「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」
これまで、このブログでも『第26回「経営する」「管理する」とは』、『第27回「経営する」「管理する」とは(その2)』、『第28回 階層別マネジメント』等の投稿記事で、経営、管理、マネジメントに関することをタイトルにして取り上げてきました。第102回は「「経営すること」「管理すること」「運営すること」の違い」と題してそれぞれの言葉の意味の違い等について改めて整理してみます。
基本に帰る
経営者にとって何が真の経営の目的なのかという本音はわかりません。「経営の目的は経営者自身が幸せになりたいから」がホントの目的かもしれませんが、ステークホルダーや従業員を前にこうしたホンネ?は言いづらく、経営の目的を聞いても明確に言えない経営者や従業員等の外向けにキレイごとを言ってしまう経営者もいらっしゃると思います。
経営の目的は誰かに縛られるものではなく、経営者が自由に決め、その実現に向けてやりたい事業を展開することが当たり前なのです。
ただ、先行きが予測しづらい多様化、複雑化した現代の経営環境のなかで、変化に柔軟に適応していくためには「経営すること」「管理すること」「運営すること」の定義が曖昧のまま経営を続けても、経営の目的を達成することが難しいだろうと思いました。そこでもう一度、基本に帰り、改めてこうした言葉の意味や定義等を確認してみます。
経営と事業
経営とは「経営の目的達成に向けて、継続的、計画的に意思決定を行い、事業を管理、遂行すること」です。
事業とは「経営の目的達成に向けた収益や利益を得るため、 部門的、短期的、戦術的視点から具体的な活動内容を決めて実行すること」です。
企業によって事業の目的や事業内容は様々ですが、最終的には「企業を存続・成長させるための収益と利益を獲得すること」です。
経営の目的
「経営の目的」と「経営すること」は分けて論じる必要があると思っています。「利益の確保」は、「経営の目的」ではなく、企業を維持していくための必要条件であり、いわば手段であり、それは「事業の目的」です。
「経営の目的」はもっと大所高所から哲学的な要素も盛り込んで設定するべきものなのです。
マネジメントの第一人者ピータードラッガーは「企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。」つまりドラッガーは顧客に選ばれる商品・サービスを提供する仕組みが経営であり「顧客志向が大事」と言っています。
また、稲盛和夫氏は「『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること』以外に、企業の目的はない」言い換えると「人を幸せにすること、社会のためになる活動が経営の目的」と言っています。
つまり、経営の目的の根底には「自利利他」の精神が不可欠ということです。以前にも述べましたが、あくまで利益の役割は、業績悪化への備えであり、将来投資の費用であり、業績を見る指標であり、一言でいえば、経営を持続させるための手段(=事業の目的、企業維持の必要条件)なのです。
事業規模が大きくなるに従い、経営者以外の人達と共通の目的や共通の目標を持つ必要度が増していきます。特に新たな優秀な人財確保のためには必須です。自利利他の精神が内含された社会的にも有意義な目的を掲げることに取り組んでみましょう。
経営者は、目的の達成という結果を出すために、「従業員、取引先、顧客」等、企業活動が影響を与えるすべての人を満足させ続けるにはどうすれば良いかを常に考えて、その実現に日々努力をし続けなければならないのです。
管理
管理とは「目的を実現するために、人や物といった要素を適切に組み合わせて、それらを取り仕切ったり指導したりしながら、効果的かつ効率的に活用する機能もしくは方法」のことです。
その重要な機能は、組織的な側面と計数的な側面の両面からの調整です。前者は、管理するすべての対象(目的、主体、対象、行動等)を体系的・秩序的に関連付けて整えることをいい、後者は同じくすべての対象を計数によって進捗状況等を「見える化」することをいいます。
この2つの側面を考慮しながら、管理を1つの過程として捉えるには、計画、組織、統制の3つの機能の循環過程として考える方法があります。
この過程は、マネジメント・サイクル(管理の循環過程)と呼ばれ、「計画→組織→統制の反復的循環活動」のことです。これによって、実情に即した計画の設定と、計画的、組織的な活動が担保されるのです。
計画は、目的達成に向けた活動の予定を組むことであり、活動の進捗状況を確認する基準(ものさし)となるものです。
組織は、計画を活動に展開し、活動を通して目的の有効な実現を図るための仕組みを作ることです。
