第112回 管理職の器~管理職に相応しくない人の資質とは~

組織・組織運営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第112回は「管理職の器~管理職に相応しくない人の資質とは~」と題して、管理職に必要な器について考えてみます。

 

企業目的の達成に向けて組織のポテンシャルを最大限発揮するには、管理職の役割が非常に重要になります。、管理職次第で組織としての力量の発揮度合いが大きく左右されることになるからです。そのため、管理職に抜擢する人材を選ぶ際には慎重な見極めが求められます。各従業員のスキルや適性を踏まえ、最適な人材登用・人員配置を行うことが必要なのです。事実、管理職に相応しくない人材が現場のトップに登用されると、組織運営や企業業績にもはっきりとその影響が現れてきます。

厚生労働省が行った「令和2年雇用動向調査結果の概要」によると、従業員が会社を辞める理由のトップ3は、
1.職場の人間関係
2.労働時間、休日等の労働条件
3.給料等の収入
となっています。
トップである「人間関係」の問題は、もちろん同僚や部下との人間関係もありますが、圧倒的に多いのが「上司との人間関係」です。
上司に問題があることで従業員が退職したり、メンタル不調に陥ってしまったりする等、企業にとって大きな損失を生んでいるのです。

 

管理職に相応しくない人の資質
これまでの経験や、中小企業の経営者や現場スタッフから聞いた声、様々な管理職のスキル等に関連するネット記事等を参考にしながら、管理職に相応しくないのではと考えられる資質を持つ人を列挙してみます。
ネガティブに書いていますが、決して全否定しているのではなく、あくまで管理職に登用する際の参考になればという意図ですので、その点はご理解ください。
①自己管理ができない人

自己管理ができない人は管理職に向いていません。時間管理や自分の業務の進捗管理がうまくできないという人では、管理職として部下のお手本になれませんし、何より自己管理ができないのに他人の管理ができるわけがありません。

②報連相ができない人
報連相ができない人の特徴として共通しているのは、①報告・連絡の目的が分かっていない、②仕事を俯瞰的に見ることができていない、③周囲への影響や情報を共有する必要性が分からない、④「自分で解決したい」という気持ちが強く、必要以上に業務的な負担を抱え込んでしまう、⑤相談を問題解決の手段として捉えられていない等、「相手の視点」や「俯瞰的な視点」が不足していることです。報連相ができない人は管理職に向いていません。

③人に嫌われるのを嫌がる人
管理職になったら、組織が抱える課題や問題に躊躇なく対処しなければなりません。人に嫌われることを避ける人は管理職に向いていません。
部下を指導するときは、「嫌われてもその部下が育つのであれば」といった気概が必要です。当然、部下に対する優しさも必要ですが、優しさだけでは部下は育ちません。

④事なかれ主義の人
事なかれ主義とは、波風を立てずに対処する考えのことです。穏便に物事を済ませようと考えるので、従業員間での争いごとや周囲からの反発等を嫌います。事なかれ主義の従業員は、特定の従業員に依存する傾向が強くなり、誰かに頼る雰囲気がチーム内に出来上がってしまいます。その結果、いつまで経ってもその組織が抱える課題や問題が解決されないままになります。事なかれ主義の人は管理職に向いていません。

⑤八方美人な人
八方美人とは、誰からも好かれたい、誰にも嫌われたくない、人からよく見られたいという思いから、誰にでも愛想よく振る舞う人、自分がどう思われるかを一番に考えて行動する人のことです。
八方美人な人の行動特性としては、①自分の意見を言わない、②何でも「大丈夫」「できるよ」と言う、③どんなときも笑顔といったことがあります。
嫌な人、嫌なことに対しても本音を見せず、取りあえず笑っておけばその場の雰囲気も壊さないでやり過ごせるだろうというタイプです。そのため、その組織が抱える課題や問題が置き去りにされたままになり、解決されません。八方美人な人は管理職に向いていません。

⑥必要な指導ができない人
部下に優しい上司は一見すると「良い上司」のように見えます。しかし、上司の役割としては、ときに厳しい指導が必要な場面もあります。そこで必要な指導ができない上司は、中長期的には部下や組織をダメにしてしまいます。
部下の顔色を伺って言うべき指摘ができない。批判されるのを恐れてきちんと指導できない。ルール違反の部下を叱れない。こうしたことが続くと、結果的に部下のためにならず、成長を妨げることになります。以前、ご紹介した「真の優しさ」と「甘さ」を混同している人は管理職に向いていません。
上司は、仏の心で鬼になって「叱る」ことも、部下の成長を実現する、組織のポテンシャルを高めるために上司がなすべき指導であることを理解して、必要なコミュニケーションをとる必要があります。

