第60回 VUCA時代の経営

中小企業経営

「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」
第60回は、VUCA時代の経営と題して、これからの新時代に求められる経営を考えてみます。

《VUCA時代の経営のポイント》
 確固たるビジョンやシナリオを持ち、組織全体で共有する
 スピード感を持って動きながら考え、きめ細かく軌道修正する(トライ&エラーを繰り返す)
 リスク分散のための事業の「複線化」を図る
 進化に向けて常にイノベーションを追及する

《経営者がなすべきこと》
 現状に疑いを持ち続け、自己反省と自己批判を繰り返して自身の成長を促す
 未来像・将来像 をしっかり描いて具現化させる
 技術革新のインパクト を徹底的に考え抜く
 組織を「シンプル」 にして機動力を発揮する
 組織に「遊び」 をつくって組織で革新的なアイデアを生み出す
 「異質な集団」によるダイバーシティ経営を実践する
 積極的な「外部資源」の活用により事業領域の拡大を図る
 「専門チーム」「プロジェクトチーム」で徹底的にやり抜く
 「キャッシュカウ(収益の柱となる事業)」 をつくる

 

《VUCA時代とは》
VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、リーマンショック経済危機、AI、テクノロジー の発達、未曽有の気候変動、新型コロナウイルスの感染拡大等、我々を取り巻く経済環境等が目まぐるしく変化し、先の予測が困難な現在の社会を表した言葉です。

 

《モノを作って売る時代からコトを創って売る時代へ》
かつての高度成長期では、製造業を中心に市場の需要が順調に伸びていたため、モノを作れば売れた時代でした。ところが成熟化した現在社会では、モノの需要からコトの需要へ市場が変化しています。
グローバル化やインターネットの普及、IT技術の進歩により産業構造が複雑に変化、新しい技術やサービスが次々と登場し、市場のニーズが変わるスピードも速くなっています。
実際、2000年代前半には、インターネットの急速な普及や情報技術の進展(90年代の後半から 2000年にかけて、IT革命やニューエコノミー等、経済や産業の構造的変化が声高に叫ばれた)により、それ以前に比べて大きく変化したと言われていましたが、新型コロナウイルス拡大の影響により、生活様式、WEB会議の定着等、変化のスピードは更に速まっている印象を強く持っています。
このように将来の先行きが不透明な中でも、企業は今までにない新しい価値やサービスを生み出すことが生き残るためのカギになるのです。

 

《VUCA時代の環境変化》
VUCA時代の環境変化についてまとめてみます。
①優れたビジネスモデルも市場も加速度的に成熟化、陳腐化
優れたビジネスモデルを実現しても、その効力は長続きせず、短期間でその優位性が揺らいでしまう時代です。有望だと思われた市場も、短期間で成熟化し、あっという間に競争が激化していわゆる「レッドオーシャン」化してしまいます。

②変化が激しく、先を見通せない経済環境
市場そのものに目を転じてみても、変化が激しく先を見通せないばかりか、複雑さと曖昧さは増すばかりです。

③連鎖して複雑さを増すグローバル経済
グローバル経済が互いに深く連鎖して、その関係性が複雑化しています。リーマンショックや新型コロナウイルス感染拡大で、多くの企業がその結びつきの複雑さや強さを実感したことだと思います。

④環境変化は未知との遭遇
不確実性や複雑さを更に加速化させる要因が、超高齢化や人口減少、異常気象等の問題です。特に日本は、世界の先陣を切って超高齢化社会と人口減少を経験することになります。これまで人口が増加することを前提とした経済構造の中で企業は経営してきましたが、これからの環境変化はまさに企業にとって「未知との遭遇」だと思われます。
50年に一度、100年に一度、数百年に一度といった自然災害 や異常気象の増加、そして生物学的なリスクも未知なる環境変化です。こうした不測事態を企業は予見できないのですが、インパクトの大きなファクターの一つであることに疑う余地はありません。

⑤加速化するイノベーション
次々と生まれる様々なイノベーションも、環境変化を加速化させる要因のひとつです。
特に情報通信技術の目覚ましい発展とその影響は、もはや全産業、全業種、全企業にとって避けて通ることのできないものです。技術進化を契機としたイノベーション(もちろん、 イノベーションには技術進化とは関係のないものもある)の影響力の大きさは誰しもが認めるところですが、問題は、今後どういったイノベーションが実現し、それが市場環境にどういった影響を及ぼすのか、事前に予見することが困難な時代だということです。

 

《VUCA時代を勝ち抜くポイント》
こうしたVUCA時代を勝ち抜いていくためのポイントを掲げてみます。

① 確固たるビジョンやシナリオを持ち、組織全体で共有する(一枚岩になる)
VUCA時代では、将来を正確に見通すことは困難であることは疑いようのないことだと思います。
企業として自社が今後どうありたいのか、あるいは自社の考える理想的な世の中や市場、事業のあり方とはどういうものなのか、今後どういった世の中になっていくべきなのか、という自社なりの「絵」をしっかりと描き、組織のメンバー全員と共有しておくということです。

