第92回 経営者が押さえるべき3つの数字~現預金 借入金 純資産(自己資本)~

財務

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第92回は「経営者が押さえるべき3つの数字~現預金 借入金 純資産(自己資本)~」と題して、経営者が理解しておかなければならない数字(指標)について考えてみます。

 

経営と数字とお金
「第88回 「数字とお金を判断基準に!」経営基盤を固めることの重要性(その3)」にも記載したとおり、経営基盤を計る物差しは、やはり「数字とお金」なのです。
組織も事業も業務もそれ自体を可視化することは出来ません。生産性向上も業務の効率化もすべて数字として可視化しなければ把握することが難しいのです。
「数字とお金」は嘘をつきません。組織や人が動いたり、動かしたりした結果を事実として表わします。
つまり、経営と数字は切っても切れない関係にあり、経営活動の結果は、すべて数字に集約されるのです。だから強固な経営基盤か否かも、数字とお金を判断基準に評価しなければならないのです。
そう考えると、企業経営は数字そのものといっても過言ではなく、経営者の数字力が、そのまま企業の業績に直結するといえます。したがって、企業の数字を無視した経営を推し進めると、破たんリスクが著しく高まるのです。
成功している経営者は皆、数字力に長けているのです。

経営にとって大事なのは「現預金残高」
それでは、経営者が最初に押さえなければならない大事な数字とは何か。それは「現預金残高(キャッシュ)」です。
経営者の方は、一般的に売上や利益が重要だと認識されていると思いますが、それは間違っています。
「売上高-原価-経費=利益」はご承知のとおりです。
しかし、会計が作成する財務諸表は制度会計のルールに従って数字が計算されます。そのため売上高も原価も経費もすべてお金の動きと一致しないのです。「原価」や「経費」には理論上(ルール上)の数字が含まれており、必ずしもリアルの数字ではありません。結果として利益についても同じことが言えるのです。
売上や経費を計上した月と実際にお金が出入りする月は掛取引の場合はずれるのが普通です。会計処理上は、今月受注した売上は今月の売上高として計上されますが、掛取引の場合には実際にその売上が入金されるのは翌月や翌々月になるのです。
実際にお金が出入りする月ベースで見ていくことが必要になります。
毎月実際にいくらのお金が入ってきて、いくらのお金が出ていき、そして現預金残高はいくらになるのか、つまりいま現在の支払い能力はいくらなのか、というリアルなキャッシュフローの把握が企業を守るためには何よりも重要になります。
繰り返します。大事なのは現預金残高です。この現預金残高を増やす努力を続け、一定額以上に維持しておくことで企業経営は大きな安定性を得ることができるのです。
一定額以上の現預金残高を常に維持するために増やしたい数字(売上高等)、減らしたい数字(経費等)を大枠で捉えて管理していくことが経営において必要不可欠なのです。

 

「借入金」の管理
このブログでも「第16回 金融機関からの借入金の種類」「第85回 借金経営の神髄~借金経営で事業の成長・拡大を図ろう~」等で金融機関からの借入金については、何度か記述させていただきました。
中小企業の資金調達のメインは、金融機関からの借入になりますので、金融機関から安定的に金融支援を受けられる企業になっておくことは、安定経営を続けていくうえで企業にとって非常に重要なことです。
しかし、借入金はあくまで借りたお金なので返済時には利息を上乗せして返す必要があります。損益でみれば支払利息というコストが発生しますし、資金収支でみれば元金返済という支出が増加します。
したがって安易に借入をすることは避けるべきなのです。どの程度の借入額が適正かは企業規模や融資条件などによって異なりますが、その都度細かくチェックをして借入れすることの妥当性・必要性を検証する必要があります。
融資を受ける際には審査があります。事業計画書の作成や決算書の説明や必要資金の妥当性の判断材料等が求められます。資金調達を円滑に行うためには、事前に準備をしっかりと整えてから借入を行うことが大切なのです。

借入金のメリット・デメリット
借入にあたっては、借入時の金利が低く、事業活動によって支払利息以上の利益を出せる場合には大きなメリットが生まれてきます。また、豊富な資金を持つことで、大量仕入れや支払いサイトの短縮等を行うことが出来、それを条件に値引き交渉を行い、結果としてコストダウンに繋げていくことも出来ます。
また、借入実績を作ることで金融機関との信頼関係ができ、いざというときに資金調達をスムーズに行える側面もあります。取引先に対しても借入余力を示せるため、安心して取引を行える企業として見られるメリットもあります。
ただ、借入金は返済期限までに金利を上乗せして返す必要があるので、事業規模に見合わない借入金は経営を圧迫する要因となってしまいます。約定どおりに返済が出来ず、滞ってしまうと企業としての信用を一気に低下させることにも繋がってしまうため、借入を行うときには慎重に判断していく必要があるのです。単に目先の資金繰りを改善するだけではなく、事業の将来性や採算性を充分に考慮したうえで、借入を検討しなければならないのです。

