第6回 赤字企業でも融資が受けられる条件

資金繰り

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第6回は、「赤字企業でも融資が受けられる条件」について考えてみたいと思います((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

 

《金融機関が重要視するのは経営者》

先般、ある銀行の本店営業部長と食事をする機会があり、雄蕊から営業部長にその銀行が融資した案件について次のような質問をぶつけてみました。その案件に該当する企業は、複数年に亘り赤字が続いており、現時点で金融機関借入について元金返済不能に陥っています。

「雄蕊の目からみれば、赤字が続いており、事業規模、返済能力を勘案すると、明らかにオーバーローン(貸し過ぎ)だと判断できる水準まで、複数の取引金融機関が協調して融資を繰り返していた。結局、その企業は返済不能に陥り、ここ5年間、元金返済猶予のリスケ支援を受け続けている。何故、このような状態になるまで銀行は融資を続けるのか?」

営業部長の応えは、「銀行は、人(経営者)を見て融資をする。経営者を見ないで融資したのなら、銀行に責任があるな。」でした。

つまり、どんなに赤字が続いていても、経営者が赤字の原因を的確に捉え、対策を打つことで回復の目途が立っていると金融機関が判断すれば、融資を受けることは可能ということです。金融機関が最も重要視することは経営者本人ということなのです。勿論、この事例にあげた企業のように回復できずに資金繰りが行き詰まるケースもありますが、融資を受ける可能性を高めるためには、経営者自身が、金融機関と信頼(信用)関係を築くことが重要だといえます。

 

《金融機関が信用する経営者像とは》

金融機関が信用する経営者とは、どのような人物像なのでしょうか。雄蕊が、中小企業金融の現場で数多くの経営者とお会いさせていただいた経験も交えながら解説してみます。

① 「ブレない軸」を持つ(会社の経営理念、運営方針について明確に説明できる)。

大阪で融資業務の課長をしていた時の話です。部下から融資方針の稟議書が上がってきました。確かに決算上の業績は、お断りするには決め手がない内容でしたが、雄蕊としては1つだけどうしても納得がいかないことがあったのです。それは、その企業が何をしたいのかが明確になっていないことでした。その企業の事業内容を確認すると儲かることなら何にでも手を出すとしか思えなかったのです。部下に「この企業の経営者は何をしたいのか?経営者は、自社の経営理念や運営方針を明確に説明できるのか?」部下にその点について再度確認するよう指示しました。部下から「経営者に確認したが、明確な回答が得られなかった」と報告がありました。雄蕊は、お断りの結論を出し、稟議にかけました。

経営者は、「ブレない軸」をしっかり持つことが必要です。経営者の熱い思いが、経営理念や運営方針に反映されると思うのです。行き当たりばったりの経営では、当たりハズレが大きく、うまく回っているときはいいのですが、ハズレくじを引いた時に確実に持続不可能に陥ります。金融機関や従業員、取引先に対して経営理念や運営方針を明確に説明できることが経営者に求められる基本的な資質だと思います。

② 「数字」に強い(経営者自身が自社の決算書や試算表の内容について精通しており、自社の業績について金融機関を納得させる説明が出来る)。

企業の経理・会計が杜撰になっている原因は、経営者自身の数字やお金に対する無関心さにあると断言できます。自社の数字(損益)やお金のことを正確に把握しようという気がないので、担当者が決算書や試算表を提出しても真剣に内容を吟味しない。もっと言えば、吟味しようにもそこに書かれている数字の意味がわからないので、吟味できないというのが、本音だと思います。貸借対照表等の財務諸表が何のためにある書類なのかを理解していない経営者もいます。そういう状態では、決算書や試算表の説明などできるはずもなく、金融機関から信用を得ることは不可能です。

