第12回 資金繰り管理

資金繰り

「こんにちは、雄蕊覚蔵です!」このブログのタイトルにもなっている「資金繰り」の基本について解説しようと思います。

 

《利益とお金の不都合な関係(損益と資金収支の違い)》

そもそも経営者(社長)が口にする「儲かる」とは、どういうことでしょうか?

①「利益が出るコト」、②「使えるお金が溜まるコト」、③「利益も出て、使えるお金も貯まるコト」

「利益が出るコト」≠「使えるお金が溜まるコト」です。財務の本質は、このことがきちんと理解されていることだと思います。

経営者の中には、「利益が出ること=お金が貯まること」と勘違いしている方がいらっしゃるのではないでしょうか?企業が利益を上げて儲かっていても、お金が不足している状態はあり得ることなのです。何故なら、会計上の利益は、お金を表しているわけではないからです。利益は、お金の動きに関係なく、会計上のルールに基づき計算されるものなので、実際のお金の残高金額とはズレが生じるのです。「利益=お金」だと思い込んでいると、経理処理と資金繰り管理が同じだと勘違いしてしまい、気が付いた時には資金不足を生じていることも往々にして起こり得るのです。

例えば、ある取引先と「当月末締め翌月末回収」という取引条件で商品を販売したとします。経理処理上は、当月分の売上として計上されますが、入金は翌月末なので、お金は翌月末まで入金になりません。つまり、お金は増えていないのです。また、ある月に高額の設備投資を行い、その代金を翌月に現金で支払ったとしても、経理上では数年にわたって減価償却として処理する場合もあります。このように、利益とお金は一致しないということを認識しておくが大切なのです。

京セラの創業者稲盛和夫氏は、「アメーバ経営」という独特な経営管理手法や近年では、日本航空の立て直し等、カリスマ経営者の一人として有名な方ですが、稲盛氏がこんなことを言っておられます。

『「儲かったお金はどこにあるのか」というのは、経営者が決算書を見るたびにつねに胸に呼び起さなければならない大切な問いかけなのである。

銀行は「天気の良い日には傘を貸すが、雨が降れば傘は取り上げる」と言われている。従って、どんなときでも自分の力で雨に濡れないようにしておかねばならない。つまり、土俵の真ん中で相撲をとるような経営をつねに心がけていなければならないのである。

経営者は必要に応じ使えるお金、すなわち自己資金を十分に持てるようにしなければならないのである。そのためには、内部留保を厚くする以外に方法はない。すなわち、企業の安定度を測る指標である自己資本比率を高くしなければならないのである。』(稲盛和夫の実学 (稲盛和夫 著 日本経済新聞出版) から引用)

 

《資金繰り管理の必要性》

資金繰りとは

資金繰りとは、「お金のやり繰り」のことで、入ってくるお金と、逆に出ていくお金を調整して、収支のバランスを保つことです。

 

キャッシュフローと資金繰りの違い

キャッシュフローも資金繰りもお金の動きを捉えるものです。こう説明すると、キャッシュフローと資金繰りは、同じ意味のように思えるかもしれませんが、現金の動きを把握する目的が異なるのです。

資金繰りの目的は、「未来の現金の動きを把握すること」です。例えば、今月1,000万円入金があり、手許に残っていた現金2,000万円と足して3,000万円の現金が残っているとします。しかし、来月5,000万円の支払いがあるので、手許の資金が2,000万円不足している、ということを把握し、不足する資金の調達を考えるのが資金繰りなのです。

一方、キャッシュフローの目的は、「過去の現金の動きを把握すること」です。今期の決算で現金がいくら増減したか、ということを表しているにすぎないのです。

そのため、キャッシュフローの把握は、来期の売上目標といった長期的な目標を立てることに活用するには有用であり、一方、資金繰りの把握は、「今月どうしたら良いのか?」という短期間的な視点で、資金収支のバランスをみながら、資金調達の必要性を明確にするために有用ということになります。

 

資金繰り悪化による黒字倒産とは

資金繰り管理は、会社の存続にとってとても重要なことです。たとえ帳簿上は黒字になっていても、資金回収が遅れたり、高額な設備に投資したりして、資金が不足していると、資金繰りが回らない状態に陥ります。

売上が下がったり、営業利益が下がったり、もっと言えば赤字に陥ったからといって、すぐに倒産の危機に直面するとは限りません。しかし、資金が一時的にでも不足(ショート)すれば、取引先への支払いや従業員の給与の支払いができなくなり、最悪の場合、倒産の危機に直面することになります。
赤字経営の場合は、特に資金繰りには注意しなければなりません。資金がショートしないよう資金繰り管理を徹底する必要性が更に高まるのです。

 

資金繰りが悪化するとは、簡単にいうと「事業を行っていくためのお金が足りない」という状況のことをいいます。そしてそうなると、最終的には企業が倒産することに繋がるのです。

つまり、決算書上は黒字であっても、資金繰りが悪化してしまうと、企業は倒産に追い込まれます。こうしたケースが、「黒字倒産」です。決算書の損益計算書は、企業の実際のお金の流れを示す資料ではありません。そのため、決算書の損益計算書上で黒字となっていても、資金繰りが悪化して資金不足が起きて倒産に至ってしまうような場合があるのです。

