第5回 財務目線でみたコロナ時代の中小企業経営

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第5回は、コロナ時代の経営について、財務の視点から経営上の留意点に関する雄蕊なりの個人的見解を述べさせていただきます((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

 

《未曾有の経済環境への挑戦》

日本は、世界に類を見ない超高齢化社会と人口減少という状況下にあります。さらに加えて、東日本大震災といった大地震、集中豪雨等、50年に一度、100年に一度、数百年に一度といわれる自然災害の発生や異常気象の増加、そして今回の新型コロナウイルス感染症のような生物災害の拡大等、いつ、どこで何が起きるか想定できないような外的要因による不測事態の発生が相次いでいます。

こうした状況を鑑みると、今後、経営者が覚悟しなければならないことは、事業規模の大小に関わらず、すべての企業において予見できない未曾有の経営環境に晒される可能性があるということです。 そうだとすれば、不測事態への対応を盛り込んだ危機対応力の高い新しいビジネス・モデルを構築していかなければなりません。

グローバル化の進展により、世界規模のサプライチェーンが構築され、海外に拠点を置く企業と自由に取引をすることが可能でしたが、それも見直さなければならなくなると思われます。また、人口減少等による国内のマーケットの縮小に伴い、インバウンド需要を期待していた国内の主に観光産業等は、大きな打撃を受け、新しいビジネス・モデルの構築を急ぐ必要が生じています。

日常生活においても、世界中のほぼ何処にでも、いつでも自由に移動することができたり、いつでも誰とでも自由にコミュニケーションがとれたり…、これまで当たり前と思っていたことを見直さなければならないステージに立っています。

これまで当たり前と考えられてきた社会経済構造の中で、大企業も中小企業も小規模事業者もそれぞれの立ち位置で経営を続けてきましたが、新しい環境変化への適応力・危機対応力がないと、この先、生き残りが難しくなるかもしれません。

 

《赤字に鈍感な経営者になるな》

地域金融機関に30年余り勤務し支店長を務めた経験を持つ、経営コンサルティング会社の社長と「何故、赤字に無頓着な経営者が多いのか?」ということについて議論する機会がありました。

「金融機関に身を置いていると、良い企業ばかりではなく、厳しい経営をしている企業も数多く見ている。そのなかには、経営者の一家心中や経営者の自殺、命は失わないまでも会社も経営者も自己破産という目を覆いたくなるような不幸な現場を幾度となく目の当たりにしている。こうした経験を積み重ねているから、どうしても金融機関経験者は赤字企業に対して神経質になってしまうのかもしれない。」行き着いた結論は、「そういった経営者は、倒産した経験がないから」でした。

赤字ということは、一言で言えば「収入より支出が多い」ということです。つまり、必ず資金が不足し続けているのです。不足資金を補うためには、これまで蓄積してきた手許資産を食い潰すか、金融機関から「赤字が続く限り返済の当てのない」借入を続けるしかありません。そうすることで足元の資金繰りは、なんとか凌げるかもしれませんが、そんな経営を続けていると、やがて限界がきます。気が付けば資産を食い潰して、手許に何も残っていなかったり、金融機関から突然、「貸し渋り、貸し剥がし」を宣告されたり、赤字経営とは、そんなリスクと背中合わせだということです。

今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響による想定外の経済危機の到来という不測事態が、今後は繰り返される可能性が高いと考えられるコロナの時代では、脆弱な財務体質の小規模事業者・中小企業にとって赤字経営は、致命傷になります。

 

《数字に弱い経営者》

中小企業金融の現場で感じていたことがあります。金融機関では与信判断(融資可能か不可かの判断)をするために稟議書を作成し、稟議にかけなくてはなりません。複数の目でみて判断し、最終決裁権者の決裁を受けないと融資実行に進めないのです。

稟議書の作成過程で、決算書に記載されている数字の意味・内容等が、融資担当者の分析でどうしてもわからないことが必ず出てきます。そういった疑問点については、社長や経理担当者に確認し、解決しなければ稟議書を進めることができません。そこで社長等に質問をすると、質問された社長等の7割、8割の方から返ってくる応えは必ず決まっています。「それは私では分からない。税理士に直接確認して欲しい。」です。

中小企業金融の現場にいると、決算内容、そこに記載されている数字の意味を的確に把握している社長の少なさに驚いてしまいます。社長自身やその取り巻きの経営幹部が、財務に関する興味や理解がもっとできるようになれば、今よりもっと良い積極的な経営(増収増益に繋げる、業容を拡大する等)ができるのではないかと思うことがしばしばありました。

 