組織全体や経営幹部グループを一枚岩にすることが出来るのは、経営者しかいません。経営者のリーダーシップ、統率力、決断力の発揮が肝になります。

② スピード感を持って動きながら考え、きめ細かく軌道修正する(トライ&エラーを繰り返す)
自社の将来に向けた大雑把なシナリオや戦略をスピーディーにつくり、いかに迅速にそれを実行していくか、ということが大切になります。実行した結果を見てシナリオや戦略が間違っていると考えれば、素早く軌道修正を図ればいいのです。つまり「動きながら考える」「きめ細かく軌道修正する」 ということが求められます。考えているよりも実際にやってみて、そこから学んでいくことのほうが大切なのです。

中小企業は、大企業に比べて「柔軟性」と「機動力」を持っていますから、これからは「中小企業の時代」といえるかもしれません。

③ リスク分散のための事業の「複線化」を図る
どんなに優れた事業であっても、すぐに陳腐化するリスクがあります。こうした市場環境においては、リスクを軽減し、不確実な変化に対応するためには、常に複数の「ネタ」を持つということが大切です。それは、単に事業を複数持ってポートフォリオ経営をすることではありません。異なる領域の事業を複数持つことは、リスクを低減するひとつの有効な方法ではありますが、総花的な事業展開による負の効果は、これまで多くの企業が苦しまされてきたものでもあります。限定的な事業領域のなかで、総意工夫により、複数の「ネタ」を効率的、効果的に展開することを考える。つまり、事業を「複線化」しておくことが重要なのです。

④ 進化に向けて常にイノベーションを追及する
成功体験や現状に甘えないことも大切です。いつ何時市場環境、競争環境が変化するか解りません。今日の成功モデルが明日以降も成長を実現してくれる保障はどこにもありません。こうしたリスクに対応するため、企業は常に自社のビジネスに危機感を持ち、いつ何時優位性を失うかもしれないということを肝に命ずる必要があります。常に「自己否定」を厭わないこと、イノベーションの可能性を追求し続けることが大切と言えるのです。

 

《VUCA時代に勝つために経営者がなすべきこと》
こうした状況下において、勝ち組であり続けるために経営者がなすべきことを考えてみます。
① 現状に疑いを持ち続け、自己反省と自己批判を繰り返して自身の成長を促す
現状の戦略、既存事業、オペレーションや組織のあり方など、①自社の「常識」「当たり前」 となっていることが本当にそのままでいいのか、②改善、改革すべきことがないか、③今のやり方がベストなのか。④自社の優位性は、継続するものなのか等・・・
常に疑いの目を持って見ることが大切です。より重要なことは、事業の責任者や担当者に対して、経営者が常に疑問、質問を投げかけ続けること。絶え間ないコミュニケーションの継続により、新たな「発見」があることも少なくありません。

② 未来像・将来像 をしっかり描いて具現化させる
将来を見通す努力を続けることが大切です。それも2 ~ 3年先だけではなく、10年先、20年先を見通し、どのような社会であるべきなのか、その時に自社はどういった存在意義を持った企業としてあるべきなのか、そのためにはどういった事業を展開しているべきなのか、どういった商品やサービスが求められるのか、将来のビジョンやシナリオを描くことが重要なのです。大切なことは、自分なりの明確な未来像・将来像を持っていることです。

③ 技術革新のインパクトを徹底的に考え抜く
技術革新が自社のビジネスにどのような影響を持ちうるのか、あるいは技術革新によって、自社にどういった新たなビジネスチャンスが生まれるのか、徹底的に考え抜くことが不可欠です。

④ 「異質な集団」によるダイバーシティ経営を実践する
イノベーションを促進する組織であるためには、多様なバックグラウンドを持った人材の存在が必要です。企業としての価値観等、全員が共有すべきことはありますが、性別や年齢、国籍、スキルや経験、考え方等、異なるバックグラウンドの人材でチームをつくることが大切です。いわゆるダイバーシティ経営というものです。

不確実性の高いVUCA時代では、金太郎飴のような同質な人材ばかりで組織を構成してもうまく動きません。また、経営者一人が抱え込み、いくら悩んでも課題は解決しません。経営者がしっかりとゴール設定を行い、そのゴールに向かって、多様な人材がそれぞれの立ち位置から、いわば異種格闘技よろしく丁々発止に意見をぶつけ合う、そのうえで意思決定を行うことが大切なのです。

⑤ 積極的な「外部資源」の活用により事業領域の拡大を図る
限定的な事業領域で複線化を図ることも重要ですが、拡大・成長に向けて経験や知見がない新規事業の分野に挑戦していくことが不可欠です。その際には、より積極的に外部資源の活用が求められます。また、イノベーションを加速化するためにも、自社だけでなく、他社や専門家の知恵、知見を最大限活用していくことが必要です。将来を見通した場合に、どういった技術やノウハウ、知見が必要で、そのためにはどういった先とどのように連携していくことが望ましいのか。それを決めていくのも経営者の大きな仕事のひとつです。

