第87回 「100年企業を目指せ!」経営基盤を固めることの重要性(その2)

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」

第87回は、「『100年企業を目指せ!』経営基盤を固めることの重要性(その2)」と題して、前回に続いて経営基盤を構成する要素の中で、事業基盤、業務基盤についての考え方を述べてみます。

 

《事業基盤》
企業(営利を目的として商品の販売やサービスの提供等の経済活動を営む組織)が、営利等を目的として組織を営むことを「事業」といいます。
もともと「事業」という言葉は、「易経(えききょう)」からきているそうです。「易経」は、四書五経と呼ばれる儒教の経典の一つです。その中の一説に、現代風に分かりやすく言い換えると次のようなくだりがあります。
「時に応じて物事を切り盛りし、適宜に処置して変化させ、さらに推進して物事を通じさせる。この変通の道理によって社会の道を整え、民を導くことを事業という」
易経のこの言葉が「事業」の語源。もともと事業とは、社会貢献を指す言葉だったようです。

事業ドメイン
企業が経済活動を展開する事業領域、または主力事業となる本業のことを指す経営学の用語に「事業ドメイン」という言葉があります。企業が継続的に成長していくためには、事業活動の範囲を設定し、自社の強みを活かした経営資源を集中して投資することが必要です。事業ドメインとは事業を「誰に、何を、どのように」展開していくのかを決める経営戦略です。企業は大きくなっていくと、さらに成長するためにいくつかの事業を持ち始めます。

ところが、複数の事業を多角的に手掛けていく時に、企業の方向性が決まっていないと事業全体にまとまりが生まれません。その結果、経営資源を投入する際に選択と集中ができなくなり過度な投入・分散をしてしまいます。
事業ドメインを設定することで「誰に向かってどのようなビジネスをしていくのか?」「ビジネスの範囲はどこまでなのか?」といった基準が決まり、判断や戦略の失敗を避けられます。
事業ドメインの設定には、事業の将来性や可能性、顧客・技術・機能を軸としたコア・コンピタンス(企業の中核となる能力)を正確に理解・把握し、競争優位性を獲得できる最適な市場調査と市場の選択が求められます。

以下の3つの切り口で事業ドメインを規定すると明確になります。
①顧客軸:商品やサービスを誰に提供するのか
②技術軸:どのような技術やノウハウをもとに商品やサービスを提供するのか
③機能軸どのような機能や顧客にとっての価値を提供するのか
事業ドメインをきちんと定義することで、企業は資源を集中すべき分野を明確にできます。逆に対象としない事業領域も明確になることから、無謀な多角化への牽制にもなります。結果として、より強い自社ブランドを構築していくことにも繋がるといえます。
事業ドメインは企業の存在意義と発展の方向性を決定づけるものですから、将来に向けて成長性のあるものを選んでいく必要があります。あまり広すぎると方向性が曖昧になりますが、狭すぎると企業が伸びる余地が少なくなります。
また、事業ドメインは企業内のスタッフ全員にも浸透させることが大切です。自社がなぜそのような事業ドメインを選択するのかということを十分に説明し、経営者と従業員が同じ方向性をもって行動することで、企業の経営資源を最大限に生かすことができるのです。

事業ドメイン設定の6つの切り口
企業としての目的を達成するための「事業」ですから、「経営者がやりたい」「儲けたい」「コストを抑えたい」といった安易な動機から事業を設定することは絶対にNGです。
事業は、あくまで「顧客満足につながるか」「そのために知恵を絞って努力をしているか」という発想から設定し、それを実現できるように設計していくことが必要です。

事業の目的を達成するために、何を、どのように、どの程度行えばいいのかを具体的に示すのが事業目標です。事業目標は、意思決定やそれに伴って行った事業活動が有効かどうかを評価する判断基準になりますので、目標はより具体的に設定する必要があります。具体化することで、経営者や経営幹部だけでなく、現場のスタッフも同じベクトルの方向に向かって迷いなく前に進むことができるからです。
ドラッカーは、目標設定する際の基本的な視点として次の6つを挙げています。

