NO.125~「勿体ない」経営から「儲かる」経営へ~中小企業経営者のための会計と財務の基礎知識(その1)

財務

ようこそ!かんれき爺の資金繰りブログへ
いつまでも「かんれき爺」、かんれき財務経営研究所のおしべ覚蔵です。
リニューアル第一弾を投稿します。これまでに投稿した会計や財務に関する記事も再編集して載せていきます。会計と財務について基本から一緒に学びましょう。

 

中小企業金融に関わるすべての皆様へ(about me)
中小企業金融に携わってもう40年以上になります。
金融機関時代は恵まれたことに経営が順調に推移している企業向けの事業資金の新規融資業務と経営が思わしくなく事業継続が難しくなった企業の条件変更(リスケ)といった企業再生支援業務にほぼ半分ずつ従事してきました。そのお陰で金融機関の立場として優良といわれる企業も経営が悪化している企業も遍く関わることができました。

当時は仕事柄、業績優良企業の経営者、業績悪化企業の経営者等々数万人の中小企業経営者とお会いする機会があり、数多くの経営者と対話しましたが、その中には「勿体ない経営」をしていると感じる赤字企業の経営者も少なくありませんでした。対話を通じてそういう経営者に共通する特徴は、会計や財務に関する知識に乏しく、コスト管理や投資効果の検証等、数字やお金を管理することが苦手だと気付きました。
業績の芳しくない企業の経営者が少しでも数字やお金に関心を持つようになったら「勿体ない経営」から「儲かる経営」に転換できるのではないかと思い、現在は財務コンサルとして経営支援全般に関わらせていただいています。

しかし、実際に中小企業の現場に入ってみると経営者だけでなく経理や会計といった業務に携わっている方も会計や財務に関して十分な知識を持ち合わせておらず、加えて経営戦略や経営計画を立案して実行できる人材も現場にはほとんどいないことが分りました。コンサルティング・ファーム等の支援機関がどんなに立派な経営計画を作ったとしても現場にはその計画を実行できる人材がほとんどいないのです。そのためせっかく作成した立派な経営計画が宝の持ち腐れになってしまっているのです。
また、計画を実行したり数字やお金をコントロールしたりするためには組織や人へのマネジメントが重要な要素になります。組織や人のマネジメントは経営者の役割であり経営者自身が会計や財務に関する知識を身につけ数字やお金を判断の根拠として組織や人のマネジメントを行い経営していくしかないと実感しました。

そこで教科書的な内容や評論ではなく、40年間中小企業金融の現場で経験したことから身につけた知識やスキル、ノウハウをお伝えすることで中小企業経営者が会計や財務に関心や興味を持って学ぶための一助になればという思いを込めてこのブログでお伝えすることにしました。

 

企業経営には会計の知識と財務の力が不可欠
中小企業経営者からお話しを伺っていると、多くの方が次のような疑問を抱いておられます。
「売上は上がっているのに儲けが少ない。どうしたら儲かるのか?」
「利益を出しているにも拘らずお金が足りないのは何故か?」
では、そもそも経営者が口にする「儲かる」とはどういうことを言っているのでしょうか?
①利益が出ること
②使えるお金が貯まること
③利益も出て、使えるお金も貯まること
中小企業経営者の多くは、総じて決算書の読み方とか今期利益がどれだけ出たとかということにはほとんど関心がないと感じています。「今後、どうやったらお金が儲かるか」「いくらお金を使えるか」、たとえば新規に従業員を何人雇い入れることができるのかとか、何にお金を使えば(投資すれば)儲かるのかといったことが最大の関心事だといえます。経営者が口にする「儲ける」とは「手元に使えるお金を増やすこと」だと理解するのが妥当なのです。