借入したときには、PL(損益計算書)とBS(貸借対照表)の両方の側面から捉えておくも大切です。
気をつけなければならないのは、借入金は他人から借りたお金であり、返済は借りたお金を返しているだけなので、返済元金部分は費用にならないという点です。
これは、借入によって調達した資金は損益に影響を与えないからです。
例えば100万円を借入れたときの会計上の仕訳は、
借方(現預金)100万円、貸方(借入金)100万円
となり、資本の増減(損益の発生)は伴いません。ただし、借入金に対する支払利息については費用計上できます。
企業の財務状況を適切に把握するためには、会計ルールにもとづいて経理処理を行うとともに、PL・BSといった財務諸表を読み解いていく視点を持つことが大切なのです。

借入金依存度
これまでにも述べてきたとおり、企業は事業活動を行ううえで金融機関からの借入による資金調達を行うことは必要なことですが、借入金は企業が蓄積している純資産とは異なり、返済期限に利息をつけて約束した期限に返済する必要があるため、過剰な借入は経営を圧迫させる要因となります。
そこで借入金の水準が妥当であるか否かを判断する指標として借入金依存度が活用されています。
借入金依存度は貸借対照表において、総資本の何%を借入によってまかなっているのかを見る指標です。
借入金依存度の計算方法は、以下のようになります。
「総借入額(短期借入金+長期借入金+割引手形残高+社債)÷総資産×100=借入金依存度」

借入金依存度は企業の財務状況の健全性を示す指標であり、業界・業種によって異なりますが、一般的には50~60%程度が許容範囲と言われています。70%を超えてくると注意が必要であり、財務状況の見直しが必要です。

 

安定した財務基盤は自己資本の充実から
自己資本の重要性についても「第88回 「数字とお金を判断基準に!」経営基盤を固めることの重要性(その3)」の中で述べさせていただきました。その要旨は以下のとおりです。

財務基盤の強化を図るうえで重要なことは「自己資本」に視点をおいて考えることです。自己資本を充実させるためには、損益(フロー)を考えながら経営をしていかなければなりませんが、目を向けなければならないのは「自己資本(ストック)」です。
財務諸表でいえば、損益計算書ではなく、貸借対照表を確認することが重要になります。
自己資本とは貸借対照表でいうところの純資産のことで、他人から調達してきたものではなく経営者や株主からの出資や自社の利益の積み上げであり、支払いや返済の義務がない純粋な財産(資産)のことです。そのため、自社が保有する資産のうちの純資産の割合が大きければ大きいほど、財務状況が安定していると言えるのです。
この自社が保有する資産(総資産)に占める純資産の割合のことを自己資本比率といいます。
自己資本比率は、返済不要の自己資本の全体における割合を示すものであり、企業経営の安定性を示す重要な指標です。比率が高いほど、経営は安定しており、低いほど不安定な経営であることを示しています。
自己資本比率による企業評価の一応の目安は次表のようになります。自己資本比率は、最低20%以上必要であり、目標としては30%以上が良いとされています。

自己資本比率 評価
30%以上 安全
20%から30% 普通
20%以下 危険

自己資本比率の低下は負債の増加を意味します。負債は期日が来れば支払や決済をしなければなりませんから、負債が増加すれば、企業の資金繰りは確実に悪化します。自己資本比率の低下により負債が増加すると、金利負担等が増加して企業の収益性が悪化します。
自己資本比率を向上する方法は、総資本の圧縮、自己資本の増加の2つです。
総資本の圧縮とは、資産の圧縮です。具体的には次の3つです。
1 売掛金の早期回収
2 在庫の圧縮
3 不要な投資資産の換金

自己資産の増加方法は次の3つです。
1 資本金の増加
2 資本準備金の増加
3 留保利益の確保

一般的に、時価発行増資を行わない中小同族企業では1資本金の増加か3留保利益の確保によることになります。
自己資本比率を維持するための経営の基本姿勢は、少なくとも資産の増加率と自己資本の増加率を同一にすること、できれば自己資本の増加率を大きくすることの二点です。

 

現預金・借入金・自己資本の管理
こうした数字の管理の基本は並べて比較することです。
例えば、下グラフのように、毎月月末時点での現預金残高を「見える化」しておくと現預金残高の推移が一目で分かりますし、異常値も容易に見つけることが出来ます。
借入金や自己資本についても同様の「見える化」出来る仕掛けを準備して管理することが大切です。

現預金残高の月末推移

借入金の月末残高推移(長期借入金・短期借入金)

純資産(自己資本)の月末残高推移

自己資本が前月に比べて増加した月は黒字であり、自己資本が前月に比べて減少した月は赤字であったことが自己資本の推移をみれば分かります。

 

経営者が押さえるべき重要な3つの数字は現預金と借入金と純資産(自己資本)
経営者の方は、決算書が出来上がるとどうしても売上高や営業利益、経常利益、税引後当期純利益といった損益計算書に計上されている勘定科目に目が行ってしまいがちですが、実は貸借対照表に計上されている現預金や短期借入金、長期借入金、純資産に目を向けることが大切なのです。ご理解いただけましたでしょうか。
コロナ禍で資金繰りに窮した企業の経営者の方は、資金繰りの重要性について身をもって経験されたと思います。アフターコロナ、ウィズコロナの経営では、お金の動きを把握することが重要な経営者の仕事の1つなのです。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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