⑦「叱る」と「怒る」の区別がつけられない人
上司として必要な指導はきちんとする必要がありますが、「叱る」と「怒る」の区別がついていない上司、部下をダメにする上司は、「部下を育成する」「成果をあげる」といった目的を忘れ、怒りの感情に支配されて、感情のままに行動してしまいます。怒りをぶつけるような行為は、部下に対する教育効果はなく、精神的な苦痛を与えたり、モチベーションを下げたりするだけです。また、人格否定するような叱責はパワハラに当たるものであり、コンプライアンス上のリスクともなります。
人間なので感情すべてをコントロールすることはできませんが、現代の管理職は、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」を身につける必要もあります。

⑧1人で何でもこなせる人
1人でどんな仕事でも効率的に器用にこなせてしまう人材は、組織の中の1人のプレイヤーとしては、非常に心強い存在です。しかし、このような人が管理職としても有能かどうかについては、全く別の話です。
1人で何でもこなせる人は、人に仕事を頼んだ経験が少ない分、部下を動かす力に乏しい特性を持っていることが多いといえます。そのため、管理職になっても「自分でやってしまおう」と、多くの仕事を自分で抱え込んでしまいがちです。これでは部下が育つ機会が失われ、属人的な組織運営になってしまい、組織として大きな成果を挙げることも難しくなります。

⑨人に興味・関心がない人
管理職の仕事は、部下を動かして組織の成果を上げることです。部下と信頼関係を築く、また、部下の育成をするためには、人への興味・関心が必要です。
コミュニケーションスキル等は後天的に身に付けられるものですが、根本的に人への興味・関心がない人は管理職にはしない方が無難です。プロフェッショナル職のキャリアパスを作り、ライン部門ではなく、スタッフ部門として優れたスキルを発揮して貰う「スーパー担当者」の道を歩んで貰うことが本人のためにも、組織のためにもよい結果をもたらすと思います。

⑩特定の人だけを依怙贔屓する人
組織や部門を率いる管理職が特定の部下を依怙贔屓すると、チーム内で良い人間関係が構築されにくくなります。組織内のスタッフ間で「なんであの人ばっかり」等、余計な軋轢が生まれてしまうからです。
自分が気に入っている部下を依怙贔屓したくなるのは、多くの人に共通する気持ちかもしれませんが、その感情が優先すると、管理職としての職務をこなせません。

⑪部下よりも自分の利益を優先する人
上司の顔色しか窺わず、部下のことはまるで眼中にない管理職。俗に言うヒラメ上司です。経営幹部等、自身の上司に対するスタンドプレーが目立つだけでなく、自分に都合の悪いトラブルがあると責任をすべて部下に押し付けることもあり、その結果、押しつけられた現場管理職の降格に繋がることもあります。部下よりも自分の利益を優先する、利他がなく自利だけを追求する人は管理職には向いていません。

⑫責任を回避する人
管理職である上司としての重要な役目は、部下の責任や部署全体、チーム全体の責任を取ることです。本来の責務から逃げて、ミスや失敗の責任を部下にすべて押し付け、平気でいられる人は管理職に向いていません。そうした管理職の常套句は「任せます(=丸投げにして責任を放棄します)」です。
こうした責任を取らない上司や、無責任な仕事をする人が直属の上司になってしまうと、部下にとっては苦痛でしかありません。
ここで留意しなければならないのは、企業の求める責任とは「最善を尽くすと約束した上で、任務を引き受けること」つまり「責任感を持って仕事に取り組むこと」であって、「結果責任を取る」ということではないということです。
管理職として「正解の分からない」最善の努力を尽くした結果の是非に対して、その部署の管理職がその都度「結果責任」を取らされていたのでは、恐くて何もできなくなります。結果責任は、権限を持つ経営者や経営幹部が、組織として引き受けるべきことだと思います。

⑬決断力がない人
組織としての目標や方針の決定、また、実行過程で発生する問題の解決において、上司には意思決定力が求められます。 日常業務のなかでは、正解が分からない意思決定が多くなりますが、その中で上司には常に決断することが求められています。決断ができない上司のもとでは、問題が解決されない、課題が放置されたままとなる、物事が決まらずに前に進まないといった状況が生じます。
部下がいくら主体性を発揮しようとしても、決裁権を持つ上司が意思決定してくれないと、行動できず、モチベーションが下がってしまいます。

