「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第63回は「リーダーシップを考える」と題して、リーダーシップについて考えてみたいと思います。
《リーダーの必要性》
ある中小企業の従業員意識調査の調査項目と回答結果は以下のとおりでした。
設問① 職場は風通しが良く、良い雰囲気である。 設問② 周囲のメンバーは信頼でき、気軽に相談に乗ってくれる。 設問③ 経営者・管理者層は信頼でき、常に部下等のことを気に懸けてくれている。 |
評価① 設問①~③の否定的意見は、29.4%、9.0%、22.7%であり、全体として否定的な意見は多くても3割程度なので、多くのスタッフは肯定的に捉えており、大きな課題はない。 評価② 設問①~③の肯定的意見は、33.8%、59.7%、43.9%であり、特に設問①、設問③については、半数以上の従業員が肯定していないので、何らかの手を打たなければならない。 評価③ 設問①~③の中間的意見は、36.8%、31.3%、33.3%である。どの設問も約3割の従業員が肯定も否定もしていない。この回答を選択した従業員の真意はどうなのかが気になる。 |
この結果をどう評価すればよいでしょうか。中間的意見「どちらでもない」を選択した理由が、肯定的ではないが、この調査結果(記名方式)が、上司等の目にも触れると思うと否定的な意見はしづらいというバイアスが掛かった可能性もあると判断すると否定的な意見が多かったという結果になります。
このブログで、組織運営に関して様々な視点から考えを述べてきましたが、この調査結果をみながら、もう一度、経営者・管理者のリーダーシップについて考えてみることが必要なのではないかと感じました。
人は、家庭、学校、会社、自治会、地域のコミュニティ、公園のママ友集団等、少なからずいずれかの集団に属しているといえます。集団に属している以上、集団の中には、他者をリードする者(リーダー)とリードされる者(フォロワー)が存在します。
会社であれば、社長、部長、課長、係長、主任といった役職にある者が、各役割に応じたリーダーとして組織を運営しなければなりません。しかし、こうした役職に就いている者が役割に応じたリーダーシップを発揮できているかといえば、一概にそうとは言い切れないと思います。組織運営上の課題を解決するためには、経営者や管理者のリーダーシップが重要なファクターの1つになると判断しました。
《リーダーシップの定義》
「第52回 企業は人なり、人は心なり ~人に寄り添う真のリーダーシップ~」のなかでも述べましたが、リーダーシップとは、肩書によって与えられるものだったり、チームや部下を率いることで得られたりするものではなく、人を成長させたり、なにかができるようにしたりすることであり、権威や権力によって得られるものではなく、権威や権力の有無に拘わらないその人自身が持つ「人に対する影響力」、「人を惹き付ける人間力」だと思っています。
リーダーシップの有無は、リーダーにどれだけ多くの人が従ってついてくるかによると思います。つまり「経営者がビジョン、経営理念という絵を描いて方向性を示し、その方向に向かって従業員が喜んでついてきて絵を実現し始める状態」になったとき、経営者(リーダー)と従業員(フォロワー)の間にリーダーシップが発揮されたということです。
《優れたリーダーの特徴》
リーダーに不可欠な要素を一言でいうと「信頼性」だと思います。
従業員等フォロワーは、どのようなリーダーだったら信頼してついていくことができるでしょうか。以下に掲げる属性のうち、どの属性を持ち合わせているリーダーをあなたや部下であるスタッフは選ぶのでしょうか。
「野心的で、大志を抱いている」「有能である」「正直である」「知的である」「前向きである」「率直である」「心が広い」「勇気がある」「断固たる意思がある」「想像力がある」「独立心がある」「忠誠心がある」「成熟している」「自己抑制できる」「公正な心を持っている」「頼りがいがある」「協力的である」「わくわくさせてくれる」「大切に思ってくれる」「応援・支援してくれる」 |
《現場のリーダーの課題》
特に中小企業の現場には以下のような課題が潜在していると感じています。
・トップからの理念やビジョンに対する発信・働きかけが十分とは言えない。
・トップにトップとしての率先垂範行動が見られないため、理念等が組織全体に浸透していない。
・トップと志を共にする経営幹部が少数で、組織全体をガバナンスできていない。
・管理職の多くは、従順で素直だが、受け身姿勢であり、指示待ち姿勢となっている。
・目標へのチャレンジ精神や部下を力強く引っ張っていく管理職が限られている。
・管理職同士は、業務のなかでのやりとりは出来ているが、全体としては統制が取れているとはいえず、部署間の意思疎通が不十分で、十分な連携が図られていない。
・管理職が経営や組織全体を我がこととして捉えられず、自部署のことしか考えず、殻に閉じこもっている。
・スタッフの意欲が高まらず、心身を患ったり、有能な人材が離職したりしている。
・部下が育たず、次の幹部候補者が見当たらない。
