第11回 中小企業の健康経営(総論編)

中小企業経営

「こんにちは、雄蕊覚蔵です!」新型コロナウイルス感染拡大が多岐に亘り影響を及ぼしています。経営者は、「事業の継続」と「従業員等の感染防止を含めた健康管理」に目配り、気配りをする必要に迫られています。第11回は、アラ還爺流の「中小企業の健康経営」について解説したいと思います。今回は総論編として「健康経営」に関する基本的な知識等を共有しておくことにします。

(参考文献・資料:『企業の「健康経営」ガイドブック ~連携・協働による健康づくりのススメ~ (改訂第1版)』『健康経営の推進について 平成30年7月 』経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課編、『日本公庫総研レポート No.2015-6中小企業の健康経営』日本政策金融公庫総合研究所編)

 

《何故、健康経営への取組が必要なのか》

まず、健康経営への取組の必要性についてまとめてみます。

【超高齢化社会の進展による影響】

①社会保障費の増加による財政の圧迫

②生産年齢人口の減少による労働力の低下

③介護離職による労働力の更なる低下 といった課題が生じている。

【企業への影響】

①「従業員およびその家族の健康」が、企業経営に大きな影響を与える可能性が生じている。例えば、増加し続ける国民医療費が財政悪化を招き、その結果、健康保険料の上昇という形で企業負担の増加につながることになる。

②生産年齢人口が減少し、労働力確保のために従業員の雇用延長等を積極的に図らなければならない状況下にあるなか、従業員の健康状態が悪化すれば企業の生産性が低下することに繋がり、更には、人材の定着率の悪化等、有能な人材の確保にも悪影響を及ぼす可能性がある。

③企業負担の増加や生産性の低下を防ぐためには、従業員やその家族の従業員等の健康保持・増進に企業が主体的かつ積極的に関与する必要が生じている。

【健康経営が求められる背景】

①1人当たり医療費は、65歳以降急速に増加し、80歳以降は入院に係る費用(入院+食事・生活療養)の割合が高くなっている。医療費の大半は、人生の最終段階で使用されている。

②平均寿命は世界一だが、平均寿命と健康寿命の差(不健康寿命)は約10年ある。如何に健康寿命を延伸させ、平均寿命との差を如何に小さくするか、更に言えば「就労可能寿命」を如何に伸ばすかが課題である。

③死因についてみると、老化(細胞劣化:内因性)や生活習慣に起因するもの(悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、肺炎等)が近年増加傾向にあり、やや古いデータだが、医科診療費(2013年度)の3分の1以上が生活習慣病関連で占められている。生活習慣病関連のほか、老化に伴う疾患、精神・神経の疾患の占める割合が高くなっている。

④公的保険外の予防・健康管理サービスの活用(セルフメディケーションの推進)を通じて、生活習慣や受診勧奨等を促すことにより、①国民の健康寿命の延伸、②新産業の創出、③あるべき医療・介護費の実現につなげることが求められている。そのためには、「重症化した後の治療」から「予防や早期診断・早期治療」に重点化するとともに、地域包括ケアシステムと連携した事業(介護予防・生活支援等)に取り組む必要がある。

 

《大企業に比べて中小企業の「健康経営」への取組が進んでいない》

次に、大企業に比べて、中小企業の「健康経営」への取組が進んでいません。その原因をまとめてみます。

①企業の取り組みを社会に公開する仕組みがないこと

⇒社会に公開するシステムがあれば、健康資本増進に積極的に取り組んだ企業は、社会的評価を受けることができるようになる。

⇒健康経営を普及するにあたっては、企業の社会的評価の向上に繋がるインセンティブが必要となる。

②健康関連効果が「可視化」されていないこと

⇒「健康会計」のような枠組みを通じて、費用や効果の測定や比較ができるようになれば、どのような健康関連投資を行うべきか、企業内や健康保険組合内での意思決定に大きく資することになる。

⇒中小企業では、少なくとも会計上での健康経営に対する可視化について十分に整備が進んでいない。

③個人が取り組みやすい仕組みがないこと

⇒仕組みを企業や健康保険組合が作ることで、社会全体を巻き込んだ健康づくりの運動につながる。

⇒従業員の健康管理について、未だ法律で義務付けられたレベルや福利厚生の範囲を出ない企業が大多数であり、企業として従業員の健康増進に積極的に関与する具体的な体制・制度づくりが必要である。

 

社長さんの肩には、会社、そして従業員とその家族の生活が重く圧し掛かっています。社長自身の健康を維持することが大切(社長の身代わりはいない)なのです。社長さん自身、毎年1回健康診断を受診していますか?

労働力が減少するなかで、会社にとって人(従業員)は大切な資産(経営資源)です。番頭さん(No.2)がいなくなっても大丈夫?