具体的に数字を示して解説してみます。手元に1.000万円あり、この資金から800万円の商品を仕入れ、現金ですぐ支払ったとすると手元残金は200万円です。「当月末締め翌月末回収」という販売条件で、仕入れた商品800万円分をすべて販売したとしても、お金が振り込まれるのは、翌月末になります。

上述の取引で、800万円の商品を1,200万円で販売したとすると、利益は400万円です。このとき、決算書上では「400万円の利益」が計上されます。しかし、商品を販売したときに、顧客が支払うべき代金1,200万円は、1カ月後にならないと回収できません。帳簿上は400万円の黒字であったとしても、手元に残っているお金は200万円のままです。この200万円で1カ月を何とか凌がなければ、企業を存続させることができません。手元に残ったお金で、仕入をしなければならないかもしれませんし、従業員の人件費を支払う必要も出てきます。事務所の家賃等の経費(固定費)も払わなければいけません。

また、現金決済ではなく、掛取引の場合は、販売先企業の信用を持って取引をしていることになります。こういう取引のことを「企業間信用」による取引といいます。具体的には、売掛金や約束手形を利用して取引を実施することになりますが、掛取引の代金は後払いとなっているで、「入金されない」ということも考えられます。取引先の資金繰りが悪化したら、入金してもらえなくなります。回収しようにも支払えるお金がなければどうしようもないのです。もし、売掛金が焦げ付いて回収することが出来なくなったら倒産することもあり得ます。所謂「連鎖倒産」です。

 

《資金繰り管理の実践》

金融機関の通帳を活用した資金繰り管理

一番手間をかけずに資金繰りを管理する方法は、自社の金融機関の通帳を活用することだと思います。また、金融機関の通帳を活用し、資金繰りを効果的に確認するためには、①銀行口座を出来る限り絞り込み、数を減らすこと、②売上の入金、経費の支出は、銀行口座を通すことです。こうすれば、金融機関の通帳そのものが、資金繰り表になります。

資金繰り管理の基本は、お金の動きを把握することです。まず、毎月月末時点での現預金の残高を確認します。そして、前月末の現預金残高と比較して増減を確認します。前月末に比べて、残高が増えていたら資金収支は黒字、逆に減っていたら資金収支は赤字ということになります。ここで大切なのは、必ず前月末との比較をするということです。

1カ月間の通帳の入金及び出金、それぞれの合計金額を計算します。現預金の月末残高と同様、前月、前々月に比べて、入金金額及び支出金額の増減を確認します。少なくとも、これだけのことをすれば、入金、出金というお金の動き(フロー)と現預金の残高(ストック)の動きを掴むことができます。現預金残高が減少傾向にある、入金や出金が各月に比べて極端に減少あるいは増加したといったことがなければ、慌てて、きめ細かい管理をする必要はないといえます。但し、成り行き管理だと、将来的な投資に使えるお金がいくらあるかを把握することが出来ませんし、通帳に残っているお金の源泉は何なのかも判りません。また、資金繰り管理のキモである資金の将来予測をすることも出来ません。

 

資金繰りの将来予測

通帳からお金の動きの実績が把握出来たら、資金繰りの将来予測をします。資金繰り管理の本来の目的に当たる作業です。

資金繰りの将来予測をするためには、通帳の出入りの情報だけでは、精度の高い予測はできませんので、会計帳簿を活用することにします。

もし、自計化できておらず、会計処理をすべて顧問税理士に任せていて、手許にそうした会計資料がない場合は、大胆な資金繰り予測をするしかないと思われます。大胆な資金繰り予測とは、通帳の出金実績から1か月分の出金額(例えば過去1年分の平均出金額等)を推測し、入金がそれを上回るか下回るかを予測する方法です。入金額の予測は、今後の売上がどのように推移するかの予測が基本になります。

会計ソフトを使って自計化できているのであれば、試算表(損益計算書)の月次推移表を活用します。前期1年分の実績表と今期の前月までの実績表を準備します。月次推移表は、月次ごとの損益状況が一覧できるものです。

資金繰りの予測は、まず固定費の支出金額から行います。売上の予測は難しいかもしれませんが、固定費は、毎月の支出額がほぼ一定となっていますので、把握しやすいと思います。ここで注意しなければならないことは、固定資産税や賞与のように毎月ではなく、スポットで支出しなければならない経費を見落とさないことです。

固定費の支出が確認できたら、次は売上等、収入金額の把握です。売上は、事業計画に基づく売上計画を基本に予測しますが、足元の状況を勘案し、実現性の高い売上を予測する必要があります。

最後に原価を把握します。原価の算出は、「売上×原価率」で行います。

原価は、売上の増減によって金額が増減する変動費です。変動費は、売上に対する比率で管理することが重要です。

資金繰り予測の大原則は、収入金額は確実性の高い金額に絞って考えること、逆に固定費はザックリと多めに設定することです。厳しめに設定しておかないと下振れしたときに資金不足に陥り、資金調達に慌てることになります。

 

今回は、以上です。「利益≠お金」ということがご理解いただけたでしょうか?このブログの本来の目的(テーマ)は、このことをご理解いただき、現場経営に活かしていただくことです。中小企業財務の現場で起こる様々な課題等も題材にしながら、ブログを続けていきたいと思っています。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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