第114回 ゼロ・ゼロ融資先の倒産増加~その傾向と対策~

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第114回は「ゼロ・ゼロ融資先の倒産増加~その傾向と対策~」と題して、足元の倒産動向やゼロ・ゼロ融資の功罪を確認しながら、倒産回避に向けた対応策について考えてみます。

 

東京商工リサーチが、7月10日に発表した「2023年上半期(1-6月)「ゼロ・ゼロ融資後」倒産の状況をみると、「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」を利用した企業の倒産は、2023年上半期(1-6月)は322件(前年同期比85.0%増、判明分)で、前年同期(174件)の1.8倍増と急増しました。 2020年7月に初めての倒産が発生して以来、2022年8月から11カ月連続で倒産件数は、1カ月40件を上回るペースで推移し、累計は907件に達しています。

2020年初頭に起きた新型コロナウイルス感染拡大の影響により、人の動きが抑制され、経済活動が停滞し、営業自粛を要請された飲食店や宿泊業等のサービス業を中心に、膨大な中小企業が深刻な資金繰り難に陥りました。売上が消滅する一方で、店舗の家賃等の固定費はかかり続けるため、資金不足に陥り、多くの企業にとって存続が危ぶまれる事態に直面しました。そこで政府のとった中小企業向け資金繰り対策が「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」です。
2020年3月から政府系金融機関が取り扱いを始め、申し込みが殺到したこともあり、5月から民間金融機関も受付を開始しました。
コロナ前より売上が15%減った等、一定の条件を満たせば、簡単な審査で、担保がなくても資金を借りることができ、さらに利息も3年間、都道府県等が補填するため、実質無利子となる制度です。このゼロ・ゼロ融資は、2022年9月末で終了しましたが、その実行額・実行件数は、政府系金融機関がおよそ20兆円、112万件、民間金融機関がおよそ23兆円、137万件に上りました。

 

ゼロ・ゼロ融資は、倒産抑制に劇的な効果をみせましたが、売上が回復せず、支援策の副反応として過剰債務に陥った企業は多く、返済開始とともに倒産に追い込まれる企業が増えています。
つまり、コロナ禍で倒産が急増しなかった理由は、こうした政府主導の支援策があったからです。この制度のおかげで延命できただけで平時なら既に市場から退出すべき企業を中心に、支援策終了後、倒産が増加することは容易に想像できたことです。

今回の支援終了後に危惧されたことと同様の事例が、過去にもあります。
このブログでも『第3回 危惧される「金融上の倫理の欠如(モラルハザード)」』で取り上げたのですが、リーマン・ショックを契機に中小企業の資金繰り支援のために2009年12月、当時の亀井静香金融相主導で立法化された中小企業金融円滑化法の施行による副反応です。
同法は、金融機関が融資先に対する返済猶予や金利減免等のリスケジュールを通して、中小企業の返済負担を軽減するものです。その承諾の判断はあくまで金融機関に委ねられていましたが、金融庁が金融機関に実行件数の報告義務を課したことで、融資先が赤字でも承諾せざるを得なかったという状況になり、同法の実行率は約95%とほぼ無条件で要請に応じてきました。
その結果、企業の新陳代謝を阻み、ゾンビ企業の増殖を招いたことは否めない事実です。水面下では中小零細を中心に「倒産予備軍」が着実に膨れ上がっていることに間違いありません。

その後、企業倒産は長期間にわたり減少傾向が続きました。それは、景気や業績の回復もありますが、何より借入金の返済猶予等、金融機関の手厚い支援があったからです。倒産は自律的な要因で「減少」を続けてきたのではなく、こうした外部からの支援継続により「抑制」されてきたとみるのが妥当です。
さらに、2013年3月末の円滑化法終了後、金融庁はリスケ先が実現可能性の高い抜本的な経営再建計画(実抜計画)を提出すれば「貸出条件緩和債権」から除外され、債務者区分は「要管理先」以下にはならないとする激変緩和措置を講じました。体力に乏しい地域金融機関は実質的に「破綻懸念先」債権であっても、激変緩和措置に沿って返済猶予を継続、最終処理を先送りせざるを得ませんでした。その後遺症は今も続いています。

こうした対応により、金融機関の与信判断の最大の武器となる「目利き力」が低下し、適正な審査・与信判断が機能不全に陥り、企業の新陳代謝を阻むだけでなく、「倒産のメカニズム」そのものを崩してしまったと考えられます。
一旦、緩んだ与信システムを立て直すのは容易ではなく、再構築のためには、かなりの時間とコスト、そして多額の不良債権という痛みを覚悟しなければならないと思います。

