第46回 医療機関における管理者向け研修

マネジメント

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第46回は「医療機関における管理者向け研修」と題して、ある医療機関の管理者向けに行った研修の概要をお伝えします。

《医療専門職との意識の違い》
医療機関の経営者・医療現場の管理者の方と「経営管理」に関する話をすると、「経営者・管理者のあり方」について意識に大きな違いがあると感じることが多々あります。組織や人の運営管理の重要性を訴えてもなかなか聞き入れてもらえず、閉口してしまいます。
一般的に、医療機関というのは、医師を頂点とした医療に関する組織系統が主体です。医療法上も医療法人の理事長は、原則として医師がならなければなりません。しかしながら、基本的に医師は、医療の専門家ですが、経営の専門家ではありません。なので、経営管理系統いわゆる事務部門は、事務長を頂点に事務スタッフが現場業務を行っているのですが、経営系統のトップは、現場スタッフからみれば、病院の管理者ではないので、イニシアティブが取り辛く、その結果、一般的な事業体のような組織運営が非常に難しいのが現状です。
以前、「第25回 組織崩壊の予兆とその防ぎ方」でお伝えした崩壊の予兆が見え隠れしていると感じたので、思い切って所属長以上の方を対象に管理者の基本的な心構えについて研修を行いました。

以下に研修でお話させていただいた内容を紹介させていただきます。

《管理者向け研修の概要》
1 「アラ還爺」が目指す第1回目の研修のゴール
①組織運営に関するゴール(目標)設定の必要性の共有化
②「管理者の品格」を身につけるための「気付き」、「自身の棚卸」
③組織運営上欠かせない「ツナグための報・連・相」の重要性理解

 

2 アラ還爺の「管理の流儀」
・尊敬する上司から教示された転勤族の極意 「その土地を愛し、その地域の人を愛する」
⇒これを今の立ち位置に当てはめると
「病院を愛し、病院で働くスタッフや患者様を愛する」
「愛すればこそ、しっかり寄り添う」
「愛すればこそ、耳の痛い厳しいことも遠慮なく言う」
「愛すればこそ、本気で怒る」

・依怙贔屓はしない
「職務上では、人を評価しない、仕事振り(役割・成果・プロセス)を評価する」

・どうしても許せないコト:「男の矜恃(きょうじ)」
①嘘を吐くこと、 ②誤魔化すこと、 ③(他責に)逃げること、 ④隠す(隠蔽する)こと
⇒こう感じたら「烈火の如く」怒る。

・人を動かす名言:「山本五十六の名言」
「やってみせ 言って聞かせて させてみて 褒めてやらねば 人は動かじ
話し合い 耳を傾け 承認し 任せてやらねば 人は育たず
やっている 姿を感謝で 見守って 信頼せねば 人は実らず」

・感銘を受けた経営者等の名言:
「上司には、部下を幸せにする義務だけあって、不幸にする権利はない」
「上3年にして下を知り、下3日にして上を知る」
⇒部下は上司の動きをよく見ており、上司が部下を把握するより遥かに早く部下は上司の品定め(評価)をする。

 

3 アラ還爺が考える「管理者の持つべき視点」
・お客さま(患者さま)目線で考える。
・組織の持続可能性を考える。
・部下等、スタッフに寄り添う(同じ目線に立つ、ひとの機微に触れる)。
・表面的な課題ではなく、潜在化している課題(本質)に目を向ける。

 

4 2つの「寓話」を紹介
(その1)
ゾウを知らない6人の盲目の修行僧にゾウを触らせて、それがどんな生き物かを問うてみることにしました。
それぞれの修行僧はゾウを触り、こんな風に言いました。
1人は、腹 を触ります。 「わー!ゾウとは、立派な壁のような生き物です。」
1人は、牙 を触ります。 「ゾウとは、槍のような生き物です。」
1人は、鼻 を触ります。 「ギャー!ゾウとは、ヘビのような生き物です。」
1人は、足 を触ります。 「ゾウとは、木の幹のような生き物です。」
1人は、耳 を触ります。 「ゾウとは、大きなうちわのような生き物です。」
1人は、尾 を触ります。 「ゾウとは、細い縄(なわ)のような生き物です。」
こうして6人6様の答えが出ると、自分の答えこそ正しいと思い込んでいる彼らは、皆で言い争い、ケンカを始めてしまったのです。

