第14回 資金繰り力を高める経営

中小企業経営

「こんにちは、雄蕊覚蔵です!」今回は、「資金繰り力を高める経営」と題して、資金繰りが悪化する原因や資金繰りを楽にするための改善策について解説します。

 

《資金繰り力を高める経営》

資金繰り力を高める経営とは、資金繰りが安定している状態を維持するために資金繰り管理の仕組みを作っておく経営のことです。資金繰りが悪化すると、経営者は資金繰りのことで頭が一杯になり、本来の経営者としての役割を果たすことが出来なくなります。具体的には、販売先に対し売掛金として一定期間固定化している代金の回収を早めてもらうよう依頼したり、仕入先に対して買掛金の支払を先伸ばししてもらうよう交渉したり、金融機関に新規融資を要請したり、手許資金を確保するために奔走することが仕事の主眼になってしまいます。本業に身が入ら無くなれば、益々資金繰りの悪化に繋がるという負のスパイラルに陥ってしまいます。

 

《なぜ、資金繰りは悪化するのか》

資金繰りが悪化するとは、近い将来、資金不足に陥る危険性があるということです。資金不足になれば事業継続が困難な状況になってしまいます。資金繰りが悪化しないようにする改善策を検討するため、まずは、資金繰りが悪化する原因について探っていきます。

赤字の状態が継続することです。赤字とは、損益面からみると「売上高<原価+経費」であり、収支面からみると「収入<支出」の状態です。この状態が続くと手許資金がどんどん減少し続けるので、結果として資金繰りが悪化します。

売上が大きく伸びたときも、資金繰りが悪化する場合があります。売上が大きく伸びれば資金繰りが楽になる印象があるかもしれませんが、入金と支払いのタイミングによっては、かえって資金繰りを悪化させることになります。

売掛期間(売上が発生し、その代金の現金回収までの期間)が長期化したり、買掛期間(仕入れてから実際に現金を支払うまでの期間)が短くなったりすると、資金繰りが悪化します。
まず、売掛金が長期化した場合について考えてみます。商品を販売して1か月後に代金を現金回収する場合は、売掛期間は1か月となります。しかし、売掛期間が2か月となり、商品を販売して2か月後に代金を現金回収する場合だと、現金入金が今までより1か月遅くなります。売掛金が長期化すると、その間、資金が売掛金として固定化してしまうので資金繰りが悪化するのです。
売掛期間が長期化するケースとしては、
●販売先からの取引条件の見直し要請
●販売先の資金繰りが苦しく、代金が回収出来ない場合
●売上確保のため、自社に不利な条件で契約をした場合
●自社からの代金請求が遅れた場合等があります。

次に、買掛期間が短くなる場合について考えてみます。掛けで商品を仕入れ、現金を支払うまでの期間が1か月先だったものを半月先に短くすれば、半月早く現金が必要になるので資金繰りは悪化するのです。資金繰りを楽にする観点から考えると買掛期間が出来るだけ長期にすることが望ましいのです。

在庫を抱える時間が長くなる・過剰な在庫を抱えることで資金繰りは悪化します。
商品販売には、基本的には在庫は必需品です。在庫不足では、顧客のニーズに即対応出来ないことになります。しかし、在庫を抱えることは、資金繰り上ではマイナスに作用します。在庫を仕入れるためには、資金が必要になりますが、在庫は販売できてはじめて資金化できるからです。

設備投資は多額の費用支出を伴うため、資金繰りが悪化します。
業容拡大、事業維持のために設備投資は必要ですが、設備投資費用は、損益計算の視点だと法定耐用年数に応じた減価償却費として一定の年数に分散させて費用計上することが出来ますが、資金面では、設備投資を実施した時期に原則として一括で支払うため、資金繰りが悪化します。
設備投資の資金繰りへの影響を極力少なくするために、設備投資資金は長期分割返済の金融機関からの借入で調達するのが一般的です。また、返済期間を出来るだけ長くすることが資金繰りの安定化に繋がります。

