第3回 危惧される「金融上の倫理の欠如(モラルハザード)」

金融

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第3回目は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により危機に瀕している経済情勢の中で、雄蕊が危惧している「金融機関や中小企業経営者に『倫理の欠如(モラルハザード)』が起きないか」ということについて、雄蕊なりの個人的見解を述べさせていただきます((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

《雄蕊覚蔵の危惧》

バブル景気真っ只中の時代、担当者として、東京で小規模事業者・中小企業向けの事業資金融資の業務をしていました。また、リーマン・ショックのときとモラトリアム法が施行されたときは、大阪で事業資金融資に関わる部署の課長をしていました。

バブルの前と後、リーマン・ショックの前と後で、決算書の顔つきが変わりました。今回は、決算書の中身について触れるつもりはないのですが、現場で2万5千社ほどの中小企業等の決算書を見てきた経験のなかで、現役を退いた今日でも、当時の金融機関の対応や経営者の意識に関して懸念する(腑に落ちない)ことがあるのです(金融マンであった自身に対する自戒を込めてですが…)。その1つは、「金融機関の目利き力が低下しているのではないか」ということ、もう1つは「中小企業経営者の赤字経営に対する意識の問題」です。

今回は、そのことに関連する話をさせていただきます。

 

《積極的な金融支援と問われる金融機関の「目利き力」》

脆弱な財務体質の小規模事業者・中小企業にとって、資金調達のメインは金融機関です。小規模事業者・中小企業は、同族企業が多いので、新株発行等による増資はあり得ないと考えるほうが妥当でしょう。とすれば現在の窮地を乗り切るためには、金融機関による金融支援は必要不可欠です。あくまでこの考えを前提にして話を進めます。

金融機関の担当者に対して、雄蕊がお伝えしたいことは、『緊急経済対策で資金繰り支援のための融資制度が創出されているが、金融機関の本来の機能、「目利き力」だけは見失わないで欲しい』ということです。

赤字体質から脱却できず、本来なら市場から退出すべき企業だと判断された企業に対しては、無理な金融支援はしないで「経営者にしっかり説明したうえで、思い切って断ったほうが良いのではないか」と思うのです。

赤字が続いているにも拘らず、何も改善策を打っていない企業は、新型コロナの影響がなくてもいずれ近い将来、淘汰される運命だと判断することが妥当ではないでしょうか。たまたま、この不況によりその時期が早まっただけだと考えられます。

そうした企業が、今回の資金繰り対策に便乗して、(言葉を選ばず言えば)中途半端な金融支援を受けることにより延命され、ゾンビ企業になって世に蔓延ることだけは、何が何でも避けなければならないと思います。

2009年12月に中小企業救済のため、金融機関に対して「返済困窮者からの返済の猶予や返済期間の延長、金利の減免などの条件緩和要望には誠実に対応すること」を求めた中小企業金融円滑化法(通称モラトリアム法)が施行されました。

当時、雄蕊は中小企業金融の現場で事業資金の融資業務に携わっていましたが、「景気の回復が見られないなか、本来市場から退出すべき企業まで麻酔(モラトリアム法による条件変更)で一時的に眠らせても、目覚めたときにはミイラ化し、ボロボロになって再生不能になっている。モラトリアム法による条件緩和は、単なる延命措置ではないか?」と思っていました。

新型コロナウイルス感染症の拡大の影響による現下の不況に対する資金繰り支援として、リスクの高い融資を実行したり、返済の目途が立たない条件変更に応じたりすると金融機関自体の財政状況に大きなしわ寄せが来る可能性も高くなると考えられます。

将来にツケを残すような金融支援を続けると数年後に、破綻する金融機関が続出する等の金融危機が再燃する可能性はかなり高い確率だと思います。

戦後最大の経済危機のなか、小規模事業者・中小企業の資金繰り支援に対応することは、金融機関としては必要不可欠なことであり、政府の要請もあれば、現場では応需していかなければなりません。金融機関の方にお聞きすると、「リーマン・ショックの後に見られた「金融危機」を招きかねない様な対応は繰り返さない」と言われていますが、その言葉通り、「目利き力」を活かした金融支援を期待しています。

以上、あくまで雄蕊の自戒を込めた個人的な見解です。

 

