第113回 古典的経営組織論に学ぶ!強い組織の作り方

組織・組織運営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第113回は「古典的経営組織論に学ぶ!強い組織の作り方」と題して、チェスター・アーヴィング・バーナードが、1938年に刊行した主著『経営者の役割』に書かれている組織の定義や組織成立の3要素を参考にしながら、強い組織の作り方を考えてみます。

チェスター・アーヴィング・バーナードは、アメリカのベル電話システム傘下のニュージャージー・ベル電話会社社長を務め、その社長在任中に『経営者の役割』を執筆、それによって経営学者としての名声も確立した人物です。

 

C.I.バーナードが提唱した組織の定義づけ
バーナードは、「組織とは意識的に調整された人間の活動や諸力の体系(システム)」と定義づけ、「組織は2人以上の集まりによる集合体であり、2人以上の人間が何かを成し遂げようとする時に組織が形成される」として、組織を「協働システム」という概念で説明しました。
協働システムとは、共通目的を達成するために複数の人間が協力し、意思疎通を図りながら効率的かつ円滑に活動する仕組みのことです。
この仕組みを円滑に機能させるために、貢献に応じた対価(報酬や評価)を発生させて、メンバーの貢献意欲(モチベーション)を維持するというものです。

 

組織成立の3要素
バーナードは、「組織は、①相互に意思を伝達できる人々がおり、②それらの人々は行為によって貢献しようとする意欲をもって、③共通の目的の達成をめざすときに、成立する」としています。

①伝達(意思疎通)
「伝達の技術は、いかなる組織にとっても重要な要素であり、多くの組織にとっては特に重要な問題である。」
また、「伝達」について、バーナードが特徴的だと思えることは、「以心伝心」(observational feeling)を「重要な伝達の一側面」としていることです。「誰も言葉では発していないが、各自が場の空気を読んで、同意に至る」。そんな「阿吽の呼吸」や「場の空気を読む」という伝達による合意形成を、バーナードは現場で何度も経験していると言っています。

現代組織においても伝達(意思疎通)は、情報共有に不可欠であり、意思疎通なしには組織が物事を進めることができません。上司や同僚との意思疎通がきちんと取れていなければ、組織全体のまとまりがなく、非効率でバラバラな状態となってしまいます。
円滑な伝達(意思疎通)には大きく分けて3つのルートがあります。
①上から下への伝達:上司から部下に対する指揮や命令、情報や業績のフィードバック等
②下から上への伝達:部下から上司への報告や連絡、相談や提案等
③横や斜めの伝達:同僚や仲間、他部署間での意思疎通等

②意欲
「協働体系に対して行為をもって貢献しようとする人々の意欲が不可欠なものであることは明らかである。個人的意欲という要因を表わしている主な言葉として、「忠誠心」「団結心」「団体精神」「組織力」等がある。」
「意欲」とは、仕事に対するモチベーションのことであり、組織に対する「貢献意欲」のことです。「団体精神」はチームワークのこと、ここでいう「意欲」には「エンゲージメント」(社員の組織に対する信頼度・愛着度)の要素も含むと考えられます。
更に、バーナードが実務者だと思える言葉は「実際にはほんの少数の者だけが積極的意欲をもつにすぎない」という発言です。
組織には「2:6:2の法則」が働いていて、バーナードは、トップ2割のことを「積極的意欲を持つ少数の者」と感じていたと思われます。

貢献意欲を引き出すためには「貢献」に見合った「誘因」をどれだけ提供できるかが重要になります。「誘因」とは「意欲」を引き出す要因となる「給与」「賞与」「昇格」等、従業員にとって「利益」になるものです。自身の働きに対して、この利益がプラスだと感じられれば「意欲」も高まりますし、マイナスだと「意欲」は下がります。

貢献意欲には、組織全体に対する貢献だけではなく、チームや仲間同士の貢献も含まれ、組織のメンバーが一緒に働き、互いに助け合いながら組織に貢献したいという意欲でもあります。ひとつの組織が組織として確実に機能し、高い成果を出していくためには、この貢献意欲が非常に重要となります。組織に積極的に貢献したいという欲求が従業員に欠けていれば、組織として目標を達成できる見込みは極めて低くなり、最悪の場合には組織が崩壊してしまう可能性もあります。