《この寓話から学ぶこと》
①6人の修行僧の意見をまとめる管理者が不在だったため、ケンカに結び付いた(管理者の重要性)
②判断には、多くの情報が必要、ゾウの全体像を掴むためには、6人の修行僧の情報の共有化が必要(情報共有化の必要性)
③6人の修行僧が思い描いたゾウのイメージはすべてゾウの構成要素であり、すべて正しい(病院という組織を考えた時、入院・外来・在宅・健診・薬剤・栄養・リハ・事務すべてが、病院組織の重要な構成要素であり、上下はない)

(その2)
旅人が、とある町の一本道を歩いていると、3人のレンガを積んでいる男に出会いました。旅人は「ここでいったい何をしているのですか?」と各々の男に尋ねました。
1人目の男は、「レンガ積みに決まっているだろ。朝から晩まで、レンガを積まなきゃいけないのさ。なんでこんなことばかりしなければならないのか・・・」と答えました。
2人目の男は、「大きな壁を作っているんだよ。この仕事のおかげで俺は家族を養っていけるんだ。」と答えました。
3人目の男は、「俺たちは、歴史に残る偉大な大聖堂を造っているんだ!ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだぜ!素晴らしいだろう!」と答えました。

《この寓話から学ぶこと》
①職員のモチベーションを高めるためには、目標(ゴール)を明確に示すことが重要
②明確な目標や目的を理解して仕事に取り組むと、自身の仕事に対して遣り甲斐や誇りを持つことができる。
③職員が、与えられた仕事の目的等、全体像を把握することも必要

 

5 何故、辞めるのか
(1)業種別・職種別離職率
業種別にみると、福祉(11.8%)、医療・保険(9.3%)の離職率が高い。医療機関に限ってみると、全職種(12.2%)、看護師(10.8%)となっている。総じて離職率は、他業種に比べて高水準

(2)設置主体別離職率(離職率が高い病院の特徴)
設置主体別に離職率をみると、医療法人(13.4%)、個人(13.1%)の順に高水準となっている。一方、公立(7.7%)と規模の大きい医療機関が低水準となっている。

(3)看護師が離職する4つの理由
①勤務環境に不満がある
・前残業や後残業が当たり前で勤務時間が長い、夜勤の回数が多い、心身への負担が大きくボロボロ…など、過酷な勤務に離職を決意するケースが多いよう
・ハードワークのわりに給料が少ない、休みの日なのに院内の勉強会が多い、時間外手当がつかないなどの待遇面の不満
②人間関係がしんどい
・他の職種に比べ、看護師の場合、人間関係に疲れてしまったという人は多い。
・看護師という命を預かる仕事の性質上、ミスに対するお互いの目が厳しくなりがち
・忙しさや疲れからか、コミュニケーションにも余裕がなくなり、人間関係のきしみを感じるような職場環境
・「患者さんのために、もっと自分らしく働ける場所」を探そうと離職する人も多い。
③結婚・出産で続けられない
・看護師は圧倒的に女性が多い職業。結婚、出産・育児を迎える20~30代は、離職率も高まる。
④スキルアップ、キャリアアップしたい
・看護師はステップアップ・キャリアアップを目的とした離職が多いのも特徴

(4)働きやすさと働きがいのある職場のイメージ
平成26年5月 厚生労働省職業安定局雇用開発部雇用開発企画課調査「働きやすい・働きがいのある 職場づくりに関する調査報告書」によると、働きやすさと働きがいのある職場づくりには、「評価・処遇」「人材育成」「業務管理・組織管理、人間関係管理」といった雇用管理施策に、その効果が評価できる形で取り組むことが効果的である。

(参考資料)平成 26 年5月厚生労働省職業安定局雇用開発部雇用開発企画課「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」、日本看護協会「2020 年 病院看護実態調査」

(5)労働者の意識の変化等(ハラスメント等)

 