⑥ 組織を「シンプル」 にして機動力を発揮する
意思決定や実行の遅れは致命的です。常に迅速に意思決定し、素早く実行に移す。そしてその結果を得たらすぐに必要な軌道修正を施す。とにかくスピードが大切。せっかく有望なビジネスチャンスを見出しても、実行までに時間が掛かってしまえば、あっという間にそれは有望ではなくなり、陳腐化する恐れが高くなります。これからの時代、これまでにも増して意思決定と実行のスピードを上げることが最低限の生き残りの条件だと思います。
そのために、経営者は、常に意思決定に必要な情報を集めて準備しておく必要があります。経営者自身が、密に現場と接して感度を高めておくことと現場の責任者や現場の人間から的確な情報がタイムリーに経営者まで届けられるようにしておくことの両面が必要なのです。常に現場とのコミュニケーションを絶やさないようにして、経営者と現場との距離を縮めること、組織構造をシンプルにすることがカギとなります。
組織の階層が複雑であればあるほど、経営者と現場との距離は開き、的確かつ迅速な意思決定を下すための情報が経営者にスピーディーに届きづらくなります。また、実行した結果についても理解が曖昧になり、必要な軌道修正を掛けられない恐れが高まります。
また、責任と権限の持たせ方についてもシンプルかつ明確にしておくことが重要です。責任と権限が複雑に入り組んでいたり、曖昧なままだったりすると、スピーディーな意思決定や実行を阻害する大きな要因となります。できる限り組織の構造や責任・権限の持たせ方をシンプルかつ明確にしておくことが、スピーディーな意思決定と実行につながるのです。

⑦ 組織に「余裕」や「遊び」 をつくって組織で革新的なアイデアを生み出す
将来を見通したり、技術革新のインパクトを考えたりすることは、決して一人や少数の人間だけでできるものではありません。活用すべきは「組織の力」です。つまり、組織に属するすべての人達の気付きや想像力を最大限に活用することです。
革新的なアイデアや破壊的なイノベーションはトップダウンでは生まれません。 経営者の役割は現場でイノベーションのアイデアが生まれるように土壌を耕し、よい芽が出たら見逃さずに育てることであり、そのためには、組織を硬直化し過ぎないことも必要です。担当業務や役割が明確に定められ、定められた範囲の業務を粛々とこなせばいいという組織では、イノベーションは生まれません。担当業務や役割分担は、本来「当たり前」のことです。ただ、それをガチガチに固めてしまうのではなく、その中で「余裕」や「遊び」を持たせておくことが必要なのです。

⑧ 「専門チーム」「プロジェクトチーム」で徹底的にやり抜く
意思決定や実行のスピードを高めていく方法のひとつとして「専門チーム」や「プロジェクトチーム」の活用を考えるべきです。未知の領域の事業に取り組むような場合には、その領域に経験や知見のある人材を集め、その実行に責任を持つチームを組成することが有効です。イノベーティブな取り組みを実行していく際には、従来の組織の中では実行が難しいことも少なくありません。「これをやる」と意思決定したら、既存の組織体制の中で中途半端にやらせるのではなく、部署や部門を超えた横断的な組織を考える等、相応のリソースを備えた専門チームを結成して徹底的にやり抜き、最後まで完結させることです。

⑨ 「キャッシュカウ(収益の柱となる事業)」 をつくる
最後に大切なことは、既存事業の収益性を高め「キャッシュカウ」として十分な利益を創出できるようにしておくことです。既存事業の収益性が低いままでは、投資するための「原資」を十分に確保することができません。それどころか既存事業の維持に追われてしまい、将来のシナリオの見定めやイノベーションを実現していくことに注力できなくなります。それを避けるためには、既存事業の収益性を高めることが欠かせません。低収益性が事実上放置されている事業が少なくありませんが、収益性が高まる見込みがないのであれば、傷口が浅いうちに撤退も含む事業の再構築を考えるべきです。

「キャッシュカウ」となる事業を確立していなければ、VUCA時代を乗り越えていくことは困難だと明言します。今まで以上に事業の収益性に対しては敏感になり、スピーディーに収益性を高めていくことがなにより必要なのです。

投稿者プロフィール

矢野 覚
矢野 覚
LINK財務経営研究所 代表 
1982年 4月 国民金融公庫入庫
1993年 4月 公益法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座派遣
2015年 3月 株式会社日本政策金融公庫退職
2015年10月 株式会社山口経営サポート(認定支援機関)入社
2019年12月 同社 退社
2020年 2月 LINK財務経営研究所 設立
2022年 5月 健康経営アドバイザー
2022年 7月 ドリームゲートアドバイザー
中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。

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