第4回 バランスシートの読み解き方

財務

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第4回は、バランスシートの読み解き方について、「雄蕊の流儀」の一部を紹介させていただきます((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

 

《小規模事業者・中小企業者の資本増強》

これまで「金融機関の目利き力」や「中小企業経営者の赤字経営に対する意識」等についてお話をさせていただきました。評論家みたく評価や課題等を伝え、問題提起するだけでなく、具体的にどのような手法を活用すれば問題解決・課題解決に繋がるかについて雄蕊なりの「流儀」を今回から少しずつ解説してみます。

 

新型コロナウイルス感染拡大による経済危機に対する政府の事業者向け資金繰り対策で、これまでとは異なるアプローチによる対策が打ち出されたことに驚きと感動を覚えました(大袈裟かも?!)。

それは、「小規模事業者・中小企業の資本力の増強」という視点からのアプローチによる対策です。

ことさら雄蕊ごときが論じることではないのかもしれませんが、長年住み慣れた中小企業金融の世界では、小規模事業者・中小企業は過去の経済危機を乗り切るため、なかにはバブルに踊らされて事業外資産への投資のため、金融機関からの借入を繰り返しており、真っ当な経営者の方々は、これ以上借入を増やしても返済の目途が立たないと考えるのが当然のことと感じていました。借金返済のために借金を繰り返すような悪循環が起きていたことは珍しくない事象です。そうした状況下において、経済危機に対する対策としていくら新しい融資制度を創設しても、企業側に借入能力がなければ、金融機関も積極的に融資できないのが現場感覚でした。

 

《バランスシートの分析》

雄蕊が中小企業金融の現場で、決裁者として与信判断を行う際に、重要視したのは「バランスシート(貸借対照表)」の動きです。各決算期末のバランスシートを並べて、期ごとに前期比較をすることで、様々な情報を得ることができるからです。

中小企業金融に関わっている方なら、こういった話は当たり前のことかもしれません。雄蕊は、融資判断業務を始めた駆け出しの頃から、上司や先輩に「お金の流れを掴め!」と何度も指導を受けていましたが、具体的なその掴み方について伝授いただいたことはありませんでした。バランスシートからお金の動きを掴む方法の一例として、雄蕊流(?)を少し解説してみます。

バランスシート(貸借対照表)、損益計算書といった財務諸表については、後日解説することにしますが、ネット検索をすれば、財務諸表に関する情報は溢れていますので、それを活用していただければ、財務諸表に関する理解はある程度していただけると思います。

 

○バランスシートの基本

ただ、どうしても理解しておいていただかないと、この後の解説が意味不明になる可能性が高いので、バランスシートの仕組みについてだけは、簡単に解説しておきます。

バランスシートの左側(簿記の用語では借方という)は、資産が表示されています。資産とは、資金(お金)がモノや債権(権利)に形を変えた(変態した)勘定で、将来資金化できます。つまり、資金の運用(使い途)示しています。1年以内に資金化できる資産を流動資産、1年超に亘り資金化できない資産を固定資産と言います。一方、右側(簿記の用語では貸方という)は、負債と純資産(資本)が表示されています。負債とは、他人から資金を調達した勘定であり、純資産(資本)は、事業に投資した自分の資金を示した勘定です。負債は、1年以内に返済・支払義務のある流動負債と1年超の期間、返済・支払義務のない固定負債に分類されています。図-1は、バランスシートの構造を示したものです。

(図-1)バランスシートの構造

○基本的な資金の動き

事業活動における資金の動きを図式化すると図-2のようになります。バランスシートにある勘定科目のほか、損益勘定である収益や費用等も含めてお金の流れを示してみました。お金は右側から入り左へ流れています。費用や借入金の返済は、社外へ流出しますが、受取手形や売掛金等はお金が変態した姿で、期日が来ればお金に戻る(換金する)ことができます。

(図-2)資金の動き

 

《バランスシートの読み解き方》

それでは、赤字経営を続けることによって、バランスシートがどのように変化していくかを3つのモデル化したケースで解説します。

まず、図-3から図-5を見てください。この3つの図は、バランスシートを図式化して示したものです。左から前々期、前期、当期と3期分のバランスシートを時系列に並べています(図にある数字の単位は千円)。

