第51回 経営者が持つべきブレない軸と自分軸

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第51回は、経営者が持つべきブレない軸と自分軸と題して、その重要性について考えてみようと思います。

 

《尊敬する経営者との再会》
先日、ある企業の会長にお会いしてお話を伺う機会がありました。今から10年ほど前、まだ金融機関に勤務していた頃に大変お世話になった方で、当時から社長は後継に譲られて、会長として地域経済の発展に尽力されておられました。
再会してお話をさせていただきたいと常々思っていましたが、やっとその機会を得ることができました。

この企業の主な業務は、コンシェルジュ・フロアサービス、オフィス受付、電話交換、日常清掃等の業務をクライアントである企業から請け負い、受託したサービスを提供するという「B to Bのビジネスモデル」が基本になっています。
地方都市に本社を置き、西は九州から東は関東までおよそ20弱の拠点を有して事業展開されています。事業規模は、大きく分類すると中小企業の範疇に入るのかもしれませんが、中堅企業に近いレベルです。

この企業の企業理念には「お客様の繁栄と幸福」が唱われています。企業理念、企業方針等について、雄蕊なりに噛み砕いてその主旨を紹介します。
1 社員の「明るく豊かな人生」を実現のためにお客様に「繁栄と幸福」を提供する
当社の経営目的は、会社に人生を預けてくれた社員に「明るく豊かな人生」を与えることにある。その実現のためには、お客様に「繁栄と幸福」を提供できなくてはならない。お客様が繁栄して幸福となったときに初めて、お客様が私たちに豊かになれる財源を与えてくださる。当社の企業理念を明確に実行することが、社員に「明るく豊かな人生」を与えることを可能にする。

2 お客様に「感動」していただくまで「売り物」を磨く
お客様に信頼され、受注が増える企業にするためには「売り物を磨く」ことが絶対条件になる。当社の商品は「居心地の良い環境作りとそれを作る技術やシステム」である。これらを高めることがライバルとの差別化になる。他社より数段優れたものを実現しなくてはならない。
そしてもう一つ、商品や技術を取り巻くサービスの向上が重要。当社のサービスは、礼儀や道徳を決められたように実践する社員であり、明るい笑顔、親切、気配り、素早い対応、キビキビした行動、ハキハキした言葉遣い等が挙げられる。これらを磨き上げた売り物がお客さまに満足を、そして感動を差し上げることになる。

3 「真のお客様」がファンになっていただくサービスを磨く
当社には二通りのお客様が存在する。一つは業務契約を締結した企業や個人、もう一つはその施設の利用者や、工事現場の見学者やその近隣の住人である。こうした契約企業等の先(向こう側)に存在するお客様に対して心を込めて応対することが必要である。わざわざ私のために、またそこまでやってくれるのかと思っていただくことが重要なことであり、これが効率を超えた効果を生み出す。後者のお客様を「真のお客様」と呼び、その施設を利用し続けていただき、ファンになってもらう行為が契約企業や個人に「繁栄と幸福」を提供することに繋がる。

4 6S、SQC、SKYを徹底実践し、優良企業になる
優良企業とそうでない企業の差は、6Sが確実に実施されているか否か。当社の生業はお客様の施設等の環境整備。6Sを徹底して実践することで周囲への気配りや気付きができるようになり、感じる心を養うことになる。またSQCは作業品質の向上等、様々なことに挑戦し考える力を高め、SKYは安全作業を徹底することに繋がる。これらを「売り物を磨く」ことに生かしていくことが優良企業になる道である。

5 先進性とチャレンジ精神を発揮し、オンリーワン企業を目指す
世の中には、「絶対不変なもの」と「時代と共に変わりゆくもの」がある。不変なものは頑なに守り、変化の激しいものには先進性とチャレンジ精神を発揮し、時代に取り残されることの無いよう、早めの対応をとり続け、企業理念を実現する。

6 お客様活動を通して人間性を高めていく
社内教育も学校教育も家庭教育も基本は同じ。人生哲学、つまり生きていく知恵を身につけること、礼儀、倫理、道徳という社会規範を社内教育で身に付け、お客さま活動で実践し、その効用を実感すること、「教」とは技術のことであり、「育」とは心であり、「人生をどのように生きるか」ということ、真理は不変なのである。