マーケティング
□ 既存の商品・サービスに顧客は満足しているか?
□ 既存の商品・サービスで不要なもの、陳腐化しているものはないか?
□ 既存の市場に新しい商品・サービスは求められているか?
□ 新しい商品・サービスを提供し、新しい市場は創造できないか?
□ 必要な人に、必要な商品・サービスは届いているか?
□ アフターフォローに顧客は満足しているか?
□ 顧客はわが社を信頼しているか?

イノベーション
□ 商品・サービスにイノベーションの余地はないか?
□ 商品・サービスの提供方法にイノベーションの余地はないか?
□ 社会の変化に対応して行うべきイノベーションはないか?

経営資源
□ 適切な時期に物的資源(施設、設備、原材料など)は十分あるか?(物的資源)
□ よい人材を必要なだけ確保しているか?(人的資源)
□ 将来のための資本は十分か?(資金)

生産性
□ 物的資源・人材・資金はベストなバランスで活用されているか?
□ 経営資源の使い方は適切か?
□ 一部の改善が全体の生産性を落としていないか?

社会的責任
□ 消費者・利用者に誠実な配慮をしているか?
□ 環境に配慮しているか?
□ 事業は社会に貢献しているか?

利益
□ 蓄えは十分か?(内部留保)
□ 現状の利益で企業は存続できるか?
□ 存続のために必要な利益はどれだけか?

自社の持つ経営資源を最大限活用することを念頭に置きながら、この6つの切り口のバランスを考えながら目標を設定する必要があります。バラバラに行っても目標設定は絵に描いた餅で終わってしまいます。
①いままでの利益を投資すれば実現できそうか
②近い将来の目標と遠い将来の目標の整合性に無理はないか
③優先的に取り組むべき目標はどれか
というバランスを考えながら目標を考える必要があります。

目標が決まったら、行動あるのみです。達成までの期限を決め、スケジュールを逆算して計画を立てていけば「いまするべきこと」が見えてきます。実行に移さない目標は、目標とは呼ばない。それはただの「夢」なのです。

強みはいつまでも強みであり続けることはない
企業を取り巻く環境は絶えず変化していますので、事業ドメインもそれに合ったものに変えていかなくてはなりません。
現時点で成功している事業でさえ、すぐに陳腐化してしまう可能性が高いということは認識しておく必要があります。同じ強みがいつまでも通用し続けるとは限らず、違った強みが顧客のニーズを捉えることもあります。
事業ドメインの見直しによる企業の具体的な取り組みは、製品やサービスの見直しです。市場の変化により、売上も収益力も低下し、ライフサイクルが終わろうとしている製品に過度の投資をすることは、企業の生き残りにとって得策ではありません。経営資源や資金が限定的な中小企業は、自社の有するポテンシャルを最大限発揮できる個別の事業分野や商品の将来性を分析した上で、将来有望な事業分野や商品などに対して、重点的、集中的な投資戦略を練る必要があります。
ここで重要なことは、使命に合わない活動や顧客に満足を与えなくなった商品・サービス、業績に貢献しなくなった事業は潔く捨てることです。そうした事業は、もう強みではありません。限られた資源のより多くを新たな事業(強み)につぎ込み、事業のあり方を柔軟に変化させていくことが大切なのです。
ただし、あまりに頻繁な変更は、社内外に混乱を招きます。少なくとも5年先から10年先を見越した長期的な視点で事業ドメインを決定していくことが求められます。
そのために、企業は常に「将来の強みは何か」を考えていなければなりません。苦境のなかではもちろん、成功しているときにこそ絶えず見直す必要があります。
顧客ニーズの変化によって事業の姿は変わるかもしれませんが、強みを活かした事業を追求し続ける限り、それは成長に繋がり企業の持続可能性が高まるのです。