⑭計画性がない人
組織の「長」は、担当組織の目標設定、方針決定、計画立案などに、大きな影響を与える立場にあります。
組織の規模や上司の役職によって影響度は異なりますが、適切な目標を設定することや、外部環境、市場の変化を読んだ計画を立てることができない上司では、組織として成果を上げることができません。結果として、部下の能力が生かされず、組織としての成長の機会損失に繋がります。

⑮一貫性がない人
部下に対する指示や評価が、タイミングや相手によって変わってしまう上司がいます。
組織のミッションや計画に基づいた考えではなく、場当たり的な思いつきやその場凌ぎの判断だけで、「ああしろ、こうしろ」と指示を出すため、部下は振り回されることになります。場合によっては、現場の混乱を招くケースにも繋がり、こうしたことが頻繁に続くと部下からの信頼はなくなり、部下の積極的に取り組む意欲もなくなってしまいます。

⑯細部にわたり細かく指示する人
仕事の細部にわたって事細かに指示し、何度も経過報告させる上司がいます。こうした管理の仕方は、上司の責任感やマジメさから生じる側面もありますが、ひとつひとつ指示を受けて上司にお伺いをたてるようなやり方では、部下は自分で考えることをしなくなり、指示待ちが定着していくことになります。
部下は自分で考えてやってみる事で大きく成長するものです。こうしたマネジメントは、その機会を奪っていることになります。 また、人には自分の行動を自分で決めたいという心理があるので、すべての行動を細かく指示される状態では、モチベーションはどんどん低下してしまいます。

⑰肩書で人を動かそうとする人
実力のない管理職ほど自分を大きく見せたいという意識が強く、肩書で部下を動かそうとします。権威主義的・高圧的になる傾向が強いようです。
部下が納得して、上司の意図に従って動くために必要な要素は、「権力」「実績」「権威」「信用」「信頼」だと思います。
「権力」=地位や立場に伴う力。上司として部下に指示や命令をするには、やはり背景となる権力を無視することはできません。
「実績」=上司の組織への貢献や成果の実績・結果のこと。権力はあっても、実績のない名ばかり上司の後に、人は信頼して付いていこうとはしません。
「権威」=その人自身の知識、能力に裏付けられた人間としての大きさや器のこと
「信用」=部下に「この人はできる!」と思わせる仕事の力
「信頼」=「この人の言うことなら」と部下が安心して付いていける全人格的な要素
「権力」は組織から与えられるもの、「実績」と「信用」は、その人の「仕事力」から生まれるもの、「権威」や「信頼」は、その人の「人間力」から醸成されるものです。人を動かすためには、仕事力と人間力を併せ持った人でなければならないと思います。

 

部下をダメにする上司の言葉
「言われたとおりにやればいい」
部下の言葉に耳を貸さず、一方的に命令する上司のもとでは、部下は委縮して指示待ちになり、自分で考えることをしなくなります。
上司は、組織の成果をあげる責任を担っています。しかし、上司の意見が常に必ずしも正しいとは限りません。「言われたとおりにやればいいんだ」という言葉は、上司の視野の狭さ、仕事に対する認識の低さ、部下の能力を信じていないことの表われです。部下のモチベーションを奪い、受け身の部下をつくり出すことになります。

「いや、そうではない」
相手の言葉に対して、常に否定の言葉を先につけて発言する上司もいます。しかし、残念ながら、こういう上司には、否定はするけれど具体的な代替案を提示できないという特徴があります。
部下としては、自分の提案や発言が全て否定され続ければ、何を言っても無駄だと考えるようになり、新しいアイディアや改善はされなくなっていきます。コミュニケーションも必要最低限になり、組織の活力はどんどん低下していきます。こうした組織の会議では、発言する部下の数も減って、最後には何も意見が出なくなり、イノベーションを起こすようなことはあり得なくなります。

 

部下をダメにする上司が組織に与える影響
①組織としての成果が出ない(業績が低迷する)
上司に必要な能力が不足していることで組織の成果が出なくなります。部署のマネジメントに問題があると、部下は上司の顔色を伺うようになり、指示待ちで行動するようになってしまいます。そうなると、部下が自分で考えて行動したり、自分の意見や提案を出したりすることがなくなりますので、部署内の活気がなくなり、組織としての成果もどんどん上がらなくなっていきます。

