第43回 コンセプチュアル思考力を身につける

スキルアップ

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第43回は、「コンセプチュアル思考力を身につける」と題して、経営者・管理者(特に上級管理者)が身につけるべき思考力について考えてみます。

 

「コンセプチュアル」とは、「概念上の」という意味です。「概念」とは、「…とは何か」ということについての考え方や受け取り方を意味する言葉です。少しわかりにくいですが、「理論で裏付けされた抽象的・観念的な(=概念的な)」という意味でとらえると理解できるかもしれません。コンセプチュアル思考について、学んだことを整理しまとめてみます。

 

《コンセプチュアル思考とは》
コンセプチュアル思考とは、周囲で起こっている様々な事象や状況を構造的・概念的に捉え、問題の本質を見極めるために、対極する考え方を行き来することです。
この往復思考を身につけることにより、「本質を見抜く」ことをはじめ、「前提を疑う」「組み合わせを変える」「新たな解決策を作り出す」といったコンセプチュアルな思考活動が可能になり、その結果、問題解決、意思決定、計画構想といったマネジメント行動の質とスピードを高めることができるようになります。

 

《カッツモデル》
カッツモデルは、アメリカの経営学者であるロバート・L・カッツ氏によって提唱された「管理者の能力に関係する理論を基としたフレームワーク」のことで、管理者の職階に応じて必要な能力が整理されています。
カッツモデルでは、対象となる管理者の職階を「ロワーマネジメント」「ミドルマネジメント」「トップマネジメント」の3段階に分け、さらに必要とされる能力を「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分けています。
そして、職階が低いときはテクニカルスキルが重要視され、職階が上がるほどヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルが重要視される、という構成になっています。
カッツモデルで定義された3つの能力は、以下の通りです。
「テクニカルスキル」
テクニカルスキルとは、特定の担当業務を遂行するために一番基本となる能力のことです。
3つの「スキル」の中でも最も「具体的」で、「身近」な「スキル」です。この能力を身に付けることで、カバーできる業務の幅が広がります。

「ヒューマンスキル」
ヒューマンスキルとは、他者と良好な関係を作り、円滑な人間関係を築く対人関係能力のことです。目的を達成するために、「他者に働きかける」スキルが該当します。この能力を身に付けることで、一人では達成できなかったようなより大きな目標をクリアしていくことができます。

「コンセプチュアルスキル」
コンセプチュアルスキルとは、企業全体を見る能力のことです。「物事の本質を見る能力」とも言えます。この能力を身に付けることで、経験したことのない問題に直面しても、本質をとらえることができ、最適な選択をすることができるようになります。

 

《知の思考・情の思考・意の思考》
人間には「知情意(ちじょうい)」という3つの働きがあり、私たちはそのバランスによって動いているといわれています。「知情意」とは、「知性」と「感情」と「意志」の3つのことで、もともとは哲学者カントが提唱した言葉です。
「知性」とは、知識や思考といったものを活用すること。頭を使うということ
「感情」とは、喜びや悲しみや怒りなどのこと。心で感じるということ
「意志」とは、意欲や精神力のこと。決断するということ
この3つのバランスは人それぞれによって強弱があり、その強弱で人の特徴が作り上げられているといえます。この3つのバランスが極端に崩れていると何かしらのトラブルが起こりやすくなります。この3つの関係性をもう少し見てみます。
「知(知性)」、つまり必要な知識を得てそれを活用したり、物事を考えたりする能力が大切です。通常は賢い人の方が効果的に物事を動かしていけるはずですが、「知」だけあれば良いというものではなく、そこに「情」というものが上手く加わらないと、「知」の能力も十分に発揮されません。
「知」ばかり優っていて「情」の薄い人は、自分の利益ばかりを追求して、他人のことをないがしろにするかもしれません。そうならないために必要なのが「情」です。自分の感情も人の感情も大事にする感覚です。
「情」にも欠点があります。それは瞬間的に湧き上がりやすく、そこに飲み込まれやすいということ。喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、愛しさ、憎しみ、欲望といった7つの感情は飲み込まれやすいと言われ、心の他の箇所を使ってこれらをコントロールしていかなければ、極端に突っ走って問題を起こすなんてことにもなりかねません。 そこで「意(意志)」というものが必要になります。
意志の力で感情をコントロールするということで、感情が暴れ出したらそれを制御するのです。「意志」ばかり強くて、「知」や「情」が足りなければ、人の意見に耳も貸さずに自分の主張ばかり押し通すような頑固者になってしまいます。
このように人間の持つ3つの働きは相互に関係しあっており、そのバランスをとることで大きな力を発揮できるようになります。

人間の思考は、当然そうした精神のはたらきの影響下にあります。その観点から考えると、人間の思考活動として「知の思考・情の思考・意の思考」の3つの領域に分けることができると思います。
「鋭く分析する」「賢く判断する」「速く処理する」といったときの思考は、「知」のはたらき主導でなされる種類、「人の気持ちをくんで考える」とか「心地よさを形にする」「美しいを表現する」ときの思考は、「情」のはたらき、「深く洞察する」「総合してとらえる」「意味を掘り起こす」といった思考は、「意」のはたらきがそれぞれ影響するとみることができます。
3つの領域の思考を整理してみます。

「知の思考」 ・鋭い頭をつくる
・論理/客観性にもとづく思考態度をつくる
・分析力/批判力のある仕事ができる
・知識や技術を最大限生かし、効果/効率を狙う仕事をする
・万人を納得させる説明ができる
「情の思考」 ・「美しい/快い/優しい」を扱う
・共感にもとづく思考態度をつくる
・「カッコイイ/かわいい/スゴイ/面白い/ウレシイ」を形にする
・五感豊かに発想する
・美意識にもとづいた仕事表現をする
・「体験」を商品化/サービス化する
「意の思考」 ・本質を抽象し、概念化する思考態度をつくる
・独自のとらえ方=観をつくる。そしてその観にもとづき意志のある仕事をする
・物事を深く豊かにを咀嚼(そしゃく)する
・理念にもとづいた商品/サービスをつくる、そして大局観に立った事業のグランドデザインを描く
・物事に意味を与える

 

《コンセプチュアルスキルの構成要素》
コンセプチュアル思考に必要なコンセプチュアルスキルは、対象を抽象化することで本質を見極める能力です。コンセプチュアルスキルを高めて、枝葉末節ではなく、幹となる本質的な課題を見出して解決することで、プロジェクトの成功や早期のトラブル解決などが見込めます。一気に根本的な課題を解決できれば、組織の生産性を大きく向上させることが期待できます。このスキルを構成する要素についてまとめてみました、

ロジカルシンキング(論理的思考) 物事を理論的に整理したり説明したりする能力
この思考ができると、目の前の課題にどんな問題が含まれているのかを分解・整理し、優先順位をつけてひとつずつ解決していくことができる。
ラテラルシンキング(水平思考) 過去の経験や常識に囚われることなく、自由な発想をするスキルで、物事や問題を新たな視点で捉えなおす、枠組みを超えた発想をもたらすといった「固定概念にとらわれない」思考を示す能力
「このようなニーズがあるからこの商品が売れている」ではなく、「この商品が売れるのは、こんなニーズがあるのではないか?」と全く新しい仮説を立てられる能力
クリティカルシンキング(批判的思考) 「本当に正しいのだろうか?」「本当の問題は何だろうか?」「この前提は本当に変えられないのだろうか?」と、常識や既成概念に囚われず、物事を分析的に捉え、思考する能力
プロジェクトから不安要素を取り除いたり、サービスの質をより向上させたりするための発想を生み出すのに不可欠なもの
プロジェクトを進めるにあたってのリスクヘッジを行う上で極めて重要な考え方
多面的視野 課題に対して、様々な角度から複数のアプローチを行える能力
ひとつの問題に対して複数のアプローチで検討できるようになる。
柔軟性 トラブルに対しても臨機応変に対応できる能力
仕事にはトラブルがつきもの、マニュアル通りの動きでなく、状況に合わせて臨機応変に対応する能力
受容性 自分とは異なる価値観を受け入れられる能力
会議の場では他のメンバーと真逆の意見になることもしばしばある。会議で重要なのは「他者の意見と自分の意見を比較・検討し、よりよい解答を見つけること」
受容力により会議の質をより高めることができる。
知的好奇心 未知のものに対して興味を示し、自ら取り入れることができる能力
行動を起こすのには「好奇心」が大切、新しいことをはじめる際などは「最初の一歩」の速さで実現できるか否かが決まることもあり、行動力の核として「多方面への知的好奇心」は武器になる。
探究心 物事に対して深い興味を示し、問題の深部まで潜り込める能力
「良いモノ」を作るためには、物事をしっかり深く掘り下げることが大切
表面上のプロダクトやサービスだけでなく、背景にどんな思想があり長期的に見てどのような効果があるかまでしっかりと検討する必要がある。
応用力 ひとつの知識・技術を他の問題にも適用できる能力
一言でいえば「1を学んで10を知る」ということ。
実務経験を通してビジネススキルは成長していくが、応用力があるとそのスピードに明らかな違いが出る。
洞察力 物事の本質を見通す能力
表面上の問題だけでなく抽象的な次元においても見極められることが大切、応用力の基礎的な部分を支えている。
直感力 物事を感覚的に捉え、瞬時に反応する能力
ロジックだけではなく、直感やひらめきもビジネスでは必要、常識にとらわれない発想が時にブレイクスルーとなることもある。
ロジックとのバランスが大切
チャレンジ精神 困難な課題や未経験分野においても、果敢に挑戦し、行動を起こせる能力
「こんなこと絶対にできない!」と拒絶してはできるものもできなくなる。未経験だからといって臆することなく飛び込んでいける行動力は、自身の成長だけでなく、周囲に働きかける効果もある。
俯瞰力 物事の全体像を正確に把握する能力
主観的視野と客観的視野のバランス感覚とも言える。
自分が置かれている現在の状況と今後の見通しを冷静に見つめ、適切な判断を下すのに必要
先見性 まだわからないことに対して、早い段階から結果を予測できる能力
俯瞰力と同様に、プロジェクトの舵取りでは不可欠

 

《コンセプチュアル思考力を高める》
コンセプチュアル思考に必要なコンセプチュアルスキルを簡単な言葉で言い換えると「考える力」「形のないものを扱う力」のこと、「本質を見抜く能力」です。また、このスキルは、先天的な要素、いわゆる「地頭の良さ」にも影響されているといわれています。
コンセプチュアルスキルに長けている人は「本質を見抜く能力が高い」「物事を合理的に判断できる」「ひとつの経験から多くを学び、対応する能力に長けている」「業務を合理的に遂行し、効率的に働くことができる」といった特徴がありますが、逆に言えば「合理性に欠けることに対して頑固な姿勢を示すケースがある」ということでもあります。
コンセプチュアルスキルは、先天的な影響が大きく、身につけるのが難しいと考えられるスキルですが、
①定義化する(物事の本質をつかみ言葉で表わす)
②モデル化する(物事の仕組みを単純化して図に表わす)
③類推する(物事の核心をとらえ他に適用する)
④精錬する(物事のとらえ方をしなやかに鋭く)
⑤意味化する(物事から意味を見出す/意味を共有できる形として描く)
この5つのことに意識的に取り組むことで身につけやすくなるのではないでしょうか。

ビジネスの現場では、教科書的な想定の範囲内の課題や問題が発生するよりも、想定の範囲を超えた事象が数多く発生しています。今回、紹介した思考力を身につけることでスピード感を持って解決に結び付けることができると思っています。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

コメント

  1. 日本らしさ・グローバル より:

    最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタインの理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズムにんげんの考えることを模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。一神教的から多神教的へ。

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