数字をベースにした事業基盤の強化
事業基盤の強化は、利益獲得能力を高めていくことを目的としています。そのため、事業の選択と集中により事業構造を再構築し、企業価値を高めていくことが大切なのです。例えば、黒字化が見込めない赤字事業から撤退することにより利益の最大化を図ることが重要なのです。

損益計算書を事業単位、営業所単位、商品単位、顧客単位等で作成し、それぞれの採算性を把握します。また、赤字部門については閉鎖・売却・縮小・統合し、損益計算書を黒字に転換していきます。ただし、将来の採算性・収益性・CF獲得能力などが見込める健全な赤字部門については、戦略的に育成していくことが必要です。

中小企業の経営は、経営者の「強い意志」によって成り立っているところがあります。 特に、経営者の「強い意志」によって立ち上げられた事業からの撤退は,経営者自身が意思決定しなければなりません。

 

《業務基盤》
業務とは、企業の各部署で行われるそれぞれの仕事を意味しています。つまり業務内容とは、企業の事業達成の過程で発生する、一部の仕事の内容を指していると言えます。業務は小さな作業や複数の部署が組み合わされて成り立っています。この連なりのことを「業務プロセス」といいます。

業務プロセス
業務プロセスを簡単にいうと「日常に行われる業務の流れ」です。企業が利益を出すには、通常営利に関わる業務から会社の基盤を支えるものまで、複数の業務が関わりあって企業としての「業務」を成立させているのです。
例えば、直接営利に関わるものだと製造や営業があげられますが、製造や営業を成立させるには従業員を管理する総務や、製造費や人件費を計算する経理の活動が必要不可欠です。
業務プロセスとは、この業務の連なりと、業務による営利獲得までの流れを意味しています。

業務プロセスに課題があると、人や時間当たりの生産性が低下したり、事業の期待利益を確保出来なくなったりして、企業の存続にも影響します。
業務基盤を確立することは、この業務プロセスの見直しを行い、利益最大化を目指して「効率化によるさらなる利益の最大化」「業務の標準化による業務プロセスの最適化」「各業務で懸念されるリスクの回避」を図ることです。

業務プロセスの改善
業務プロセスや内容に非効率な部分があると、業務に余計なコストがかかります。余分な業務プロセスを改善できれば、コストの削減や従来かかっていたコストをコア業務へ再分配ができるようになります。
また、業務や作業が特定の人材に集中している場合、業務を多く請け負っている従業員が働けないときにトラブルが起きる可能性が高くなります。これを避けるには、業務が均一に従業員全体にいきわたるような業務プロセスに再編成する必要があります。
業務プロセスの改善はコストの削減や労働力の偏りを改善する効果が期待できる作業です。

効率化による業績向上
各部署・部門で日々行われるさまざまな業務のなかには、何らかの原因で非効率的なオペレーションとなっていることがあります。こうした「業務の無駄」を取り除き、タスクの進行をより効率的にしていくことが業務プロセスの改善です。効率化を進めることで組織全体の生産性が向上し、コストの削減や新たな取り組みなどの活動にリソースを集中させられるようになり、ビジネスをさらなる成長に導くことが出来ます。

業務の標準化によるリスクマネジメント
各業務のプロセスにおいてしばしば発生するのが、作業の属人化やブラックボックス化などの問題です。特定の人材に依存しているオペレーションや、特定の人材でないと一定以上の成果を出せない仕組みは、その人材の異動や離職に直面した場合、業務の遂行ができなくなる可能性があります。また、継続的な成果を生み出せない業務の進め方は、ビジネスの成長を阻害するとも考えられています。
こうしたリスクを取り除くためにも、業務プロセスの効率化や改善を試みる必要があるのです。
組織の成長やビジネスの拡大を目指すうえで、より良い業務プロセスの構築は不可欠な要素といっても過言ではありません。