如何でしょうか。雄蕊は、この企業から派遣され、現場で仕事をしている数多くのスタッフにお会いしていますが、全てのスタッフにこの「教え」が浸透していると感じています。

「B to B to Cのビジネスモデル」の全社、全スタッフに浸透していることが他社との差別化の成功に結びついているといえます。

 

《企業が抱える組織の慢性疾患》
新規事業に社員のアイデアを取り入れようと意見を求めても何も出てこない、社内、部署内の雰囲気が沈滞している、負け癖がついている、部下に指示したら「それって、私の仕事ですか?」という反応が返ってくる等、企業の現場には、こうした細かな問題が、日常的に数多く起こっています。
こうした問題の原因は、表面化せず背後に潜んでおり、曖昧で特定が難しいため、既存の解決策では太刀打ちできず、どうしても問題解決が後回しにされがちです。
こうした問題は、総じて「解決策の決め手がない問題」であり、繰り返し起こっていますが、問題の正体がよくわかりません。そのため、ゆっくりと悪化し続け、根治が難しい状態へと進行します。まさに人体で言う慢性疾患です。
現場の管理者の人たちは、このような問題に日々苦労をしながら齷齪していますが、どこから手をつけたらよいのか分からず、手をこまねいて見ているのが実情なのです。結局、手立てが見えないので「誰かがなんとかしてくれるのではないか」とどこかで思っている。そんな「誰かに依存症」の蔓延状態が続く中で、だんだんと悪化しているのではないでしょうか。
組織の慢性疾患が継続的かつ繰り返し起こっていて「つらい状態」にあることは確かですが、こうした問題の解決は、困っていることが何か、そこを少しずつ自分たちで解きほぐしながら、アプローチをしていける糸口を見つけることが大切だと思いますが、難しい課題ですよね。

 

《経営者が持つべきブレない軸と自分軸》
大企業の社長は、雲の上の存在です。金融機関もまさにその通りで、経営トップには本店での会議のときくらいしかお目に掛かることはありませんでした。しかし、中小企業は大企業の縮小版ではないため、経営者の立ち位置も当然ながら大企業とは異なります。従業員にとって身近な存在でなければならないと思っています。なので、組織の慢性疾患への対応も、身近な存在であるべき経営者自身が先頭に立って解決しなければならない問題なのです。管理者をはじめとした「つらい状態」から解放してあげなければなりません。経営幹部のなかには、経営者しか見ていないヒラメ幹部もいるので、これは経営者だけにしか出来ない最重要な仕事です。
組織が慢性疾患に冒されないため、重症化しないために経営者が取り組まなければならないことは何でしょうか。その一丁目一番地は、経営者が「ブレない軸と自分軸」を持つことだと思います。こうした軸を持つことにより、
①何か決める時に自分軸から決定することができるので迷わない
②選択と集中を容易に決断できる
③すべての発言に一致感&一貫性を持てる為、大きな説得力と影響力を持つことができる
④目標の達成が加速する

といった効果が期待できるからです。

「ブレない軸と自分軸」を持つためには、まず、経営者自身がやりたい事や事業を通じて、社会にどのように貢献したいか、どのような社会を創り出したいかを経営者自身で「決定」することが必要です。つまり、経営者にとって何よりも大切なのは、経営者自身が今どうなりたいか、何が欲しいのかという目標です。これが「ブレない軸と自分軸」を作る道標となるのです。
よりディテールのはっきりした目標を持つために、その目標を達成させた時、どんな環境にいたいのか、その目標を達成させるために、どのような行動をとるべきなのか、どのような能力が必要なのか、経営者自身が大切にしている事は何か、経営者自身は何者なのか、経営者は社会にどのように影響したいのか、どんな社会を作りたいのか・・・
こうしたことを1つ1つ明確にしながら経営者自身の目標設定を行うことで、経営者自身が「事業を通じてやりたいこと、経営者としてのあるべき姿」を自覚することができると思います。この経営者自身が創りたい世界を軸にすればよいのではないでしょうか。
経営者自身が「創りたい」世界を軸に行動を起こす時、広い視野と視点を持つことが可能となり、大きな情熱が宿り、大きな一貫性と一致性を兼ね備える事ができます。そこから生まれた説得力と影響力はとてつもなく大きなパワーとなるのです。

