第109回 黒字社長と赤字社長では何がどう違うのか ~125項目のチェックリストで確認してみる~

マネジメント

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第109回は「黒字社長と赤字社長では何がどう違うのか ~125項目のチェックリストで確認してみる~」と題して、黒字経営を続けている社長と赤字経営を続けている社長の違いについて考えてみます。

 

「赤字経営」とは利益や収支がマイナスの状態で経営を続けていることを意味します。
一言で「赤字」といっても赤字には2種類あります。1つは、会計ルールに基づき算出した「損益上の赤字」、もう1つは「資金収支上の赤字」です。
損益上の赤字が続いたからといって、すぐに倒産するものではなく、お金が回っている限りは持続可能です。しかし、収益<費用(原価や経費)の状態なので、損失が続くことで純資産(自己資本)が減り続けます。そういった状況下では、なかなか新たな資金調達も難しくなって積極的な投資も行いづらくなり、企業としての成長・拡大を図ることが難しくなります。
一方、資金収支上の赤字は、損益上の赤字より深刻です。収入<支出の状態なので手許のお金が減り続けることになり、資金調達ができなければ、いずれは手許のお金が底を突いて事業継続が困難になります。足元の事業の継続には「資金収支上の赤字」が大きく影響するのです。

国税庁が2023年2月24日に公表した「国税庁統計法人税表(2021年度)」では、赤字法人率は65.0%です。つまり、日本の企業の6割以上が赤字経営であり、この統計値をみると、黒字経営を続けることは容易ではないといえます。
これまでにもお伝えしましたが、長期利益の獲得は企業が継続するための条件です。この条件を満たせていない、継続が危ういと考えられる企業が6割以上も存在することになるのです。

金融機関在籍時に数多くの中小企業経営者とお会いし、決算書を拝見させていただきながらお話しを聞くなかで、残念な経営をされているなと感じる経営者も少なからずいらっしゃいました。
そこで、これまで中小企業金融の現場で数多くの社長からお聞きしたそれぞれのご意見や考え方、媒体等を通じて学んだ知識をもとに、黒字経営を続けている社長と赤字経営から抜け出せない社長の違いについて、7つのカテゴリーと125の確認項目にまとめてみました。
全てを網羅することはできていませんが、黒字経営の維持や黒字経営への転換に向けて、社長として認識して欲しいと思う「違い」をできる限り漏れなく、ダブりなく挙げてみたら、こんなに確認項目が多くなってしまいました。
時間に余裕があるときに、確認項目1つ1つを点検してみてください。

 

1 経営の目的・ビジョン・戦略(15項目)
①社長自身に明確な経営の目的やビジョンがあるか
②社長自身が自分の言葉で経営の目的やビジョンを社内外へ向けてコミットできているか
③企業価値を高めるために社内外に対して適正な情報公開ができているか
④経営の目的やビジョンの達成に向けた経営計画(方針と数字)を社長が主体となって策定しているか
⑤経営計画実行のための経営戦略や実行性のある事業戦略や機能戦略を社長が主体となって策定しているか
⑥戦略に基づいた効果的かつ効率的な組織体制の構築と計画実現に向けた人員確保はできているか
⑦人事戦略に基づいた管理職等、社員の役割分担・職務分担を明確に示しているか
⑧誰が見ても理解できる組織図の目的に沿った組織図を作成しているか
⑨情報共有(ホウ・レン・ソウ)の仕組みを機能させているか
⑩急成長・急拡大に偏重したムリのある経営をしようとしていないか
⑪行き当たりばったりの成り行き経営になっていないか
⑫目先だけの短期的な視野に立った経営になっていないか
⑬業績が横這いで安定していれば、当面大丈夫という油断はないか
⑭常に新商品・新サービスを戦略的に考え、その開発に計画的に着手しているか
⑮損得重視の経営ではなく、自利利他の精神に基づいた尊徳経営をしているか

2 人事制度・人材育成(10項目)
①経営戦略と紐付いた人事戦略に基づいた人事制度があるか
②人事制度は、社員のエンゲージメントやモチベーションを高める内容になっているか
③人事評価制度は「人的資本経営」実践の要素も盛り込んだ内容になっているか
④人事評価制度に紐付いた賃金制度があるか
⑤人事戦略に沿った人材育成計画があるか
⑥人材育成計画を実現するための社内研修制度やOJTのプログラムを作成しているか
⑦社員の成長(育成)に社長自身が関心を持っているか
⑧社員教育は現場の管理職や社外に任せっぱなしになっていないか
⑨将来の経営者(後継者)の育成に取り組んでいるか
⑩人事制度、人事評価制度、人財育成計画は、公平性、納得性があり、実効性が担保されているか