③目的
「目的をもつことが必要なのは自明のことであり、「体系」「調整」「協働」という言葉のなかに含意されている。目的は言葉で明示されてないことがよくあるし、ときには明示しえないこともあるが、多くの協働体系でなんらかの形で明らかに存在するものである。」
バーナードは、組織に「目的」は明らかに存在するものであり、あって当然のものと考えています。もし、組織に「目的」がなかったら、組織そのものが不要となり、成立しないことになってしまいます。
組織の「目的」には「協働的側面」協働して達成すべき仕事の目的(組織人格)と「主観的側面」ひとりの人間としての働く目的(個人人格)の2つの側面があるとバーナードは述べています。
「協働的側面」は、仕事における達成すべき「目的」です。この「協働的側面の目的」を果たす時の人格をバーナードは「組織人格」と呼びましました。「組織人格」に対するのが「個人人格」です。
人は、個人的に様々な「目的」をもって働いています。お金のため、家族のため、社会のため等、働く目的は、人それぞれ違っています。このそれぞれの個人がもつ「働く目的」が「主観的側面」であり、それを果たす時の人格が「個人人格」です。

目的とは、言い換えると「企業理念」や「経営ビジョン」のことです。 バーナードの定義づけに基づいて考えると、組織は同じ目的を持つ人々の集まりによって形成されます。つまり、組織内部において従業員が互いに「共通目的」を共有することにより、組織全体が同じ方向性を持って進むことができ、ひとつの組織としてまとまりを持って機能することが可能となるのです。共通目的が共有されてなければ組織は機能しない、「協働意欲は協働の目標なしには発展しえない。」ということです。

経営者が、組織の「目的」を、どう考え、どんな風に伝達するかによって、従業員の「意欲」は上がったり下がったりします。それによって仕事の成果に差が生まれます。
こう考えてくると「伝達」「意欲」「目的」は互いに関連しあって、組織を成立させ、動かしていると言えます。

組織存続に必要な条件
組織成立の次に重要課題となるのは、組織を長く存続させることです。 どんなに良い組織が成立しても、その先も上手く機能し続けることができなければ、やがて衰退し崩壊してしまいます。
バーナードは、組織が存続していくためには「誘引」と「貢献」の2つの要素のバランスが重要であると唱えています。組織は、株主、経営者、従業員などの参加者が不可欠であり、それら参加者から労働や資本など、組織目標の達成に不可欠となる「貢献」を得続ける必要があります。一方、参加者を集うためには、配当や賃金など活動の動機となる「誘引」を行わなければなりません。「貢献」が上回ると参加者の離脱が生じ、組織の存続が危ぶまれることから、組織は常に「誘引」が上回るバランスを保たなければならないとしています。

内部均衡
内部均衡とは、組織内部の貢献度のバランスを表し、メンバーが自分の貢献以上のリターンを受け取っていると考えている状態を言います。バーナードは、組織が存続していくためには、組織メンバーの貢献意欲を継続的に引き出すことが重要であり、メンバーの貢献意欲を引き出すためには、メンバーを満足させるための誘因(対価)が必要であると考えました。誘因の具体例として、雇用の安定、昇格、貢献度に見合った給料・賞与の支払い等が挙げられます。組織内部において「貢献」と「誘因」のバランスを常に上手く保つことがメンバーの存続、そして組織存続の条件となるのです。

外部均衡
外部均衡とは、社会(外部環境)における組織の存在意義や有効性のことを言います。時代とともに変化し続ける「社会」や「市場」において、常に貢献し続けることが存続にとって重要となります。そのためには、外部環境の変化に応じて柔軟に対応し変化していく必要があります。このことから、社会に貢献し必要とされる組織であり続けることが、組織存続の条件といえます。

組織均衡の中心的命題
組織均衡には5つの中心的命題が定義されています。
命題1 組織は、組織の参加者と呼ばれる多くの人々の相互に関連した社会的行動の体系である。
命題2 参加者それぞれ、および参加者の集団それぞれは、組織から誘因を受け、その見返りとして組織に対して貢献を行う。
命題3 それぞれの参加者は、組織から提供される誘因が、組織から行うことを要求している貢献と等しいか、あるいはより大である場合にだけ、組織への参加を続ける。
命題4 参加者のさまざまな集団によって供与される貢献が、組織が参加者に提供する誘因を作り出す源泉である。
命題5 貢献が十分にあって、その貢献を引き出すのに足りるほどの量の誘因を供与している場合においてのみ、組織は支払い能力があり、生存し続ける。