《税理士を頼り過ぎてはいけない》

税理士の仕事は一言でいえば税金を計算すること。つまり「税務会計」のプロではあるけれども、財務会計や管理会計のプロではないということです。

ある企業の事例です。その企業は、公認会計士の資格も持つ税理士事務所に記帳代行から確定申告書作成まですべてを任せており、すべて公認会計士の指示に従って、仕訳を切るための原始資料の提出、グループ間の資金移動等を行っていました。特に税務署対策に関するエビデンスについては、その公認会計士から事細かく指導が入り、様々な資料の提出を要求され、経理担当者は、その準備に勤務時間の大半を費やしていました。しかし、それは税金を計算するため、税務調査に対抗できるということだけに焦点が絞られたものであり、その結果、出来上がった決算書は金融機関の融資判断には耐えられない内容となっていました。

税理士は、「税務会計」のプロなので、「税金を正しく計算するための会計処理」を行っており、金融機関から融資を受けたり、経営判断に活用したりする目的では、会計処理されていないことは経営者としては承知しておかなければならないかもしれません。

金融機関から融資を受ける際の留意点や金融機関が行う企業格付、企業格付けのためのスコアリングに対する対策等について、指導をしてくれる税理士はほとんどいないのが現実です。税理士は、金融機関からの借入についてはよく知らない人が多く、まして銀行格付けについては全く知らないといっても過言ではないと思われます。

 

《経営者は数字に強くなれ》

税理士を頼り過ぎてはいけないと申し上げました。経営者も数字に強くなる必要があるということです。しかし、中小企業経営者からすれば「そんな暇はない。」ということになるかもしれません。

しかし、経営者に財務に関する知識がなさすぎたり、不足したりしていると、一定の売上を確保し、業績は安定した推移をしていると表面上はみえていても、突然、業績不振や資金繰り難に陥ってしまうことが多々あります。手元資金が枯渇する等、事業継続が難しい状況が明らかになって、はじめて金融機関に新規融資やリスケジュール(条件変更、元金返済猶予)の相談に来る経営者は以外に多いものです。手遅れ寸前のタイミングで支援を求められても、金融機関としては支援する手立てが限られたものになってしまいます。金融の現場にいた当時、もっと早い段階で相談してもらえたら解決策の選択肢を広げることができたのにと悔しく思うことがたびたびありました。こういう経験をした金融機関の担当者は数多くいると思われます。

また、業績が良くない、あるいはもっと収益を増加させたい等の理由で新規事業を起こしたり、投資したりする場合には、事前に事業計画を策定し、資金計画もしっかり立てて、狙い通りの収益増加が見込めることを確信したうえで計画実行に移さなければなりません。

そうした準備をしないまま、スピードを求め、拙速に売上の増加だけを追いかけようとすると、もともと過小資本の中小企業では資金が円滑に回らなくなるのは当然のことで、「急いては事を仕損じる」という結果に終わる危険性が高いのです。

経営とは、ゴーイングコンサーンとして持続的かつ成長可能な事業基盤を作ることです。それが経営者の最も重要な仕事になります。そのためには、経営者は自分の会社の数字やお金の動きをある程度、理解できなければなりません。会社の数字やお金の動きには、事業活動のすべての結果が集約されているといっても過言ではないのです。会社の規模の大小等に関わらず、会社の数字とお金の動きは、持続的かつ成長可能な事業基盤を確立するための重要な情報であり、会社の数字やお金の動きを無視して正常な会社経営など出来るものではないと断言できます。

経営者に仕訳を切ったり、決算書を作成したりという意味での会計の知識は必ずしも必要ではありません。しかし、経営をするうえで経営者が知るべき情報(会計情報等)は何かを把握しておくことは不可欠だと思われます。中小企業の場合、経営者が事業の第一線に立ち、営業活動等を行っているのが通常なので、限られた時間のなかで経営全般すべてに目配り、気配りをすることは不可能だと思います。しかし、必要最低限の経営情報、会計情報には目を通すことは不可欠なのです。

金融機関から新規融資を受けるため、ある企業の経営改善計画書策定支援に関わらせていただきました。融資のために経営改善計画書を作成するということは、その企業の経営状態が芳しくないことを意味しています。

社長や経理業務の管理者である専務等に、経営状態を確認するためインタビューを行いましたが、適正な経営改善計画書の作成に必要な経営情報を得ることはできませんでした。そのため、原始資料を確認し、基礎資料の作成から始める必要が生じたため、迅速に作成しなければならない計画書の作成に、ある意味、余計な手間と時間を掛けることになりました。

経営者に余裕がないことや財務責任者たる経営幹部に知識が不足していることにより、経営情報を的確に把握することができないのであれば、そうした情報を把握することができる信頼性の高いブレインを会社内部であれ、外部であれ、傍に置いておくことが必要ではないでしょうか。コロナ時代に必要な危機対応能力を高めるためにも、中小企業財務の専門家に任せられるのであれば、そのほうがよいと思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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