今回の新型コロナの影響により、政府は早々に中小企業向けの緊急資金繰り対策の実施を表明。金融庁は各金融機関トップに直接、電話を入れて支援を要請、実行件数の定期的な報告を求めました。金融機関としては、業績や規模を問わず、すでに延滞先であっても支援せざるを得ないと積極的にゼロ・ゼロ融資に取り組んだのです。
新型コロナの感染拡大は、これまで経験したことがない未曾有の緊急事態なので、こうした対応はやむを得ないとは思いますが、それは、まさに「中小企業金融円滑化法の復活」であり、「名実ともに終わったはずの金融モラトリアムに逆戻りする」ことで再び、与信システムは機能不全に陥ったとも言えます。

 

ゼロ・ゼロ融資が倒産を防いだという功績は、前向きに評価されています。その一方で、将来まで続きかねない重い副作用があることも否定できません。
そのうちの1つが、市場から退出すべき企業(いわゆるゾンビ企業)の温存です。
ゼロ・ゼロ融資も借金には変わりありません。あくまで再び本業で儲けられるようになり、返済が可能になるという前提で融資実行しています。それができなければ、倒産して保証協会が肩代わりし、最終的には税金で穴埋めすることになります。
収益力が低く継続が難しい企業であれば、倒産・廃業を促し、成長が見込める企業に人材や資金を振り向けて活性化に繋げることが重要であり、この市場の新陳代謝を促進する機能が金融機関に求められていました。それが機能不全に陥ったということです。

もう1つは、金融機関の積極的なゼロ・ゼロ融資の推進を促した点です。
ゼロ・ゼロ融資開始後、金融機関は一斉にその融資を増やしました。取引先のニーズがあったとはいえ、一方で金融機関の収益拡大にも繋がるからです。
本来、重要なのは、目利き力を活かした与信判断と融資後の経営支援です。金融機関が責任をもって、貸出先の経営支援に取り組まなければなりませんが、100%保証では焦げ付いても保証協会から全額代位弁済を受けることができるので、経営支援を継続するという動機づけが起きにくくなります。また、金融機関のマンパワーから膨大な数の貸出先全てに対応することは困難です。金融機関の今後の対応によっては、地域企業を支援する力を弱体化させ、先々まで影響が残る可能性があるのです。

新型コロナウイルス感染症は、5類感染症に位置づけられ、経済活動は本格再開しています。しかし、2022年のロシアのウクライナ侵攻、円安等による原材料価格の上昇や物価高が広がり、人件費を含めてあらゆるコスト増加が企業に重くのしかかっています。こうしたなかで、ゼロ・ゼロ融資を利用した企業の返済がこの夏場にピークを迎えます。
政府は今年1月、ゼロ・ゼロ融資の借換保証制度「コロナ借換保証」を創設し、5月末の保証承諾件数は約4万件を数えますが、借換保証の利用には金融機関の継続的な伴走支援や経営行動計画書の四半期ごとの進捗確認等が必要で、金融機関がどこまで手厚く支援できるのかが課題です。

政府はまた、6月に「骨太の方針」と成長戦略を練った「新しい資本主義」の実行計画を閣議決定しました。少子化対策や労働市場改革、スタートアップ等新興企業の創出に力点が置かれる一方で、事業不振の場合の総合的な支援策と事業再構築・事業承継等を含めた退出の円滑化策も盛り込まれています。
参考までに、政府の「新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」から該当部分を抜粋・要約して以下に掲げておきます。

我が国での休廃業・解散企業の休廃業・解散直前の決算を見ると、黒字企業の割合が年々減少し、足下では5割強に下がっている。他方、赤字企業の割合は増加し、4割を超えている。企業経営者に退出希望がある場合の早期相談体制の構築等、退出の円滑化策の検討も重要である。
(1)企業経営者に退出希望がある場合の早期相談体制の構築等の制度整備
金融庁の調査によると、不採算事業からの撤退又は廃業の際に、撤退・廃業に要する費用、これまでの事業で生じた債務の大きさや、廃業後の生活に対して、不安感を覚える経営者が多い。他方で、後継者のいない企業が、事業の継続に関して相談した先は、顧問の税理士等が多く、中小企業支援実施機関(事業承継・引継ぎ支援センター、よろず支援拠点)の割合は、3.8%にとどまっている。
企業経営者が、事業不振の際に、M&A・事業再構築・事業承継・廃業 等の幅広い選択肢について、早い段階から専門家に相談できる体制を、全国にある中小企業支援実施機関の体制整備も含めて、構築するとともに、企業経営者への早期相談の重要性について周知徹底を行う。あわせて、親族等に経営を託する事業承継税制の延長・拡充を検討する。 

(2)事業再構築法制の整備
コロナ禍で、日本企業の債務残高は増加したままであり、債務の過剰感があると回答した企業の割合は大企業で16%、中小企業で33%である。そして、債務の過剰感があると回答した企業のうち、債務が事業再構築の足かせになっていると考える企業の割合は大企業で31%、中小企業で35%になっている(昨年10月)。
事業再構築を目的に債務の私的整理を検討する上で重視する点を確認すると、手続が現在の事業・取引に影響を与えないことが7割強で最も多く、簡潔で長期間を要しないことも4割強に上る。
先進諸国においては、倒産処理手続に加え、全ての貸し手の同意を必要とせず、裁判所の認可の下で事業再構築に向けて多数決により金融債務の減額を行う法制度が存在するため、上記問題意識に応えることが可能であるが、我が国には存在しない。
我が国においても、他の先進諸国のように、全ての貸し手の同意を必要とせず、多数決により金融債務の減額を容易にする事業再構築法制を整備すべきであり、法案を早期に国会に提出する。