しかし、多くの経営者は「利益が出る=お金が貯まる」と勘違いをしています。利益が増えれば手許のお金も増えると思っているようですが、利益が増えることとお金が増えることは通常一致しないのです。
「利益は意見、お金は事実」という言葉があります。利益は会計上の概念であり実態がありません。一方、お金には実態があり手許のお金が増えたか減ったかという事実をいつでも把握することができます。
企業が利益を上げて儲かっていてもお金が不足している状態はあり得ることです。何故なら会計上の利益はお金を表しているわけではないからです。利益はお金の動きに関係なく会計上のルールに基づき計算されるものなので実際のお金の残高とはズレが生じるのです。「利益=お金」だと思い込んでいると気がついた時には資金不足を生じて慌てて資金調達に走らなければならないことも往々にして起こり得ることです。

利益は会計の概念です。会計は「利益管理」が目的になります。この概念に基づく「儲かる」は利益が出ることなのです。一方、お金は事実です。財務は「お金の管理」が目的になるのです。したがって財務の観点における「儲かる」は使えるお金が貯まることになります。
「利益が出ること」は会計における「損益」の概念として捉える、「使えるお金が増えること」は財務における「収支」という事実を捉えるという違いがあるのです。

「儲かる」=「利益も出て、使えるお金も貯まる」ことを実現させていくためには、会計と財務の違いを認識してその機能をしっかり理解しておく必要があります。

 

経営者の持つ会計や財務に対する苦手意識(アレルギー)
金融機関で融資審査業務を担当していたとき、経営者と会うたびに感じていたことがありました。本業に関する質問に対しては雄弁に応えてくれるのですが、数字やお金の話題になるといきなり無口になってしまいます。数字やお金を扱う経理や会計、そして財務といった業務に苦手意識を持っている経営者が多かったのです。その理由は経営者が経理、会計、財務といった業務の内容について正しく理解できていないことにありました。
たとえば、赤字の原因を尋ねても明確に説明ができる経営者はごくわずかで、なかには「景気が悪いから」「政治が悪いから」といった他人の責任にする経営者もいました。自社の数字を把握できていない経営者が意外に多いことに驚きと懸念を抱かざるを得なかったのが現実だったのです。
稟議書の作成過程で決算書に記載されている勘定科目の数字のなかには異常値もあります。異常値になった原因等、融資担当者の分析ではどうしても解決できない疑問点について企業側に確認しなければ稟議書を進めることができません。そこで経営者や経理責任者に質問をすると経営者等の7割~8割から返ってくる応えは必ず決まって「それは私では分からない。税理士に直接確認して欲しい」でした。

 

税理士や会計事務所を頼りすぎてはいけない?
数字やお金に関することは税理士にすべてお任せの経営者も少なくありません。税理士の仕事は一言でいえば税金を計算することです。つまり「会計」のプロではあるけれども「財務」のプロではないということです。後述しますが「会計」と「財務」は数字とお金に関する業務という点では似ていても果たすべき機能は全く異なります。だから、数字とお金に関することは税理士が万能というのは経営者の思い込みにしか過ぎません。もちろん会計事務所のなかには会計業務だけではなく資金調達等の経営支援業務を手掛ける事務所も少なくはありません。そういう会計事務所なら「財務のプロ」としても頼りがいがあるのですが・・・。

ある企業では記帳代行から確定申告書類作成まですべてを会計事務所に任せており、すべて公認会計士の指示に従って仕訳を切るための原始資料の提出等を行っていました。特に税務対策に関するエビデンスについてはその公認会計士から事細かく指導が入り、様々な資料の提出を要求され、経理担当者はその準備に業務時間の大半を費やしていました。しかし残念ながら、完成した決算書は税金を計算するためだけに焦点が絞られたものであり、金融機関の融資判断には耐えられない内容となっていました。
さらに年末ギリギリになってその会計事務所から資金が足りないからなんとかしてくれと言ってきたのです。金融機関からの資金調達に協力して欲しいとの依頼があったのですが、作成した決算書ではとても金融機関がすんなり融資に応じてくれるとは思えなかったので別の資金調達の道を探ったほうがいいと簡単なアドバイスだけにして深入りすることは避けました。それは会計事務所に問題がある訳ではありません。クライアント企業の業績や経営者が会計事務所を頼りすぎていることに問題があるからなのです。会計事務所に落ち度があるのではないことは会計事務所の名誉のために申し添えておこうと思います。