3 マーケティング戦略・顧客志向(10項目)
①戦略策定に向けて世界情勢、政治・経済、業界等の最新情報や動向を把握しているか
②外部環境・内部環境(自社の強み・弱み・機会・脅威等)の分析はできているか
③プロダクトアウトの発想か、マーケットインの発想か
④価格競争重視になっていないか
⑤付加価値を高めることを重視しているか
⑥自社の差別化の要素(武器、ポテンシャル等)を把握しているか
⑦自社の差別化の要素を活かした優位性のある戦略が策定されているか
⑧「顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」が明確になっているか
⑨「顧客の声」に耳を傾けているか
⑩取引先・仕入先・外注先と良好な関係が築けているか

4 マネジメント力(25項目)
①社員の意見を聞かず、全て自分で把握・判断しようとしていないか
②社員に適切な権限委譲を行う等、ワンマン型ではなく組織や仕組みで動く経営をしているか
③社員にやらせるだけでなく、社長自身が率先垂範型の行動を実践しているか
④社長だけが稼ぐ構造となっていないか
⑤社員1人ひとりが稼ぐ(生産性を上げる)仕組みや仕事があるか
⑥必要に応じて、自ら営業活動(トップ営業)を行っているか
⑦本業以外での外出が多く、ほとんど会社を不在にしていないか
⑧会社にいても社長室にこもっていないか
⑨会社に一番遅く出社して一番早く退社することが常態化する等、社員との距離が遠くなっていないか
⑩数字とお金を判断基準にしたマネジメントができているか
⑪俯瞰して物事を見る(全体⇒個別)、時系列で考える(過去⇒現在⇒未来)ことができているか
⑫社長自身の五感で現場の事実(課題等)を把握できているか
⑬事実に基づいた適正な意思決定ができているか
⑭迅速な意思決定とその実行ができているか
⑮PDCAサイクルを機能させているか
⑯経験と勘(思い付き)と度胸に頼った判断や行動をしていないか
⑰社員に対して明確な指示ができているか
⑱社員を道具だと思って扱っていないか
⑲社員は処遇(給与・福利厚生等)でついてくると思っていないか
⑳社員は社長の言うことを聞いてさえいればよいと思っていないか
㉑自分の言うことを聞く社員(イエスマン)ばかりを優遇していないか
㉒働き方の多様性に関する理解があるか
㉓長時間労働を是とせず、社員が長期間働いてもらえる環境作りに注力しているか
㉔社員が有給休暇を取得しやすい環境作りに注力しているか
㉕ガバナンスやコンプライアンスに対する意識を持っているか

5 社員とのコミュニケーション力(10項目)
①社員1人ひとりのエンゲージメントを高めることの重要性・必要性を認識し、行動しているか
②社員1人ひとりに関心をもって接しているか
③社員1人ひとりの声にしっかり耳を傾けているか
④社員の言うことを信じすぎていないか
⑤社員に対して優しくて面倒見がよい、単に優しいだけの社長で終わっていないか
⑥社員に対して忖度せず、言いにくいこともきちんと伝えているか
⑦社員1人ひとりと雑談を含めたコミュニケーションをとる機会を積極的に設けているか
⑧社員の「心理的安全性」の担保に向けた風通しのよい組織風土作りに取り組んでいるか
⑨社員とのコミュニケーションは、「議論」ではなく、信頼関係を構築するための「対話」になっているか
⑩社員を「説得」するのではなく、社員が「納得」するコミュニケーションがとれているか

6 計数観念・計数管理(25項目)
①売上重視の経営か、利益重視の経営か
②社長は数字に強いか
③毎月、月次決算時に貸借対照表、損益計算書を確認しているか、会社の数字を見るのは決算時の年1回だけになっていないか
④会社の会計(数字)を税理士に任せっぱなしにしていないか
⑤貸借対照表の見方を理解しているか(現預金、借入金、純資産(自己資本)の確認)
⑥損益計算書の見方を理解しているか(売上高、利益、+資金繰り(CF)の確認)
⑦資金繰りは経理や財務の担当者に任せっぱなしになっていないか
⑧自社の収益構造(売上高、原価、経費のバランス)を理解しているか
⑨自社の収益構造を理解したうえで、新規投資や高額支出に関する意思決定をしているか
⑩粗利益率、人件費率等の主要比率の変化の有無を把握しているか
⑪自社の現預金の毎月月末時点の残高を把握しているか
⑫自社の借入金の残高や返済額を把握しているか
⑬自社の自己資本比率を把握しているか
⑭売上、利益、損失等の変化とその要因を損益計算書から把握できているか
⑮収益構造や現預金等のストックに課題があれば適切な対策を検討してスピード感を持って対応しているか
⑯取引先の入金サイクル(回収サイト)を知っているか
⑰仕入先への支払サイクル(支払サイト)を知っているか
⑱自社の適正在庫を知っているか
⑲会社からお金を借りていないか(社長や関連企業に対する貸付金がないか)
⑳社長の役員報酬は妥当か(社員の給与は世間相場より低いのに役員報酬は高くなっていないか)
㉑働いていない親族に多額の給与を支払っていないか
㉒固定資産(機械・不動産等)は所有するべきだと、全額銀行から借りてでも購入していないか
㉓銀行取引は人間関係で何とかなると思っていないか
㉔銀行が自社のどこを見ているのか理解しているか
㉕銀行も営利企業であり、銀行は銀行の利益が最優先であることを理解したうえで、銀行とWIN-WINの関係が築けているか