統制は、計画と活動実績とを比較対照し、その差異の原因を解明し、必要に応じて是正措置をとり、かつ実績を次期の計画へフィードバックすること、言い換えるとPDCAサイクルを回すことです。
管理すべき組織が単純で小規模な場合には、管理はそれほど問題をもたないので、管理者(管理主体)は非専門家でよいのですが、組織が大規模化、複雑化して環境が激動するようになると、管理の重要性が高まり管理の専門家を配置する必要性が出てきます。
企業のビジョンや目的を達成するために行う事業活動を効率的かつ経営資源の配分の調整や総括を行うことを経営管理といいます。
組織が大規模化、複雑化してくると企業活動の領域に応じて「生産管理」、「販売管理」、「人事・労務管理」、「財務管理」等に細分化して管理することで機能性が高まります。
管理手法の変化
経営環境や権利意識の変化等により、求められる管理手法も変化させる必要が生じています。これまでの管理は、組織の決定事項を上意下達(下位層へ落とし込む)する、管理者自身の経験則に基づいて指示・命令するといった手法(仕事と人の管理)が主流でした。
しかし、先が見通しにくい現代においては、管理者自らが進むべき方向性を見出し、多様な価値観・多彩な能力を持ったメンバーとチームビジョンを合意し、彼らを動機付けして、チーム一丸となって課題に対峙していくことが求められているのです。これがリーダーシップの要素を含んだ現代型の管理手法です。
決められたことを遂行する、前例を踏襲するといった指示・命令型の行動ではなく、自ら何をすべきかを定義し、遂行するといった主体性や部下の強みを引き出したり、動機付けしたりして、チームとしての方向性に巻き込む能力が求められています。
また、管理するうえで重視しなければならないことは、大きく捉えると以下の6項目です。
① コンプライアンス(法令遵守)やモラル(道徳観・倫理観)の重視
② 業務効率化による労働時間短縮の取り組み
③ 自ら何をすべきか考えて動く遂行力
④ 従業員個人の育成(スキルアップ)
⑤ コミュニケーション(議論ではなく対話重視)
⑥ 部下の強み(ポテンシャル)を引き出すリーダーシップ
運営
運営とは「特定の組織等が上手く機能するように、管理したり計画したりして組織をまとめて動かしていくこと」、つまり、何らかの目的を持った組織が円滑に機能するように目指すことです。
運営の目的は、組織の効率化を図ること、与えられた仕事を効率よく達成するために、人やモノや資金を活用することです。運営には、収益や利益が直接関係することはないのです。
経営者、管理者の役割
経営者の役割は、法人を代表する経営者や役員として事業の集合体である企業を経営するというだけの概念ではなく、リアルな現場で「自社に属する事業全体を掌握し、管理者を統括して組織や人を動かし成果を出すこと、そして、その結果責任を負う」ことです。
組織全体を見渡し現状把握をしたうえで、将来を予測して意識決定することが重要な仕事です。スタッフ一人ひとりへの目配りや気配りも必要ですが、細かいことは管理者に任せて、大局的に捉えて動機付けすることが経営者の使命です。
管理者の役割は、人を動かして組織としての成果を出すことであり、事業の目的を達成することです。事業がしっかり回れば、その結果として経営目的の達成に繋がります。
管理者には責任とともに権限が与えられており、権限の範囲内で判断したり、人やお金を動かしたりしながら成果を出していくことが求められます。
一方で、管理者はメンバーの育成も意識しなくてはなりません。メンバーの成長は中長期的な組織の成果につながるものです。メンバーと信頼関係を築き、一人ひとりと向き合い、しっかり寄り添って育てることも大切な役割なのです。
管理の善し悪しによっては、たがが緩んで締まりのない組織になることもあります。締りが無くなると業績にも悪影響が出ます。下り坂を滑り落ちるのはあっという間です。
企業としての目的を達成するために、人を動かして円滑な組織運営を進めることができるのは管理者です。
現場に最も近い立ち位置で、管理者がスタッフ一人ひとりにしっかり目配りをすることが、適度な緊張感を現場に持たせることになり、ひいては業績の向上やトラブル等の未然防止にも繋がります。
組織において、管理者は最も重要なポジションだと思いますので、管理の仕事をもう少し深掘りしてみます。
管理の仕事
① 目標設定
組織の理念やビジョン、経営計画の達成等に向けて、担当部門としての目標を設定することです。目標は目標達成におけるゴールとなるため、具体的かつわかりやすい内容でなければなりません。
② 行動計画の作成、進捗管理
目標設定と並行して、目標達成するための行動計画を作成し、その進捗管理を徹底して、計画どおりにいかないときには補完策を企画し実行することが、管理者が多くの時間を費やすべき重要なポイントです。
③ 人材育成
