第76回 【2000字commentary】バランスシート経営の重要性

財務

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第76回は「バランスシート経営の重要性」と題して、貸借対照表(バランスシート)の重要性についてコンパクトに解説します。ドリームゲートアドバイザー登録を機に、経営全般に関する投稿に加えて得意分野である財務に関する投稿も改めて増やしていこうと思っています((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

経営者の方が、決算書をみるときに、まず何を確認しますか?
中小企業の決算書は、基本的に損益計算書(P/L)と貸借対照表(バランスシートB/S)で構成されています。大方の経営者の方は、損益計算書に目が行くのではないでしょうか。売上はいくらだったのか、黒字だったのか、利益はいくら出たのかといったところに関心を持って決算書を見ていると思います。
また、創業をしたい方が作成する創業計画書の定量面(数字とお金)に関しては、どのような計画書を作成していますか。売上と利益だけでなく、お金の動きにも注目されていますか。

持続可能な経営をしていくためには、お金が回らなければ始まりません。中小企業にとっての資金調達は、金融機関からの借入がメインになりますので、最初に、金融機関が融資を決める際のポイントについて簡単に触れておきます。大原則は、①融資額が運転資金等の事業目的に必要かつ妥当な金額なのか。②融資金が約束どおりに毎月返済できるのか。③融資期間中に融資先企業が潰れる心配がないかの3つです。

このことを念頭において、3つのチェックポイントを解説します。
実態財務
決算書に表した数値が実態と合っているのかを確認し、実態に合わせて決算書の数値を加算・減算し「実態財務」を算出します。
特に貸借対照表の「資産の部」に計上されている各勘定科目の数値が適正なのか(資産性の有無)を確認します。「現金」「売掛金」「棚卸資産」は粉飾決算でよく使われるので必ずチェックします。「仮払金」「貸付金」は「仮に払った」「貸し付けた」についてはお金が本当に戻ってくる可能性があるかを見ています。要するに「資金化できる資産」かどうかを確認して、不良資産と認定すれば資産から控除しているのです。
損益計算書では「減価償却費」の計上を確認します。会計上は減価償却費の計上は任意ですが、金融機関としては減価償却費を計上するべきだと考えています。計上しないのは企業実態以上の業績に見せかけるため(粉飾)だと判断するからです。このように、決算書上の数値で財務内容を判断するのではなく、実態の経営に近い数値へ修正した「実態財務」で金融機関は企業の財務内容を判断しています。

企業体力
実態財務で算出した数値に基づいて企業体力を確認します。その上で必ず見るのが「純資産」です。簡単に言うと資産と負債の差額部分となります。負債より資産の方が多いことを「資産超過」、資産より負債が多いことを「債務超過」といいます。資産超過が大きければ大きいほど企業としての体力がある=安全性が高いとなります。反対に、債務超過が大きければ大きいほど危険な企業とみられます。債務超過にある企業は、経営的に危ないとみなされるので、融資を受けるのはかなり難しくなります。ちなみに決算書上は資産超過となっていても、実態財務で見た場合に債務超過になっている企業を「実質債務超過」といいます。そのため企業側は経営が良いと思っていても、金融機関側は「実質債務超過」とみている場合もあります。

返済能力
返済の原資はお金ですので、決算書ではまず「現預金」の残高を確認します。お金が無くなれば倒産します。そのため今後事業を継続していくのに十分な資金を持っているか、返済に困らない資金繰りとなっているかをチェックするのです。利益がいくら大きくても手元の現預金が少なければ危ない企業とみられます。
次に見るのが、収益力に基づく返済能力です。金融機関によって少し異なるかもしれませんが、概ね「利益」+「減価償却費」を簡易キャッシュフローと呼び、返済財源と見ています。この返済財源が年間返済額以上となっていないと、黒字なのにお金が減っていくことになりますので、返済財源>年間返済額となっていることを確認します。併せて債務償還年数と呼ばれるものも確認します。これは減価償却費を含む利益(簡易キャッシュフロー)を全額返済に充当するとしたら何年で返済できるのかをみるのです。この債務償還年数は概ね10年以内となっていれば良好と判断されます。この3点で返済能力を見極めているケースが多いと思います。

《経営者が確認すべきは貸借対照表(バランスシートB/S)》
企業は、事業計画で売上や利益について目標値を定め、その達成に向けて事業活動を行うのが一般的なのですが、実は利益が出てもお金が減っているというケースは数多くあります。

決算書を見るときに、前期末と今期末の現預金残高の増減を気にしている経営者は案外少ないのではないでしょうか。
実は、持続可能な経営をするうえでは、損益よりも収支の方がはるかに重要なのです。だから、事業計画書に期末現預金残高の目標数値を入れるべきだと思っています。
勿論、売上を増やして、利益を増やすことは大切ですが、期末に現預金がいくら残ったのか、前期よりも増えたのかの方がもっと重要ということです。

「お金は事実、利益は意見」という言葉をご存知でしょうか。
利益は経営者の意見によって決めることが出来ますが、現預金の残高は嘘をつかないということです。現場で稼いだお金をどう運用するのか、設備投資をするのかといった意思決定は経営者が行うモノです。貸借対照表(バランスシートB/S)の内訳には経営者の経営に対する意思や姿勢が現れます。
こう説明すると、貸借対照表(バランスシートB/S)の重要性がご理解いただけたのではないでしょうか。バランスシートを重視した経営が重要だということをぜひ認識してください。個人事業の方は月末の現預金の残高の動きを注視した経営が重要ということになります。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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