事業に直接関係のない投資は、資金回収できる可能性が低く、資金が固定化してしまうので資金繰りが悪化します。
バブル期には、中小企業において不動産投資、ゴルフ会員権、リゾート会員権、多額の保険積立金等、事業に関係のない多額の投資が散見されました。無駄な投資に回した資金を事業に費やしていれば、新たな収益源になった可能性があったかもしれません。そうした機会損失も考えられます。一般的に、財務内容が良い企業の決算書にはこのような本業以外の投資はほとんど存在していません。無駄な投資が多い企業は、資金繰りの苦しい状態が常時続いています。本業以外の無駄な投資は、間違いなく資金繰りを圧迫し、金融機関の評価の低下にも繋がります。無駄な投資にプラス面はないといえるのです。

金融機関からの資金調達が困難になった場合や金融機関への返済負担が大きい場合も、資金繰りが悪化します。
金融機関から融資を受けることができれば、赤字であっても倒産することはありませんが、金融機関からの融資を受け続けることが困難になってしまうと、資金が回らなくなり、倒産する可能性が高まります。

資金繰りを楽にするためには、必要資金を全額自己資金で賄うことが出来ればよいのですが、多くの中小企業は金融機関からの借入でその資金を賄っています。一方で、金融機関からの借入には利息支払いと元金返済が必要です。金融機関からの借入金の返済原資は、基本的には売上による回収金です。しかし、売上の回収金は金融機関への借入金返済のほか様々な用途に使われます。例えば、仕入や人件費、保険代、諸経費等です。毎月の売上金は必ずしも一定ではなく、多い月もあれば少ない月もあります。また、販売先からの回収が遅延する事態も想定しなければなりません。このようなことから多くの中小企業では借入金の返済が資金繰りを圧迫しているのです。

 

《資金繰りを改善するには?》

それでは、資金繰りを改善するにはどうすればいいのでしょうか。資金繰りを改善するには、事業の中身を見直し、資金繰りに窮しないビジネスモデルに再構築することが最も確実で近道になりますが、まずは、手元の資金の状況を把握することです。実際の現場では、資金の動きを把握できていない経営者が意外に多いのです。この点については、これまでこのブログの中で何度もお伝えしてきました。資金繰り状況の現状把握と将来予測については、「第12回 資金繰り管理資金」で解説していますので、そちらを確認してください。
それでは具体的な資金繰り改善策について解説します。

①赤字経営からの脱却
損益は、「売上高-原価-経費=利益(損失)」という数式で計算されます。つまり、赤字経営から脱却し、黒字経営に転換するためには、売上を増やすか、原価又は経費を減らすかになります。
売上を増やすことは、並大抵ではありません。これは中小企業の経営者なら誰もが身をもって経験していることだろうと思います。比較的手が付けやすいのは経費の見直しです。
雄蕊が金融機関に在籍していた当時、長引く景気低迷のなかで、下請け企業である中小企業は、親企業からの度重なるコストカットの要請を受け、それに応えるため、自社の経費削減に取り組んでおり、もうこれ以上は無理という状況にあると信じていました。しかし、いざ中小企業の現場に入ってみるとまだまだコストカット出来る余地が残っていると実感しました。今一度、普段の経費を見直してみることで資金状況の改善が期待できるのではないかと思います。出費を減らすことで利益の拡大は十分に期待できますので、実際にそれを進めるだけでも現状は大きく好転していきます。

②回収条件、支払条件の改善
販売先、仕入先等との回収条件や支払条件が、自社の資金繰りがきつくなるような条件設定であれば、取引条件の見直しを依頼する必要があります。但し、取引先の資金繰りもありますので、交渉する際には、あまり無理強いはできません。強要すると取引先に自社の経営状況が悪化したのではないか等の余計な憶測を招く場合もあります。
売掛期間の長期化は資金繰りを悪化させるだけでなく、事業そのものにも悪影響が出ることもあります。販売先に対して適時に請求することが重要なので、売掛金管理は経営者自らが行っている場合が多いのですが、経営者自身の負担が重過ぎて、請求がきちんとできていないこともあります。請求書がないと相手先も管理上代金を支払しないことが多いのです。一方で、資金繰りを楽にしようと買掛期間を長くするには、問題点もあります。具体的には、①仕入先自身の資金繰りがマイナスとなるので仕入先が嫌がる、②仕入先へ無用の疑心暗鬼「資金が苦しいのか?このまま取引していても大丈夫か?」等の懸念を与える恐れがある、③資金繰りが苦しく買掛期間が長期化していると金融機関の審査担当者は考える、等です。

