。なので、中小企業では、顧問税理士等の専門家に作成を依頼するケースが多いと思われます。
○管理会計
「管理会計」とは、企業内部で社長や経営幹部が意思決定をするための材料として、企業の財政状況を独自のルールを決めて、そのルールに従って会計資料を作成する会計のことです。
管理会計は、比較的規模の大きい企業では、経営計画策定や計画の進捗管理等を専門的に行っている経営企画部門等で担当していることが多く、経営上の意思決定のための判断材料を準備し社長や経営幹部に提供すること、財務に関する課題を解決すること、将来の企業の進むべき方向性を示すこと等といった重要な役割を担っています。
制度会計(財務会計・財務会計)と管理会計の違いについて、時間軸の切り口からまとめたものが次図です。
経理
次に、経理とは、「伝票の作成」、「帳簿への記帳」、「請求書の作成」、「売掛金の回収」、「買掛金の支払」、「経費の支払」等の業務を行うことです。
財務
最後に、「財務」とは、一言で言えば「資金計画を立て、事業に必要なお金を調達し、その資金を事業活動に充てたり、投資等により運用したりすること」です。「財務」のお仕事の詳細については、このあと解説します。
《財務のお仕事って何ですか》
財務という仕事を一言で表すとすれば、それは「会社の数字とお金の動きを的確に掴み、資金繰りに窮しないよう、適時適正に資金調達を行い、手許流動性を高めるコトです。つまり、手元におカネを貯めることです。そしてその結果として利益の出るしくみを作るコト」です。とは言っても、個々の企業によって事情が違いますから、財務担当者の仕事は、「数字とお金」を基本にしながら企業の実態に沿った仕事をする必要があります。
例えば、企業の置かれているステージ(立ち位置)に見合った財務担当者の仕事を考えてみると、次のようになります。
《勘定合って銭足らず》
よく「勘定あって銭足らず」ということがいわれますが、これは、損益計算書上は黒字にもかかわらず、資金が不足して資金繰りが苦しい状態のことをいいます。損益計算書が黒字であれば資金繰りが楽なはずであると考えるのが一般的な常識だと思いますが、企業の資金繰りでは、必ずしもこの考え方は通用しません。資金繰りはお金の収支であるのに対して、損益計算における売上高はお金の収受とは無関係に、商品を販売した時に計上される (発生主義に基づく計上)ため、信用取引(掛け商売)については考慮できる余地がなく、お金(現金収支)と数字(損益計算)は一致しないことになります。
財務の仕事を進めるうえで重要なポイントは、①数字の動き(ルール)とお金の動き(事実)を区別して考えること、②何故、数字とお金の動きを区別して考える必要があるのか、その理由を理解すること、この2つだと思います。このことが腑に落ちていれば、難しく考える必要も悩むこともなく財務の仕事をスムーズにこなすことができるようになると思います。
事実に基づいて仕事をする財務は、会計や経理と同様に「数字やお金を管理する業務」ですが、会計ルール等に基づいて仕事をする会計、経理とは、意味合いが大きく違う業務といえます。
また、時間軸で考えてもその違いは明確になります。会計と経理は「過去」の取引に関するデータをまとめること等が主な業務であることに対して、財務は、「過去」の財務諸表のデータや「現在」の業務や財政状態を基にしながら、企業の「将来」に向けた経営計画や資金計画等を作成し、それを実行していくことが主な業務になります。
具体的には、
① 経営計画・資金計画等の策定を支援する。
② 金融機関から資金を調達する。
③ 経営計画等に基づき、投資等により企業の資産運用を行う。
④ 会社の予算を管理する。
等です。
冒頭にも述べましたが、中小企業では、経営資源が限られているので、財務部門を設置することが難しく、経営者である社長や経理担当者が財務を兼務している企業がほとんどです。もっと言えば、財務に関する知識が乏しく財務が機能していない企業も数多くあります。
大企業では、経営環境の変化に伴い、数字やお金の管理だけでなく、新規事業投資等の経営戦略まで、幅広い財務戦略立案やそれを実行する役割を担う専門家の配置が必要になってきました。最高財務責任者(CFO)と呼ばれるポストを設置する企業が増加していることも事実です。コロナの時代においては、中小企業にもその必要性が増しています。
《財務の最も重要な役割は資金繰りの安定化》
財務管理担当者にとって、最も重要な仕事は、資金繰りの安定化を図ることです。それは、資金の出入りを管理し、常に適正な手許流動性を確保しておくことです。そのために財務管理担当者がやるべきことは以下のとおりです。
《お金の動きを無視した経営は身を亡ぼす》
ある企業の経営改善計画を策定したときのことです。その策定途上で分かったことは、経営者も現場の責任者も全く数字やお金の動きについては無頓着であり、企業が瀕死の状態であることを誰も全く認知していなかったということです。当時の雄蕊の見立てでは、資金繰り破綻まで余命4か月でした。そういう状況にも拘らず、顧問税理士がなんとかしてくれるだろうと(経営者には怒られるかもしれませんが…敢えてこの言葉を使うと)安易に考え、他力本願で自分たちの責任を放棄していたとしか思えませんでした。
経営者やその取り巻きの幹部からは「こんなに頑張っているのに何故赤字が続くのか?」と質問されましたが、はじめのうちは「何故でしょう。分かりません。」としか答えようがありませんでした。実際、その時点では、赤字の原因は分かりませんでした。正直な話、決算書をみただけで赤字の真の理由なんか、そう簡単に見つけ出すことは出来ません。ましてや現場にいない顧問税理士やその事務所の担当者が、的確な情報も与えてもらえないまま、限られた情報だけを頼りに適切な方向性を判断し、助言することは、まず不可能です。もっと言えば、進むべき方向を見誤る危険性も孕んでいます。
経営者をはじめ現場の経営幹部やスタッフは、自社の成長・発展に向けて、一所懸命努力をし、働いていることにまちがいはないと思いますが、努力した結果が報われなかったのは、その頑張りの矛先が違う方向を向いていたことが最も重要な要因だったのではないでしょうか。どんなに働いても結果がついて来なければ「骨折り損のくたびれ儲け」がその成果ということになってしまいます。財務という業務は、実は重要な本業の1つなのに現場では軽視されていることが問題だと思います。
そこで、1つの仮説を立てました。それは、「中小企業の経営環境は決して恵まれてはいない。過半数の企業が赤字に悩まされている。赤字に悩まされている最大の要因は「財務」の専門家がいないことではないか。赤字企業の中には、意図して赤字を出している企業も含まれるかもしれないが、一方で、唯一無二の経営資源を持っているにも拘らず、赤字に苦しんでいる企業も存在する。「財務」という切り口でアプローチすれば解決の糸口が見つかるのではないか。」
赤字企業を黒字化させる手法は、それぞれの企業の状況によって異なりますが、財務部門を強化しただけで改善への第一歩を踏み出すことは出来ます。ある経営者から次のような質問を受けました。「仕事が忙しくなった訳ではないのに、何故、こんなに利益が出るようになったのか?」
投稿者プロフィール

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LINK財務経営研究所 代表
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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