第115回 何故辞めるのか?~人手不足の現状と離職対策~

リスクマネジメント

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第115回は「何故辞めるのか?~人手不足の現状と離職対策~」と題して、「2023年上半期人手不足倒産」の動向や各種の調査から離職の現状を確認しながら、人手不足が続くなか、企業として離職を減らすためにどう対応しなければならないかについて考えてみます。

 

2023年上半期(1-6月)「人手不足」関連倒産の状況
東京商工リサーチが、7月10日に発表した「2023年上半期(1-6月)「人手不足」関連倒産の状況」の概要をまとめてみます。
「人手不足」関連倒産は67件(前年同期比139.2%増)で、前年同期の(28件)の2.3倍に急増しています。上半期で前年を上回ったのは4年ぶり
上半期では、調査を開始した2013年以降、人手不足が深刻だった2019年の82件に次ぐ、2番目の多さとなっています。特に、前年同期は発生がなかった「人件費高騰」が24件と急増しており、賃上げ機運が高まる一方で、収益力が乏しい中小企業には、人件費アップが資金繰りに大きな負担となっていることが分かります。

(出典:東京商工リサーチ「2023年上半期(1-6月)「人手不足」関連倒産の状況」)

コロナ禍から経済活動が再開するなかで人手不足が顕在化、「人手不足」関連倒産の内訳をみると、「求人難」が27件(前年同期17件)、「人件費高騰」が24件(同ゼロ)、「従業員退職」が16件(同11件)で、「人件費高騰」の突出ぶりが目立っています。
業績回復が遅れ、資金余力が乏しい中小企業ほど賃上げは容易ではないのですが、賃上げを実施しないと人材流出が避けられず、収益と人員確保の狭間で「人手不足」関連倒産の急増を招いていると言えます。

人手不足の現状
帝国データバンクが、2023年5月2日に公表した「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」をみると、正社員の人手不足企業の割合は51.4%、非正社員では30.7%となっており、企業は深刻な人手不足に悩まされていることが分かります。

(出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」)

入職・離職の現状
厚生労働省が、2022年8月31日に発表した「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、
年初の常用労働者数に対する割合である入職率、離職率をみると、入職率は14.0%、離職率は13.9% で、入職超過率は 0.1 ポイントと入職超過となりました。 前年と比べると、入職率が 0.1 ポイント上昇し、離職率が 0.3 ポイント低下しています。
また、産業別入職率・離職率は以下のグラフのとおりとなっています。

(出典:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」)

離職の理由
厚生労働省が、2019年12月18日に公表した「平成 30 年(2018年)若年者雇用実態調査の概況」から、初めて勤務した会社をやめた理由(3つまでの複数回答)についてみると、
「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」が 30.3%
「人間関係がよくなかった」が 26.9%
「賃金の条件がよくなかった」が 23.4%
「仕事が自分に合わない」が 20.1%
の順となっています。

初めて勤務した会社をやめた理由

(出典:厚生労働省「平成 30 年(2018年)若年者雇用実態調査の概況」)

また、エン・ジャパン株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:鈴木孝二)が運営するミドル世代のための転職サイト『ミドルの転職』上で、35歳以上のユーザーを対象に「転職のきっかけ」について行ったアンケート結果が、2023年2月28日に同社のWEBサイト上で公開されていましたので、その記事から抜粋して、要点を以下に記載します。
転職を考えたきっかけのトップ3は「会社の将来性」「会社の考え・風土」「給与」でした。

転職を考えたきっかけ

(出典:エン・ジャパン「転職のきっかけ」)

転職を考えたきっかけ・理由を教えてください。(複数回答可)

(出典:エン・ジャパン「転職のきっかけ」)