「新しい資本主義」の実行計画をみると、成長産業や高収益企業に集中支援する方針が鮮明となり、救済色の強かったこれまでの支援方針から新陳代謝促進に方向転換したといえるのではないかと思います。外部支援にばかり頼って自助努力による回復が望めない企業や、余力の乏しい低収益企業等では、従来のような金融支援が満足に受けられなくなる可能性もあるということです。

 

それでは、こうした状況下で倒産しないための対策は?ということなのですが、残念ながら倒産回避に特効薬はありません。それぞれの企業が抱える財務体質上の課題を的確に捉えて、適切に対応していくかしかないのです。
「新しい資本主義」の実行計画にも記載されていますが、多くの中小企業が、これまでに起きたバブル崩壊やリーマン・ショック等といった経済的苦難を乗り切るため、政府主導の資金繰り対策としての融資(保証)制度やリスケ対応策を利用し、その結果、過剰債務、負債過多の状況に陥っているのです。
言い換えると、そういった各企業の歴史がバランス・シートには深く刻まれており、資産、負債、資本のバランスが崩れている企業が多くなっているということです。つまり課題の本質は、損益や資金収支といったフロー面ではなく、負債過多、過少資本というストック面にあると考えて間違いありません。
そういう意味でいえば、今年1月に取り扱いが始まったゼロ・ゼロ融資の借換保証制度「コロナ借換保証」も結局はリスクの先送りにしか過ぎないと思います。なぜなら、負債を増やすことにしか繋がらず、本来、対応すべき資本増強には何の効果もないといえるからです。
求められるのは、そうしたデットファイナンスではなく、資本増強に繋がる、いわばエクイティファイナンスに近い対応だと思います。
DDS(既存の借入金を劣後ローンとして借り換える手法)等による「資本制劣後ローン」を活用しやすくする仕組みの構築や官民ファンド等の出資機能の強化、また事業不振の際に、M&A・事業再構築・事業承継・廃業 等の幅広い選択肢を円滑に進めるための金融債務の減額を容易にする事業再構築法制の整備等が、喫緊で政府に求められる対応策だと思います。

信用保証協会や金融機関は、本来の「目利き力」により取引先企業の選別強化に取り組んで欲しいと思います。それは、既に市場から退出するべき、いわゆるゾンビ企業を野放しにしないで、市場から退出させて新陳代謝を活発にして欲しいということです。
しかし、こうした処理のキーパーソンとなる地銀・第2地銀・信用金庫・信用組合といった地域金融機関は、上場の地銀でも7割が最終減益を強いられ、2028年には約6割が最終赤字に転落するという日本銀行の試算もあり、ましてや信金や信組の厳しさは言うに及ばずで、とても一気に貸倒引当金を積み増す体力はないことも現実です。
さらに、地域金融機関は営業エリアが限られるなかで、経営不振企業の処理は融資先の激減につながり、自らの首を絞めるというジレンマも抱えています。結局、自らの体力の範囲内で時間をかけて処理するしか方法はないかもしれませんが、新型コロナからの出口である今、思い切った対応も取っていかなければ、将来に禍根を残すことになるのも事実です。

最後に、中小企業経営者の方へお伝えしたいことが2つあります。
1つは、経営者自身が「数字に強い主人公」になって、経営改善に主体的に取り組むということです。
前述したとおり、政府も成長産業や高収益企業に集中支援するという今後の方針が鮮明になっており、救済色の強かったこれまでの支援方針から方向転換しています。
経営改善計画の策定等には、中小企業支援実施機関や専門家の力を借りることは不可欠ですが、計画はあくまで経営者自身が作ることが最重要です。他人が主体となって作った計画は実行されません。どんなに立派な計画でも「絵に描いた餅」にしかならないことは、現場で何度も経験済みです。

もう1つは、「潔く諦める勇気を持つ」ことです。ゼロ・ゼロ融資は、売上が減った等という理由だけで、簡単に借りることができる制度融資。つまり、有事における緊急避難的な融資です。ゼロ・ゼロ融資を受けた企業の中には、平時なら融資を断られた企業も一定数あると思います。そういう企業は、覚悟を決めて市場から退出するという意思決定も必要だということです。
勿論、計画策定時と同様、中小企業支援実施機関や専門家の力を借りることは不可欠です。
大切なのは、支援者の意見も取り入れながら、最後は経営者自身が数字とお金を判断基準にして、論理的かつ合理的な意思決定をするということです。

あくまで個人的な見解です。少しでも経営改善、倒産回避を進めて行くうえで参考になれば幸いです。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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