6 医療機関の企業(組織)としての特殊性(一般論)
・医療機関という組織の大きな特性は「専門職集団」
・各職種はその専門性に応じた仕事をしており、「専門業務に特化し専門外のことには口を出さない」特性があり、自部署の利益(数字やお金だけではない)を優先し、病院全体や他部署の事情を考慮しないという文化を生み出している。
・病院という組織には、病院全体を見渡すことのできる管理者然とした管理者はほとんどいない(小規模病院では、管理者のほぼ全員がプレイングマネージャー)。
・つまり、医療系統ではプレイヤーでありながら、運営系統ではマネージャーという「2つの顔」を持つことになるので、そのバランスを取る必要がある。
・病院経営には、医療の質を担保しながら、一方で持続可能な組織運営をするという二律背反する2つの命題のバランスを取る必要がある。
・指揮命令系統も経営(組織運営)系統、医療系統という複線化が必要である。

 

7 病院の組織運営・管理に関する課題
・ある病院で実施したストレスチェックの結果、「管理者からの支援が十分」と回答した割合が平均値より下回っていた。
・部下等の現場スタッフの目線に立つと、「病院の管理者は、管理としての役割が十分に発揮できていない」と感じているのではないか。
・管理者が管理者然とした役割発揮ができていないと
・自分たちの困りごとや提案に耳を傾けてくれない
・上にいくら言っても変わらない(何もしてくれない)
・上に言っても無駄なので、もう言わない
⇒こんな企業風土に陥っていないか…今一度振り返ることも必要ではないでしょうか

 

8 管理者がどれだけ部下の目線に立って考えられるのか
・管理者が部下や他部署のスタッフに寄り添うとは、「どれだけ部下や他部署のスタッフの目線に立って物事を考えることができるのか」
例えば「現状を部下やスタッフはどう捉えているのか?」
「管理者(上司)の言動は、部下や他部署のスタッフにどう影響するか」等
・上司は、常に部下に見られている、評価されているという自覚を持つ。
・部下や他部署のスタッフは、自分達で解決できない課題や問題を解決して欲しいと思っているのではないか。
・部下や他部署のスタッフを助ける(支援する)とは、何も優しく手伝うことではない。部下等の成長や幸せを願えば、時には厳しく指導することも含まれる。

 

9 「医経分離」による病院経営の実践
「質の高い医療」の提供と「収益力の強い病院経営」の2本の柱をしっかり維持していかなければならない。
この最重要課題を乗り切っていくためには、「餅は餅屋」に任せるという発想が必要です。つまり、「医経分離」という考え方を取り入れるということです。
医師である先生方は、質の高い医療に専念できる体制にし、病院経営は、「経営企画室」「経営管理部」が主体となって進める体制にすることです。
「医経分離」は、医療VS経営ということではありません。それぞれが専門性を活かした得意分野に取り組みながらお互いに連携をとる仕組みです。
運営上の重要な決定事項は、経営会議で承認をいただく仕組みなので、経営側が勝手に物事を進めることはありません。

(1)2つの指揮命令系統イメージ図

(2)階層別マネジメント

・組織上の課題解決は、個人の課題として捉えず、組織としての課題として捉え、解決策を検討し、実行していくことが重要
⇒ポストに就いた人を支える仕組みをどう構築するか。
⇒管理者を孤独にさせないためにどう寄り添うか。
・管理者のポストについた者は、「管理者の品格」を身につける。
⇒管理者としての立居振舞、言動にも十分気をつける必要がある。

 

「ポスト(地位)が人を育てる」
組織の部門長として、その役割を担い、結果を出すことによって力量がさらに増し、リーダーシップも人格も磨かれていくということ

「トップマネジメント」は、組織の基本的な方針を決定し経営計画を立てる、組織の運営方針を決めるなど、経営に関する総合的な意思決定と同時に最終的な責任を担う役割があり、強力なリーダーシップが求められる層であるといえる。

中間管理者には、トップマネジメントをサポートし、戦略的判断や指示・命令、組織の運営方針を部下へ通達することが求められる。また、ロアーマネジメント層を指揮監督し、現場からの意見を吸い上げる役割もある。経営層と現場で業務に当たる従業員をつなぐ重要なパイプ役であり、組織内の意思疎通に欠かせない。そのため、組織の規模が大きければ大きいほど重要なポジションと見なされる。

ロアーマネジメントは、直接末端の業務遂行を指揮・統制し、組織戦略や施策を現場の活動へ反映させて、上層部が描いたビジョンの実現を目指す。

【参考】

ここでは、各スキルの説明は省略します。

 