年齢とともに転職理由も変化する
離職の理由について2つの調査結果をみると、若年者(15~34歳)とミドル層(35歳~)では、離職の理由が異なっています。
若年者層では、現在の自身の置かれた環境や待遇に視点を置いた理由が主となっていますが、ミドル層になると、現在だけでなく将来まで視野を拡げ、勤務先の将来性・安定性や自身のキャリアの中で身につけた武器をもっと活かしたいといった理由が多くなっているといえます。
世帯形成層に入ると、自身のことだけでなく、家族のことも考えなければなりません。そうなると生活の質の向上や安定志向が強くなるのも当然のことだと思います。
キャリアを重ねることで、自身のスキルや知識が向上するだけでなく、自身の能力を考慮したキャリアプランの見直しや勤務先である企業の現状を俯瞰して見ることができるようになります。若いうちには見えなかった会社の強みや弱み、特にネガティブな部分についても敏感になってきます。中には「経営者目線」を持ちながら日々の業務をこなしている従業員もいるかもしれません。経営層が変わったことにより、会社の方向性にブレを感じ、経営を心配するといったこともあるはずです。
いつまでも不安な気持ちを抱き続けるぐらいならば、いっそ別の企業で働こうという思いから、転職を決心したということもあるようです。

退職の本当の理由は伝えない(ホンネと建前)
退職の理由を踏まえて離職防止策を考えるのが当たり前なのですが、実際のところ企業側に本当の退職理由が伝わっているかは疑問です。特に、本当の退職理由が職場の人間関係や給与体系、福利厚生への不満等である場合、より円満な退職を希望する人は「個人的な都合で」とぼやかしたまま退職してしまいます。退職理由の伝え方には個人差がありますが、本当の退職理由を企業側に正直に伝える人はあまり多くないようです。
前述のエン・ジャパンが運営する転職サイト『ミドルの転職』上で、サイトを利用している転職コンサルタントを対象に行った「転職理由の本音と建前」に関する調査結果(2019年2月27日掲載)によると、転職者の2人に1人は異なる退職理由(つまり本当の理由ではない)を企業側に伝えています。

(出典:エン・ジャパン「転職理由の本音と建前」)

企業側に伝える退職理由としては「家庭の都合」や「ほかにやりたいことがある」「資格取得のため」等がよくあり、「一身上の都合」という「建前」に集約されています。
企業側も個人的な事情では引き止めにくく、そのまま退職を受け入れざるを得ないことがほとんどです。また、そもそも一人ひとりの退職理由にあまり関心がなく、去る者は追わずというスタンスの企業もあります。
転職者が企業に伝える転職理由のトップ2は「仕事の領域を広げたい」「専門スキルや知識を発揮したい」ですが、ホンネは「報酬をあげたい」が最も多く、次いで、同率で「職場の人間関係が合わない」「評価に納得できない」「上司と合わない」が続いています。ホンネと建前に大きなギャップがあることが伺えます。

ホンネの退職理由
①給与や評価への不満
給与や評価に対する不満が、本当の退職理由です。成果を上げてもほとんど昇給しなかったり、賞与に反映されなかったりすると「ここにいても正当に評価してもらえない」と考えるようになってしまいます。また、人事評価の基準があいまいな場合もモチベーションに悪影響を及ぼします。

上司との相性、職場の人間関係の問題
「気軽に相談しにくい」「上司のハラスメントが黙認されている」「同じ職場の人間が働かない、非協力的」等、上司や職場の同僚との人間関係が悪いと、ストレスが溜まって労働意欲低下につながります。
このストレスの原因である職場の人間関係の悪化が、本当の退職理由です。人間関係の問題はデリケートですので、本当の退職理由としては伝えないことが多いのです。

③企業の将来に対する不安
この退職理由は、企業側に「本音」をそのまま伝えているといえます。
具体的に何が不安なのかを明確にすることはできませんが、漠然とした企業の先行き不安や自らのキャリアパスに対する不安等が本当の退職理由です。

 

