第97回 ~日本的経営を見直そう-人手不足時代の経営~企業は人なり(その2)

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!第97回は「~日本的経営を見直そう-人手不足時代の経営~企業は人なり(その2)」と題して、あらためて日本的経営の本質について考えてみます。

 

深刻さが続く人手不足問題
業種業態を問わず、人手不足は深刻な問題となっています。その最も大きな原因は言うまでもなく少子高齢化です。今後も日本社会を支えていく生産年齢18~64歳の人口は減っていくため、ますます人手不足は悪化していくと考えられます。企業としては、働き方のバリエーションを増やしたり、高齢者の雇用を増やしたり、様々な対策を打つ必要があることはご承知のことと思います。
また、入社後のミスマッチも人手不足が発生する原因の一つになっています。ある調査によると、転職者の8割が入社前の印象と違ったと回答しています。入社後に求職者が覚えた「やりたい業務内容と違った」「人間関係があまり良くなかった」といった違和感はのちの退職理由につながってしまいます。
これからの時代、企業にとって「人こそが最大の財産であり、最大の戦略」だと思うのです。

 

数字やお金は後からついてくるもの
財務の仕事をしていると、数字やお金のことしか考えていないように思われがちですが、そんなことはありません。
何故なら、数字もお金も自ら意思を持って動くことができないからです。経営者をはじめとした人の意思がなければ動かないのです。
組織もそうです。組織が勝手にこんな組織になろうと考えてそうなることはあり得ません。すべて人の手によって意図して形作られるものなのです。だとすれば、やはり持続可能な企業として事業を継続していくためには、何より人が大切だという結論に至ります。

商売とは「人が動いてナンボの世界」だと思っていますので、人を活かす経営ができていれば、自ずと業績が向上し、企業の成長・拡大に繋がっていくものだと信じています。
人を活かすための仕組み作りを進めていくうえで、重要な意思決定をする際の判断材料として数字やお金という事実の確認は必要であり、その数字を基にして進むべき方向を決めたり、将来を予測したりすることは重要なことです。
しかし、決して数字ありきではありません。経営の目的は利益を出すこと、お金儲けではないと思います。それは、企業を維持するための手段です。
人がしっかり機能する仕組みができあがれば、数字やお金は必ず後からついてくるものなのです。大切なのは人を活かすことができる組織や仕組み作りだと思います。

 

経営に必要な3つの要素
経営には、次の3つの要素が必要だと考えます。
1つ目は「長期利益の獲得」です。利益を得られなければ、事業は続きません。持続可能な企業として事業を続けていくためには、継続的な適正利益の確保は必須なのです。

2つ目は「人材の育成」です。会社の発展に貢献できる質の高い人を育てていくことが必要です。知識やスキルだけでは役に立ちません。知識だけではなく、経験に基づいた知恵を出せるような経営センスのある人材に育てていくことが真の人材育成です。
特に人を活かす仕組みを機能させるために、仕組みのなかで人をマネジメントできる管理人材の育成が不可欠だと思います。

3つ目は「新規事業の創造」です。事業を続けていると、必ず人手不足に陥ったり、余剰人員を抱えたりする場面が出てきます。人にお金をかけることは、投資でなくてはなりません。単なるコストでは駄目なのです。商売は「人が動いてナンボの世界」だからです。
特に余剰人員を抱えたときに、その人材をどう活かしていくかを考えなければなりません。採用時と見込み違いだった人材もなかにはいます。しかし、一度はわが社の発展のためにと期待して採用した大事な人材です。簡単に首切り、リストラの対象としてはいけないのです。
そうした人材を活かす新規事業や活躍できる居場所を考えることが大切だと思います。
四角(資格に寄らない)四面に型どおり考えるのではなく、柔軟な発想であらゆる可能性を追求してみてはどうでしょうか。
縁あって自社に入ってくれた人材は皆、貴重な財産です。離職させることなく、大切に育てて、企業の発展に活かして欲しいと願うばかりです。

 

雇用継続か人員削減か
平成に入ってバブルが弾けデフレ状態が続く中で、欧米式の経営が導入されました。その代表的な手法がリストラクチャリングや成果主義、能力主義です。
バブル崩壊後「リストラ」という名の社員のクビ切りが横行し、人員削減による収益改善や株主の顔をうかがう経営者が多くなりました。

欧米式の経営は、株主第一主義であり、「企業の繁栄」が最優先されます。社長は経営者としての任期中に利益を上げなければ株主総会で追及されてしまうので、いかに利益を上げるかを追求することが最優先事項になってしまいました。
何が何でも利益を上げることが優先された結果、社員、すなわち「人」が犠牲になってしまったのです。利益を上げるために一番簡単なのは、固定費と人件費の削減。つまり利益を確保するためには、首切りや給料カットが一番の早道です。

1995年に28年ぶりに豊田家出身以外でトヨタ自動車の社長に就任した奥田碩氏は「雇用を守れない経営者は腹を切れ」と発言し、世間を驚かせました。終身雇用を堅持するトヨタの強さを改めて知らしめるなど、今日のトヨタの礎を築いた経営者です。
トヨタ流の改革と一線を画したのが日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏です。経営危機に瀕した日産の再建役として99年にCOOに就任。大規模な工場閉鎖やリストラ、系列企業の見直しで大ナタを振るい「コストカッター」の異名をとりました。企業再生のお手本と言われましたが、追従する日本企業は多くはありませんでした。やはり、日本の文化には馴染まない再生手法だったのかもしれません。