③貸し倒れの防止
企業間取引の多くは掛取引です。売上を計上しても実際の入金は後になります。後払いのため、約束の期日に入金されない場合もあります。この様に売掛金が回収不能になることを貸し倒れと言います。
仮に販売先が倒産すれば売掛金は事実上回収できなくなります。取引先の資金繰りが悪化し、入金が約束の期日より遅れることも考えられます。
貸し倒れの発生率や発生額が高くなればなるほど資金繰りは悪化し、倒産に至る確率が極めて高くなります。貸し倒れが発生しないように注意しなければなりません。貸し倒れによる資金繰りの悪化を防ぐためには次のような方法があります。

●売掛金の管理を徹底する
具体的には、①売掛金は取引先ごとに管理する、②予定入金日ごとに管理する等です。取引先の資金繰りが悪化していることを早めに察知し、支払不能になる前に回収活動をしておけばある程度の資金を確保できる可能性もあります。入金の遅れに気づけるようにしておくことが重要です。

●取引先を選別する(与信管理)
取引前に取引先の経営状況を確認することが重要です。もし、取引をしようとする企業が赤字であったり、債務超過に陥っていたりしている場合には、「要注意な企業」として取引を中止する、取引量を制限する等の対策を打つ必要があります。中小企業の場合は取引先の与信管理まで行っていないことが多いと思われますが、取引を始めようとする相手企業がどういった経営状況なのかがわからないまま取引をするのは危険です。手間はかかりますが、少なくとも大口の取引をしようとする取引先については、与信管理は実施したほうがよいと断言できます。

④在庫管理の徹底
在庫管理を徹底し、適正な在庫量に調整することが資金繰りの安定化を図るためには重要です。適正な在庫水準については、それぞれの企業の業種業態によって異なってきますが、一般的には、概ね月商1か月分程度が妥当と言われています。在庫の妥当性は、決算書から把握することが出来ます。在庫回転期間と呼ばれる指標で、次の算式によって求めることができます。「在庫回転期間=在庫÷(年商÷12)」
例えば、在庫量が2,000万円、年商が1億円の会社の場合は、在庫回転期間=2,000万円÷(1億円÷12)=2.4か月となり、この企業は決算期時点では月商対比2.4か月分の在庫を抱えていることになります。
この数式で計算した在庫回転期間が一定で推移しているか、年々短縮化傾向にあれば、在庫管理は適正と考えられます。反対に、在庫回転期間が長期化する傾向にあれば、在庫管理を厳格にしなければなりません。
在庫の適正化を図るための解決策には次のような方法があります。
●売れ残っている商品は処分する
●在庫は売れ筋商品のみにする
●在庫管理を徹底する
在庫が増えることは、仕入れコストや原材料コスト等のコストの増加に繋がります。在庫が不足していると受注の増加に対応しきれず機会損失に陥ることも勿論あります。しかし、過剰在庫を抱えて資金が固定化するリスクを回避することのほうがより重要だと思います。