(図-3)事例1

事例1は、手許現預金を取り崩して資金補てんした事例です。バランスシート上の純資産の減少額は、その期の最終損益と同額です。前期、当期とも赤字額を全額手元資金で補てんしています。そのため、前々期には5,000千円あった手許現預金が当期では1,000千円しか残っていません。資産の総額は縮小していますが、現預金と純資産が減少したことによるもので、負債勘定(資金調達)に占める借入金の割合が高くなっており、返済負担が重くなっているということは推測できます。このまま赤字が続けば資金ショートするのは明らかです。

(図-4)事例2

事例2は、固定資産の処分による資金化(固定資産の流動化)と手許現預金の取崩により資金補てんした事例です。当期では固定資産がゼロになっています。加えて、手元現預金も1,000千円減少しています。事例1と同様、資産は縮小していますが、固定資産を処分したことにより、資金が固定化しないで済むという面もありますが、資産勘定に厚みがなくなり、安定性に不安があるとみることもできます。実際には、固定資産ゼロは考えにくいのですが、敢えて手元の資産を取り崩すということを分かり易く解説するために固定資産をすべて処分というバランスシートを示してみました。

(図-5)事例3

事例3は、借入金により資金補てんした事例です。純資産の減少分(赤字分)をすべて借入金で賄ったことで、資金調達借入金依存度が約77%になっています。少なくとも前々期との比較で増加した借入金は、赤字補てんがその使い途ですから、今後利益を出さない限り、返済財源を確保することが難しくなり、資金繰り面で元金返済の負担が重く圧し掛かり、やがて、返済不能に陥り、資金ショートする可能性が高いと言えます。

事例1から事例3まで前々期のバランスシートは皆同じです。また、純資産の金額の減少の仕方も皆同じです。純資産の減少額=税引後当期損失なので、純資産の減少からどの事例も2期連続赤字だったということが解ります。3つの事例で異なるのは、不足した資金の調達手段です。

事例1と事例2は、資金不足を自己資金で補てんしていますので、これから如何に利益を上げ、手許資金を増やすかを考えることになります。事例3は、借入金により資金不足を補てんしていますので、借入金増加に伴う金利負担と元金の返済負担をどう消化するかを考えなければなりません。

資金不足を補てんするための資金調達の手段は、それぞれ異なりますが、前々期、前期と赤字を続けたため、どの事例も同様に、自己資本比率(自己資本(純資産)÷総資本)が低下し、他人資本(返済や支払が発生する)への依存度が上昇しています。総じて資金繰りが苦しい状況に進んでいると考えられ、この3期間でバランスシート上に悪化の兆候(バランスシートの歪み)が現れているといえます。

第2回の投稿や今回の投稿の冒頭で、中小企業の資本増強について述べましたが、中小企業の多くは、これまでの様々な危機を乗り切ってきたために、資本力の低下が進んでいます。自己資金による補てん、借入金による補てん、いずれにしても資本力の低下に繋がってしまいます。中小企業の資金繰り支援の本質は、資本増強にあると思います。

事例に示したようなバランスシートの企業が、「コロナの影響を受けて資金繰りが苦しくなった」と金融支援を申し込んでも、金融機関は、「コロナの影響ではなく、他に原因がある」と判断する可能性が高いと思います。金融機関に対して、バランスシートに悪化の兆候が現れた原因とその改善策について具体的に説明できるよう準備をしたうえで、金融支援の申し込みをすることをお薦めします。

この様に、バランスシートの数字を羅列して捉えるだけではなく、図式化したり、時系列で並べてみたりすることで、あまり手間をかけずに、その企業の損益状況やお金の動き、そして財務体質の変化を読み取ることができます。

今回の事例では、資金調達の手段を分かり易くするため、変数を限定的にし、売掛金や棚卸資産、買掛金といった勘定科目は定数にしたのですが、実際のバランスシートは、様々な勘定科目が変動していますので、やや複雑にはなります。今回お示しした事例は、その基本的な見方・考え方です。こうした目線でバランスシートを再確認してみてください。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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