 

現代の企業という組織で、バーナードが提唱する組織成立の3要素を活かすためのポイントについて考えてみます。

「伝達(意思疎通)」を円滑にするためのポイント
組織の業務効率化や生産性を向上させるためにも、組織内部における伝達(意思疎通)を円滑にすることは組織運営において重要と言えます。
それが円滑にできていない組織の特徴は、経営者自身が積極的に伝達(意思疎通)できていないような気がします。残念ながら、組織風土として積極的に伝達(意思疎通)しようとする文化がないということです。そのため、経営幹部も含め、伝達(意思疎通)の重要性が認識されておらず、全体で共有すべき情報が経営者や経営幹部限りになっていたり、会議等で決まったことが参加者限りになっていたり、非常に風通しが悪くなっており、現場スタッフからは「そんなことは聞いていない」「いきなりそんなこと言われても対応できない」と言った声が絶え間なく聞こえています。
もう1つ伝達(意思疎通)が円滑に進まない理由として、現場スタッフが上司や経営幹部等にあげた報告・相談に対して、上層部から何のレスポンスもできていないことが挙げられます。「相談しても返事がない」「何を言っても変わらない」「言っても仕方がないから、もう何も言わない」と言った言葉がスタッフから聞こえてくるような一方交通の伝達(意思疎通)が根付いているようでは、組織として機能していないということになります。

会話と対話と議論の関係
伝達(意思疎通)がうまく進まない本質は、普段からのコミュニケーション不足による人間関係の希薄さにあるのではないかと思います。
円滑なコミュニケーションを取るための方法について「会話」と「対話」と「議論」という切り口から考えてみます。
会話とは、お互いの印象を良くし、情報や気持ちを交換しながら、知識や経験を共有し、関係性を深めたり確認したりして、一緒に活動できる関係性を築くコミュニケーションのことです。
対話とは、お互いの前提や意見の「違い」をわかり合おうとするもので、その場にいるみんなでテーマについて探求したり気づいたりするものです。前提を探った上で、なすべき事の方向性を明らかにし、軸となる柱を打ち立てるのが対話の役割です。
議論とは、意思決定等の結論を導くための情報を出し合い、白黒付けたり意見を戦わせたり、どの主張が正しいかを決めたりするために異なる意見をぶつけあいながら最良の意見を選びとるコミュニケーションです。
「議論(共通の目的に向かって考えをすり合わせる)をする為には、対話(本質を一緒に発見するやりとり)が成り立つ関係が必要で、そのためには、会話が気持ちよく出来る人間関係がベースにあることが必須 」
ベースにあるのが「会話」。会話さえ成立しない相手と、深い対話や議論は不可能といえます。次が「対話」。会話によって人間関係を築いたうえで、同じテーマに集中して、そのテーマの本質や意味をともに探っていきます。そして「議論」。対話によってベクトル合わせをし、そのうえで共通の目的を達成するために議論をして合意形成を図利、結論を導き出すのです。
「雑談」という「会話」が大切だと思います。話し手は、断定的に話してもよいし、対立を避けるため本音を言わなくてもいいのです。そして、受けを狙った発言も歓迎されます。
聞き手も、真剣に聞かなくてもよく、聞いているふりをすればよいのです。勿論、結論なんか出す必要はありません。こういった堅苦しさやよそよそしさを感じさせず、素直にオープンな姿勢で話す場を公式組織のなかでも持つことが必要です。
つまり、伝達(意思疎通)を円滑に進めるためには、何より普段からの雑談を大切にし、お互いに信頼できる人間関係を作ることから始めなくてはならないのではないでしょうか。

 

「意欲」を高めるためのポイント
貢献意欲は、従業員のモチベーションであり、組織やチームメンバーと互いに協力し合いながら物事を成し遂げるための協働意欲でもあります。機能する組織を作り上げるためには、従業員の「貢献意欲」を高く維持し続けることが大切です。
「意欲」を高めるには、「心理的安全性」を担保することが重要だと思います。
心理的安全性とは、組織行動学の第一人者である、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が1999年に発表した概念です。
「組織やチームの中で誰がどんな発言をしても、発言を拒絶されることも罰せられることもない状態」を表しています。安心して自分の意見を発表できる状態であり「風通しの良さ」と言い換えることができます。
心理的安全性が高い環境下では、対人関係に関する心配事がなくなります。ネガティブな感情を持たなくなると、自然と個々人のパフォーマンスも向上します。発言した分だけチームの雰囲気が活性化するので、仕事に対するエンゲージメントも高くなります。組織にもっと貢献したいと強く感じるようになり、能動的に行動するようになります。

