「こんにちは、かんれき財務経営研究所の雄蕊覚蔵です!」第57回は、行間を読む力と題して、指示・命令の出し方、伝え方について考えてみようと思います。
《二人の部下の対応の差》
課長のときのエピソード
部下であるA君、B君の2人に、明日午前中にそれぞれが担当している会社を訪問し、社長と新規プロジェクトについて打ち合わせをしたいので、各社長の都合を確認し、訪問するためのアポ入れを行うよう指示しました。
最初に報告に来たA君は、訪問予定先の社長から「明日の午前中は都合は悪い」と断られたと報告してきました。
次に報告に来たB君は、明日の午前中は社長の都合が悪かったが、明日の午後に時間がとれたので一応アポ入れしました。明日の午後、課長から特に予定は入っていないと聞いていたので、大丈夫だと思いアポ入れしましたが、課長の都合が悪ければ変更しますと報告してきました。
指示したことに対して、A君もB君もきちんと対応してくれました。そういう意味では、二人の行動に何も問題はありません。
しかし、この二人の報告内容に差があったことに対してどう考えますか。
A君は、課長から指定された日時のアポ入れという点だけに着目して社長と交渉を行っており、B君は、取引先の社長と面会することが課長の真の目的だという点に着目して交渉を行っています。
つまり指示した言葉の行間を読めたか否かによって二人の交渉内容に違いが生まれたのです。
指示した後に、B君は明日のスケジュールを確認しに来ました。明日午前中に社長の都合が悪ければ午後からでもアポ入れしようと考えており、社長と交渉する前の事前情報としてスケジュールを押さえておこうと考えていたのです。
B君のように行間を読んで先回りして動いてくれる部下が数多くいて欲しい。加えて、行間の読める部下を育てたいとも思いました。その一方で、部下に指示する場合は、部下の技量に合わせて指示する内容をより具体的にしなければならないと反省しました。
《行間を読むとは》
行間を読むことの一般的な意味は、文章や会話において「相手が言葉では明確に表現していないけれど、伝えたいと思っている意図を汲み取る」ということです。
類語として「空気を読む」がありますが、その意味は「その場の雰囲気から状況を推察し、その場で自分が何をすべきか、すべきでないか、相手のして欲しいこと、して欲しくないことを憶測して判断すること」です。つまり「空気を読む」は、その場の状況や雰囲気・相手の表情などが情報源になり、「行間を読む」は、文章や言葉・会話が情報源になります。
《「行間を読む力」のある人の特徴》
それでは「行間を読む力」のある人には、どのような特徴があるのでしょうか。雄蕊の部下だった人達の行動等を思い出しながら、整理してみます。
① 少ない指示・情報で動くことができる
上司等が具体性に乏しい大まかな指示を出しても、何を求められているのかを的確に把握して、期待通りもしくはそれ以上の仕事をします。自らの経験則等から行間を読み、少ない情報でも業務の全体像を把握する力を持っています。
② 視野が広く気配りができる
視野が広く、観察力に優れており、常に周囲の状況に気を配っているので、現場の課題等に素早く気付くことができます。気付くだけではなく「何か力になれることはありますか?」と声を掛ける等、実際に行動できる点も特徴です。
③ 周りの人の性格や特徴を掴んでいる
周囲の人の性格等の特徴を掴み、その人に合った対応が出来る人が多いと思います。
④ 先読み力がある
交渉事を行う際に、自分の主張に対して相手はどう反応するだろうか等、常に一歩先を予測しながら行動しています。相手の出方に応じて、自分の対応を複数考えておく等、時間をかけて準備しているので、対応の幅が拡がっています。
⑤ 相手の気持ちや要望を汲み取れる
相手の言葉を文字通りに受け取るのではなく、言葉にならない隠れた気持ちや要望を汲み取ることができます。そのため、より相手の気持ちや要望に寄り添った助言や提案をすることができ、相手との信頼度を高めることができます。
上述したような特徴を持つ「行間を読む力」に長けている人をまとめると、
① 物事の表面的なことに振り回されず、相手の真意を汲み取ることができるので臨機応変に対応できる。
② 相手の真意をしっかりと汲み取り、一言えば十分かるので「この人は話が通じる」と思われて信頼される。
③ 相手の性格や意図に沿った言葉選びができるので、コミュニケーションを円滑に進められる。
といった良い点がありますが、以下のようなマイナス面があることも押さえておく必要があります。
① 自分では行間を読んだつもりでも、相手の伝えたいこととズレた受け取り方をしてしまうことがある。必ず、言葉で確認することが大切