従業員の皆さんの健康寿命を延ばして現役を長く続けてもらうことが必要です(人が動くとお金がかかります)。そのためには、従業員の皆さんの健康管理への目配り・気配りをしっかりと行い、従業員の皆さんの有所見率の把握と改善に向けた取組を行う等、「健康経営」への取り組みが会社の成長・発展につながるのです。

 

《健康経営の定義》

健康経営とは、アメリカの臨床心理学者ロバート・ローゼン博士が提唱した「ヘルシーカンパニー」に基づき、これまで別々に考えられていた「企業経営」と「従業員の健康管理」を統合的に捉え、企業の持続的成長を図る観点から従業員の健康に投資するという戦略的経営手法のことです。

従業員の健康が企業の成長にとって不可欠な資本であることを認識し、健康情報の提供や健康投資を促すしくみを構築することで生産性を高め、企業の収益性向上を目指すことが目的です。

 

《健康投資という考え方》

企業にとって、従業員の健康維保持・増進を行うことは、医療費の適正化や生産性の向上、さらには企業イメージの向上等につながることであり、そうした取り組みに必要な経費は単なる「コスト」ではなく、将来に向けた「投資」であると捉えることが重要です。「従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」が求められているのです。

 

《健康経営のメリット》

長期的なビジョンに基づき、従業員の健康を経営課題としてとらえて健康経営に取り組むということは、従業員の健康保持・増進、生産性の向上、企業イメージの向上等につながるものです。

ひいては組織の活性化、企業業績等の向上にも寄与するものと考えられます。実際、健康投資と企業業績との相関を示すデータも存在しており、従業員の健康と安全に注力することが、市場における競争力の優位性を保つことになっていると考えられます。

特に経営資源が脆弱な中小企業にとっては、従業員の健康は、企業経営を行っていくうえで欠かせない要素(人手不足=変わりはいない)であり、従業員の身体的・精神的な健康を維持することが企業の業績にも繋がることになるのです。つまり、「従業員の健康への投資のリターンは、従業員の健康増進だけでなく、企業の収益性向上である。」ということになります。

投資に対するリターンとしては、

(1)企業のイメージアップ

(2)リクルート効果

(3)従業員のモチベーションの向上

(4)医療コストの削減

(5)生産性の向上

といったことが挙げられます。

健康経営と予防医療の必要性は理解できるけど・・・「健康経営に取り組むために現場で何をすればよいのか?よく解らない」と思われる経営者の方も多いと思います。中小企業のための健康経営について、雄蕊は以下のように捉えてみました。

 

《雄蕊流健康経営の定義》

雄蕊が考える健康経営の定義は、「人を大切にする経営=人に投資する経営」です。具体的には、①従業員満足度(ES)を高める経営の実践、②従業員の健康管理(予防)に投資する仕組みづくりだと考えます。

経営の本質は「数字」と「お金」と「人」のマネジメント、なかでも「人」が一番重要だと思います。「人」を大切にすることが、労働生産性の向上に繋がり、結果として企業の収益向上に結び付くと考えるからです。そのためには、『人が、「やる気」(=心)と元気(=身体)にあふれて生産性を向上させ、企業の収益に結び付く』一連の流れを生み出す視点でアプローチすることが必要です。

 

《すべての人が笑顔で、なが~く働ける職場づくり》

先般、65歳を迎えたあるスタッフから「年金事務所に相談に行ったら、『年金が減額になる心配はありません。勤務先で引き続き働かせてもらえるなら、年金のことは気にしないで精一杯働いてください』と言われました。継続雇用させてくれますか?」と相談がありました。就業規則上では、原則として65歳で再雇用も終了となるのですが、そこは人材不足と中小企業ならではの柔軟性で再々雇用契約を結び、継続して働いてもらうことにしました。

年齢とともにいくつまで働きたいかという気持ちも変化してくると思います。老後のお金の不安…それだけではなく、元気でいられるうちは社会貢献したい、多くの人と接していたい等々、人それぞれにいろいろ思うところがあると思いますが、企業側としては、「なが~く働ける場所(受け皿)」を準備してあげる必要があると思います。

 

《中小企業における現場目線の健康経営のまとめ》

雄蕊なりに健康経営を実践するために克服すべき課題について、大きく捉えてみました。

1 従業員満足度(ES)を高める経営の実践

① 経営管理の視点からみた組織に関する課題=「働ける場」の提供(定年制の見直し)

・定年延長を検討(従業員それぞれの健康度に併せて働ける場を提供)

・定年延長に伴う給与制度、退職金制度等の見直し(コストの見直し)

・ルール(就業規則等)の見直し

② 経営者・従業員等、人材の視点から見た人に関する課題=温もりのマネジメント(人を動かす人間力)

・リーダーシップの発揮

・従業員のモチベーションを向上させるマネジメント(ポジティブマインドの醸成)

③ 従業員を守るための持続可能な組織運営の視点から見た組織運営に関する課題

・収益性の高いビジネス・モデルの構築

 

2 従業員の健康管理(予防)に投資する仕組みづくり

④ 健康診断等、健康管理の視点から見た予防医療に関する課題=予防のための健診

・定期的な予防健診実施の制度化(社員積立等の活用による費用の捻出等)

・健診結果をもとに健康度に見合った就業条件等を決定するしくみの検討(高齢者)

・医師や運動等の専門家との連携

 

中小企業の健康経営を考えるとき、大きく2つに分けてアプローチすることが必要だと思います。それは、制度や仕組みを構築する等、経営管理的視点からのアプローチと個人の健康増進、健康寿命の延伸等、予防医療的視点からのアプローチです。次の機会には、こうした視点から深堀りした「中小企業の健康経営」を論じてみたいと思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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