⑤投資による資金の固定化防止
不動産や設備等の投資により資金が固定化するため、投資計画に計上された収益が確保できなければ資金繰りの悪化を招くことになります。適正な固定資産の保有、既存の固定資産の流動化(資金化)等を進めることで資金繰りを楽にすることが出来ます。具体的な方法は、次のとおりです。
●遊休資産の売却(固定資産の流動化)
不動産や機械等の固定資産は、資金化するのに時間を要します。手許の資金繰りを楽にするためには、不要と思われる固定資産の売却を検討することも必要です。収益を見込んで投資した資産であれば、投資計画どおりに収益が上がっているか否かを確認し、収益を下回っているようであれば、売却等の処分を考える必要があります。株式等も購入後に価値が下がってしまうことも充分に考えられますので売却のタイミングを見計らうことも重要です。
固定資産を売却する場合に、帳簿上の価格と実際の売却価格に乖離が出るケースが多いと思います。バブルの頃は、資産価値が高騰していましたので、売却することで多額の売却益を出すことが出来ましたが、今のようなデフレの時代には、売却損は出ても売却益を出すのは難しいと思います。損益上は損失が増えるけれどもキャッシュフローは増加することになるので、損益状況も踏まえて検討することが必要になります。

●原則として投資は自己資金で賄う
投資資金は、高額なることが多いので、金融機関からの借入等により資金調達をするケースが多くなります。借入金による資金調達だと、毎月の元金、利息の支払い負担が発生します。投資計画がうまくいかなければ、資金繰りの悪化に繋がり、倒産を招く事態に陥ることがあるのです。
特に本業とは関わりのない投資については、自己資金だけで対応することが絶対条件です。自己資金だけであれば返済は発生しないので、投資に失敗したとしても、月々の返済等に困ることはありません。投資した資産を処分(売却)すれば、損失を少しでも低減する可能性も高まります。

●投資計画の策定
設備や新規事業への投資は、企業の成長・発展のためには不可欠なものです。投資に失敗せず、成功確率を高めるためには、実現可能性の高い投資計画を策定する必要があります。
売上予測は、慎重に行う必要があります。計画した売上が実現できるだけの需要があるか否か。本来ならば、事前に必ずそうした需要調査等を行い、確実に回収できるという確信を持ったうえで設備投資に着手すべきなのです。
設備投資に使った資金は、回収ができるようになるまでは一定期間かかる、といった特徴もあります。すぐに投資分が取り戻せるわけではありません。少しでも予定がずれれば資金繰りの悪化を招いてしまう危険性があるのです。

⑥融資や出資等による資金調達
金融機関からの融資や経営者個人による出資等が有効な手段になります。特に経営者個人等、株主からの出資・増資は、長期的かつ十分な資金提供を受けられるので、当面の間は資金繰りを心配せずに事業に集中することが出来ます。しかし、多くの中小企業経営者等は、出資するだけの余裕がないのが現実だと思います。
中小企業にとっての資金調達のメインは、金融機関からの借入ということになります。しかし、金融機関からの借入には利息というコストがかかりますし、元金返済の義務が発生します。また、借入をするには、金融機関の与信審査がありますので、期待したとおりの融資を受けることが出来るか否かは、金融機関の判断になります。
また、資金繰りを考えると、金融機関からの借入は出来るだけ長期にすることが望まれます。借入期間を長期にすれば、毎月の返済額が少なくなるので、その分資金繰りは楽になります。
資金繰りが悪化し返済負担が重くなれば、また返済のために新たな借入が必要になることもあります。本来、返済のための新たな借入は、結果として借入金を雪だるま式にふやすことに繋がりかねないので、あまりお勧めは出来ません。実態としては、資金ショートの時期を先延ばしにしているに過ぎません。どうしても資金繰りが厳しければ、既存借入金の返済条件の変更を金融機関に依頼することも考えられます。雄蕊が金融機関に就職した頃は、条件変更を行った企業の信用力はほぼないと判断されていましたが、現在は、条件変更実施先でも、その後業況の回復が顕著であれば、信用力も落とさずに、新たな借入が可能になる等、金融機関との正常な取引は保てる方向に変わってきたと感じています。

「資金繰り」は、このブログのテーマであり、雄蕊覚蔵が立ち上げた「かんれき財務経営研究所」のコンセプトです。今回は、資金繰り管理の仕組み構築に向けた第一弾として資金繰りの悪化原因とその改善策について解説させていただきました。順不同になりますが、資金繰りに関するテーマは、今後、数多く取り上げていく予定です。引き続きよろしくお願いします。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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