10 目標管理の導入
目標を数値で提示し、計画は具体的に詳細に立案する。
具体的な数字を意識した目標設定は具体的なアクションにつながり、結果、効率的な業務推進へとつながる。
目標やアクションプランを設定し、計画通りに実行しましょう。計画通りに実行する。
評価や分析がしやすいように活動記録を残す
結果の良し悪しを客観的に分析し、なぜそのような結果が導き出されたのかを振り返る。

無理のない計画にする。
定期的に評価・確認する。
Plan(計画)に対する進捗の確認や現状の分析、次の改善策の提案を定期的に行う。

【参考】
Look at Yourself(対自核)
「自分自身を見つめ直して、進化しよう!」
・先入観を捨て、固定観念や既成概念に囚われず、自分自身を見つめ直して、事実を真摯に、そして素直に受け入れ、ゼロベースで物事を考えることが、変革・進化に繋がる。
・「Look at Yourself(対自核)」とは、
①「他人事」ではなく、「自分事」として捉える
②幽体離脱して自分自身を離れた距離から見つめ直す
③自分自身の「強み」「弱み」を真摯に・素直に受け入れる「受容力」を持つ
④進化するための自身に対する「気付き」を持つ
⑤進化に向けた改善行動をとる ・・・ こと

 

11 ツナグための「報・連・相」
(1)報告の定義
仕事の進捗具合や結果について上司や先輩等に伝えること
⇒報告は義務的なコミュニケーション

(2)連絡の定義
上下関係に拘らず、仕事の情報や今後の予定を他者(関係者・上司等)に発信すること

(3)相談の定義
疑問や問題が生じたときに上司や先輩、時に同僚等からアドバイスをもらうこと
⇒連絡と相談は自発的なコミュニケーション

・「報・連・相」は組織のタテ、ヨコをツナグためのコミュニケーションツール
・円滑な組織運営を行ううえで「情報の共有化」は欠かせない、仕事を進めるうえで「動脈」と言われている「報・連・相」は複数のステークホルダー(利害関係者)と情報共有を行うための重要な手段
・業務上のコミュニケーションは、ほぼ「報・連・相」で成り立っている。
・「報・連・相」がないと課題や問題に対する対策を打つことができない。
・仕事を円滑に進めるうえで意思疎通は非常に重要
・意思疎通が不十分だとトラブルの原因になり、ビジネススピードも遅くなる。

 

12 ツナグためのコミュニケーション(承認欲求と人間関係)
・人には自分のことを無条件で受け入れてくれる存在や経験が必要
⇒「自分はもともと価値のある存在である」「愛されている存在である」という自己を肯定する自覚=「ベーシック・トラスト(基本的信頼)」
・自己に対する信頼と社会や周囲に対する安心感が持てていないと、他者の承認に頼ることになってしまう。
・人間関係がうまくいかない大きな原因は、承認欲求が満たされているか否か
・「他人よりも自分の方が特別な存在である」「注目されたい」「関心を持ってほしい」という承認欲求は、その大小はあっても誰もが持っている。
・「挨拶を無視しない」「施してもらったことに対して素直にありがとうといえる」等、誰もがお互いに承認欲求を認め合い、満たされている関係性ができて初めて、心地良い人間関係を築くことができる。
・より良い人間関係を築くためには、相手がいる環境や置かれている状況をちゃんと見てあげることが大切

リーダーシップとは集団に目標達成を促すよう影響を与える能力を意味する。

企業の中での影響力は管理職や役員など職位をもとに公式に発揮される場合と職位のない個人が集団の中で認められて非公式に影響力を発揮する場合(自然発生的に生まれること)がある。

マネジメントとは、複雑な状況にうまく対処するために計画や予算を管理することを意味する。

経営学者のドラッカーは、マネジメントを「組織として成果を上げさせるための道具、機能、機関」と定義している。

 

《研修の成果》
研修は行うことが目的ではなく、受講生の意識改革や行動変容を促すことが目的です。雄蕊は、これまで数多く講演や研修を行ってきましたが、今回の研修は今1つ手応えを感じられなかったというのが本音です。いつも講演・研修終了後に出来栄えを自身で振り返るのですが、満足の行く講演や研修を行うのは難しいものです。

研修を受講したからと言ってすぐ効果が現れることはありません。受講者が意欲満々で受講する場合は別だと思いますが・・・特にこうした態度研修は、現場で繰り返し、繰り返し反復して伝えることが重要です。多忙の中、集まってくれたスタッフに少しでも心に訴えることができたらと願っています。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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