② 周りの意向を気にしてばかりいると、自分の気持ちが後回しになってしまったり、萎縮して自分の意見を言えなくなってしまったりする恐れがある。
③ 行間を読めるのは悪いことではないが、常に相手の気持ちを察して行動しなければいけないと考えていては疲れてしまう。
《「行間を読む力」を養う方法》
組織には、その組織内における慣習や暗黙のルールというものが存在します。慣習や暗黙のルールは、文字や言葉では表されませんが、組織に属する人、全員が共通して持っている価値観や文化のようなものです。企業風土といえるかもしれません。これを理解しておくことで行間を読むときに役立ちます。
どんな考え方をする人なのか、思いをはっきり言うのか、遠慮がちなのか、どんな考え方をしているのか、相手の性格等を把握しておくことも大切です。気をつけなければならない点は、先入観や思い込みが混じらないよう、フラットな目線で見ることが大切ということです。
行間を読むためには、その仕事の目的は何か、交渉ならどこに落としどころを持っていくか等、本質を理解しておく必要があります。表面的なことだけにとらわれず、何が一番大切なのかを考える視点を持つことが大切です。
相手の真意が分からなかった時や間違えて解釈してしまった時は、周りの信頼できる人に、「なぜあの言葉が、そういう解釈になるのか」等を確認しておくことも今後の学びにつながります。
行間を読むのはなかなか難しいものです。行間を読む力を身につけるためには、自分とは違うタイプの人と数多く出会い、そういった人達の新しい考え方を取り入れながら想像力を磨いていくことが求められます。なので、焦らずコツコツ取り組み、時間をかけて力をつけていくことが必要です。
《伝え方を考える》
すべての人が「行間を読む力」に長けているわけではないので、誰にも伝わる伝え方は学んでおくことが大切だと実感しています。そこで、目的に応じた伝え方について自分なりに勉強してみました。その成果を披露しますので、参考にしてみてください。
伝える目的は、大きく分けると①一方的に知らせるだけでいいものと、②相手に行動してもらうことが必要なものの2つ
特に、人を動かすためには、こちらがどうして欲しいと思っているのかではなく、相手がどう受け取ったのか、それによりどういう行動を促すことができたのかということが大切
①も②も伝える側の意図が正しく伝わらないと意味がない。何かを「伝える」ためには「はっきり伝わるようにする」必要がある。
更に②の場合は、受け手に「それで、どうしたらいいの?」あるいは「何をして欲しいのか?」ということがはっきり解らないといけない。この2つに共通している要素は、伝わるために「はっきり言う、はっきり書く(明示する)」ということ
特に文字にして伝えることは言葉で伝えるよりも難しい。
-そういう視点で改めてこのブログを振り返ってみると、記事の中身に行間を読んで貰おうとする意図が数多く盛り込まれており、読み手によっては、投稿者の本来の意図とは正反対の理解をされてしまう危険性があるなと感じました-
相手に伝える側の意図をしっかり理解して貰うためには、「パッと見ただけではわからない」「説明されないとわからない」「説明されても、そう言われば、何となくそんな気がするという程度にしかわからない」そんな解説等が必要な文章・書類では意味がない。
「ここに書いてあるのはこういう意味で」等、文章や書類を補足説明したり、書かれた資料をもとに議論すると、意見が食い違って、結論に至らなかったり、そんなやり取りは結構頻繁にあるが、これは書き手の意図が伝わっていない典型例
議論や説明ができる場合は何とかなっても、文章というのは多数の人に同時に伝える手段として使われることが多く、いちいち個別に解説や説明する機会がない場合が圧倒的に多いものなので、それを「読めばわかる」ようになっていないと意味がない。
「読み手の問題では?私はちゃんと書いている」と、自信をもって主張される方がいるかもしれないが、「読み手がどう思うか」がすべてで、「読み手がそう受け取った」=「そう受け取られるような書き方だった」ということ
よく読まないとわからない、よく読めば確かにそんなようにも読める、というような文章ではなく、誰が見てもはっきりわかるように書くことがポイント
「行間を読ませてはいけない」ことが大切なのだが、日本人は以心伝心を美徳とするため、はっきり言わない傾向があり、それが文章にも現れる。いわゆる「行間を読む」というやつ。しかし、「ここに書いてある、この一文が実はそういう意味だったのです」といった、一文たりとも読みとばすことができない文章になってしまっては駄目!