メンバーを教育・育成していくことで、中長期的な組織の成長や生産性向上を期待できます。生産性向上のためには、場当たり的な指導ではなく、中期的な教育プランを作成して、計画的に育成を進めていくことが重要です。
④ 人材配置・役割分担
権限の範囲は企業によって異なりますが、部署内の人材配置や役割分担は管理者の権限となるのが一般的です。
企業に目的や経営計画達成のためには、実現に向けた様々な施策が実行できる体制の整備が不可欠です。メンバーそれぞれの特性を理解して、強みを発揮できる仕事内容、ポジションを与えられるように適材適所の人材配置や適正人員を確保して施策が実現できる受け皿を整えなくてはなりません。なによりも「3M(ム)ダラリ」=ムダ・ムラ・ムリの起きない運営体制を作ることが大切であり、この3Mが排除できないとスタッフへの負担が高まり、スタッフが疲弊して長続きできなくなります。
⑤ 関係各部署との調整
目標を達成するためには、さまざまな部署と連携をとって業務を進めなければなりません。管理者は部門の代表として、他部署と積極的に連携して仕事を進めたり、衝突や対立を調整したりする役割があります。
管理者が、率先して他チームや部門の管理者と良好な関係を築き、普段から相互協力について言及していれば、連携もうまくいきやすくなります。また、部署間の対立が起きたときは、業務の進捗に支障を来たす可能性が高まりますので、管理者が主導して、速やかに状況を改善させなければなりません。
⑥ ミッション・ビジョンの浸透
経営者や経営陣が策定したミッション・ビジョンを、現場に浸透させる役割があります。ミッションやビジョンが浸透することで、メンバーに仕事の意味づけがされて内発的動機が高まります。また、同じ目的・目標を持った仲間として連携もうまくいきやすくなります。
ミッションやビジョンは総じて抽象的なので、自分たちの仕事にどう関係するのか、自分たちの仕事がミッションやビジョンにどう貢献するのかといった点を現場のメンバーが理解できるように分かりやすく噛み砕いて伝えたり、各メンバーの欲求と紐づけて動機付けを行なったりする必要があります。
⑦ 行動規範の徹底とコンプライアンスの遵守
目標達成に向かうための行動規範を組織内に浸透、徹底させて、行動基準を高めていかなければなりません。また、コンプライアンス等の法的・社会的な規範を遵守させることも大切です。SNS等の発展により、コンプライアンス違反行為は一気に世の中に拡散されて、ブランドを傷つけるリスクがあります。現場の管理者がしっかりとマネジメントしなければなりません。
⑧ 働きやすい職場環境の整備
働きやすい職場環境とは、従業員が就業時間中に感じるストレスが少ない職場です。
従業員は、上司や部下、同僚との関係や業務そのものなど、さまざまな要因でストレスを感じます。
従業員がストレスなく働ける「働きやすい職場」の実現に向けて、働きやすい職場の特徴を掲げます。
特徴① 人間関係が円滑である
特徴② 情報共有がスムーズ である
特徴③ 業務体制が効果的かつ効率的である
特徴④ 人財育成のための教育体制が整備されている
「管理の仕事」を確認して「なんだ!当たり前のことばかり!!」と思いませんでしたか、…そうなのです。管理の仕事に特別なことはないのです。それを実現できるか否かがポイントなのです。
ここに掲げた「管理の仕事」のうち1項目でもできていなければ、今すぐ対応策を考えて動いてください。実行力と行動力を発揮しましょう。
「経営すること」「管理すること」「運営すること」の違いを理解していただけましたでしょうか。実際の現場では、経営の仕事だ、管理の仕事だと神経質になる必要はないのですが、基本や原理原則を知っておくことは、難しい舵取りを迫られた時には必ず役に立つと思います。
従業員をはじめ関係者には、経営者が見せる態度と管理者の言動の「威厳の違い」が明確になっていないと組織を統制することが難しくなってきます。また、その違いは従業員の「心理的安定性」の担保にも繋がります。それぞれに求められる「品格」が大切です。
経営の目的達成に向けて、計画や様々な戦略・戦術を描いていくなか、それを実行するための明確な役割や権限まで整理できている組織は少ないのではないかと思います。それぞれの戦略や計画を実行するために、必要な役割や権限を整備し実行するという経営機能を発揮できるようにすることが大切であり、それには「経営」「管理」「運営」といった言葉の定義をしっかり理解することが必要なのです。
投稿者プロフィール

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LINK財務経営研究所 代表
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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