 

《経営者の発する言葉の重み》
経営者が職場で発する言葉は、良きにつけ悪しきにつけ、従業員に様々な影響を与えます。そのため、経営者の言葉は「ブレない軸と自分軸」に裏打ちされた、より具体的で一貫性のある内容でなければなりません。企業理念や行動規範、事業計画達成に向けたアクションプラン等、どう頑張ればいいのかといった方向性をより具体的かつ明確に伝えることで、従業員は、経営者の意志や想い、従業員として何をしなければならないか等を理解することが出来、目的意識を持って仕事に取り組むことが出来るため、企業に対する忠誠心も上がると思います。その結果、期待されるような成果に結びつけば、従業員本人のやる気が高まり、企業や経営者に対する信頼度や尊敬がさらに増すことになります。
このように、経営者には「具体的に伝える力」が求められますが、この能力を身につけるためには、普段から数字で考える等、具体的に物事を見るクセ、数学的思考力が必要になるのです。
また、経営者は、当然ながら法令違反を強いる言葉、ハラスメントにつながるような言葉は発するべきではありませんが、相手を傷つけそうな言葉には慎重になるべきです。内容によっては、家族構成やこれまでのキャリアなど、プライベートを考慮する必要もあります。こうした場合、受け取る側の感覚がよりどころになってしまいますが、相手に対して真摯な関心を持ち、相手のためにアドバイスすることが必要なことは言うまでもないことです。自己中心的な人はどうしても自分の感覚でしか相手を見ないので、そういう発言をしがちです。難しいことですが、相手の立場や視点に立てるか否かが大切なのです。「相手の視点に立てる人が幸せになれる人」、そういう人は、自分自身をも客観視することができる人です。
一方、従業員から見て、信頼できる経営者なら少し踏み込んで指導してもらった方が有難く感じる従業員も多いと思います。信頼できない経営者に踏み込んだことを言われると放っておいてくれと思うし、パワハラと受け取られかねません。頑張っていない経営者に「頑張れよ」と言われれば、心の中で「お前こそ頑張れよ」と反発します。
信頼できる経営者なら、少しばかり厳しいことを言われても、言われた側も素直に受け入れることが出来ますし、経営者はそこまで自分のことを気に懸けてくれていると意気に感じることも多いと思います。そんな関係性が構築できているのであれば、深く入り込むことも必要です。
経営者と従業員間の信頼を醸成する一番の方法は「言ったことを守ること」です。信頼の「信」は人の言葉と書くように、言ったことを守る経営者は信頼されますし、口先だけの経営者は信頼されません。小さなことでも、大きなことでも言ったことは守るのです。
さらに、経営者は、信頼に加えて尊敬される存在であるべきです。経営学者のドラッカーは尊敬されるリーダーは「何が正しいか」を考えると述べています。何が正しいか、その判断基準を身につけるためには、本質的に正しいと思うことを勉強して身につけない限り、人から真に尊敬されることはありません。生き方を身につけた人の言葉には、本物の「重み」があるのです。

中小企業を「組織の慢性疾患」から予防する、もし万一、慢性疾患に罹患していたら、重症化予防する。そのために、経営者が取り組むべきことは「ブレない軸・自分軸」に裏打ちされた経営者としての方針、企業としての方向性をより具体的に、そして明確にして、分かりやすい言葉で従業員にしっかり伝えて実践させることです。

冒頭で紹介させていただいた会長の企業では、企業理念、私たちの使命、会長語録等がより具体的にホームページにも掲載されており、それを読むだけで企業の方針・方向性や経営者の想いが明確に伝わってきます。部外者でさえ実践するべき行動がイメージできるのですから、この企業の従業員一人ひとりに浸透していることに疑う余地はありません。

どんな企業にも多かれ少なかれ課題や問題はあります。しかし、課題や問題が肥大化しないための未然防止や予防策がどれだけとれているかが重要なのです。そこに企業の組織力の差が出るのです。紹介させていただいた企業では、顧客感動創造経営を実践するために、持続可能な組織構築に向けた従業員の教育体制の整備等、現場オペレーションにも細かく目が行き届いていると納得出来る仕掛けや仕組みが数多くあります。「組織の慢性疾患未然防止・重症化予防」の参考・お手本になると確信しました。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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