企業が取らなければならない離職対策
企業としては、こうした調査結果を基に人手不足の解消に向けて、できる限り離職を減らす対策を検討・実行する必要があります。
次々と従業員が退職しては、新しい従業員が入るという、定着率が低く、離職率が高い企業は、求職者から見ればいわゆる「ブラック企業」のイメージと重なります。昨今は、転職者専用のクチコミサイト等もあり、いかに自社で気をつけていても、そうした情報が社外に出回ることがあります。もしミスマッチが頻発すれば、対外的なイメージダウンにも繋がってしまうと考えなくてはなりません。
人手不足による機会損失、収益の悪化といった負のスパイラルに陥ることは、何がなんでも回避したい。労働人口そのものが減少しており、人手不足の深刻化が続いている状況では、離職対策は企業にとって最重要課題です。

離職防止の対策を検討するには、ホンネの退職理由で多い①労働条件、②人間関係、③会社の将来に対する不安という3つの課題を解決する観点から考えていく必要があります。
日本公庫総研レポートNo.2018-4「人材の定着を促す中小企業の取り組み~従業員への意識調査にみる離職防止のためのポイント~」も参考にしながら、離職対策を検討します。
労働条件
労働条件とは、雇用契約期間や労働時間、休日休暇、給与等、労働する上での各種条件のことであり、労働基準法15条1項により、使用者(会社・事業者)が労働者に対して明示することが義務付けられています。
①労働時間の適正管理や休暇取得の励行
長時間労働の常態化や休日出勤、サービス残業が横行している環境は、離職を引き起こしやすくなります。職場環境改善のためにも、労働時間の適正管理や休暇取得の励行は必須です。
労働基準法において、企業は労働者の労働時間を適正に管理することが義務づけられています。また2019年4月からは、法改正により有給休暇の確実な取得が義務化されました。
そのため、法令遵守の観点からも使用者は労働者の労働日数や有給休暇の取得日数、始業・終業時間を把握する必要があります。
自己申告制では適正な管理は難しいので、客観的に把握できるタイムカードやICカード、勤怠管理システムを導入し、労働実態を本気で「見える化」して長時間労働を是正することが、離職防止につながります。
また、システム導入や呼びかけとあわせ、業務の棚卸しや効率化のためのオペレーションの見直しを行い、長時間労働削減への取り組みを形骸化させないことも重要です。

②給与と職務内容の適正化
従業員は、能力を正しく評価され、給与に反映してくれる企業に次々に移っていくという動きがみられます。実際の職務内容と条件面が働く側にとって本当に見合っているかどうかを検討する必要があります。

③適切な人事評価制度の導入
成果を正当に評価されれば、モチベーションや企業への愛着度、貢献意欲が向上します。逆に、成果を出している従業員とそのほかの従業員の評価が横並びだと「がんばっても認められない」と不満を覚えるはずです。
従業員の成果を可視化し、適切な評価の元「給与アップ」や「表彰制度」を設ける等、成果がしっかりと反映される評価制度を設けることが大切です。

④福利厚生の充実
福利厚生とは、企業が給与や賞与にプラスする形で従業員に提供する報酬です。企業によって福利厚生の内容は大きく異なります。具体例は以下のとおりです。
・食費補助、住宅補助
・資格取得の支援、セミナー参加補助
・レジャー施設・宿泊施設の利用補助
一般的な福利厚生手当
・住宅手当
・扶養手当・家族手当
・時間外手当・超過勤務手当

⑤柔軟な働き方ができる労働環境(勤務体制)の構築
柔軟で多様な働き方を自分で選べる労働環境の構築は、働き方改革の根幹です。柔軟な働き方ができるようにテレワーク・フレックス・時短勤務などの導入するの離職防止の一つです。育児や介護をしながらでも働けるように、テレワークや時短勤務などの環境を整えれば離職せずに済みます。希望した人が働きやすい環境を整えることで「従業員を大切にしている」ことが伝わり、従業員満足度の向上にも繋がります。
育児や介護による離職を検討している人でも、テレワークや時短勤務などの制度があれば離職せずに済みます。
育児・介護休業法への対応も重要です。希望した人が適切に制度を利用できる環境を整えるとともに、ハラスメント防止対策を徹底する必要があります。