②部下が成長しない
仕事を任せない、必要なフィードバックができないといった上司の下では、部下が積極的に仕事に取組むことがなくなります。指示されたことだけをしておけばいいという考えが定着し、部下の成長が大きく阻害されます。
結果として、短期的に組織としての成果が出ないことに加えて、中長期的に見て組織の成長が損なわれることになります。

③離職者が増える
ダメな上司の下で働く部下には、精神的に大きな負荷がかかり、モチベーションも低下します。異動希望などを出す機会がなければ、別の会社に転職しようと考えるのは当然です。
組織においては、過度の離職は採用や育成コストの増加、また、組織内のノウハウの継承、従業員のスキルレベルの停滞・低下といった形で、組織の成長を妨げることになります。

④メンタル不調を訴える従業員が増える
性格的にまじめな部下ほど、上司の言動を受け流すことができず、ダメな上司による悪影響を受けやすくなります。一方的な命令や人格否定が続けば、逃げ場がない部下がメンタル不調に陥ることも珍しくありません。
職場のメンタル不調は本人の責任や能力に問題がある場合もありますが、上司のマネジメントが引き起こしている側面も大いにあります。メンタル不調による休職や退職が発生すれば、対応に必要な工数や費用は大きなものとなりますし、組織が責任を問われることもあります。

⑤対外的な信用失墜が起こる
「第109回 黒字社長と赤字社長では何が違うのか」のチェック項目「3 マーケティング戦略・顧客志向(10項目)」に「⑩取引先・仕入先・外注先と良好な関係が築けているか」という確認項目を入れたのですが、取引先・仕入先・外注先といったステークホルダーとの良好な関係作りは、経営者=社長に限ったことではありません。現場に出入りしている外部スタッフにとっては、経営者より現場の管理職の態度や言動の方が気になるようです。
先日、ある企業の外注先のスタッフから「現場のトップに立つ管理職によって、現場の雰囲気がガラリと変わる。20年以上、外注先としてお世話になっているが、今の現場の「長」の態度を見ていると、現場スタッフの言動に統制がかからなくなってきている理由が分かった。何故、あのような人が要職についているのか不思議」と言われていました。外注先のスタッフとはいえ、要職にある管理職のことはよく観察して評価しているのだと気付かされました。特に組織の上層部や現場の管理職も外部の利害関係者と良好な関係が築けなければ、組織の信用失墜に繋がってしまう可能性が高いことを再認識させられました。

⑥言ったモン勝ちの組織風土が醸成される
その会社で本来活躍すべき管理職に責任感や目的意識がないと、組織が上手く機能しなくなり、組織力が低下します。組織力が低下すると、公然の場で上司批判を平気で繰り返したり、部署間や担当者間で悪口を言い合ったりして組織の秩序が保つことができなくなります。こうした混沌状態に陥ると、従業員のモチベーションの低下、離職、従業員の健康問題、経営状態の悪化等といった組織内部の悪循環を次々と引き起こす原因に繋がります。
組織運営に関わる管理職の存在に何かしらの問題があれば「言ったモン勝ちの組織風土が醸成され」それが組織崩壊の引き金になることもあるのです。

 

ダイバーシティ経営等の多様性が求められる現代の組織においては、世代間ギャップ等、個人の価値観もそれぞれ異なり、これまで以上に組織の一体感を醸成することが難しくなった。つまり、経営陣や管理職の果たすべき役割が複雑多岐にわたることになったのではないかと考えます。一方で、管理職に適任な人財も限定的だと思います。
現場の管理職からは、最近の若い部下や経験を積んだ中途採用の部下と共通言語でコミュニケーションを取るのが難しいという声も聞こえます。
部下の組織に対するエンゲージメントが低ければ、どんなに優れた管理職でも、その部下をマネジメントするためには大きな負荷がかかってしまいます。現場の管理職だけがどんなに頑張っても難しいと思います。
今回は、ネガティブ・リストとして「管理職として相応しくないと考えられる人の資質(特徴)」を紹介させていただきました。それでは、どうすれば良いのかという対応策については、言及していません。
あえて言うなら、人事に関わることは、現場の管理職だけに任せるのではなく、経営者や経営幹部といった上層部の関与が不可欠だと思います。
持ち場や直属の上司は違っても、同じ組織に属する従業員ですから、組織の目指す方向性や目的達成のために組織の求める人物像を明確に示して、全従業員の共感を得ることが何より必要です。ベクトルを同じ向きに合わせて、従業員エンゲージメントや一人ひとりのモチベーションを高める役割を担うのは、紛れもなく経営トップの仕事だと思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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