業務プロセスの改善を成功させるポイント
業務プロセスの改善を成功させるには、改善におけるポイントを押さえておく必要があります。改善作業をただ行うだけでは成功しません。

① 日常で行っている各業務を一連の流れとしてとらえる視点を身につける
業務プロセスの改善で重要なのは、どんなに小さい作業でもプロセスとしてとらえる視点です。細かな作業や対応を業務の1つとして認識できないと、業務プロセスに組み込むことすらできません。組み込みそびれた部分に問題があれば、どんなに業務プロセスを改善しようとしてもうまくいかなくなります。
大まかな流れから作業ごとの細かい動作まで把握し、見直して初めて業務プロセスの改善は成立します。業務プロセスの見落としを確認する方法ですが、実際に業務を行いながら確認する方法が便利です。実際に動いて確認することで、細かな動作までを業務プロセスとして把握できます。

② 改善したプロセスが標準化・運用する所まで考える
業務プロセスは、改善したら終わりではありません。改善した業務プロセスが継続して運用できるかを確かめる必要があります。
企業における業務は毎日継続して行うものですから、継続して運用できるかはとても重要な要素です。業務プロセスを改善した場合は、新しい業務プロセスが自社に定着しているかを確認することが重要です。

業務プロセスを改善する流れ
業務プロセスの改善は、企業や業務ごとに細かく違います。しかし、基本の流れはどれも一緒です。業務プロセスを改善する基本の流れを押さえておきます。

① 業務プロセスを見える化する
業務プロセス改善のポイントでも触れましたが、業務プロセスを改善するには現在の業務について細かく把握しておく必要があります。
具体的には、業務の作業内容をできるだけ細かくまとめていきます。
業務全体の流れが分かりやすいように、フローチャートや業務フローの形でまとめると分かりやすくなります。

② 業務プロセスを分析する
業務プロセスを見える化すると、業務上の課題も可視化されます。
具体的には、以下の特徴のある業務を探していきます。
・ミスや遅れが起こりやすい
・削除しても問題ない作業がある
・業務にあたる人員に過不足がある
・担当者や部署が不適切
・業務の順番を変えた方が効率的
・自動化または簡略化できる部分がある
問題のある業務を、問題の内容ごとに分類ができたら、改善に移ります。

③ 分析で洗い出した課題を改善する
分析で洗い出した業務の問題点を、問題の内容ごとに改善策を考えます。改善策が決まったら実際の業務で実行します。トラブルや改善の余地が発見された場合は、それをまた見直す作業を行卯必要があります。

改善策を業務に組み込み、必要があれば見直す作業を繰り返し行うことで、業務プロセスを適切な形に変えていきます。
業務プロセスの改善はとても大変な作業です。数か月から1年近くは改善に取りかかる必要があります。業務プロセスの改善は長期的な視点を持って取り組まなければならないのです。

業務プロセスは日常で行われる業務の連なりを指します。
業務プロセスに非効率な部分や偏りがある場合、業務に支障をきたす可能性があります。
業務上のトラブルを防止するには、業務プロセスの改善が有効です。
業務プロセスを改善する場合、業務の把握と分析、改善が重要です。業務に関することは細かいことでもしっかり把握し、どこに問題があるかを明らかにしましょう。
明らかになった問題を分類、改善すれば業務プロセスを改善できます。

業務プロセスの改善策は、実際に行ってみるまで成功かどうかはわかりません。実際に改善策を実行し、問題があった場合はすぐに改善策の見直しに取りかかりましょう。
改善策の実行と見直しを、修正の必要が無くなるまで繰り返すのが業務プロセスの改善作業です。
業務改善策には、システムやツール、外部委託サービスの活用等、さまざまな方法があります。

「経営基盤を固めることの重要性(その2)」を最後まで読んでいただきありがとうございました。次回は、このシリーズの最終回として「経営基盤を固めることの重要性(その3)」と題して財務基盤について考えてみようと思います。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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