⑥仕事の負荷の適正化
従業員の経験や能力を考慮した人事配置により、仕事の負荷がかかり過ぎないように調整する必要があります。無理のある内容や量の作業を行わせることは、従業員にとってストレスになります。一方で、単調な作業ばかりを行うことも、従業員のモチベーションを低下させる要因となります。

⑦仕事の自由度や裁量権の付与
従業員の中には個々に裁量権を与えられ、「プロジェクトの進行を自発的に進めて自分の力を試してみたい」と考える方もいます。
通常業務だけではなく、ある程度の裁量権を与えることで社員のモチベーションアップや成長につながります。従業員一人一人の裁量権を拡大すれば、組織への貢献意識が向上します。

作業日程の作成等、現場のオペレーションを決める際に、従業員も参加できる体制を作るようにします。作業手順に関しても、現場の意見を取り入れて、担当従業員が決定できる範囲を定めます。全従業員が正しい理解で作業を進められるように、必要な情報の共有を徹底することも必要です。

 

人間関係
①退職者を減らすには、まず従業員に声掛けを
従業員が仕事をするうえで非常に重要だと感じていることに、企業や管理職が興味を示さなかったり、協力的でなかったりすることが、退職を考えるきっかけとなっています。
管理職側では、そのことに気づいておらず、調査でも9割近くの管理職が部下の退職理由を給与のせいだと思っていました。退職者を減らすには、まず従業員に声を掛け、話を聞くことから始める必要があります。

②経営者と従業員の積極的なコミュニケーション
従業員同士のチームワークも重要ですが、経営者と従業員間で積極的にコミュニケーションを行うことには、大きな意義があります。企業によっては、採用の段階から、社長自ら手厚くコミュニケーションを取っている企業もあります。
こうした手厚いコミュニケーションは、大企業には真似のできないものであり、中小企業の持ち味であるといえます。また、経営者とのコミュニケーションの頻度が高いと、従業員のモチベーションが向上するという分析例もあります。離職防止のため賃金水準を引き上げるのに比べれば、はるかに軽い負担で実施できて効果も高いと思います。
各社各様の事情がありますので、自社の規模や業態、組織の性格に適したコミュ ニケーション方法が求められます。
経営者との直接的・継続的なコミュニケーションは、大企業には真似のできないもので、中小企業の強みの一つといえます。仮に従業員が会社に対して不満をもったとしても、早期の段階で解消できる機会にもなり、人材の定着に大きく寄与すると考えられます。
比較的軽い負担で実現できて効果も高いので、賃上げと並行して実施することもできます。
ただし、経営トップや従業員各人の自発性に依存した取り組みだと、継続性や安定性の面で懸念があります。誰かの強い推進力がなくても、日常の企業運営と連動して動くような、自走する継続的なシステムとして構築することが望ましいと思います。
また、その際には、お互いの話を聞くだけ、言うだけの形式的な仕組みではなく、それぞれの考えを正確に相手に伝え、理解し、要望などの実現が難しい場合においても納得できる理由を明確にフィードバックするような仕組みが求められます。
そうした仕組みの下で、組織内を縦横に走るコミュニケーションを軌道に乗せることができれば、意思疎通不足が引き金となる離職は確実に減っていくと思います。

③コミュニケーション活性化に向けた仕掛け
離職経験のある従業員へ「どのような手立てがあったなら前勤務先を離職しなかったか」を尋ねたところ、
「上司が、何が不安なのかを確認してもらえれば」「上司が、自分の話を聞く時間を設けてもらえれば」「企業が、将来的に育てていくビジョンやキャリアパスが明確に示されていれば」という声が目立ち、「説明する」「話を聞く」「明確に示す」が重要なキーワードであることが分かりました。
そうした点を踏まえて、人材の定着を促進する方策として、
ア 従業員一人ひとりに配慮し、反応する組織体制
イ 従業員間のチームワークを促す仕掛け
を挙げることができます。
具体的には、
アでは、将来を見通せるキャリアパスプランを個々の従業員に提示し、要望があれば何らかの反応をする組織体制を整えること
イでは、従業員同士の助け合いが前提となる横断的なプロジェクトを実施する等、相互の交流を半ば強引にでも後押しする仕掛けをつくること、等です。