読み手にして欲しい行動を具体的に書くことで、相手は「じゃあ、何をしたらいいのか」と考えなくて済む。「して欲しい行動」をしっかりと明言すれば、その行動をとってくれる確率は劇的に上がる。
「そんなことくらい、わざわざ言わなくてもわかるだろう」「行間を読んでくれるだろう」という書き手の判断で、肝心なことを読み手の想像力に任せているケースが非常に多いが、読み手は「一生懸命読まなければならない状況にはない」ことが圧倒的に多い。一生懸命読まれることはないという前提に立つことが必要
結論として、読めばわかることでも、しっかり文章で表現することが必要。読み手が考えなくても、努力しなくてもわかるような文章の書き方をすることで、伝え手の言いたいことが確実に伝わり、相手からの反応も期待できるようになるということ
《相手の視点に立った伝える言葉選びと構成力》
冒頭の事例で、指示が次のようだったら、A君もB君も同じ行動をとったと思います。
「A君、B君。今度、新しいプロジェクトを進めることになった。それを進めるためには、A君担当のC社、B君担当のD社の社長の協力が必要である。ついては、両社長に協力を依頼するため、急で申し訳ないが、明日の午前中に両社を訪問したい。
A君、C社の社長に明日9時から1時間程度、会社に訪問して面会することが可能かを確認して欲しい。
B君、D社の社長に明日11時から1時間程度、会社に訪問して面会することが可能か確認して欲しい。
可能ならば、課長が伺うので、時間をお取り頂くよう約束を入れてください。
もし、午前中が難しければ午後からも予定がないので、社長の都合により午後に時間を変更して貰ってもよいです。
本日、終業時までに結果を報告してください。」
訪問する目的、訪問日時の代替案、報告の期限等を明確に伝えることが重要なのだと思います。「行間を読んで」という指示・命令は駄目なのです。
仕事上の指示・命令は、仕事の目的と意義・使命を明確にして、相手にしっかり理解させて、やる気にさせることが大切であり、そのためには5W3H(When:(いつ)、Who:(誰が)、Where:(どこで)、What:(何を)、Why:(なぜ)、How to:(どのように)、How much:(いくらで)How many:(いくつ))を活用して具体的に伝えることが必要です。
また、指示・命令する際には、指示する案件について明確にし、内容を複雑多岐にせず、まとまったものにして、命令の意味を的確に伝える言葉選びをして伝えることが求められます。
指示者は、命令の順序を論理的に首尾一貫させ、指示した内容のうち主なものについては記録に残しておく必要があります。指示した内容を忘れてしまうと部下等、指示された人との信頼関係を失うことに繋がります。
一方で、指示等を受ける側も「行間を読む力」を身に付けたいものです。この力を得ることで仕事がスムーズに進む等、自身にとってのメリットが増えると思います。
先日、一緒に仕事をしている事務スタッフから「現場の人達は、曖昧な指示だと理解することができず、どうしてよいのか解らないので、指示どおりに動いて貰えないのではないですか? 曖昧な言葉ではなく、遠慮せずにやって欲しいこと等をより具体的に、明確に伝えないと現場は動きませんね!」と指摘を受けました。仰るとおり!反省!!
投稿者プロフィール
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中小企業金融の現場で、33年間、政府系金融機関の担当者~支店長として事業資金融資の審査(与信判断)や企業再生支援、債権回収業務に従事するとともにそれに関する稟議書の起案・決裁に携わっていました。
その後、中小企業の財務責任者として資金調達、経営改善業務をお手伝いさせていただき、短期間で赤字体質の中小企業を黒字体質に改善するコトができました。
こうした経験を活かして、「財務の力でヒトとカイシャを元気にする」ために、小規模事業者・中小企業の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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