《経営者の経営姿勢に対する意識改革》

経営者に対しては、厳しいことを申しあげます。過去5期分の自社の決算書を確認し、純資産(自己資本)が大幅に減少している、あるいは借入金が大幅に増加していたら、それは危険信号です。純資産の減少は赤字であることを示しています。借入金の大幅な増加の原因が大きな設備投資のための資金なら話は変わってきますが、不足資金の補てんのためだったとしたら要注意です。

赤字の原因が明確になっており、改善に向けた対策に既に着手し、改善効果がある程度期待できると経営者が自信を持って判断できるなら、資金調達を行い、改善に取り組む必要があります。しかし、改善の見通しが立っていないのであれば下手に資金調達に走らず、「この機会に幕引きを検討したほうが良いのではないか」ということです。

リーマン・ショックが起きた時代、2009年12月に中小企業救済のために中小企業金融円滑化法(通称モラトリアム法)が施行されましたが、この法律に基づき金融機関が金融支援を続けた結果、その後遺症が、支援した金融機関側にも支援を受けた企業側にも10年以上経過した現在もまだ残っていることは事実だと思います。

「モラトリアム法」については、当時の政権や金融機関に責任があるとは思いますが、何より大きな責任があるのは、金融支援を受け続けた企業の経営者ではないでしょうか。

返済条件緩和という金融支援を受けなければならない経営状況に導いたのは、経営者の責任です。金融の現場では「リーマン・ショックの影響を受け、世界的な経済危機が起きたのだから仕方がない!」という経営者もいらっしゃいましたが、この影響を受けたすべての企業が、モラトリアム法による金融支援を受けなければならないほど、企業の財政状況が危機に瀕していたわけではないのです。

当時、融資業務の課長として中小企業向け金融の最前線で資金繰りに窮した中小企業等への資金供給業務を担っていました。確かに影響後の決算書の内容は、端的に言ってボロボロでしたが、多くの中小企業はニューマネー(新規融資)を投入することにより、急場を凌ぐことができたと記憶しています。それは、資金繰りに窮した原因が、(リーマン・ショックの影響)という一過性のものであり、将来の回復見通しが十分あったからです。

しかし、一方でモラトリアム法に基づく金融支援(既存借入金の返済条件緩和)を受けた企業は、そのほとんどが、もともと借入依存度が高く、借入過多の脆弱な財務体質で、追加融資を受けること自体が厳しかったのです。つまり、平常時から恒常的に赤字を続けており、元々、資金繰り難に陥った原因がリーマン・ショックだけではなかったということ、不測事態への備えがなかったということだからです。

そういった企業が、金融支援(既存借入金の返済条件緩和)を受けたからと言って、一時凌ぎ程度の効果しかなく、それまでの財務体質を抜本的に改善することはできないのです。経営者が、自社の課題や問題点を把握して主体的に体質改善に向けた行動を起こさなければ、財務体質を健全な形に変えることはできません。単に金融支援による延命措置を受けていただけということになるのです。

それでも、今回の危機において、取引先や従業員を護るためには、「背に腹は代えられない」と金融支援を受けるのであれば、自社の財務体質・ビジネスモデルを劇的かつ根本的かつ抜本的に見直す覚悟が必要だと思います。

赤字企業に対する金融機関側の金融支援も無限に続けることはできないと考えます。経済環境に大きな変化が起きれば、金融機関の融資姿勢も見直されることになります。また、支店長の交代や金融機関自体が、他の金融機関との統合・合併を行う事態になれば、ある日突然、「貸し渋り、貸し剥がし」が起きるという、頼りにしていた金融機関から冷たい対応を受ける日がやってくる可能性もあるということです。本来、金融機関の果たすべき使命は、健全な財務体質の企業に対してより多くの融資を行い、経済の成長・発展を促すことだからです。

つまり、金融支援を受ける中小企業としては、赤字体質、借入依存体質の経営からは何が何でも脱却しなければならないと思います。それが出来ないとコロナ時代を乗り切るのは至難の業になるかもしれません。

雄蕊覚蔵なりの個人的見解ですが、貸し手である金融機関、借り手である経営者ともにこの危機を将来にツケを残さない持続可能な打ち手で乗り切ることを考えていただきたいと思います。タラレバの話になるのですが、ここで融資対応ではなく、別の支援策を講じていたら回復できたかもしれないという事例も幾度か見てきました。そんな中小企業金融の現場での経験から「この機に乗じて」という金融上の倫理の欠如という意味でのモラルハザードが起きないことを願います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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