第110回 「働きアリの法則」と「多様なジンザイ」の特性を活かした組織運営

組織・組織運営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第110回は、「「働きアリの法則」と「多様なジンザイ」の特性を活かした組織運営」と題して、組織とジンザイについて考えてみます。

 

働きアリの法則とは
「働きアリの法則」とは、1つのアリの集団があったとき、よく働くアリは2割だけで残りの6割は普通に働き、残りの2割は殆ど働かないという法則です。

働きアリの法則の根拠
「働きアリの法則」は、北海道大学で進化生態学について研究している長谷川英祐准教授率いる研究チームが行った実験の成果から生まれた法則です。
人工的にアリのグループを多数作って観察したところ、どんなグループを構成しても、よく働くアリは2割、6割は普通に働き、残りの2割は殆ど働かず、その構成比は変わらないという実験結果が出たそうです。また、3種類のアリの違いは、反応閾値の差によるものとされています。
反応閾値とは、ある刺激に対して行動を起こすのに必要な刺激量の限界値のことで、フットワークの軽さとも言えるものです。この反応閾値が低いアリほどよく働くのだそうです。

働きアリのみの場合も法則は変わらない
実験の結果、普通に働いている6割のアリやよく働く2割のアリだけでグループを形成しても、この2割、6割、2割の構成比は変わらないことも分かりました。注目すべきは、よく働くアリだけでグループを形成しても、その中から2割の働かないアリが現れることです。よく働くアリの中でも反応閾値の差によって序列が決まり、仕事量で区別したアリの構成比は、2:6:2で変わらないのだそうです。
同様に2割の殆ど働かないアリだけでグループを作っても、2割、6割、2割の構成比は変わらず、別のグループでは働かなかったアリも、このグループの中ではよく働くアリと普通に働くアリに分かれることも分かっています。

2割が働かない理由
グループ内にいるアリ個々の閾値は違っており、仕事が現れたときに、まず閾値の低いアリが仕事を始めます。そうしている間に別の仕事が現れると、次に閾値の低い個体がそれをやる。そうやって仕事の量に応じて個体の閾値の違いで仕事をするようになるのだそうです。

働かない2割が必要な理由
働かないアリが2割いる理由について北海道大学長谷川准教授は、以下のとおり、その必要性を論じています。
「2割のアリは6割のアリの10倍以上の仕事をこなしており、疲れて休まなければいけないこともある。アリの世界では仕事を休むと組織の崩壊にもつながるため、交代要員として2割の働かないアリが待機している。実際に働くアリが動けなくなったときには、いつもは働かないアリが働くようになっている。組織を維持するためには、働かない2割のアリの存在は必要不可欠」
働かないアリは、絶対働かないのではなく、仕事発生の情報が一定程度を超えれば働くようになる。もし、最初に仕事が発生したときに、全員がそれに向かって行ってしまうと、他のことができなくなってしまう。そうした事態を防ぐために、仕事発生の情報に対して、行動の起こし方に差があることが合理的と考えられている。こうしたシステムにより、結果として分業が合理的に進み、集団の維持が可能になっているのだそうです。

「パレートの法則」と「262の法則」
経済の世界では、似て非なる法則として「パレートの法則」があります。
イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが所得の分布について研究し、導き出した「社会全体の富の8割は上位2割の高額所得者に集中し、残りの2割が8割の低所得者に分配される」という法則です。この「パレートの法則」が拡大解釈され、「全商品の中の2割が、全体の売上の8割を生み出している」、「売上の8割は、全顧客の2割によって生み出されている」等と広く活用されるようになっています。
「262の法則」はこの法則の発展形として「世界は、2割の富裕層・高額所得者と、6割の庶民層、2割の貧困層で構成される」「企業では、2割の人材が生産性の高い働きを見せ、6割は平均的、2割は成果に貢献できていない」等、1つの概念として定着していった理論です。

「262の法則」は維持し続ける
「どのような組織・集団でも、人員の構成比率は、優秀な働きを見せる人が2割、普通の働きをする人が6割、貢献度の低い人が2割となる」という「262の法則」は「働きアリの法則」と同様、どのような人員で組織を構成してもこの構成比は変わらないとされています。
もし下位2割の人を切り捨てて、上位2割と中位6割で組織を構成しても、その組織の中で、また優劣が生じて新たな「貢献度の低い2割」が誕生する。同様に、上位2割だけを選抜した組織を作っても、その組織はいずれ「上位2割、中位6割、下位2割」という構成比率になってしまう。逆によく働いていた上位2割を間引いたとしても、残された8割のうちの2割が積極的に働くようになるのだそうです。
つまり、集団の構成員が変わったとしても、「262の法則」の構造は維持し続けるということになり、企業において、上位、中位、下位のどの領域に属する人員も不要ということにはならないのです。