バーナードは、組織の構成要素を活動・力としていますが、それを提供する参加者は感情を持った人です。そのため、報酬(金銭や地位などの外的報酬のほか、承認、成功、やりがい、成長などの内的報酬を含む)という個人的動機を組織に反映させるために組織・部門・個人間で利害関係の対立が起こることもあります。
また、組織における相互作用とは、組織内部に限ったことではありません。組織は外部環境の影響を多分に受けており、外部環境との相互作用を作る必要があります。しかしそれは同時に、安定していた組織内部の相互作用を変革するということでもあります。外部環境の変化に組織が応じることは組織内部のシステム(仕組み)そのものを壊し、再構築するという組織変革を意味することから大きな痛みを伴うこともあります。
対立等があっても、共通の目的達成に向けて高い意欲を持続させるためには意識的な調整が必要なのです。

 

「共通目的」を共有する際のポイント
共通目的は、経営理念や経営ビジョンのことでであり、企業の方向性を決める大切な要素です。共通目的を組織内部でしっかりと共有することにより、組織として1つのまとまりを持って機能させることができるのです。つまり、共通目的を正しく、適切に設定し組織に反映させることが、円滑な組織運営の重要な鍵となります。
経営理念や経営ビジョンが、組織内にどの程度浸透しているのでしょうか。色々な企業の事務所にお伺いしたり、企業のホームページを見たり、必ずといって良いほど、経営理念や経営ビジョンがしっかり掲げられています。掲げることも勿論大切ですが、それ以上に、その意味するところを全従業員がきちんと理解しているかがさらに重要だと思います。

経営理念とは、自社の存在意義を表すもので、企業の目的地、到達すべき理想の状態についての考え方を表したものです。
目的地を明確にすれば、従業員全員がそれに向かって邁進していくことができます。
一方で、「ビジョン」という言葉もあります。理念とビジョンは意味を混同しがちですが、ビジョンとは、経営理念に到達する過程にある企業の姿を表します。今から5年~10年後の、企業のあるべき姿であり、近未来像です。
基本方針とは、経営理念を実現するための会社の基本的な姿勢や考え方を示すものです。
基本方針には「経営理念を実現するための考え方」と捉えて、次の5つの視点が明確に示されているのが一般的です。
顧客:経営理念を実現するためのお客様に対する会社の姿勢や考え方
商品:経営理念を実現するための商品に対する会社の姿勢や考え方
社員:経営理念を実現するための社員に対する会社の姿勢や考え方
会社:経営理念を実現するための会社に対する会社の姿勢や考え方
地域:経営理念を実現するための地域に対する会社の姿勢や考え方
基本方針を徹底していけば経営理念が実現できる、近づけるというものでなければなりません。
経営理念と合わせて、基本方針を全社に浸透させるためには、それぞれの基本方針(上記5つの項目)を繋ぎ合わせ、ひとつのストーリーに仕立てて、それを語り伝えることが必要です。

強い組織の本質は普遍的な要素から成る
バーナードが提唱する組織は、参加者の間に共通目的と貢献意欲が存在し、それらがコミュニケーシヨンを通じて具体的に結びつけられるときに成立します。
コミュニケーションは共通目的を提示し、参加者の貢献意欲をかきたて共通目的を受容させる働きを果たします。
共通目的の受容はより具体的でなければならないので、言葉による受容の表明だけでは足りず、行動という具体化できる形で参加者が共通目的を受容しなければなりません。それは、組織が実行しようとしていることやその考え方を参加者に理解してもらっても、実際に協力を得られなければ、組織は何事も達成できないからです。
したがって,コミュニケーションは言語的なものに限定されず.行動に直接結びつけるような説得や行動による模範といったコミュニケーションが重要となります。
今から85年前に提唱された理論ですが、現代の企業という組織の成立にもシンプルかつ必要不可欠な要素といえるのではないでしょうか。
つまり、強い組織を作るための「伝達」「意欲」「目的」といった要素は時代を超えた普遍的なものだと思うのです。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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