平成の経営者のなかには「日本的経営はもう時代に合わない」と欧米式経営に飛び付き、その結果、大きな痛手を被ってしまったという苦い経験をした方も少なくないと思います。そんな平成の経営者の安直な考え方によって日本企業が低迷し、経済も低迷して20数年間のデフレ、失われた20年につながっていったと考えてもあながち間違いではないのでしょうか。

 

日本的経営の本質を振り返る
日本が戦後、目覚ましい発展を遂げて世界有数の経済大国になることができたのは、「日本的経営」が効果的に機能したことに他なりません。
グローバル化が進む中で、過去のレガシーのように捉えられがちですが、日本的経営は長期的視点に立って、人間を中心に考えられており、価値ある経営手法といえるのです。確かに、時代の変化と共にデメリットが浮き彫りになっていることも事実です。
日本的経営は、長期的な視点に立って人を大切にするという、日本社会の価値観を反映した経営の考え方であり、特徴として、企業別労働組合・年功序列制・終身雇用があります。
これらの慣習が持つメリットは、日本経済の発展を支えてきた企業経営のベースであり、普遍的な価値を持っていると考えます。効率化や合理化が求められる現代社会においても、日本的経営の本質的な価値を今一度、見直してみることも必要なことだと思います。

日本的経営の本質をまとめてみると
・真の日本式経営は「金よりも人を大事にする」ひと言で言えば「人間を追いかける経営」
・「人間を大事にするのが日本的経営」、このやり方を貫き通せば企業は必ず大きくなる。
-明治以降、日本の企業がこれだけ世界的に大きくなったのは「人間を追いかける経営」をしたから
・日本的経営は人間を第一に考えていた。年功序列、終身雇用、企業内労働組合は、本質的な側面ではない。

日本的経営の「三種の神器」とは
・戦後は人手不足で労働者の売り手市場、会社側としては誰でもいいから採用し、他の会社に逃げられないよう労働者を囲い込むために考え出され、年功によって課長、部長に昇格させ、それに応じて賃金も上げることで長く勤めてもらおうとしたのが年功序列
・定年まで面倒を見て、退職金も相当額を払うという約束が終身雇用
・会社外の組織と結びつき会社に危害が加えられることを未然に防止する目的で、良好な労使協調関係を築こうと組織されたのが企業内労働組合

このような「三種の神器」が現代社会で通用するかといえば、それは難しい。経営環境も大きく変化した中では、そのままを当てはめることは勿論できません。
しかし、こうした従業員を大切にしようとする現代社会にマッチした新たな仕組みを考えることは可能だと思います。
最近の経営者の中には「日本的経営はもう古い」と考えておられる方が多いと思いますが、日本的経営の本質には、単に古いというだけではなく「普遍的なもの」もあるのです。合理に走り、お金にとらわれ、お金を追いかけるからお金が逃げてしまうのであって、人間を追いかけたらお金が寄ってくる。そういうものかもしれません。

 

会社は誰のものか
バブルの頃だったと思いますが、ある中小企業の経営者の方と「会社は誰のものか」という議論をしたことがあります。
昔から日本では、「顧客第一主義」や「社員第一主義」が標榜されていましたが、バブル景気の絶頂期の日本全体が勢いづいていた頃は、外資ファンドが活躍していた時期でもあったので、「株主第一主義」、つまり会社は株主のものであるという考え方が主流になっていたような気がします。そうした日本の伝統的な経営がどこかに置き去りにされてしまうような不安もあり、こんな好景気がいつまでも続くわけはないねという話からこうした議論になったわけです。
その時に「株主」「経営者」「社員」「お客様」「地域社会」等、様々な意見が出されました。
この背景には「もの」という言葉の解釈の違いがあります。
通常「のもの」という場合、それは「所有」を表わします。その視点で考えれば、答えは明白であり「会社は株主のもの」です。
株主は、経済的なリスクを冒して会社を設立あるいは買収するので、出資と引き替えに得た株式の割合に応じて「所有」することになります。

しかし、会社は誰の「ためのもの」と考えた場合は、先ほど挙げた答えのすべてが当てはまると思います。それ以外にも「会社の取引先」や「融資している金融機関」等も含まれてきます。
会社は、そこに関わる組織や人を「幸せ」にするために存在する。誰が一番かということでは無く、会社との関わりが強い人、皆でその「幸せ」を享受するべきだと思います。あらためて会社とは「そこに関わるすべての人たちを幸せにする」ための存在でなければならないのです。これこそまさに「日本的経営の本質」だと思うのです。

 

今こそ、中小企業経営者は日本的経営の本質に立ち返ろう
大企業と違って中小企業のそのほとんどが同族経営、オーナー経営です。だから大企業のような「所有と経営の分離」は起こりません。株主を気にする必要は全くないのです。
VUCAの時代、日本の中小企業経営者の多くは、経営の舵取りに戸惑い立ち止まっている状態だと思います。今こそ「人間を大事にする本来の日本的経営」に戻るべきなのです。
渋沢栄一氏、松下幸之助氏、稲盛和夫氏に代表されるような歴史に名を残す経営者には、人を追いかけ、国を良くし、国民の生活を良くする、社員を大切にして幸せにするという考え方や志があった・・・のです。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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