組織のエンゲージメントにおける「262の法則」
この法則を組織のエンゲージメントで当てはめて考えれば、組織のエンゲージメントの構成は、エンゲージメントが高い人が2割、普通の人が6割、低い人が2割になるといえます。そして、エンゲージメントの低い2割を切り捨てても、残り8割からなる組織は、やはり「262の法則」の影響を受けてしまい、新たに“エンゲージメントの低い2割”が生み出されてしまうのだそうです。

上司と部下の関係における「262の法則」
また、この法則を上司と部下の関係に当てはめてみれば、上司の期待を上回る優秀な部下は2割、6割はある程度期待に添った働きぶり、残りの2割は上司を悩ませる厄介な部下ということになります。たとえ、下位の2割を排除しても、また同じ構成比になってしまうので、安易に下位2割を切り捨てることには意味がありません。下位2割も能力に応じた働き方をさせるしかないようです。

人間関係における「262の法則」
さらに、人間関係に当てはめてみれば、自分に対して好意的な人が2割いて、逆に自分のことが嫌いな人が2割いて、残りの6割の人はどちらでもないということになります。
言い方を換えれば、どのような組織でどのように振る舞おうとも、必ず2割の人からは嫌われるということです。そうであるならば、一部の人との関係性が悪いことに悩んでいても仕方がありません。5人に1人から嫌われるのは当たり前で、逆に5人に1人は必ず自分の味方がいると考えることができれば、人間関係に悩むことなく、より自分らしく働けるようになるはずです。
職場の人間関係に悩んでいる従業員は多く、それによってモチベーションやパフォーマンスが低下したり、離職の原因になったりするケースも少なくありません。人間関係に悩んでいる従業員は、「職場で嫌われたくない」「みんなとうまくやりたい」という気持ちが強いことにあります。
「262の法則」に従って考えなければならないのは、自分に好意を持っている「私のことが好きな2割」の期待にどう応えるかです。また「どちらでもない6割」は、行動や接し方次第で積極的に協力してくれる可能性があります。嫌われてる2割の人に気を遣うより、そうした人にこそ気を配るべきだと思います。「みんなとうまくやる」ことは難しいと理解することで、人間関係に関する悩みは軽減できると思います。

「262の法則」を組織マネジメントに活かす
組織として考えなければならないのは、上位2割の能力を最大限に生かし、中位6割のモチベーションを向上させ、下位2割の貢献度を少しでも引き上げるためには何が必要かという「262の法則」をベースとした「誰に対して何のための施策を実践するか」という方法論です。
そのためには、各人材の性格、スキル、行動パターンを細かく分析し、それぞれの層と個々の特性に合わせたキャリアプランや能力開発プランを策定・実践し、教育・研修に取り組み、異動・配置転換や職場環境の改善などによって課題解決を図っていくことが必要になります。

各階層に応じたアプローチ方法
上位2割の層
将来を見据えてマネジメント能力をアップさせるための教育や研修を行い、リーダーとなって全体を引っ張っていくスキルを身に着けさせる。

中間層6割の層
さまざまな角度から診断や評価を行い、能力や性格、言動から個人がもっとも得意とする業務を見つけ出し、その業務に専念させるようにする。自身の強みを見つけ、伸ばしていくことで、より組織に貢献する働きを期待できる。

下位2割の層
それぞれの個性をきちんと理解し、無理に難しい課題を与えたり叱責し続けたりするのではなく、本人ができることをストレスなくできるように、まずは環境を整えることから始める。

従業員のエンゲージメント向上
企業自体が魅力的な組織となり、個々に合った適正な人事評価や、それに見合う給与や福利厚生等の待遇を整備し、働きやすい環境作りに配意する。キャリアアップができる研修制度を整備する等、従業員から選ばれる会社になれば、必然的に従業員と企業のエンゲージメントを高めることができると思います。

個人の仕事量の調節
人間が100%の能力を発揮できる時間は限定的です。最も効率の良い仕事量の配分は、100%に近い能力での仕事の時間が2割、10~50%程度の仕事が6割、残りの2割は休憩にあてることです。従業員1人ひとりのキャパシティを把握し、適正な業務配分を考えることが大切です。

全ての従業員に貢献していると実感してもらうことが重要
企業が取り組まなければならない重要な施策は、全ての層の従業員に自分の仕事や存在が「会社に貢献している」と実感してもらうことであり、それは金銭的な報酬ではなく、日々の業務における周囲との関わりによってもたらされることが理想です。いずれの層の従業員に対しても等しく取り組むべき施策は、モチベーションを保ちつづけてもらうための工夫だといえます。

7つのジンザイ
「262の法則」を活用する目的は、組織に所属する従業員全員に同じ指導を行うのではなく、階層ごとへの適切なアプローチ等による組織マネジメントや人材開発を行うことで、組織全体のパフォーマンスやエンゲージメントの向上を目指すこと。それにより企業としての成長を期待することができます。
あくまでも、従業員一人ひとりを尊重する気持ちを忘れずに、適切なアプローチを行うことが大切なのです。