④定期的な面談の実施
社員のキャリアプランや不満を把握するためには、定期的な面談が不可欠です。1on1ミーティングやメンター制度等、自社にあった面談・相談のしくみを取り入れることも必要だと思います。社員の意向を人材配置に反映できれば、モチベーション向上が見込めます。
自社のキャリアパスを公開する取り組みも有効です。社員が目標や課題を把握しやすくなるため、将来への不安を軽減できます。

⑤経営層・管理職のマネジメントスキルの向上
離職防止で盲点になりやすいポイントが、上司のマネジメントスキル不足です。上司の部下に対する不適切な言動が離職を招くことも多いのですが、前述したとおり、上司の「説明する」「話を聞く」「明確に示す」といった意思疎通が適切にできていないことが問題だと思います。
社内のコミュニケーションを活性化させるためには、管理職に対して定期的にマネジメント研修を実施する等により、マネジメントスキルの向上を図ることが大切です。
ドラッカーは、この役割を果たさない上司、そして、このような上司の存在を許す企業を「組織が腐っている」と厳しく表現しています。

⑥意思疎通のしやすい組織風土づくり
日頃から意思疎通が活発で、忖度のない円滑な意思疎通ができている職場なら、仕事や人間関係に対する不満がまだ小さいうちに解決に繋げられる可能性が高くなります。
上司と部下が定期的に面談をする1on1ミーティングや年齢の近い先輩が仕事の悩みを聞いてくれるメンター制度等を導入や相談窓口(ホットライン)を設置する等、意図的に職場の交流機会を設ける企業も増えています。
風通しのよい組織風土を築き、仕事や人間関係に関する困りごとや不満点を共有することができれば、離職が起こりにくい、よりよい職場環境に変わると思います。

 

企業の将来性
業績悪化・取引先の離脱・業界内外の評判悪化等、自社の将来性が疑われるような要素があると離職に繋がります。また、自社の収益が可視化されていない場合や、会社の目指す方向が明確に示されていない場合にも不満が高まります。
①経営者・経営陣と従業員との信頼関係の構築
経営者や経営陣、そして直属の上司といった経営理念や企業文化等を決める企業のリーダーを信用できないと、従業員は経営者の言葉に納得できません。最悪の場合、退職を考えることもあります。
従業員と経営者を始めとした上層部の意思疎通する機会がなかったり、企業の未来像が従業員まで届いていなかったりすると問題が起こりやすくなります。
経営者は、企業が今後成功するという確信を従業員に伝え、チームを鼓舞しなければなりません。有言実行を励行して信頼される存在であるとともに、自ら従業員を信用し信頼するよう努めなければならないのです。

②共通の目的の共有化
共通の目的とは、経営理念や経営ビジョンのことであり、企業の方向性を決める大切な要素です。共通目的を組織内部でしっかりと共有することにより、組織として1つのまとまりを持って機能させることができるのです。つまり、共通目的を正しく、適切に設定し組織に反映させることが、円滑な組織運営の重要な鍵となります。
経営理念とは、自社の存在意義を表すもので、企業の目的地、到達すべき理想の状態についての考え方を表したものです。
経営理念や経営ビジョンを組織内に浸透させることは経営者が果たすべき役割です。その意味するところを全従業員にきちんと理解させることができるのは、経営者だけだと思います。目的地を明確にすれば、従業員全員がそれに向かって邁進していくことができます。

