第41回 金融機関との交渉術

資金繰り

「かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵(おしべかくぞう)です!」第41回は、「金融機関との交渉術」と題して、金融機関との交渉のタイミングや交渉術について考えてみたいと思います((注)金融機関の定義:小規模事業者・中小企業に事業資金の融資を行っている金融機関とします)。

 

《中小コロナ融資の返済》
中小コロナ関連融資の返済が本格化するようです。2021年2月8日の日経新聞電子版に以下の見出し記事が載っています。記事のポイントを抜粋してみます。

中小コロナ融資40兆円 返済開始「1年以内」が過半(2021年2月8日 日本経済新聞電子版)

中小企業向けのコロナ関連融資は早くも返済が本格化し始めた。返済を猶予する据え置き期間を1年以内と定めた融資が2020年12月末時点で全体の過半を占めるためだ。
据え置き期間として制度上認められるのは5年。金融機関は返済の条件変更に柔軟に応じる構えだが、期間が長くなれば返済が滞り、借り手の規律が失われる恐れもある。年がたつほど返済の負担が重くなるため、企業側もなるべく早く返し、財務の健全化を急ぎたいとの思いが強い。
融資の据え置き期間を6カ月に設定した企業の多くですでに返済が始まっている。1年以内の企業も今春にかけて本格化する。
コロナとの戦いは続き、1月に2回目の緊急事態宣言が発令され、さらに10都府県の期限は3月7日まで1カ月延長された。飲食や観光関連の売り上げの回復はさらに時間がかかる。そこに返済が重なれば、資金繰りが急激に悪化しかねない。
現時点で「条件変更の要請には基本的に応じている」(大手行)など、各行は返済の先延ばしを認める姿勢だ。
返済条件の変更は本来、金融機関にとって重い決断。返せる見込みがない企業への融資が続けば、貸倒引当金が雪だるま式に膨れて財務は悪化する。
そもそも短期に設定された据え置き期間は、金融機関側の中小融資への不安も映す。単なる条件変更は企業の返済負担を将来に先送りにしているだけといえる。企業も売り上げ減とともに二重の負担がかかる恐れもある。

 

2021年3月末に公表された日銀短観(企業短期経済観測調査)では、大企業製造業の景況感が市場予想を上回る改善をみせ、新型コロナウイルス危機前の水準に戻りました。半面、非製造業でコロナ危機の影響が大きい業種の改善は鈍く、回復の二極化が鮮明になっています。
コロナ禍の影響を強く受けた業種、特に人との接触が必要になるものが多い宿泊・飲食サービスや対個人サービスは景況悪化が止まっていません。ワクチン接種の遅れや変異ウイルスを含めた第4波への警戒も怠れません。
また、短観で中小企業の資金繰りや人材の過不足をみると、資金難や過剰雇用に苦しむ企業が急増しているわけではありませんが、前述の日経新聞の記事にあったとおり、今後コロナ融資の返済が始まると資金繰りが厳しくなる可能性が高まると考えられます。

 

《融資はいずれ返済しなければならない》
コロナ関連融資と雖もいずれ元金返済をしなければなりません。知っている複数の中小企業でこのコロナ融資を利用していますが、元金据置の期間はそれぞれの企業で異なっています。元金据置期間は短い先で1年、最長5年、据置期間は各企業の信用力によって決まります。リスクの高い先、信用力の弱い先は元金据置最長5年という制度であっても5年間据え置いてもらえません。当然ながら金融機関としても回収リスクの高い先は短期間で元金回収したいからです。
コロナ融資を受けた企業の経営者や経理担当者は、皆一様に当面の資金繰りを心配しなくていいと安堵の表情をされますが、どの企業に対しても元金返済が始まるときのことを考えています。1年後、3年後、5年後、元金返済が始まったときに約定通りの元金返済ができるのか否か。元金返済が始まるまでの期間に資金繰りの安定化を図らなければならない。そのためにどうすればよいか。
このブログでも何度か書いたと思いますが、手元にあるお金はどのようにして調達したお金なのかを考えておく必要があるのです。元金返済が出来なくなりリスケ(条件変更)を金融機関に依頼しなければならなくなった企業の経営者や経理担当者は、総じてこのことが理解できていません。手許資金に余裕があるときに資金繰り安定化に向けた経営改善に取り組む必要があるのです。

 