貢献度の低い2割の人を減らす取り組みにより、貢献度の低かった2割の人が、よく働くあるいは普通に働く者に成長したという事例もあります。それでもまだ貢献度の低い2割は存在し、ある企業では、その1人がリーダー本人でした。
目的を達成したリーダーが、自分の役割を見失い、いつの間にか自分が「貢献度の低い2割」になってしまっていたという事例です。
この事例をみると、人は、肩書に関わらず、自分の役割を見失うといつでも「貢献度の低い2割」に転化する可能性を秘めているといえそうです。

「働きアリの法則」では、怠け者アリがいるグループは、働きアリが倒れた時に怠け者アリが代わりの役割を務めるため、よく働くアリしかいないグループよりも生存可能性が高いという研究結果も出ています。つまり、「よく働くアリ」ばかりいるグループが、最大の成果を生むとは限らないということです。
だとすれば、各層にいる1人ひとりのパーソナリティ・個性をよりきめ細かく把握しておく必要もあるのではないかという考えに至り、「262の法則」の各層にいる「ジンザイ」について、漢字表記による分類を考えてみました。
「ジンザイ」の漢字表記を「人財」「人材」「人剤」「人在」「人済」「人罪」「人災」の7つに分類してみました。組織に属する人は、この7つのいずれかに分類することができると思います。それぞれの漢字が示す「ジンザイ」の意味は次のとおりです。
人材」とは、潜在能力があり、どのジンザイにも変化し得る人
潜在能力を持ち得る状態。どのジンザイにもなり得る可能性がある。今後の環境や指導により、仕上がりが変わってくる。

人財」とは、頼まれた以上の仕事をこなし、人間性も豊かな人
まさに職場にいなくては困るタイプ。専門能力もどんどん身に付け、豊かな人間性を持ち、やる気も十分で自己啓発も怠らない。まさにし、職場にとっての財産という意味で人財という。

「人剤」とは、組織を和ませることができる社交的な人
仕事は、与えられたこと、頼まれたことしかできないが、誰とでも分け隔てなく付き合うことができ、組織を和ませるクッションのようなタイプ。組織の精神安定剤的な存在なので人剤という。

人在」とは、与えられた仕事、頼まれた仕事しかしない人
与えられた仕事はなんとかこなせるが、それ以上に「頭」や「気」を働かせることをしない。「指示待ち族」のレベル。居るだけマシということで人在という。

人済」とは、過去に確かに貢献したが、現在はやる気がない人
過去に会社に貢献し、活躍した功績があるが、今はもうその気力もなく、過去の栄光に溺れて、威張り散らしているだけ。新しいものを受け入れようとせず、持論を押し通すタイプ。もう御用済みということで、人済という。

人罪」とは、他人に迷惑をかける人
100のうち、10のことを教えても10のことすら出来ないタイプ。やる気もなく、「あの人には困ったものだ」と評価されてしまう人。他の人に迷惑をかける罪深い人であり、給料分の仕事すらできない「月給泥棒」をいう。

人災」とは、他人に責任転換し災いを呼ぶ人
自分ができないのは上司の教え方が悪い。みんなが協力してくれない。私にはこの仕事は向かない。私の仕事ではない。など、責任転嫁をする通称「くれない族」。他の人に災いを起こすことから人災という。

組織全体の課題として、多様な施策を講じることが必要
各層には、7つの漢字表記のいずれかに該当する多様なジンザイがいます。ダメなジンザイを切り捨てても本質的な解決に至らないという「262の法則」を理解した上で、多様なジンザイをいかにマネジメントして、モチベーションを高めたり、ポテンシャルを引き出したりして、企業に貢献してもらうかを考えなくてはなりません。
例えば、上位2割に属する人のなかにも、経営センスに秀でたマネジメントを得意とする経営層向けジンザイやスーパー担当者の域から脱しきれない現場監督向けのジンザイも含まれていると考えられます。一方、下位2割の人の中にも、マネジメントによっては埋もれたポテンシャルを発揮する逸材が隠れているかもしれません。

「人的資本経営」の実践が求められているなかでは、各層による分類に加えて、各漢字表記のジンザイ1人ひとりの個性に応じた施策を決め細かく講じることが必要になります。多様な従業員1人ひとりと諦めずに粘り強く向き合って「企業が求める人的資本といえるジンザイ」に育てていくことが大切なのだと思います。
また、そうした人財育成は、組織全体の課題として捉え、経営者自身がイニシャティブをとって、経営者層・管理者層が一枚岩となり、取り組む必要があります。その役割を直属の上司1人に背負わせても、その上司にかかる負担だけが増えて、実効性は期待できないといえます。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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