会計事務所の多くは金融機関から融資を受ける際の留意点や金融機関が行う企業格付、企業格付けのためのスコアリングに対する対策等についての知識はほとんど持っていないので、そういう視点に立って指導をしてくれる税理士は少ないのです。
会計事務所の業務は「税務会計」のプロとして「税金を正しく計算するための会計処理」を行うことであり、金融機関から融資を受けたり、経営判断に関わったりすることが本業ではないことを経営者は承知しておかなければなりません。

 

赤字に鈍感な経営者になるな
地域金融機関に30年余り勤務し支店長を務めた経験を持つ経営コンサルティング会社の社長と「何故、赤字に無頓着な経営者が多いのか?」ということについて議論する機会がありました。行き着いた結論は「そういった経営者は倒産した経験がないから」でした。
「金融機関に身を置いていると良い企業ばかりではなく厳しい経営をしている企業も数多く見ている。経営者の一家心中や経営者の自殺、命は失わないまでも会社も経営者も自己破産という目を覆いたくなるような不幸な現場を幾度となく目の当たりにしている」こうした経験を積み重ねているのでどうしても金融機関経験者は赤字企業に対して神経質になってしまうのかもしれません。

赤字ということは一言で言えば「収入より支出が多い」ということです。つまり恒常的に資金が不足し続けています。それを補うためにはこれまで蓄積してきた手許資産を食い潰すか、返済の当てのない借入を金融機関からし続けるしかありません。そうすることで足元の資金繰りはなんとか凌げるかもしれませんが、そんな経営を続けているとやがて限界がきます。気が付けば資産を食い潰して手許に何も残っていなかったり、金融機関から突然「貸し渋り、貸し剥がし」を宣告されたり、赤字経営とはそんなリスクと背中合わせだということです。

 

経営環境の大きな変化に適応した生き残りの条件
経済・金融環境は企業経営自体と密接に関係しており、環境変化が経営に大きな影響を及ぼします。絶えず変化している経営環境に応じた柔軟な経営をしていかなければ企業として存続することが難しくなってしまいます。
戦後復興期、強い追い風に後押しされていた高度経済成長期、少し逆風が吹き始めた安定成長期、強い逆風を凌ぎながら耐えてきた低成長期(デフレの時代)と経営環境は絶え間なく変化しています。足元ではデフレ経済からインフレ経済への転換の兆しが見え始めています。少子高齢化の進展、グローバル化等、構造的な課題も多く中小企業経営に大きな影響を与える環境変化は今後もより加速度的に続くものと考えられます。

昭和を生き抜いた経営者のなかには反論があるかもしれませんが、高度経済成長期には人口増加により国内市場が拡大しそれに伴い経済が成長・拡大していました。そういう局面では価格転嫁や販売数量の拡大が比較的容易にできて売上を伸ばしていたと思われます。しかし、少子高齢化が進み市場が縮小して経済が停滞するなかで売上を伸ばすことだけに注力した経営では期待するような事業の成長・拡大が難しくなったことは明白な事実です。

中小企業を取り巻く経営環境の変化に合わせた経営スタイルへのシフトチェンジが必要になりました。
具体的な経営のシフトチェンジとは、売上を伸ばすための経営から売上が伸び悩むなかでも利益をあげて手許のお金を増やすためにどうするかという経営に舵取りを切り変えることです。言い換えると「売上至上主義」の昭和の経営スタイルから「利益(数字)やお金を重視」した令和のニューノーマルな経営スタイルにスピード感を持って変化することです。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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