「こんにちは、雄蕊です!」第2回目は、2020年5月27日に閣議決定された第二次補正予算案のなかで小規模事業者・中小企業の「資金繰り」対策関連の概要と資本性劣後ローンに関する事項をまとめてみました。
《第二次補正予算案の概要》
2020年5月25日に緊急事態宣言が全都道府県で解除となりましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束したわけではありません。第二波の感染拡大も懸念されています。そのような状況下においては、感染拡大防止と経済回復という両輪を状況に応じて、スピーディに適時適正な対策の見直しを行い、実行していく必要があると思います。
5月27日第二次補正予算案が閣議決定され、国会や各省庁では第二次補正予算施策の早期実施に向けた詰めの作業を続けておられるようです。その概要の中で小規模事業者・中小企業向けの「資金繰り対策」関連については、概ね以下のとおりのようです。
中小・小規模事業者向け
融資 |
日本政策金融公庫等と商工中金の実質無利子・無担保融資の融資限度額・無利子枠の拡充
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4月の融資実績等を踏まえ、融資規模を大幅に拡充
公庫融資上限を6億円に引上げ(現行3億円) 事業者の事情に応じて公庫の資本性ローンの条件を柔軟に変更した上で資金枠を確保 |
民間金融機関による無利子・無担 保融資の無利子枠の拡充 | 融資規模を大幅に拡充 融資上限を4千万円に引上げ(現行3千万円) | |
資本性資金の活用
(財務基盤強化と成長に向けた安定資金の供給) |
劣後ローンの拡充
(日本政策投資銀行、商工中金、日本政策金融公庫等) |
公庫や商工中金は中堅・大企業向け資本性劣 後ローンのほか、中小企業向けに最長20年間、 1社当たり最大7.2億円の資本性劣後ローン |
(経済産業省ホームページ:(参考資料)令和2年度第2次補正予算案等における⾦融⽀援策から抜粋して筆者が作成)
雄蕊自身は、当初の緊急経済対策(資金繰り対策)が発表された時点で、融資金額の上限額を引き上げたり、保証制度を拡充したりする前に、「劣後ローン」を活用した「疑似資本」により、小規模事業者・中小企業の資本増強を図ることを考えるほうが理に叶っており、実効性が高いのではないかと思っていました。
それは、小規模事業者の事業規模、返済能力を鑑みれば、上限額をどんなに引き上げても、上限額一杯まで利用できる企業はほとんどないというのが現実だからです。
これまでの長期に亘った景気低迷期を乗り切るため、小規模事業者・中小企業の多くは、借入過多の状況に陥っています。つまり、資本が脆弱になっているということです。なので、資本の増強を考えないと、負債である借入金を増やして一時的に資金繰りがついても、将来的にその元金返済がきつくなる可能性が高いということです。
金融機関側に新設された制度を活用し、企業を支援したいという想いはあっても、融資である以上、元金返済の問題があります。
相談者から「時間がかかっている」、「提出書類が煩雑で手続きが面倒だ」といったコメントを耳にすることもあり、民間金融機関からも「政府系金融機関に断られたと相談に来る企業もある」という声も聞こえますが、貸し手側の視点に立つと、返済が必要な融資という性質上、将来的に返済財源が見込めない企業に対しては、なかなか踏み込めないというやむを得ない事情もよく解ります。
第二次補正予算の詳細については、これから詰めの作業に入るようで、6月8日の週には、可決される見通しです。
今回の追加対策のなかで、雄蕊が目玉と考える資本性資金(劣後ローン)です。それは、先ほど申しあげたとおり、中小企業等にとって資本の増強も必要と考えるからです。今回の資金繰り対策の中で、資本性劣後ローンが中小企業金融の現場で実際に活用できる仕組みになればよいと思っています。
《資本性劣後ローンとは》
日本政策金融公庫の融資制度のなかに資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)という制度があります。
また、商工中金のホームページに「地域金融機関の皆さまと協調して劣後ローン(DDS)・資本的劣後ローン(DES)等の多様な金融手法を活用して、事業再生の実効性を高める取組を行います。」とあります。
一般の経営者の皆様には、突然「資本性ローン」、「劣後ローン」と言われても「資本性ローン、劣後ローンって何?」とよく解らないと思います。できる限り、噛み砕いて解説してみます。
日本政策金融公庫国民生活事業のホームページから資本性ローンの説明部分を抜粋し、雄蕊なりの解説をつけ加えてみました。