《金融機関交渉の極意》
ある中小企業は、このコロナ融資を活用してリスケ債権を正常化債権に入れ替えることが出来ました。各中小企業の金融機関からの信用力を再創造する目的で進めたのですが、描いた思惑どおりに金融機関も応じてくれました。
これまで中小企業金融の世界に貸し手、借り手それぞれの立場で身を置いており、金融機関にとってのメリット、中小企業にとってのメリット、双方とも理解しています。なので、金融機関と交渉する際には、WIN=WINの関係が維持できることを前提に作戦を考え、提案をします。決して借り手である中小企業の立場だけを考えたり、貸し手である金融機関の立場だけを考えたりはしないようにしています。それは常に持続可能性を考えているからです。
金融機関勤務時代、融資やリスケ(条件変更)の決裁権限を有する立場で仕事をさせて頂きました。そのお陰で融資やリスケ(条件変更)の判断基準(モノサシ)は備わっていると思っています。「こんな提案ではハンコは押せない」「少々無理をお願いすることになるが、この提案なら渋々ハンコを押す」常にこんな風に考えながら金融機関とも交渉しています。認められると思う提案については、強気でお願いすることもあります。
経営者と話をしていると「融資や条件変更の可否は金融機関が決めることだから」というご意見をよく耳にしますが、企業側が金融機関を納得させるためにどうしなければならないかを考えるべきだとも思っています。

 

《ピンチをチャンスに》
新型コロナ感染拡大は、変異株の流行による第4波の到来の可能性等、収束の気配は感じられませんが、足元の経済は、一部の業種を除いて危惧されていたほどの落ち込みは今のところないようです。

先日、地域金融機関の審査部長を務められていた方と感染防止対策を図りながら会食を機会がありました。そのとき、「資金繰り改善のチャンスがあったのに改善に取り組むことができず、苦しい状況が続いている。改善機会を見逃さないようにすることが重要だ」とお互いの意見が一致しました。
経営者や経理の担当者では、気付くことができないかもしれませんが、金融に携わっている者がみれば、間違いなく改善機会に気付くことが出来ます。もし、そこに気付けない中小企業金融担当者なら「勉強し直して来い!」ということです。
地域金融機関の中小企業金融担当者の重要な役割の1つは「資金繰り改善の手ほどき」だと思います。対応できる「目利き力」という武器を身につけて頂きたいと願っています。

政府系金融機関(日本政策金融公庫等)では実質無利子融資は継続されていますが、民間金融機関による実質無利子・無担保融資(コロナ関連融資)は3月末で終了しました。これまでのようにある意味簡単に融資を受けることは難しくなるかもしれませんが、セーフティ保証4号・5号の指定期間は延長されていますので、これを活用することを考えたほうがよいと思います。

2021年4月から、金融機関による中小企業者に対する継続的な伴走支援などを条件に、信用保証料の事業者負担を大幅に引き下げる「伴走支援型特別保証制度」と中小企業者の事業再生を後押しするための保証制度である「経営改善サポート保証制度」の要件を緩和し、信用保証料の事業者負担を大幅に引き下げる制度が開始されました。
こうした融資制度等をうまく活用し、資金繰りの緩和、安定化に取り組まなければなりません。
今なおコロナ禍の経営を強いられているなかで、将来の資金繰りを予測するのは難しいのですが、下振れリスクも考慮しながら、資金繰り予測をする必要があります。
「伴走支援型特別保証制度」では、経営行動計画書の作成と金融機関による継続的な伴走支援が求められています。つまり、経営者は足元の資金調達だけに目を向けてはいけない。将来を見据えた経営改善計画を「経営行動計画書」として明確化し、計画に基づいた取組の継続が中小企業等の経営者に求められているのです。
一方、金融機関に対しては、
①金融機関は、原則として四半期に一回、経営の状況を確認するとともに、中小企業者から計画の実行状況等の報告を受けるものとする。
②金融機関は、中小企業者に対し、当初策定した当該計画の見直し及び同計画を進めるための経営支援を行うものとする。
③金融機関は、原則として、計画を策定した日の属する事業年度から5事業年度にわたり、年1回中小企業者の事業年度毎に、信用保証協会に対し、中小企業者の計画の実行状況及び財務状況並びに金融機関の経営支援状況を電子データで報告するものとする。
つまり、金融機関も融資するだけではなく、融資先の改善状況にもしっかり目を向け、適切な指導を継続することが求められているのです。
中小企業等の経営者に対しては、成り行き管理は「それダメ‼」、金融機関に対しては「伴走型のコンサルティング機能」の発揮を期待していると明言できます。

こうした制度の創設等は、コロナ後の経済再生に向けて国の目指す方向性の現れであり、資金繰り改善の絶好の機会となる可能性が高いと思っています。逃す手はないのです。メインバンク等、金融機関の支援・協力のもと資金繰り改善に取り組むチャンスだと思います。経営者がそれを理解し「ピンチをチャンス」にするために、今やるべきことが実行できるか否かで企業の明暗が分かれると言っても過言ではありません。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました