第48回 現場におけるクレーム対応術

リスクマネジメント

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第48回は「現場におけるクレーム対応術」と題して、現場で起きる様々なクレームへの対応術を考えてみたいと思います。

 

《クレームが起きる要因》
雄蕊が金融機関に就職し、最初に赴任した支店では、お客様の怒鳴り声が相談ブースや窓口のローカウンターからよく聞こえていました。その支店では貸付金の返済が滞る企業(不良債権)が増加しており、正常入金に向けた返済交渉を行う必要のある企業が多く、まだ若くて経験も未熟だった当時の雄蕊は、上司や先輩の指導の下、返済金が滞る企業は「悪」という信念を持ち、日々回収業務に励んでいました。
資金繰りが厳しい企業は、返済したくても手元に資金がないので、返せない。その焦りからついつい罵声を浴びせてくるようになるのです。今から40年近く前のことなので、借主の権利意識も今ほど強くなく、多少厳しい督促、交渉をしても行政機関等へのクレームに発展することはありませんでした。しかし、今日では、金融庁等の行政機関へのクレームにつながる可能性が高いかもしれないと思います。
金融機関が扱う商品・サービスはお金そのものです。そのため、中小企業の経営者にとっては、会社の生死が懸かっているといっても過言ではありません。希望した金額の融資を受けることが出来なかった、融資を断られた、必要な期間までに融資決定、資金化が出来なかった等、クレームに繋がる場面は数多くあります。

また、金融機関の担当者といえども人間ですから、事務ミスは付きものです。事務ミスが発生したら、すみやかに対応することが大原則です。しかし、担当者のなかには、上司に事務ミス報告をすることが出来なくて、隠蔽してしまうケースもあります。その場はそれで逃れることが出来ても、事態はどんどん悪化していく。地中に埋められた地雷が爆発するのは時間の問題です。爆発したら最後、解決することが難しいクレームに発展してしまいます。雄蕊の長い金融機関勤務のなかでは、こうした事例も何度かありました。解決までに時間を要した案件もあり、数ヶ月間、毎週1回お客様のところにお詫びに通った経験もあります。

一方、どうしてこの程度のことでクレームになってしまうのだろうと納得のいかないクレームもあります。こうしたクレームは、お客様が不満に思っていることを口に出さず我慢し続けて自分のなかに溜め込んできた結果、一寸したことが引き金になって、我慢できずに爆発、大きなクレームに繋がるケースがほとんどでした。こうした場合は、お客様の話をよく聴くことで、クレームの原因を掴むことが出来、お客様の申し出に対する共感とお詫びそして丁寧な説明で解決に繋げることが出来ました。

さて、最も厄介なクレームが、こちらに非のない理不尽なクレームです。こういうケースの場合、大抵クレーマーは威圧的な態度で迫ってきます。言い掛かりだと分かっていても解決するのに時間が掛かります。目の前で威圧的な態度をとられると、正直ビビります。全身鳥肌が立つ感覚になります。
こうしたケースでは、兎に角相手の申し出をよく聴くことです。何に腹を立てているのか、何をして欲しいのか、相手の主張と目的・要求を探ることから始まります。

こうした類いのクレームに対しては、一人で対応してはいけません、少なくとも二人以上で対応することが重要です。そして必ず記録を取ること、必要に応じて話の内容を録音することも必要です。複数で対応する、記録や録音することで、相手も怯んで早く収まることが多いと思っています。

 

《クレームへの対応》
クレーマーは、その表情に拘わらず、内心では相当怒っていると考えられます。まず、相手の怒りをクールダウンさせなければなりません。
まずは、クレーマーの話をよく聴くことです。肯定も否定もせず、うなずきや相づちを打ちながら聴くことが重要です。その際に次のような言葉を声に出しながら、相づちを打つのが良いかもしれません。
「さようでございますか」(ストレートに相手の話に同調するときに使う)
「ごもっともです」「おっしゃるとおりです」(やや強めに相手の意見に同調するときに使う)
「そうなんですか」「そんなことがあったんですか」(感嘆を込めて相手の話に同調するときに使う)
どの言葉も過剰に使うと、嫌みに聞こえたり、かえって不快感を与えたりすることもあるので注意しながら使うことが必要です。こうしてクレーマーの話をよく聴くことで、相手の興奮は徐々に収まり、会話がスムーズに流れるようになると思います。
このような対応により、クレーマーの主張や目的を聞き出します。そして、クレーマーの主張や目的に応じた対応策や解決策を検討するのです。

 

《クレーム対応の進め方》
雄蕊がこれまでに経験したクレーム対応を振り返りながら、まず、その進め方を整理してみます。
①迅速な反応「現場に急行」(クレームが発生したら、すぐ現場に急行し、対面で対応(お詫び、丁寧な説明等)することが早い解決に結びつく)
②迅速な反応「即時対応」(電話やメール、手紙は届いた時点で速やかに対応、放置して時間が経てば経つほど難件化)
③相手の申し出をよく聴き、相手の主張、目的、要求内容等を把握する
(話を聴く際の留意点)
・第一印象が重要、最初の3分が勝負(最初の「3分」は、相手の心情を察しながら話を「よく聴き」冷静に対応する。)
・接遇等、環境作りも不可欠(何処で対応するか、個室か、オープンスペースか)
・相づち、クッション言葉、間の取り方を的確に使いこなす
・声や態度(非言語情報)に注意する
②できる限り一人での対応は避け、複数で対応する
③交渉内容は、必ず詳細に記録を残す
④事実を確認(事実関係の明確化)する
⑤クレームは個人で解決するべきものではないので、何か何でも自分が解決するという意識ではなく、組織で対応する意識を持つ
⑥即答は控え、組織としての結論(対応策・解決策)を出したうえで相手に解決策等を提示する
⑦その際、回答期日等を明確に相手に伝える
⑧理不尽な要求に対しては、毅然とした態度をとる
⑨こちらに非がある場合は、すみやかに「お詫び」し、スピーディに善後策をとる
⑩クレームは持久戦になる可能性が高い、矢面に立っている担当者は辛抱強く対応する必要があるが、あくまで組織で対応していることを忘れてはいけない(メンタル面ではタフな仕事)

 

《クレーマーの攻勢をかわす対応術》
こちらの落ち度(事務ミス等)なのかどうかもわからない段階ではどんな対応が正解なのか判断できません。執拗に理不尽な要求を繰り返すクレーマーに対しては「即答できない」ことを繰り返し伝え、攻勢をかわす(対応策を練る時間を稼ぐ)ことが大切です。
「私ひとりでは判断できません」
「大切なことですから、しっかり協議してお返事いたします」
「お急ぎかもしれませんが、今すぐというわけにはいきません」
「今回の件は重大ですので、しっかり協議をしてはっきりお返事をするためにも、お名前とご住所、ご連絡先をお聞きして、上に詳細を報告する責任があります」

担当者はその場から逃げ出したり、後ずさりしたりするのではなく、うまく身をかわすイメージで受け答えすることが必要です。
こう伝えると大抵のクレーマーは、決裁権者を出せと言ってきます。しかし「責任者を出せ!」と言われたからといって、すぐ上司を出す必要はありません。まずは担当者として「私が責任を持って対応させていただきます」と答えます。そうすると「責任者なら、いま、ここで結論を出せ!」と話が逆戻りしてしまうことがあります。その場合には、次のように伝えて一旦クレームを「終結」させることが重要です。
「私は責任者ですが、お客様からのお申し出は非常に大切なことなので、私だけでは判断できません。上司と協議して○月○日までにお返事したいと思いますので、お名前とご住所、連絡先を教えてください」
兎に角、相手の土俵で勝負しないことです。
「いまから会いに行く」と言われたら、「お急ぎかもしれませんが、今すぐというわけにはいきません」と応じます。
「治療費を払え」「迷惑料を支払え」等の金銭的な要求をされたら「私ひとりでは判断できません」「大切なことですから、しっかり協議してお返事いたします」とかわすことが大切です。

また、「詫び状を書け!」「謝罪文を出せ!」「一筆書け!」等と迫られることもあります。こうした書面の提出を求める要求に対しては安易に承諾してはいけません。書面に残してしまうと、悪質クレーマーは、それらに書かれた内容を自分の都合のいいように拡大解釈して、あの手この手で攻めてくる可能性があるからです。
そこで、担当者としては「私ひとりでは判断できません。大切なことですからしっかり協議してお返事いたします」と言っていったん持ち帰り、上司や弁護士等と協議するようにします。クレーム対応は、個人で行うものではなく、組織として対応することが大切だからです。
お客様と接する業務を行っている限り、クレームは必ず起きるものと認識しておくことが大切です。「クレーム対応マニュアル」を作成する等、ルール化しておくことも必要だと思います。

金融機関時代には、かなり拗れたクレームに対しては、本部のクレーム担当部署も交えた関係者で協議を行い、想定問答を作成する等して対応していました。
ほとんどのクレームは課長が矢面に立って対応します。雄蕊は課長としての勤務が長かったので、その分クレームも数多く関わってきました。経験則として学んだことが多く、未だにお客様対応、従業員対応ではクレーム等に発展しないかと慎重になってしまいます。

金融機関の担当者と話をしていると言葉の端々に慎重さが見え隠れします。雄蕊は「元金融人だから気を遣わなくても揚げ足を取るようなしない」と伝えてもなかなか用心した言葉選びは直りません。雄蕊も含めて例外なく、元々慎重派の金融人ですから・・・

 

《クレーム対応術を身につける》
クレーム対応に掛かるテクニックは、経験を重ねることで身につけることが出来ます。しかし、不慣れな人は咄嗟に切り返しが出来るとは思いません。ましてや目の前で大声を出されたら、それだけで頭が真っ白になるかもしれません。
クレーム対応も含めた交渉等を行ううえで役立つ言葉が、援川聡氏著「対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル」(ダイヤモンド社)で「サ行のほめ言葉」として紹介されています。
参考までに載せておきます。
•「さすがですね」
•「知らなかった」
•「すごいですね」
•「センスがいいですね」
•「そうなんですね!」

クレーム対応のキラーフレーズ「さしすせそ」
さ:「さようでございますか」
し:「失礼いたしました」「承知いたしました」
す:「すみません」
せ:「責任をもって、私が対応します」(声には出さなくとも、クレームから逃げない意識は常に持っておく)
そ:「そうなんですか」

先日、雄蕊が関わっている事業所のロビーでお客様が大声を出すクレームが発生しました。久しぶりにお客様が激昂する姿を見た気がします。その時の現場の対応がうまくなかったので、今回「クレーム対応の進め方」について、これまでの経験を基に雄蕊なりにまとめてみました。このブログを書きながら当時のことが脳裏に蘇ってきましたが、どれも苦い思い出ばかりで、正直、二度と経験したくないと改めて気を引き締めました。

一方で、クレームはその企業のファンになってもらう良い機会と捉えることも出来ます。どんなクレーマーでも「昨日の敵は今日の友」「1回会えばお友達」そんなことも数多く経験しました。対応次第で吉にも凶にもなるということです。クレームをチャンスと捉えて対応すれば、自ずと心のこもった対応ができるのではないでしょうか。

また、クレームは、情報として蓄積することにより、①リスク管理、②業務改善、③マーケティング等に活用できる「共有財産」となり得ます。「解決したら終わり」ではなく、対応記録を残し、接遇等のサービス向上や業務改善にツナグことが重要です。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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