7 社長の品格(人間性・人間力)(30項目)
①「経営する」「管理する」「運営する」の違いを理解しているか
②「目的」と「手段」を混同していないか
③「アクセル目利き力」と「ブレーキ目利き力」の両輪を上手く回すことの必要性・重要性を認識しているか
④有言実行が実践できているか
⑤優柔不断ではないか
⑥無用な忖度をしていないか(必要に応じて「仏の心」で「鬼」になれているか)
⑦「四次元的な思考力」等、多角的な視点に立った論理的な考え方ができているか
⑧ネガティブ思考か、ポジティブ思考か
⑨社長自身の自社の事業に対する信念、社長自身の仕事に対するポリシー、会社の存在意義が周囲の意見によって振り回されることはないか
⑩何事にも動じない覚悟とブレのない自分軸を持っているか
⑪経営方針等には論理的な筋が通っており、不必要な朝令暮改等、社員を惑わせるような方針転換を繰り返していないか
⑫自分がよければ良いという自己中心的な考え方に偏っていないか
⑬一人称ではなく、二人称、三人称で物事を考えて、会社に関わるステークホルダー1人ひとりの幸せを求めているか
⑭挨拶等の礼儀作法、感謝の言葉や気持ちを伝えることに意識して取り組んでいるか
⑮丁寧な言葉遣い(=言葉は言霊)ができているか
⑯他社・他人の文句ばかり言っていないか
⑰セクハラ・パワハラを行っていないか
⑱会社で定めたルールを社長自らも遵守しているか
⑲社長だけ宿泊費や日当が高くなっていないか
⑳時間にルーズではないか
㉑約束を守らないこと、破ることがないか
㉒上手くいかない場合に他社・他人のせいにする他責思考になっていないか
㉓成功は自分の手柄・失敗は社員や環境のせいにしていないか
㉔物を雑に扱ったり、物にあたったりしていないか
㉕会社の資金繰りが厳しいにも関わらず、高級車に乗っていないか
㉖営業だと勘違いしていると思われる交際費が多額になっていないか
㉗私用の物を会社で購入する等、公私混同していないか
㉘生涯日々勉強の意識を持って、多様な知識の習得に意欲的に取り組んでいるか
㉙5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)が実践できているか
㉚DXやIT等、最新の技術に関する知識が相応にあるか

赤字は、外的な要因であったり、内的な要因であったりと様々な要素が絡み合って発生するものなので、一概に社長だけの責任だと言い切れない面も多分にあります。しかし、赤字の原因がどうであれ、最終的には経営の最高責任者である社長の責任に帰することになります。
ここ3年間、多くの企業が打撃を受けた新型コロナウイルス感染拡大といった外的要因による赤字は、その理由が明確なので、新型コロナの影響が収束すれば赤字から抜け出すことが可能だと推測できます。
しかし、内的な要因により何年も赤字体質から抜け出せない状況が続いているのであれば、おそらく赤字のはっきりとした原因も掴めていないまま放置されていると思われますので、それは社長の責任、社長の経営手腕に課題があると言わざるを得ません。こうした赤字企業の社長には、少なからず共通の特徴があるようにも思えるのです。

今回は、赤字社長の共通点を挙げるのではなく、このブログにお越し頂いた黒字社長も赤字社長もお一人お一人が、自身の経営に対する姿勢や考え方の振り返りをしていただくことができる内容にしたいとの思いから、黒字社長と赤字社長の「違い」を確認項目としてチェックリストにしてみました。

現場で経営者として発揮しなければならないリーダーシップや組織運営の在り方については、時代の変化に応じた手法に変えていかなければなりませんが、経営の本質は業種や業態にかかわらず普遍的なものであり、これは時代の変化によって大きく左右されるものではないと確信しています。自社を取り巻く全ての人の幸せのために、数多くの企業で持続可能な企業経営の条件である黒字経営が続くことを願っています。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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