こうした課題を解決するためにどうすればよいか考えて実行に移すことが大切です。評論家みたく批判をすることは簡単ですが、課題解決にはそれ相応のエネルギーが必要です。
《現場に潜在する課題》
「直属の上司に相談したら、部門のトップに筒抜けになり、トップから叱責された。・・・直属の上司が秘密を守ってもらえず信用できない」
「部内の課題を解決すべき立場にいる部門のトップに問題があるので、誰に相談すればよいか分らない」
「部下を指導する際に、○○がこう言っていた、部内の総意である等、指導者である上司自身の考えや判断だけではなく、周囲の意見として○○だと言われると、周囲のスタッフも含めてもう誰も信頼できず、不安になってしまう」
「上司は、上しか見ておらず、上層部のことにはすぐ反応するが、スタッフからの申し出は上層部に報告すらして貰えない。相談しても聞き流されると感じており、もう何も言いたくないし、言っても無駄だと思う」
「周囲のスタッフも上司や先輩からのいじめ(上司や先輩スタッフにいじめという認識はないと思われるが、受けている本人はそう感じている)に合っているときも見て見ぬふりをする。孤独感、疎外感を感じる」
「現場をしっかりまとめる管理者がいない。だから、スタッフそれぞれが言いたいことを言うし、やりたいことをする。現場の統制がとれていないと感じている。きちんと指導できる人を現場に配置した方がいい」
「中途採用にはしっかりした教育をせず、知識やスキルが不足している仕事に挑戦する機会も与えられず、周囲の意見だけであれもこれも出来ないから異動をさせるといわれても納得できない」
こうした現場のスタッフの不平や不満は、この企業だけにかかわらず、大なり小なりどの企業にもあることだと思っています。この企業だけが特別とは思っていません。ただその度合いによっては、組織の活力が削がれ、組織の継続的な成長に繋がらなくなる可能性があるので、こうした課題が浮き彫りになった以上は、対策を講じる必要があると思います。
冒頭、ある企業の従業員意識調査の結果をお伝えしました。調査を行った企業の中にも、生々しいスタッフの声と同様に感じている従業員がいるのかもしれません。
「風通しの悪い組織」にいるスタッフは、問題や悩みを誰にも相談できないので、自分で何とかしようと抱え込んでしまいます。自分で解決できない問題だから悩んでいるので、解決できず、抱え込んだまま時間が経過すると不安な気持ちだけがどんどん拡大して、さらに深刻化することになります。
「不平・不満」に終わっているうちは、そのスタッフを死に至らしめることはありませんが、「不安」が増幅すると、そのスタッフを時には死に追いやるような深刻な問題に発展することもあります。死に至らしめるほどではなくても、メンタル面に深いダメージを与える可能性があります。耐えきれず退職する、鬱症状を発症して休職する等、表面化したときには「時既に遅し」です。
《課題解決に向けたリーダーシップの発揮》
残念ながら、こうしたネガティブ情報は、現場の管理者からはなかなか上がってきません。管理者だけの話を聞いていると何も問題がないように判断してしまいます。
管理者からネガティブ情報が上がってこない理由は、大きく分けて2つあると思っています。
1つは、問題が起きれば、なんとか表沙汰にならないようにと隠蔽し、部内や個人で解決しようという意識が働く隠蔽化体質の「企業風土」
もう1つは、スタッフから上がってくる不平や不満をそのスタッフ個人の愚痴として捉えて、組織としての重要課題だと経営者や管理者が認識できず、そのまま放置され、解決できないまま深刻な事態へと向かってしまう能天気体質の「企業風土」
組織の管理者は故意に嘘をつこうとか、隠蔽しようと思っている訳ではありません。認識できていないだけなのです。しかし、管理者にきちんと課題認識して貰えないと上司の認識と現場スタッフの意識に乖離が生まれてしまい「信用できない上司」「頼りない上司」というレッテルをスタッフから貼られることに繋がるリスクもあります。
どちらも問題ですが、経営者・管理者が課題認識できているだけ、隠蔽化体質の企業風土の方が解決しやすいかもしれません。情報の共有化はできてなくても課題を認識した人達だけは秘密裏にでも課題解決に向けて動くことができるからです。ただコンプライアンスという観点では大問題ですが・・・。一方、能天気体質の企業風土のある企業は深刻です。誰も課題認識できていないので、解決策が何も打たれないまま、放置された状態が続き、事態はどんどん悪化していきます。最悪、企業存亡の危機に繋がることもあり得ます。
では、どのようにして課題解決に導けばよいのでしょうか。
1 経営者自身が現場に潜在する課題があるという事実に気付く「FIND FACT」
経営者自身が現場のスタッフの声にしっかり耳を傾けることが大切です。
「現場のリーダーの課題」で述べたとおり、トップと志を共にする経営幹部は少数であり、管理者の多くは、①従順で素直だが、受け身姿勢であり、指示待ち姿勢となっている、②経営や組織全体を自分事して捉えられず、自部署のことしか考えない、③部署間の意思疎通が不十分で、十分な連携を図ることができていないからです。