日本政策金融公庫国民生活事業の資本性ローンは、創業や新事業展開などの取組みに必要となる「安定資金の確保」と同時に、「財務体質の強化」を図ることができる融資制度です。
ポイント1 (現行の資本性ローンは、)新たな事業を始めるかたや、事業開始後間もないかたなどが対象となります。
ポイント2 業績に応じた金利設定(業績がよくなれば金利が上昇するしくみ)となっています。
ポイント3 資本性ローンによる借入金は、金融検査上、自己資本とみなすことができます。
資本性ローンを利用すれば自己資本比率を下げることなく(信用力に悪影響を与えることなく)資金調達ができるため、追加融資において問題視されづらいという利点があります。
ただし、これは金融検査上の取り扱いの話であって、会計上の分類はあくまで「借入金」となることに注意が必要です。
資本性ローンの制度内容
○(現行の日本政策金融公庫国民生活事業の資本性ローンを)ご利用いただけるかたは、技術・ノウハウ等に新規性が見られるかた、例えば、特許権などの知的財産権を利用して事業を行う方、経営多角化・事業転換を図る方などです。
○ご返済期間は、「最短5年1か月からの期限一括返済」となります。
○「無担保・無保証人」でご利用頂けます。
○直近決算の業績に応じた、1年ごとの金利が適用されます。
○金融検査上、自己資本とみなすことができます。
○資本性ローンによる借入金は、法的倒産手続きの開始決定が裁判所によってなされた場合、全ての債務に劣後します。
資本性ローンの特徴
特徴1 期限一括返済
・最終回の一括払いとなり、それまでの間は、利息のみの支払となります。そのため、融資期間中は元金の返済負担がなく、月々の資金操り負担を軽減することができます。
特徴2 業績に応じた金利設定
・業績が低調なときは、金利負担が小さい設定となっています。そのため、安定的な返済計画を立てることができます(回収リスクが高い制度なので通常の金利よりは高めに設定されています)。
特徴3 疑似出資
・資本性ローンによる借入金は、金融検査上、自己資本とみなすことができます。そのため、財務体質を強化することができます。また、資本性資金でありながら、株式ではないため、既存株主の持株比率を低下させることもありません。
・借入金ではなく、自己資本としてみなせる額は次のとおりです。
償還期限まで、5年以上有する債務については、残高の100%をみなし自己資本とします。残存期間が5年未満となった債務については、1年ごとに20%ずつみなし自己資本の割合が逓減します。
雄蕊覚蔵の追加解説
「資本性」の意味は、最終回一括返済のため、毎月の返済が不要でかつ金利が業績に応じて決定されることから、融資ではなく出資と同様の性質に近い資金(支払いや返済義務のある他人のお金ではなく、一定期間元金返済を考える必要がない自分のお金と同様に使える)と考えられ、借入金に違いはないのですが、いわゆる「疑似資本」と見做せるので「資本性」と呼ばれています。
劣後ローンとは、他の債務よりも債務弁済の順位が劣る借入金のことです。つまり、ある一定期間は元金返済をしなくてよい制度です。
「劣後」とは、会社が倒産した際に他の債権に比べ劣後され、優先的に弁済を受けることができないという意味で、出資金と同様、倒産しても優先的には返済を受けられないということです。
この資本性劣後ローンを金融機関は、決算書上「長期借入金」として負債に計上されるため、有利子負債が膨らんで見えますが、資本性劣後ローンを資本金と見做すので、自己資本比率が決算書の数字よりも高くなったと評価します。つまり、経営基盤が決算書よりも強固になったと判断しますので、融資が受けやすくなるという効果があるのです。
現行の公庫の制度を利用するためには、「事業計画の策定」と四半期ごとの事業報告が義務付けられています。
この制度が、現時点では、今回の資金繰り対策の中で利用できるということではありませんが、資本性劣後ローンについて、ご理解を深めていただくために解説させていただきました。
第二次補正予算案では、現行の制度を拡充した「資本性劣後ローン」を検討しているので、活用できる対象企業に該当すれば、積極的な活用をお薦めします。残念ながら雄蕊は現役時代にこの制度を活用した案件の起案も決裁もしたことがないので、詳細については、この場でお伝えすることができません。
投稿者プロフィール

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中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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