③ 「お金」に強い(資金繰りについて把握しており、金融機関に融資の申込をした際には、その目的、必要な金額について明確な説明が出来る)。

経理・会計の担当者から「運転資金が不足するので、金融機関から追加融資を受ける必要がある。」と言われ、経営者が金融機関に融資の申込をすることはよくあることだと思います。しかし、経営者は、資金を必要とする理由や資金の使い途、必要金額について金融機関を納得させるような説明ができるでしょうか?金融機関へ融資を申し込む際には、こうしたことがきちんと説明できるよう準備をしなければ、信用に繋がりません。

④ 「バックヤード」に関心がある(会計資料等の経営に関する資料が整備されており、金融機関が提出を求めた際にすみやかに提出することが出来る)。

経営者は、新規事業への投資等、売上拡大に関することには、興味や関心が強いのですが、経理・会計等、いわゆるバックヤード(間接)部門に対しては、さほど関心がなく、経理・会計の担当者に任せきりにしていることが多いのではないでしょうか?

こういう企業は、総じて金融機関から求められた資料がすぐに提出できないのです。経理・会計事務担当者は、日々、帳簿付けや請求書作成、領収書の整理等を細目に行っていますが、経営者が経理業務に興味がないと、経理・会計の担当者の仕事振りに関心を示す機会を持つことがありません。その結果、経理・会計事務担当者のモチベーションを低下させることに繋がり、会計資料等の整備も杜撰になってしまいます。

中小企業は、元々経営資源が脆弱です。そのため、限られたマンパワーでは、経理・会計に人材を割くことが出来ず、他の事務と兼務させ、領収書類はまとめて月末に、あるいは期末に1年分を会計事務所に送って処理してもらっている会社も多いと思います。しかし、このような状態では、金融機関から資料を求められてもすみやかに提出出来ないことになります。

⑤ 「バックヤード」を整備している(財務担当者を配置している)。

ある中小企業の事例です。その企業は、会計ソフトを導入し、経理担当者も配置しており、一応、帳簿の作成等も「自計化(自社でソフトを使って社内で会計処理を行うこと)」できていました。月々の試算表もリアルタイムに作成はされていましたが、経営者を始め、誰も気にも留めず、確認されることはありませんでした。また、経理担当者も経理・会計に関する知識が乏しく、指示されるがまま、会計ソフトに機械的に入力作業だけを行っていたのです。そのため、正確な数字にはなっていませんでした。

本来、経理・会計だけでなく、「財務」の担当者を配置すべきなのです。「財務」とは、分かり易く言えば、「お金を管理する仕事」です。資金の出入りを管理して、資金繰りの安定化を図ること、将来的な事業計画、資金計画の策定に関与すること等、企業がお金に困らないスムーズな運営を支援することが重要な役割なのです。

経営者は財務計担当者と頻繁にコミュニケーションをとり、自社の業績について、数字で客観的に把握していかなくてはなりませんが、財務担当者が不在で、経理・会計担当者も将来のことまでは、把握できないので、そうしたことができないのです。経営者も財務担当者の必要性を認識していないということも問題です。

⑥ 「諸支払」が良好である(税金等の滞納をしない)。

企業活動上、税金を納めるのは当然の義務です。税金を滞納しているようでは、「税金すら払えない企業に融資をしても返してもらえるわけがない」と、信用が損なわれても仕方がないのです。税金だけでなく、社会保険料や公共料金等についても同様です。諸支払振りが悪いと「債務観念が欠如している(ルーズな性格)」とか「資金繰りが苦しいのではないか」といった疑念を金融機関に抱かせることになります。税金等の支払は、期限を守り、決して滞納することがないようにしなければなりません。

 

《赤字企業が融資を受けるための条件》

今回は、数字ではなく、経営者の資質という観点から「赤字企業が融資を受けるための条件」について、解説させていただきました。

赤字だからと言って融資が受けられない訳ではありません。黒字の企業に比べてハードルは高くなりますが、金融機関を納得させることができれば融資を受けることは可能なのです。次の機会では、数字(定量面)を切り口にして、赤字企業の対応策についてお話しさせていただく予定です。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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