専門制の高いスキルや知識を必要とする業種や職人気質の強い人材を必要とする業種は、スペシャリストの集団です。スペシャリストは専門分野においてはとても頼りになる存在である一方、対応範囲が狭く、想定外の場面に対応しづらいという特性を持っていることも事実です。一般的に、管理職等で求められるマネジメント業務は不得手です。
こうしたことを考えると、経営者自身が現場のスタッフの生の声を聞く場を如何に持ち、現場の実情をしっかり把握するかが重要になります。
ある経営者と話をしたときに、金融機関出身の財務責任者を雇用したが、サラリーマン意識から抜け出せず、経営課題も他人事と捉えており、結果として資金繰りについても経営者が一人で悩まなければならないとこぼしていました。経営者の期待に添える管理者を育成するのも容易ではありません。
2 経営者と同じ目線でサポートできる意識の高い参謀を配置する
中小企業の経営者は、現場の第一線で先頭に立って組織を引っ張っていかなければなりませんから、現場の隅々まで目を行き届かせ、スタッフの声を収集することが難しいかもしれません。そうであれば、信頼の置ける参謀にその仕事を任せることも必要だと思います。参謀としての役割を任せるのであれば、幅広い知見と多面的な視野で現場を統括できるゼネラリストを選ぶべきだと思います。ゼネラリストは管理職や監督職等で活躍できるとされているからです。
3 経営チームで課題を共有化し解決策を協議する
課題がしっかり把握できたら、課題解決に向けた対応策を検討し、実行することが必要です。この取り組みは、経営者一人で対応しようとしてはいけません。経営者・経営幹部という経営チームで対応することが大切なのです。トップダウンでは、解決策が現場の隅々まで浸透していないことのほうが多いからです。
経営チームで協議する際に留意しなければならないことがあります。経営チームのメンバーのベクトルあわせをすることです。
スペシャリスト出身の経営幹部は「質の高いサービスを提供すること」「顧客を守ること」が大切だと思っています。ある意味「場当たり的」な発想がベースになっていることが多いようです。
ゼネラリスト出身の経営幹部は「質の高いサービスを提供し続けるためには」「顧客を守り続けるためには」組織運営をどのようにすればよいか、顧客を守るためにはスタッフが安定した精神状態で、安心して仕事に集中できる環境にするためにどう取り組めばいいかという組織や人を動かす視点がベースにあります。
課題認識が共有化でき、議論すべき内容の方向性、ゴールが定まったら、経営チームで解決に向けた議論をする場を持ちます。課題解決に向けて共に議論する場をもつことが大切であり、経営幹部一人ひとりが課題を自分事として捉え、ホンキで課題解決に向けたそれぞれの意見をしっかり発言し、解決策を見出していく、この繰り返しが管理者の課題認識力を高めることにも繋がると思います。
4 風通しの良い組織のメリットを理解する
「風通しの良い組織」のスタッフは、問題を認識するとすぐにその問題を上司や周囲のスタッフと共有し、一緒に解決しようと行動します。解決に向けてお互いに考える機会が増え、スタッフ一人ひとりの成長にも繋がります。解決に結びつけば、達成感や成功の喜びを感じる機会も増えることになります。
部下を育成し、組織としてのパフォーマンスを高めるためには、ルールや手段を教えるだけでは不十分です。「情報の共有化、円滑な報・連・相のできる仕組み」を作り、その組織に在籍していることが、スタッフ一人ひとりの成長に繋がることを実感させることです。そのような組織にいれば、人は自発的にルールや手段を学ぼうとするようになります。
5 真のリーダーシップの発揮できる組織作りに取り組む
仲良しクラブという集団なら、リーダーが不在でもいいのかもしれません。しかし、企業という集団にはリーダーが必要です。規模の小さな企業であれば、経営者一人がその役割を果たせば良いかもしれませんが、組織が肥大化するにつれて経営者一人の管理スパンでは対応しきれなくなります。経営者の代理として現場を管理するスタッフを育成することが必要になります。リーダーシップを持ったリーダーの存在が大切なのです。
リーダーにリーダーシップがあるか否かは、リーダー自身が決めることではありません。リードする側ではなく、リードされる側であるフォロワーが、信用できるリーダーだと認め、リーダーに従っていきたいと思うかどうかで決まるのです。
経営者、経営幹部、管理者の立場にある者は、仲間内だけに目を向けるのではなく、しっかり現場のスタッフに目を向け、円滑な人間関係、信頼関係を構築することが、真のリーダーシップを発揮できる「風通しの良い組織に繋がる」と思います。
投稿者プロフィール

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LINK財務経営研究所 代表
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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