③組織図の作成と役割分担の明確化
組織図は、組織の体系を明確にするために必要なものです。組織図を作成する目的は次の5つです。
ア 組織構造の見える化
・組織を正確に把握する(部門とその役割、具体的な機能や人数、部門間の関係等)。
・組織構造を理解し、円滑な部門間連携や業務の効率化を図る。
イ 指揮・命令系統の明確化
・組織内の指揮・命令系統(誰の指示を仰ぎ、誰に指示を出すのか)を明確にする。
・スピード感を持って意思決定をする。
ウ 権限の適切な分配(集中化・属人化防止)
・組織における権限の最適な分配をする。
・組織編成を可視化することで、権限の分散化や適正な人員配置をする。
エ 従業員同士の相互理解
・組織内のコミュニケーションを活性化する。
・部署や部門間の情報共有を通じた問題の早期発見等の効果を期待する。
オ 従業員の組織内での立ち位置の認識
・各部署や部門の担う役割や部署・部門内での自分の立ち位置を認識する。

組織図と併せて、経営者は組織に属するメンバーの役割、責任、権限を明確にしなければなりません。組織を機能させるためには、組織内の各自がその役割に応じて適切に行動することが不可欠です。そのため経営者は、各自がその役割において、何をしなければならず、何をすることが許容されているかを明確にし、それを伝達して各自が確実に理解できるようにすることが必要なのです。

④採用ミスマッチの削減
採用のミスマッチも人手不足を引き起こす大きな要因です。
社内で、「3年以内の離職率が高い」「従業員の生産性が低い」といった要因が見受けられる場合には、求人募集・広告の出し方などを見直すことも必要です。また、「自社に合う人材とは」という採用の根本的な要件を見直すのも効果的です。
ア 退職する理由をヒアリングする
適切な離職防止対策を講じるためには、退職を希望する社員へのヒアリングが欠かせません。自社が抱える問題点を明らかにする必要があります。
ヒアリングは、退職手続きの完了後に実施します。退職後であれば、本音に近い意見を聞き出せる可能性もあります。慰留目的の面談だと思われると態度が硬化しかねないため、注意が必要です。

イ 採用活動や入社後の育成施策の見直しを行う
早期離職を防ぐためには、採用活動や人材育成施策の見直しが必要です。施策例は以下のとおりです。
・インターンシップ制度を導入する
・求職者に必要な情報をもれなく与え、ミスマッチを防ぐ
・入社後のフォロー面談をこまめに行う
・OJTやOff-JTに力を入れる

ウ 研修制度を整える
スキルアップへの不満を生まないためには、研修やワークショップといった学びの機会を積極的に作る必要があります。各従業員が自分にあった研修を受けることで全社的なスキルアップやリーダー育成が可能になり、人材定着にも繋がります。
研修以外では、部門横断のプロジェクト等、新たな挑戦の機会を与えることも有効です。

 

最後に
随分、長文になってしまいました。最後まで、お読みいただきありがとうございます。

今回、この記事をまとめるなかで「企業は、常に様々な課題や問題を抱え、その解決を図りながら業績の拡大・企業の成長を実現しなければならない。経営者に悩みは尽きないもの」だと改めて感じました。
「第113回 古典的経営組織論に学ぶ!強い組織の作り方」でお伝えしたC.I.バーナードが提唱した「組織は、①相互に意思を伝達できる人々がおり、②それらの人々は行為によって貢献しようとする意欲をもって、③共通の目的の達成をめざすときに、成立する」ことがベースになると改めて確信しました。
様々な課題解決を図って強い組織を作る基本は「縦横無尽なコミュニケーション」ではないでしょうか。

上半期の倒産は、3年ぶりに4,000件を超え、その原因をみると「物価高」「ゼロゼロ融資後の資金繰り難」「人手不足」等、企業経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。
「会社の将来に対する不安」「会社の考え方・方向性、組織風土に対する違和感」も従業員のモチベーションに大きく影響を与えます。
「市場の将来性」「業界の将来性」「後継者の将来性」「業績の将来性」「雇用の将来性」こうした観点から自社が目指す目的地、自社の将来性を語ることができるのは、経営者だけです。
自社の将来性を明確に示して従業員のモチベーションをアップさせ、定着性を高めるには、経営者が先頭に立って、知恵を絞り、従業員とともに汗水流して、安定経営を実現するしかないのです。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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